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アルミ缶は麓の町のリサイクル施設に搬入していたから今まで通り深夜バイトも続けた。それまでただ通うだけのバイト先への通勤に缶の回収と施設への搬入を組み込んだ。幸い僕の車は大きいからそれなりの量を運べたし、通り道の商業施設や個人商店等に頭を下げてアルミ缶を回収させて貰い、無駄のないサイクルを組み立てた。
働く合間に時々あの確変スーパーへ行って、吉田さんが居ると並ぶタイミングを合わせた。良く目が合う気がした。きっと彼女も僕の好意に気付いているだろう。
そんなある日、別のスーパーでアルミ缶を回収していた。自動販売機の横のゴミ箱から大きなビニール袋にせっせとアルミ缶を選って詰めていると、小さな子供の声がした。
「ママー、あのおじさん、空き缶好きなのかなー?」
初めての事ではないので気にせず作業を続けた。
「見ちゃダメ!見ない方が良いのっ!」
聞き覚えのある声が子供をたしなめると、ハッとそっちを振り向いてしまった。
吉田さん。
「あ」思わず声が漏れた。
一瞬驚いた目をした彼女。いつもの微笑みを予測してぎこちなく頭を僅かに下げると、予想外な蔑むような表情をした後すぐに目を逸らされた。
いつも半額商品しか買わない薄汚い男。なんだ、やっぱりこじき。
心の声が聞こえた。
知りたくなかった、認めたくなかった現実。僕の仄かな恋は終わった。
うなだれ寒々作業を再開する。幸せを、温もりを忘れる作業。と、その時。
「きゃっ!」ドシャア
吉田さんが派手に転んで買い物袋の中身をそこらにぶちまけていた。
幸い怪我はなさそうだ。今度は僕が見ないふりをした。