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いざ異世界へ

ちょっと凝った設定の異世界ものを書きます!

眼を開けると、そこに見慣れた天井はなかった。

「あれ...いつもの天井じゃない」

「イチノセ君、ようやく眼を覚ましたのね」

声のする方に顔を傾けると、白髪の若い女性が座っていた。

「あなたはだれ?ここはどこ?」

「ごもっともな疑問ね。私はイチノセ君の世界でいう女神。名前はないわ」

きっとこれは夢か何か、まだ寝ぼけてるんだ。そう思ったイチノセは二度寝をしようと寝返りを打った。

「まだ今の状況を飲み込めていないのね。無理もないわ」

そういうと女神は立ち上がりイチノセが寝ているベッドの端に座った。

「このままでいいから聞いてほしいわ。昨日、何をしたかまだ覚えてる?」

確か昨日は期末テストの最終日で夜は久しぶりにみんなで遊びに行ったんだっけ。その後、家に帰ってから...あれ、思い出せない。

「昨日、北摂で珍しく強盗殺人事件があったのよ」

「えっ?北摂って僕が住んでいるあたりじゃないか」

北摂は大阪府北部の別称で、閑静で良好な居住環境が整っていることから、富裕層が集まり高級住宅街が形成されている。いわばブランド地域だ。

「そう。被害に遭ったのは府内の高校に通う男子高校生。空き巣に入られている時に帰ってきてしまって待ち伏せされたのよ。かわいそうに」

「その高校生はどうなったんですか?」

「隣人から様子がおかしいと通報はあったみたいだけど、警察が到着したのは次の日の朝。出血多量ですでに手遅れだったわ」

「そんな...きっとその人には煌びやかな人生が待っていたというのに。でも、なぜこの話を?」

女神は少しの間、黙り込んでしまった。

「ちなみに聞くけど、イチノセ君、ちゃんと戸締りしてる?」

「そりゃもちろん。一人暮らしをしているので」

「昨日もちゃんと戸締り、してた?」

「え?」

言われてみれば、昨日、家に帰ったら鍵がかかってなかったような...

「まさかっ...その男子高校生って」

女神はコクリと頷き、悲しげな表情でそのまま下を向いてしまった。

「そう...だったんですね。僕はもう死んでしまったのですね」

唐突に告げられた自分の「訃報」。

「驚いていますよね。まさか自分が巻き込まれるだなんて」

「まだ実感が湧かないです。あ、でも死んでしまったからなのかな」

ようやくイチノセは体を起こし、女神と向き合うようにして座った。そして、ため息をつくイチノセに、女神は口を開いた。

「もし、ですよ。もしイチノセ君がもとの世界に戻りたいと思うのであれば、イチノセ君を送り返すこともできなくはないです。ちょっと大変ですけど...どうしますか?」

「いや、それはやめておきたいな。お世辞にもいい人生を送れるだなんて思ってないので」

僕は東証プライム上場企業「イチノセグループ」の跡取り息子として生まれたものの、母は幼い時に病死。父は仕事が忙しいようで、もう数ヶ月も会っていない。それに、父が再婚してできた継母にはずっと除け者扱いされてきた。高校生になってからは家にすら入れてもらえず、一人で親戚が所有しているという北摂の戸建に住んでいる。僕が死んでも悲しんでくれる人は少ない。もとの世界に戻っても、僕に帰るところなんてもうない。

「もう帰るところなんでないですから」

これを聞いた女神は少しだけ涙目になった。

「実は、イチノセ君がそうなってしまったのには、私のせいでもあるの」

「え?」

「私の手違いで、イチノセ君の魂を本来あるべきところに納めることができていなかったの。もし、私がミスをしていなかったらイチノセ君の生活は今よりもずっと楽しいものだったはずなの」

イチノセは唖然として何も言うことができなかった。

「神様だって万能じゃないのよ。間違いの一つや二つはするわ。でも、本当に申し訳ないことをしたと思っているわ」

「いいですよ、謝らないでください。もう全部、終わったのですから」

俯きながら答えるイチノセを見て女神は目頭を拭いながらこう続けた。

「ところで、異世界で新しい人生をやってみるつもりはない?このままイチノセ君を輪廻にまかせて自動的に転生させてしまうのはあまりにも不憫だわ」

「異世界?」

「そうよ。RPGによく出てくる世界という認識でおおかた問題ないわ。ダンジョンがあってドラゴンがいて...剣と魔法の世界ね」

「その異世界に転生することができるの?」

「厳密に言うと転生するか転移するかはイチノセ君の自由よ。つまり異世界で赤ん坊からやり直すのも、このままの姿で第二の人生を歩むのもイチノセ君の自由よ」

「そんなことができるなんて」

「もちろん、普通はこんなことしないわ。でも、イチノセ君は特別に私の権限を使ってもいいと思ったのよ。どう?興味ある?」

「あります!でも、転生じゃなくて転移させてください」

「あら、それはどうして?てっきり全て忘れたいと思っていたのに」

「母を覚えていたいんです。私は小さい時に病気で母を亡くしました。それからいろんな嫌なことや辛いことを経験してきましたが、唯一私を慰めてくれるのは曖昧ですが母との記憶なんです。母のことを忘れたくはありません」

意外な理由を聞いた女神は驚きながらも必死に涙を堪えていた。

「そう...だったのね」

と呟くと同時に女神はイチノセを抱きしめた。

「女神様...大丈夫?」

「うん、大丈夫よ。ちょっと懐かしいことを思い出しただけ」

女神は立ち上がり頬を赤く染めながら確認した。

「それじゃ転移に決まりね」

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