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星持ちの少女は赤の秘剣で夢を断つ  作者: 小谷草
第4章 星持ち少女と決闘と
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第92話 襲撃の結果と新種の魔物 ※ 後半 フェリシアーノ視点

 次の日、教室に向かう途中でアーダ様から謝罪を受けた。


「アメリー。すまないな。まさかドミニクに襲撃されるとは」

「ちゃんと返り討ちにしたから大丈夫ですよ。闘技場でアーダ様が倒してくれたおかげで、自信を無くしたのでしょうね。ナデナやファビアン様も来てくれましたし、つつがなく倒すことができました」


 私が微笑んで言うと、アーダ様は戸惑ったように頬を掻いた。


「本当なら私がアメリーを守るはずだったのにね。まったく! 肝心な時に任務なんか入っちゃうんだから! あんなに遅くまで連れまわされるなんて思わなかったわ! コルネリウスの奴も来たんですってね! きっと得意げな顔をしていると思うわ! 腹が立つったらありゃしない!」


 不機嫌そうに言い捨てたのはエーファだった。


 教師に呼び出された彼女たちは、学園の周りを連れまわされたらしい。討伐任務などでよく言った場所を教師や上級の冒険者など、一流の戦士たちに混ざって魔物を探したようだ。


「えっと。今までいなかったはずの魔物が何種類も見つかったんでしたね」

「ええ。ギフト・フロッシュっていう蛙の魔物やツイーロスっていうイモリの魔物、エキュルイユっていう小型の魔物もいたわね。それに、なんとあのウェディンゴまでいたのよ! まあ、最後のは足跡しか見つけられなかったんだけど」


 エーファは溜息を吐いた。


 今回の任務で新たな魔物が見つかったのね。しかも、その魔物って確か、南のグスシャフト共和国に出現する魔物だったわよね?


 この国の南、共和国との国境付近には砂漠が広がっているけど、確かその3種類は砂丘とか岩場に隠れ住んでいた生き物が魔物化したもののはず。隠れるのが得意だからかなり厄介で、犠牲者も多いんだけど、これまでこの国に現れたことはなかったと思う。


「ウ、ウェディンゴまでいたのか? それは厄介だな」

「ええ。あの巨大な猿はビッグバイパーやブラッドボーンなみにヤバイ魔物なのよね。キラーエイプより巨大だし、力も強い。魔力障壁も固いから、先生たちがいるときに倒してもらえればよかったんだけど・・・。姿は確認できなかったわ」


 エーファはため息交じりに首を振ると、アーダ様を心配そうに見つめた。


「そう言うアーダこそ大変だったんじゃない? なにしろ伯爵令嬢から侯爵令嬢になるんだから」

「いや。かなり楽だったよ。ファドゥマー様は手続きについてすごく丁寧に教えてくれたし。実は、城に私の元両親が押し掛けてきたんだが、ハドゥマー様が一括してくれて。あの人たちは、もう私には近寄れそうもないんだ」


 複雑な表情ながらもアーダ様は微笑んでいた。


「ベール家に行ったときも、な。すごく大きな屋敷だったんだけどみんな歓迎してくれて。フィオナ様もグス様も私の話をいろいろ聞いてくれたんだ。次に来るときは好物を用意してくれるって」


 フィオナ様の名前を聞いてびくりと震えてしまった。


 第2騎士団での詰め所での出来事は私にとって衝撃的だった。でもハドゥマー様は、叔母様が関わらなければ安心だって言ってたから、これも当たり前なのかな?


 そんなことを話していると、教室へとたどり着いた。扉を開けると、エリザベート様がすぐに声をかけてくれた。


「おはよう。昨日は大変だったみたいね。コルネリウスから聞いたけど、後であなたからも話を聞かせてね」


 微笑みながらア視察してくれたエリザベート様の隣にはカトリンもいて、こちらに手を振ってくれた。


「おはようございます。今日は3人一緒だったんですね」

「ハイリー。昨日ぶりね」


 エーファとハイリー様が笑顔で挨拶していた。


 どうやらハイリー様とエリザベート様は昨日の話をクラスメイトに報告していたようだ。その傍らにはカチヤ様とデメトリオ様もいいる。後ろの2人は何か元気がなくて、ちょっと心配になってしまう。


