ex1 / 面と向かって言えないおきもち
「……葉月、寝ちゃった?」
薄ぼんやりとしたオレンジ色の常夜灯に照らされた暗いお部屋の中、ちょっぴり寝付くことができなくて親友に問いかけてみる。耳を澄ますと、すぅすぅと小さな寝息が聞こえてきた。ついさっきまでお話してたのに、どんだけ寝付きがいいんだか。
でも仕方ないか。あんた今日凄いがんばってたもんね。
「……ありがと」
本当は直接言いたかったけど、言えなかった言葉をぽつりとこぼした。
急に走り出した時は何があったのかわけわかんなかったけど、隠し事がバレちゃうリスクを背負ってまで、必死にあたしのことを助けようとしてくれてたんだよね。結果はちょっと笑っちゃうようなことだったけどさ。
初めはね、魔法なんて不思議なことが本当にあるって知って、すっごい興奮しちゃって。ママさんにも葉月にも気になったことたくさん聞いちゃった。
でも、隠してたってことはやっぱり知られたくなかったのかな?
ごめんね、葉月。
あたしね、葉月がどう思うかはわかんないけど、葉月のことをもっと知りたいんだ。魔法のこととかの秘密にしてたこと、もし秘密にするのに疲れちゃって、一人で抱え込むのが辛かったなら、あたしにも相談してほしい。理解できるかはわかんないけど、あたしも一生懸命勉強するよ。
普段からぶっきらぼうだけど、葉月がホントはすごく優しい子っていうのはわかってる。
葉月は忘れちゃってるかもしれないけどさ、あんたが転校してきた頃、あたし階段から転んじゃって、足くじいちゃった時にさ。ちょうど通りがかったあんたが保健室に連れてってくれようとしたんだよね。
あんたのほうが背も小さいのに必死であたしを背負ってくれて、ぷるぷる震えながら歩いてたの。途中で先生が通りがかってあわててあたしを引き取って。たぶんもうちょっと無理してたら葉月も潰れちゃってたかも。
それ以外でもさ、葉月は口では文句言ってても困ってる人がいたらいっつも颯爽と助けちゃうんだ。あんた美人だし、困ってる人がいたらみーんな助けちゃうもんだから、そういうところですごくモテてるんだよ?そのへん少しは自覚してほしいな、ちょっぴり嫉妬しちゃうから。
あの時も、今日も。葉月の横顔すごくかっこよかったよ。あの横顔は、あたしだけが知ってる自慢の秘密なんだ。
あたしももうちょっと勇気を出して、葉月にたくさんあたしの気持ちを伝えられるようにするからさ。
「……おやすみ、葉月」