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約束、その傍らに幸あれ  作者: 入江晶
2. 祭の日
7/12

2-1. 灯火と開く壁

 空には星が輝いていたが、アリンの周囲は全くの暗闇だった。普段町に灯されている、連なった明かりはない。広い通りの両側に町の人々が並び、ざわざわと騒がしかったが、隣にいるはずのデメットの姿も、目では確かめられなかった。それはひどく心細く、彼の左手が握る彼女の右手の感触と温度だけが、不安に揺れる彼の心を支えていた。


 ――大丈夫、もうすぐだからね。あと少し、あと少し。


 彼の耳元で、デメットがささやく。明かりが消える前、デメットは、彼がこの光景に立ち会うのは二度目だと言った。しかし実際目の当たりにしても、彼には到底信じられなかった。たとえその一度目の頃には、自分の年齢が今の半分にも満たなかったとしても。五年前の出来事について何やらデメットが話してくれても、彼にはそれと並べられる記憶が、どこにも見つからなかったのだった。その空白は、今まさに目にしている暗闇とそっくりにも思えた。

 しかしふと、彼は様子が変わったのに気づいた。ただしそれは、彼の期待とは正反対へのものだった。ざわめきが薄れていき、ついには完全な沈黙に満たされる。咳払いや衣擦れ、靴が地面をこするような音すらもだんだんと消えていき、耳の奥にまで、静寂が痛烈に響き渡っていた。

 自分の心臓の音ばかりが聞こえ始めた頃、静かな歓声が上がった。


 ――ほら、あっち見て!


 控えめで静かな、それでいてはっきりと嬉しげなデメットの囁く声音に促されて右方を向くと、まだ何も見えてはいなかったが、何かこれまでにない音が聞こえ始めた。それは少しずつ大きくなっていき、大きなものが地面を引きずられるような様子が音で表されたかと思うと、また静まりかえる。


 ――壁が開いたんだよ。もうすぐ始まるから。


 暗闇の様子は変わらなかったが、彼は、デメットの言葉から高揚した彼女の気持ちが伝わったせいか、自分がどこか、胸を躍らせ始めているのに気づいた。

 そして視線の先でまず小さな明かりが点き、それを高々と持ち上げる人影が見えた。その見慣れない、彼が普段目にする明かりよりも赤々として、ずっと激しく揺らめく明かりを先頭に、町の人々が囲む道を、いくつもの足音が、ゆっくりと、悠然と進み始める。そして先導する明かりがちょうどアリンの前方あたりに来たところで、列をなして歩いてきた人々が、一斉に小さな明かりを取り出した。その揺れる明かりの放つ熱にアリンが驚いている間に、答えるように、道に並べられていた無骨な灯籠が、荒々しく身震いする赤い光を掲げた姿を、次々に見せ始めた。

 光の登場に合わせるように歓声が上がり、あちこちで、声だけでない音が響き始めた。道々に人が行き交い、それに伴って明かりが点灯し、人々の影と一緒に揺れ、時には先行して闇の中に駆け込む。暗闇と光が追いかけっこを繰り返し、人はいつもその間、境目にいた。口々に飛び交わされる言葉、声が、そんな光や闇に折り重なっていた。

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