「えっと、昨日の、先生のお手伝いをした話ですか」

「ええ。あなたたちもエーファに聞いたみたいね。王都の周辺に新たな魔物が出たらしくて、それを探し回っていたのよ。探索魔法を担当するウーテ先生は大変みたい。まあ、そのせいで昨日は私たちはこき使われたんだけどね」


 新たな魔物が見つかったら、探索魔法の術式はアップデートされる。中位クラスや平民クラスの生徒でも魔物を見つけられるように改良するのだ。おかげで魔物を見つけやすくなるけど、改良するほうは本当に大変だ。消費魔力も多くなってしまうし。


「あの魔物、今の魔法だと見つけるのはかなり難しいでしょうね。風魔法に相当に優れた貴族がいないと。昨日はエーファじゃないと無理でしたし」

「またご謙遜を。ハイリーもエキュルイユを見つけてたじゃない。あなたならいけるんじゃない?」


 エーファはそう言うが、ハイリー様は首を振った。


「いえ。私は新たな術式ができるまで過信はしないことにします。見落としは怖いですからね」


 首を振るハイリー様の話を聞いて、カチヤ様が溜息を吐いた。


「私は、先生とエーファが何を話しているのか全然わかんなかった。私だって、探索魔法をまなんでいるのに」

「え、ええ。私にも全然わからなかったですね。探索魔法がああやって改良されているのだと知ることができたのは良かったですが」


 カチヤ様とデメトリオ様は下を向いていた。どうやら、探索が終わったあと、ウーデ先生とエーファが話をしているのを聞いたらしく、彼らはその話に衝撃を受けたようだった。


「まあ、難しい話ばかりだったのはしょうがないと思います。私も、内容は一部しかわからなかったですしね」


 ハイリー様が苦笑しながら慰めた。デメトリオ様は一瞬だけ嬉しそうに目を輝かせたが、カチヤ様と一緒にすぐに沈んでしまった。


 というか、デメトリオ様とカチヤ様が分からなかったのなら相当に難しい話ではなかっただろうか。2人とも、上位クラスに選抜されるくらい優秀な人だ。その2人が分からず、しかもハイリー様が一部しか理解できなかったのなら、相当に専門性が高い話だったのだろう。


「正直、エーファがいてくれて助かった面はありますね。私としては興味深い話でしたけど。でもまさか、あんな魔物を王都周辺で見かけることになるなんて」

「えっと、相当に強い魔物だったんですか?」


 私が聞くと、ハイリー様が首を振った。


「強さだけならゴブリンのほうが上だと思います。見つけさえすれば、下級生でも何とでもなるでしょう。けど、隠蔽技術が、ね。奇襲を掛けられたらと思うとぞっとするわ」


 ハイリー様がそう言うなら、相当に厳しい相手ということだ。


「それよりも、昨日の一件はどうなりそう? 学園の星持ちに完全武装で襲い掛かるなんて、正直ありえないと思うんだけど?」

「処分にはかなり時間がかかりそうだ。どうやら、ドミニクには闇魔法が使われた形跡がるらしくてな。正常な判断ができなくて、怒りに我を忘れて襲撃を企てたらしい。奴らには情状酌量の余地はあるということさ」


 ぎょっとして振り向くと、そこには得意気な顔をしたコルネリウス様が佇んでいた。


「コルネリウス!」

「おっと。私はお前たちに含むところがあるわけではないぞ。なに。襲撃の被害者のお前に、少しばかりヒントをくれてやろうと思ってな」


 そう言いながら、コルネリウス様は私たちの会話に参加してきた。


「ドミニクには闇魔法を使われた気配があり、あいつの傘下の貴族は契約を盾に襲撃に無理やり参加したとのことだ。闇魔法を使われたとなると、詳しい事情を聴かねばならんということさ」


 そう言われたら納得せざるを得ない。


 この国は闇魔法に大きな苦手意識がある。王を守る近衛騎士には闇魔法対策を学ぶのは義務とされているし、私たち上位クラスの生徒には真っ先に闇魔法対策を教えられるほどだ。


 ドミニクも当然闇魔法対策をしていたはずなのに、闇魔法の餌食になるなんて。相手は相当な使い手なのだろう。おそらく、ドミニクに魔法を施したのはウェンデルよりも相当な力量の持ち主に違いない。


「バル家が没落したのは痛いな。あの家は、闇魔法対策に重きを置いていた家だった。ドミニクに使われた魔法が何かまで分かったはずだがな。まあ、闇魔法の使い手として他家からは嫌われていたらしいが」

