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つかれたときは体を温めましょう

書き始めたはいいものの、なんか気恥ずかしくて評価とかブックマークとか閲覧とかのアナライズ機能を見られてないです。

そのうち見られたら良いな…。


--------

 「ふぁー……」

 汗をかいた体をシャワーで流し、浴槽に張った温かいお湯に浸かると、その心地よさに思わず脱力した声が漏れた。

 じわじわと体が末端から温まり、それと同時にお湯に疲れが溶け出していくように感じる。

 事実として大したことがあったわけでもないのだが、俺個人としては大変な出来事があってしまった一日だった。思い出したくもないし忘れてほしい。

 肩に届く程度まで伸びた濡れ髪が浴槽に浸ってしまわないよう、風呂場に持ち込んでいたハンドタオルでくるくるとまとめる。だいぶ手慣れてしまったものだが、6年前、まだ男の子をやっていた頃はこんなことを自分がするようになるとは思ってもみなかった。

 髪の手入れはめんどくさい。風呂上がりに乾かすのも時間が掛かるし、寝起きに髪が暴れていることもままある。少し油断すると毛先は荒れるし、前髪もちょっと放置すると視界の邪魔だしみすぼらしくなる。

 なのになぜ少しばかり髪を伸ばしているかといえば、家族の猛反対にあうからだ。綺麗な髪なんだからもっと伸ばそうよ~、などという雑音と全力で戦って、なんとか肩口までの短さを勝ち取ったのだ。一人暮らしをはじめたら絶対バッサリ切ってやる。

 そうだな、切るなら今俺の眼前で目を輝かせている響子くらいがいい。


 少し前に遡り。

 俺の今日一日の空回りをひとしきりからかわれていた折、リビングにピロピロという気の抜けた電子音が響いた。曰く、お風呂がわいたとのこと。

 全力疾走(自分の中では)した俺があまりにも汗でぐずぐずになっていたので、母が気を利かせてお風呂にお湯を張っていてくれたらしい。それは素直にありがたいことだった。

 響子が「魔女って普通に給湯器つかうんですね!」などと笑っていたが、もはや俺にはツッコミを入れるほどの気力もない。さっさと汗を流し、汗でしっとりとまとわりつく不快な制服を脱ぎ捨てて、さっさとベッドに飛び込んでしまいたかった。

 この場にいてもろくなことにならない。俺はさっさとこの部屋から逃げ出すべく、心身の疲れでずんと重い体を引きずって風呂場に向かおうとした折、母がまた一つ爆弾を投下した。

 「そうだ~。響子ちゃん、今夜は遅いしうちに泊まっていく~?親御さんには私からご連絡するわ~」

 「えっ?良いんですか?!もっとお話聞きたいですし、ぜひ!」

 「もちろんよ~!そうしたらうちのお風呂とっても広いから、今二人でお風呂入っちゃうと良いわ~。二人でお話したいこともあるでしょ~?その間にご飯作ってご両親にお話しておくわね~」

 「はーい!」

 俺にはもう、何を言い返す気力もなかった。

 楽しそうな二人に背を向けて、とぼとぼと風呂場へ向かった。


 なぜこうなってしまったか、回避するすべはなかったか。俺の()()は文字通り未来にしか効果がなく、起きてしまったことに対してなんの干渉もできない。かといって俺が感じる吉兆や凶兆はその細かな内容を知ることはできず、今回の墓穴もほとんどそれに起因したようなものだ。

 その上()()を覚えるときと覚えないときすらまばらで、ちょっとした幸運を引き当てた事もあれば、ちょっとした事故を回避できず軽い怪我を負ったこともある。

 一度働けば一定以上の効果は保証されるが、まるで小回りが効かない技能。

 母曰く練習すればもうちょっと色々とできるようになるらしいのだが、俺はそんなことをしたくない。

 俺は魔法なんか使えなくてもよかった、普通に暮らしたかった。俺が魔法なんかを練習して、魔法を使えるようになってしまって、そうしたら、俺は。


 しばしの間、どうしようもない後悔の記憶の海を揺蕩い現実へ帰還をすると、明らかに何かを期待している表情の響子がにじりにじりと近づいているように見える。

 うちの風呂は一般家庭にしては異様に広い。母いわく魔法に関係した何かに使うことがあるとのことだが、まるで興味がないので詳しくは覚えていない。

 そのおかげと言うべきか、そのせいと言うべきか。こうして人が二人向かい合って座って入れる程度の広さが確保されているというわけだ。

 そんな響子にくるりと背を向けて、壁に向かって膝を抱いて体を丸め、お湯の中で小さく体育座りをする。が、大きくはないが小さくもない、自分自身の柔らかな胸の感触が自分の膝に当たり、なんとなく不快になったので膝を抱く力を少し緩める。

 「あー!葉月!あんたに色々聞きたいことあるんだからそっぽ向かないでよー!」

 「やだ、俺はあんまり話したくない」

 「えー?せっかく秘密知っちゃったんだしー?今まで色々と隠してたんでしょ?せっかくだから話してよ!」

 「やめろやめろ、肩叩くなそれ以上寄るな。離れたらそっち向いて話してやるから」

 響子は俺のすぐ後ろまで寄ってきてぺしぺしと俺の肩を叩きはじめた。

 無遠慮で好奇心が旺盛ですぐに距離を詰めてくる。しかしその行動の微妙な引き際はわきまえていて、そして誰とでも分け隔てなく仲良くなれる。そういうところが彼女のよいところではあるのだが。

