1-1. 暗がり
――アリン! アリーン!
目の前に広がる闇の中へは、背後の開けた空間から差し込む光も、わずかしか届かない。そんな矩形に切り取られた闇に向かって影が伸び、そして溶け込んでいくように、彼女の呼びかけには何の返答もなく、ただ空しく響いた。
ため息をつき、手に提げた筒の底を回す。明かりが灯る。その光がだんだんと増していくにつれて、照らされる領域の輪郭が明瞭になっていった。とはいえ視線は早々と闇に遮られ、はっきりと見えるのは、周囲の、わずかな円形の範囲だけだった。
ゆっくりとした彼女の歩みに、その円が不規則に揺れながらついて行く。硬質な足音を立てる、白い、固く平らな床。そしてそれを覆い尽くす塵や埃、砂が、静かに靴底とこすれ合い、足音を曇らせた。
ふと、足下がきらめいた。透明な、しかしすっかり質感のくすんだ破片が、あたりに散らばっている。その中のいくつか――つまりちょうど彼女の目にのっぺりした面を向けることになった破片が、交代で光を跳ね返していた。
そんな破片を避け、踏みつけ、時には蹴散らし、ささやかな音や光が砕けていくのを後に残しながら、ためらいつつ歩き進む。ふと顔を上げると、ずっと向こうで、壁を丸く照らし出す、橙色をした明かりが見えた。
彼女はため息をつき、それまでと同じ歩幅、速さで、同じように床の表面を踏み出す足で掃き払いながら、その明かりに向かって、横たわる闇の中を進んでいく。
――アリン! そこにいるの?
早々に姿を消した輝く破片の代わりに、他のありとあらゆるものが散らばった足下を見ながら、何度も呼びかける。時折顔を上げても、明かりは身じろぎもしていなかった。
――アリン!
彼女はもう一度呼びかける。答えはなく、それが予想通りだったせいか、彼女には、その響きのむなしさが、一層強く感じられた。
筒状の明かりの置かれた台にたどり着き、大小の破片や、破片になる前の、埃に覆われた箱や塊が乱雑に積み上がった光景の中に立つ。照らされていた壁にはわずかな深さの、しかし広々としたくぼみがあり、中央にはつなぎ目のような線が走っていた。闇の端が揺れて、同じ物がもう一つ、すぐ横に並んでいるのが、わずかにのぞき見える。
手に持っていた筒を置くと明かりは二重になり、周囲の様子がくっきりとし始める。ところどころに、真新しい――と言っても、実際に新しいはずもない――面が、埃を拭い取られて、細長く顔を見せている。かつての、もっと光沢があり、つけられた色はもっと明瞭で、もっと整った形をしていたことが思い起こされるようで、彼女は、それをどこか感心しながら眺めた。