「ちょっと! 巫女様の母君のご実家に、なんてこと言うんですか! 今だったらバル家に文句がある奴らなんて、殲滅してあげるのに!」


 復活したメリッサ様が当たり前のようにコルネリウス様に食って掛かった。コルネリウス様は余裕でメリッサ様に答えるが、顔を引きつらせていたのはアーダ様だった。


「えっと・・・。念のために言っておくが、私は違うから。闇魔法の資質はあるけど、決闘のあとに、ドミニクにあう機会はなかった。決闘の最中も、闇魔法なんて使わなかったから」

「安心しろ。お前でないのは確認済みだ。というか、この学園に通う生徒の中に犯人はいないとのことさ。闇魔法の資質があるものは学園で把握しているし、魔法の痕跡からも、学園生じゃないのは確認済みだ。学生や教師の中に犯人はいないだろうとさ」


 コルネリウス様が言うと、アーダ様はあからさまにほっと一息ついた。


「それじゃあ、その調査には時間がかかるということ?」

「ああ。闇魔法を使える教師が確認しているらしいが、なんの魔法が使われたか、誰が使ったか、痕跡までは分からないらしい。闇魔法が使われたことまでは分かったらしいがな」


 コルネリウス様が得意気に頷いた。


「だが、たとえ闇魔法を使われたからとはいえやりすぎだ。未成年とはいえ、処分は相当に厳しいものになるだろう。首謀者のドミニクは退学で、あいつに従った面々はクラス落ち、というのが妥当なところだろうな。いかに、学園に残ることになりそうとはいえ監視は厳しくなるし、残ったとしても針の筵のような気分を味わうだろうさ」


 襲撃者たちの処分を聞いて、ごくりと息をのんだ。


 これに関してはしょうがない。星持ちを武装して襲撃しようとしたのだから、処分は順当なものだ。場合によっては処刑もあり得た。


「ちょっと甘い気もするけど、今はこの国の貴族の数が減っているから妥当なのかな。ドミニクは絶望的でしょうね。あんなに爵位にこだわっていたのに、貴族ですらなれなくなるなんて。ヘッセン家にも、相当に厳しい処分が言い渡されそうだし」


 この国の貴族は、学園を卒業することが義務とされている。だから、学園を退学になったら、ドミニクは貴族になることができなくなるということだ。


「平民クラスの生徒として学園に入り直すって手もあるかもだけど、それは相当に厳しいっていうしね。プライドの高いアイツには耐えられないんじゃない? 伯爵家に復帰するのは相当に難しくなるだろうし」


 あっけらかんと言うエーファとは対照的に、アーダ様は考え込んだ。私は彼女の考えを辿るかのように気になったことをつぶやいた。


「そうか。アルバンも襲撃に加わってたみたいだけど、いちおうは学園に残れそうかな。平民クラスになるから、カーキー家の復興は相当難しくなりそうだけど」

「アメリー! 加害者の行く末なんて気にする必要はないのよ! 襲撃が成功したらあなただってただでは済まなかったのだから! というか、この処分にしたってコルネリウスが予想してるだけなんだから!」


 エーファにたしなめられて、思わず肩をすくめた。


「ふっ。そう言うが、たぶんこの処分は正しいと思うぞ。何せ俺は、ヴォルフスブルク・ポリツァイの再来と言われた男だからな!」

「ああ! なんつった!? ちょっと始祖と同じと言われたからって調子に乗んじゃないわよ!」


 ついには喧嘩し出す2人を、私たちはあわてて止めるのだった。



※ フェリシアーノ視点


 あれからどれくらいの日々が過ぎただろうか。


 ビューロウ領で捕らえられた俺は、王都に移送された。通常なら、情報を吐き出させられた後、処刑されるものだろう。だが、そうはならなかった。情報を吐き出されるための尋問はあったものの、拷問には至らない。中途半端なまま、時間だけが過ぎていった。


 ふと、気配を感じた。


 牢の入り口を見ると、そこにはいつのまにか青い影のような靄が現れていた。


「・・・お前か」

「ずいぶんと元気そうじゃないか」


 青い人影が出した声はくぐもったようだった。


 子供くらいの大きさの、小さな青い影。それが、不明瞭な声で俺に語り掛けてくるのだ。


 聞いたことがあった。優れた属性の魔法使いは、魔力の塊に自身の魂を憑依させることができると。こいつは時々こうしてあたりを移動したりする。本体がどこにいて、どのような状態なのかは知らないが、こんな姿になることで俺とも会話することができる。


