2-4. 世界を見下ろしながら(2)
彼女は正面の遠方に目を向けた。その先ではいつの間にか空は青みを帯び始め、町を満たしていた明かりもまばらになっていた。
――星が見えるね。久しぶりだよ。
――どうして?
――壁の向こうだと、いつも見えないんだ。ずっと、明るいから。
――私も同じだけどなあ。町は明るいし、町の外には、暗くなるまでいちゃいけないって言われてるし。ああでも、この間は帰るのが遅くなったから、お星様も見えてたっけ。
――うらやましいよ。そういうことがあるから、君は楽しいって感じるのかな。
――私じゃなくても、そうだと思うけどね。私がいる、壁の外なら。でも……また、ずーっと会えなくなると楽しくなくなるかも。いつ、フェルスに会えるか、ずっと考えてたし……夜が明けたら、フェルスが戻る日になっちゃう。
――僕だって、戻りたくない。せっかく君に会えたんだから。でもきっと忘れずにいたら、また会えるよ。また約束すればいいと思う。前のお祭りの時みたいに。
彼女は立てた膝に乗せた腕に顔を伏せ、しばらく黙っていた。そしていくつかの湿った息づかいの後、少しだけ、吹き出すように笑い、言う。
――覚えてられるのかなあ。約束したっていうことの他は、ほとんどなんにも覚えてないのに……フェルセといたのが、すごく楽しかったっていうぐらいだよ。
――それだけで、十分なんじゃないかな、また会うために覚えてなきゃいけないのは。だって、こうやってまた会えたんだから。
――本当かなあ。
顔を伏せたまま、彼女はつぶやくように言った。覆われた目には、ただ真っ暗な世界が広がる。やがて熱い涙がにじみ始めた。その熱は体の中心、胸の奥にも伝わり、息は詰まり、震えた。
――私、もう前のときとは全然違うもん。あんなに子供じゃないし、いろいろ分かってるし。子供の時のことなんて、ずっと覚えてられないよ……たぶん。私が覚えてたくても、ずっとこのままでいたくても。
――別に、大人になっても忘れないことだって、あると思うけどな。
――今の気持ちまで、忘れないでいられる?
デメットが顔を上げ、目を開けると、少年の穏やかな微笑みがその前にあった。明かりのほとんど届かない闇を背景にし、曇ってぼんやりとしていた視界の中で、彼女にはそれを、不思議なほどはっきりと認識することができた。
――もし忘れても、きっと思い出すよ。今度だって、デメットに会えたのが嬉しかったけど、こんなふうにまで感じるなんて、分からなかったから。想像してたよりもずっと嬉しくて。だから僕も、たぶん、忘れてたんだと思う。前のお祭りの時、デメットといられてどのくらい楽しかったかってことと、別れるときにどれだけ悲しかったかってことを。それに……
少年は言葉を止めると、一つ息をついて、右、左へと顔と視線を向けた。一方にはまばらに明かりがともされたデメットの町があり、もう一方には、ただ暗闇に沈み、壁に囲まれた、フェルセの町があった。