いつか見る夢
ここには何を書けば良いのでしょう。
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「……あれ、ここどこだっけ?」
どこまでもどこまでも真っ白な場所。僕がいる以外なんにも見当たらない。
昨日は確か、お母さんと一緒におばあちゃんちに泊まりに来たんだ。今日、僕の誕生日だからお祝いしようって。
おばあちゃんのお家、山の中にあるからちょっと遅くなっちゃって、ご飯食べてお風呂に入ってすぐ寝ちゃった。だからこれは、夢の中?
せっかく夢を見るなら楽しい夢を見たかった。なんでこんな真っ白なお部屋の夢を見てるんだろう。
「ねぇ、葉月くん」
「え?」
後ろから女の人の声が聞こえた。振り返ってみると、とてもきれいな人が立っていた。
綺麗な金色の髪に、透明な青い瞳。顔の雰囲気もすごくお母さんと似てる。
さっきあたりを見たときには居なかったけどどこからきたんだろう。夢の中だからどこでも出てこれちゃうのかな?
お姉さんはニコニコと笑いながら何も言わずに僕を見つめている。お母さんに似てるけど、とてもきれいな人だからなんだかちょっぴりむずむずする。
「あのぉ……お姉さん」
「うん、なぁに?」
無言でじっと見つめ合う時間が恥ずかしくて、お姉さんに声をかけてみた。
お姉さんは優しく僕の言葉を待ってくれてるみたいだった。
初めて会うのに、何度もあった気もする、不思議なお姉さん。お母さんと似てるからそう感じるのかな?
それがとても不思議に思えて、お姉さんに聞いてみる。
「お姉さんは、だれ?すごく僕のお母さんと似てるし……」
「うーん、親戚……かな?葉月くんのこともよく知ってるよ」
「そうなの?僕、お姉さんのこと知らない……ごめんね」
「んーん、大丈夫だよ。そうだね、私とっても遠いところに住んでるから、葉月くんがわからなくても仕方ないよ。会ったことがあるのも、小さい頃……だったからね」
遠いところに住んでるって聞いて、おばあちゃんが昔外国に住んでたって聞いたことを思い出した。
そうしたら、確かに僕の知らない親戚の人がいるのもわかるし、お母さんにすごく似てるのもそうなんだなって思う。
でも、ちょっと不思議。僕の夢の中になんで覚えてない親戚のお姉さんが出てくるんだろう?
僕が悩んでたら、大丈夫だよ。ってお姉さんが小声で話して、僕の頭をなでてくれた。
小学6年生にもなって頭を撫でられるのはちょっと恥ずかしかったけど、お姉さんの笑顔がとても優しくて、嫌って言う気にもなれなかった。
「葉月くんはさ。お母さん、好き?」
「うん、好き。学校のプリント渡すのとか、宿題をわすれちゃったりしたときはちょっと怖いけど……ご飯もおいしいし、一緒にゲームもしてくれるし。お母さん、ゲーム下手だから僕が毎日教えてあげてるんだ」
「そっか、いいお母さんなんだね。お父さんはどうしてるの?」
「おとうさんは、わかんない。いっつもお仕事ばっかりで、ずっとお家にいないから。僕が3年生になってからずっと会ってない」
「そう、だったね。お父さんは好き?」
「きらい。昔は遊んでくれてたけど、いつのまにかずっとお仕事するようになっちゃって、むかしお仕事部屋に行ったら怒って追い出されちゃった。ずっと会ってないし、僕のこと嫌いになっちゃったんだと思う」
「そうかなぁ。お父さんもきっと葉月くんのこと好きだと思うよ?」
「そんなことないよ!だって誕生日だってきてくれないし……今日も僕の誕生日なのに、きてくれないし。きっと僕よりお仕事の方が大切なんだ」
僕が大きな声をだしたから、お姉さんをちょっと驚ろかせちゃったみたいだった。
一瞬僕の頭を撫でる手が止まったけど、すぐにまた優しくなでてくれた。
なでてくれる手の感触がなんだか不思議な感覚で、懐かしい気持ちなのかな?
多分お姉さんと昔会ったっていうのは本当で、懐かしく感じるのはきっとちっちゃい頃に会って同じようになでてくれてたのかなって思った。
「……葉月くん、さ。これからね?たくさん大変なこともあるし、納得できないことも沢山あると思うんだ」
「……うん?」
「でもね、葉月くんを……本当の葉月くん自身を。好きになってくれる人は沢山いるし、大切に思ってくれてる人も沢山いるの。これはね、葉月くんが葉月くんだから好きだし大切に思ってくれるんだよ。わかるかな?」
「……わかんない」
「そっか。うん、ちょっと難しいよね。……でもね、今はわからなくても覚えていてほしいんだ。いつか葉月くんが本当に大切だなって思った人たちのために、その人達の気持ちに素直に応えられるように。葉月くんはね、沢山の人を幸せにできる力があるんだよ?だから、その時がきたらがんばってほしいな」
「そうなの?よくわかんないけど……。僕がんばるね」
「うん、いい子だね。なんだかお姉さんも照れくさいや」
見上げると、お姉さんは顔を真っ赤にして笑ってた。ほっぺたを人差し指で軽くかいてて、なんだかとっても恥ずかしそうにしてる。
僕のことなのに、なんでお姉さんが恥ずかしがるんだろう。
「さて、そろそろ時間かな」
「時間?」
「そう、これは葉月くんの夢だから。このあと起きたら忘れちゃうはず……ううん、忘れちゃうと思うけど。いつか今日のことを思い出す時がきっと来るから」
お姉さんがぽんぽんと僕の頭を軽く叩いた後、ちょっとずつ白い部屋がもっと明るくなっていった。
光はどんどん強くなっていって、少しずつお姉さんと僕の体もはっきりと見えなくなってくる。
眩しくて目を開けてられなくて、目を細めてなんとかお姉さんの方を見た。
「私とはいつでも会えるから。だから、いつかまた会おうね。それと……響子を助けてあげて」
顔の横で小さく片手を振り、少しずつ後ろに下がっていくお姉さん。
お姉さんが言った最後の言葉、その後すぐに光で真っ白になって。
目を開けても閉じてても真っ白に感じる光の中で、段々と体の感覚がはっきりとしなくなっていった。
温かいお湯の中に浮かんでるような、流されちゃうような、溶けていっちゃうような、不思議な感覚。
プールの授業の後、眠くなっちゃって体もふわふわとしてくる気持ち。
少しずつ眠くなってくみたいで、起きてられなくて。
――夢の中なら、寝ちゃっていいかな。
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ここにも何を書けば良いのでしょう。