 ザバザバと音を立てお湯をかき分け後ろに下がっていくのを確認すると、俺は再びくるりと回り彼女に向き合う。

 体をじっと見られるのは恥ずかしいので、なるべく彼女から見えないように腕と脚で体を隠すようにして腰を落ち着けた。


 バレー部故に体育館などの室内で動くことが多いとはいえ、運動部のためか肌はほんのりと健康的な小麦色に焼けている。体は日々の日々の運動ですっと引き締まり、短めに切りそろえられたつややかな黒髪は活発さを感じ取れ、少しキリッとした顔立ちはコロコロと大きく変わる表情のおかげかあどけなさも残しているように感じる。

 少し。いや、かなり。目のやり場に困る。

 多大な罪悪感を抱きつつ、しかし目を明後日の方向に泳がせ続けるのも彼女に失礼かなと瞳を見つめると、隠しきれない好奇心が瞳から溢れ出し何やらキラキラと光っているようである。

 昼間ああ言ってはいたが、実はコイツ自身も結構モテるのだ。性格がさっぱりしているというのもあり、男子からもモテる上に女子からもモテている。

 友達がたくさんいるのは知っているが、恐らく学校で響子との付き合いがあるのは俺が一番だ。俺が小学生の頃に転校をしてきてからずっと付き合いがあり、時たま家族ぐるみの親交もある。なぜ俺によくかまってくれているのかは知らないが、正直なところ俺も遠慮なく話せる彼女と過ごす時間は楽しい。だからこそ、彼女に嫌われたくなくて言いたくなかったんだ。


 「葉月はさっ!どんな魔法が使えるのっ?」

 両手をせわしなく動かし、パシャパシャとお湯の水面を叩いている。どうやら好奇心が抑えきれないと態度にも出てくるらしい。

 「全然使えない。時々勝手に()()がするだけ」

 「練習すればできることが増えるってママさんも言ってたじゃん。もったいなくない?あたしだったらもっといろんなことできるようになりたいなー」

 「……俺は、別に」

 響子はふーんと少し考え込み、俺の少し含みのある物言いにそれ以上追求することはなかった。

 しばしの間の後、また好奇心に満ちた瞳をたたえた響子が続々と質問を投げかけてくる。


 「いつから()()がするようになったの?」

 「小6。転校してきたあたり」

 「どんなことができるの?」

 「()()()()()()()()がする時がある。くじ引きで当たりくじがわかる時があったり、自転車が壊れて転んで怪我しそうな時があったり」

 「そうなんだー、葉月の家系は代々魔法が使えるの?」

 「知ってる親戚だとばあちゃんが海外の魔女で、日本に移住してきてじいちゃんと結婚したんだ。そこから母と俺までの三代で魔法が使える。クオーターなんだよ」

 「へー!だから髪の毛と目がそんなきれいな色してるのねー」

 「綺麗、ね。……まぁ、ありがとう」

 お世辞ではなく本気で褒めてくれているのは実感としてわかる。不本意ではあるが自分の体として日々馴染みつつある容姿を褒められるのはむず痒い気持ちもあるが、同時に胸の奥に少し支えるものもある。

 「家系といえば、葉月の家系って時間に関係する魔法が得意なんでしょ?ママさんってワープみたいな魔法が得意って言ってたけど……」

 「時間と空間って関係があるからその範疇なんだとさ。あの移動魔法も厳密には多少時間の移動も伴ってるらしい。次の瞬間に別の場所に存在するために一度微量に過去に遡る必要があるって言ってた。俺は詳しくないからしらんけど」

 「それじゃあタイムスリップしてたってこと?!魔法も難しいのねー!」

 俺を尻目にどんどんと盛り上がっていく響子。その後も彼女の質問に俺が知る範囲で答えていく形で会話は続く。

 大半は俺が魔法に対して無勉強だったためきちんと答えることはできなかったが、終始テンションが上がりっぱなしな響子はそれでも感心した様子で俺の答えに納得しているようだった。

 話しているうちに、根掘り葉掘りと聞いてばかりでなんだかちょっぴりいつもの彼女らしくないな、とも思ったが、俺が口ごもることに対しては深く踏み込んでこない。

 何となく、俺が隠していたことを知ってしまった彼女なりの慣れない優しさなのかなとも思った。きっと、多分。なんでもないような風を取り繕って秘密を受け入れ理解してくれようとしている……ような気がした。

 しかし。なんだかモヤモヤとした気持ちが俺の胸の内にちらつく。

 友達の好意に対して少し違和感を覚えてしまう自分の気持ちを認めたくなくて、長話のせいでちょっぴりとお湯にのぼせてしまったのかなと結論付け、風呂から上がり脱衣場へ出た。

 そして制服の代わりに母が用意していた俺の着替えに少し気が遠くなり、軽いめまいがした。

 やっぱりのぼせていたのかもしれない。

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むずかしい(しか言っていない)

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