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約束、その傍らに幸あれ  作者: 入江晶
2. 祭の日
8/12

2-2. 再会

 もはや虚ろな沈黙も押しつぶすような暗闇も、どこにもない。町の様子のそんな変わりようにアリンは驚嘆し、胸の高鳴りをそのまま表した笑顔を見せて、人々の流れに混じろうとした。

 そんな彼に手を引っ張られながら、デメットは、自分が同じ光景に身を置いた記憶を辿った。その頃の彼女は今のアリンより一つ年上だったが、感じ方や振る舞いは、ほとんど変わらないように思えた。一度――正確にはさらにもう一度――経験しているせいか、かつてほどには彼女の胸は軽くならなかったとしても、アリンの喜びの大きさや深さが、彼女にははっきりと分かった。しかし本当は、一度この場面を彼女とともに経験しているはずのアリンの喜び方はどこかおかしく感じられ、そして自分も実はそうだったのだと思うと、彼女は苦笑するほかなかった。

 歩き回ることにアリンが満足すると、今度はデメットが案内をする。老人の店で焼いた肉を求めると、前の日の働きのおかげで、たっぷりと手作りの菓子のおまけがつけられた。その肉の味や熱、火の香りやほんの少しの苦みは、アリンにとってはほとんど初めての、デメットにとっては久しぶりの感触だった。口にできる機会のほとんどないものだったからだ。そんな特別なものをアリンはたらふく味わい、デメットもそれに付き合い、町の人々も、壁の向こうからやってきた人々も、同じようにその夜を過ごしていた。


 ――本当に開いてるんだ。


 明かりを持った人々が最初に現れたところに行き当たって、普段は町の端で土地を隔てている壁がそこにないのを確かめると、アリンは感心したようにつぶやいた。


 ――向こうは真っ暗だけど。

 ――だから、今だけはみんなこっちに来てるってわけ。

 ――どうして暗いの?

 ――普段明るくしてくれてるお日様を、休ませてあげてるんだよ。


 首をかしげるアリンを微笑みながら見つめていたデメットが振り返ると、行き交う人々の間に、一つの姿を見つけた。不思議と、探し求めなくてもこうして出会うことができると分かっていた、そして実際に、一つの言葉も無いまま彼女の前で足を止めた、少年の姿を。

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