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夕方、食費を削る為にスーパーで半額狙いするのが僕のルーティンになっていた。僕は山へ分け入り四季折々の切り花アートを作って売っている。そう、僕は絵描きになりたくて、なれなかったんだ。
それで山の中にアトリエ開いて彼女と一緒に運営してたけど、結局商売にならなくて彼女に愛想尽かされて、実家に帰られてしまった。
それでも僕は画を諦めきれずに、筆を置き、山に分け入り落ち葉や切り花でアート作品を作って売って、いつしかまた描きたい画を描ける日を夢見ていた。
風景画の次に人物画が得意だったが、僕は彼女以外を描けなかった。久しぶりににスケッチブックに向かうと、無意識にあの黒子ちゃんのドヤ顔をすらすらデッサンしていた。去った彼女にそっくりだった。
その日は僕の作品を個室に飾ってくれている高級料亭に作品を納める予定で、切り花アートを作っていたのだが、この黒子ちゃんのデッサンのが優れている様に感じ、麓のその店に両作を持って行った。
素人画家の作品。一枚5000円。僕の数少ないファンの一人である店主は両方買ってくれた。
一万円。
時刻は18時。半額にはちょうど良い。いつもと違うスーパー。うわあ、半額ラッシュだ。こうなると、皆がどんどん半額弁当や寿司、刺身、惣菜に手を伸ばす。楽しい!仲間が、居るんだ。
元カノも黒子ちゃんも居ない。女のハードルが下がってるのか?まったく好みじゃないけど、ボインプリケツを目で追う。わあ、ちっちゃくてある程度おばさんなまあまあなひとが居る。
レジに並ぶ。トドメだった。吉田さん。元カノも黒子ちゃんももう十センチ縮めてもっと色白、一見地味にした良く見りゃめっちゃ可愛いちゃん。
「サービス券はお持ちじゃにゃいでしゅか?(サービス券はお持ちじゃないですか?)」
「はわわ(はい)」
「せんはっぴゃくにゃにゃじゅうにょくいぇんになりましゅ(1876円になります)」
「はわわ、あっにしぇんろくえんでっ!(はい。あ、2006円で)」
いつものこのチェーンはセミセルフレジなので行き先を探して目を泳がせているとそれを察知した吉田さん、「あっ、こちらにいっぱい出してね(あ、こちらにお出しください)」
「はわわ(はい)」
なんや、この店、半額も女も確変しとるやんけー。
惚れてまうやろー!
頭をハリセンでパコンと叩かれたのを、僕は感じてなかった。