表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/12

1-6. 家へ帰る

 川のように横たわる、すっかり色濃くなった夕闇を通り抜け、明かりの並んだ町に到着すると、少年は心からほっとした。淡い橙色の光の島が並ぶ中を、ゆっくりと車は進んでいく。

 車の音も振動も、ずっと小さくなっている。星明かりのざわめきも見えない。そんな穏やかな道のりを楽しむうちに、自分がいた場所を覆い尽くしていた夕闇も、どこか心が惹かれるように感じられ始めた。

 明かりもまばらな町の外れの一角の、大きな倉庫に積み荷を降ろし、デメットがそれを荷受けの相手に引き渡している間、少年が退屈な思いで待った後、ようやく本当の家路につく。


 ――なんか、今日は話が長かったね。

 ――かなり喜ばれちゃってさ。アリンが仕分けしといてくれたおかげでね。ああ、アリンが頑張ってくれたことも、ちゃんと言っといたよ。ま、おかげで次もって、期待されちゃった。

 ――ふうん……

 ――何か、不満?

 ――だって、何か、デメットが楽になるのかと思ってたから。

 ――あはは、ありがと。楽になるのは向こうだね。あれを材料にするときに、いろいろ混ざってたらやりにくいでしょ。混ざったまま使ったら出来が悪くなるし。だから使う前に、区別してあれば、その後がやりやすいんだよ。けっこう、大事なことらしいよ。

 ――全部同じに見えるけど。

 ――まあ、私たちにはね。でも違うんだよねえ。アリンが使ってたやつで(ちょうど彼はそれを手に取って、しげしげと眺めていた)、私たちには見えない光を当てるの。そしたら別の光が返ってきて、それを測れば、どういうものなのか教えてくれるってわけ。

 ――で、その光が危ないんだ。

 ――そうそう。まあ大したことないらしいけど、無事に済ませたいからね。私たちが集めたものが使われてたときよりは、ずっとマシなんだろうけど。

 ――そんなに危ないものだったの? こ……


 「これ」と言いかけて、少年は慌てて口をつぐんだ。かごからこっそり抜き取っていたものが、その指の間で、くるくると向きを変えていた。太さも長さも彼の親指ほどで、黄色か金色の、先端近くがすぼまったその筒は、冷たく、彼には意外なほどずっしりとしているように感じられた。


 ――らしいよ。私もよく知らないけど。いろんなところの人が、よってたかって、いろんなところからそれを持ち込んで、大騒ぎしてたんだって。だからいろんなのが混じってるわけ。一緒に見えても違うっていうのが、厄介らしいんだよねぇ。

 ――でも、それが材料に使えるんでしょ? あんなにたくさんあるんだし。

 ――まあ確かに、だから私たちの仕事もあるんだけど。でもあんな馬鹿でっかいものまでほったらかしにして、私たちが後始末やらされてるような感じだし。アリンの仕事も増えちゃうし。

 ――あんなの平気だよ。デメットの方が、大変だと思う。

 ――おー、えらいじゃん。じゃあ、次はもっと仕事をお願いしようかな。


 やがて少年の家の前に着くと、荷台に残っていた容器の一つを下ろし、少年も降りる。そして別れ際、彼はデメットから紙の包みを一つ渡されたが、その生暖かく、柔らかい感触は、彼にはただ不気味に思え、正体が分からないのもあって、ひどく困惑した。しかしすぐ後に、それは彼の胃袋に収まることになる。彼は、赤いままの肉を見たことがなかったし、その特別な贈り物がなぜこの日に渡されたのかも、知らなかったのだった。

 一人になったデメットは、悠々と、荷台の軽くなった車を走らせた。夕闇に覆われた街路には明かりが満ちていても、人影はほとんどない。そんな中を、車輪が、低く控えめに、そして彼女の耳には実に心地よく、うなりながら、彼女を運んでいく。

 やがて町並みの中の多くがそうであったように、窓から橙色の明かりの漏れる家に到着すると、まずは裏手の車庫に入り、車を停める。残った積み荷を台車に載せ替え、車には固定のための鎖を取り付け、壁から伸びる管を、車の側面に差し込んだ。

 ふうと一つ息をついてから、車庫を出て台車を押していったが、ふとデメットは足を止め、背後を振り返った。そこには、もう夕日も残らない、暗い空があった。星は見えなかったが、雲や青黒い空そのものの色が陰影を作っていた。そしてその空が、真っ黒で完全な闇に切り取られている。

 それは彼女の遙か上方にまで伸び、彼女を見下ろしていた。空を、そして背後の世界を遮る闇を見つめた彼女は、その壁の向こう側にいる一人の存在をについて思い描くと、台車の取っ手に力を込めて、家の裏口へと向かった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