「お前がなぜ生かされているのか教えてやる。公開処刑さ。闘技場で、貴族が直々にお前に処罰を下すとさ。10人殺せばお前は自由を手にするが、処刑人は必殺の構えで挑んでくる。この国ならではのイベントで、前に同じ目にあわされた罪人は、9人目で命を落としたらしい」

「はっ! 愚かな! とっとと殺せばいいのによ! 大方、大勢の前で俺を殺すことで力を示そうってんだろう! その余裕が命取りになるのにな!」


 悪態を吐いた。


 やつら、俺を闘技場で殺して留飲を下げようというのだろうが、そうはいくか! 徹底的に抗ってやる! 俺を殺さずに置いたこと、心から後悔させてやるんだ!


「武器を持てないくらい痛めつければいいのにな! 俺を万全にして生かしたこと、思いっきり悔いるだろうさ! 奴らの死体を前にしてなぁ! はっ! 何が貴族だ! 何が栄えある王国だ! 奴らは卑怯者にすぎん! 平民だからって侮ったこと、死骸になって悔いるといいさ!」


 あいつは溜息を吐いたようだった。


 それが分かるのは、あの施術を受けてからだった。確か、あの青い影は条件を満たさない者には形すら見えないはずだ。水の資質が強いか、影の血縁者か。その条件を満たさない限り、姿を見ることも声を聞くこともできない。俺も、こうなって初めてあいつの声を聞けたのだからな。


「やはり憎いか? お前をこんな場所に追いやった奴らは」

「あたりまえだろう! あの時の俺には何の弾傷もなかったのに! 奴らは、何の罪も犯していなかった俺を、罪人だと罵ったのだ! そんなの、許されるわけがないだろう! 善人面をしても、貴族なんてみんな同じだ!」


 俺を陥れたのは、善人面した貴族の男だった。俺はこの国の貴族を信じて魔物の討伐を引き受けた。強力な魔物を倒して意気揚々と戻った俺を、あいつらは!


 俺に魔物を操ったという冤罪を着せて、のうのうと引っ立てやがったんだ!


「俺はお前とは違うんだよ! 自分を陥れた相手を許すことなどできん! なあ? どんな気持ちだ? 自分を陥れた相手に、しもべのように従う気持ちは? なあ! 聞かせて見せろよ!」


 挑発したが、あいつは取り合う気もないようだった。


「私の矜持などどうでもいいさ。あの子が、幸せになれるのならな。あの国で、あの子が幸福に暮らせるのなら、私はどんな罪でも背負おう。赤の資質に満ちた、あの子が笑って暮らせるのならばな」


 ちっ! またそれか!


 どいつもこいつも! 自分以外の者のために命を尽くすとは! 反吐がでるぜ!


「自分の生き方を決めるのはあくまで自分だ。他人が何のために行動しているか、お前のような者が気にする必要はないだろう。お前は存分に恨みを晴らすと良い。何せ、お前の最初の獲物は、お前を陥れた相手の血縁なのだからな」


 あいつの言葉に、俺は目を見張った。


「奴の子孫が、まだ生き残っているというのか! 皆殺しにしてやったはずなのに、生き残りがいたってことか!」

「ああ。お前の最初の対戦相手は、ノード家の当主だとさ。冤罪を着せたやつらの一味のはずなのに、お前を自分の手で殺してやると息巻いているとさ」


 笑い声をあげた。


 あいつの血族が生き残っていたのは心外だが、それを手にかけるチャンスを得られるとは! これでは、あいつらの言う「天は我を見捨てていない」というヤツではないか!


「くははははは! そうか! 俺にはまだチャンスがあるんだな! 奴の地を絶えさせるチャンスが! この恨み、晴らさでおくべきか! 必ずノードの血を絶やしてやる! 必ずだ!」


 地下牢に俺の笑い声が響いた。


 何人もの見張りが駆け寄ってくる気配がした。だが、あいつの存在に気づいた者は誰一人としていなかった。


 暗く、冷たい地下牢に、俺の笑い声だけが響いたのだった。

拙作を読んでいただき、ありがとうございます。


これにて4章は終了しました。

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