第85話 第2騎士団と審判とデメトリオ ※ 後半 ドミニク視点
「おお! これはビューロウのご令嬢ではないですか! ささ、どうぞ!」
第2騎士団長の執務室に入ると、意外なことに熱烈な歓迎を受けた。
なんでも、この人は少し前まで北に行っていたらしく、あの公開処刑の騒動にかなり心を痛めていたらしい。
「あの公開処刑に携わった者の中には我々第2騎士団の者もいたのですよ。ダクマー様は決闘で苦い思いをしていたのに、我々の仲間の敵を討ってくださった。ダクマー様は力で罪人を圧倒することで騎士団の名誉を守ってくださった。我々の中にも感銘を受ける者も多いのですよ」
騎士団長が豪快に笑った。
もともとは、闘技場でのイベントは、この地脈を預かっていたゴルドー家の人が管理していたんだけど、あの家の失墜に伴って王家と第2騎士団がこの地を治めることになったらしい。
中央騎士団は前回の公開処刑で大きな被害を出した。新進気鋭の若者を何人も失ったのだ。中には第2騎士団所属の騎士もいて、あの騒動を治めたダクマーお姉さまに、感謝を抱いている騎士も多いとのことだ。
「今回の決闘で戦うアーダ様は、確かアメリー様の隊の人間でしたな。本来なら我々も力を貸したいのですが、申し訳ない。我々は、あくまで中立の立場でして、どちらかに肩入れするわけにはいかんのです」
「い、いえ! 私たちは決戦の場を見に来ただけなのです。こちらに肩入れしてもらおうという気持ちは微塵も」
私が慌てて言い訳すると、アーダ様も同意するようにコクコクと頷いた。騎士団長は申し訳なさそうな顔をしながらも、きっぱりと私に宣言した。
「次の決闘では命を最優先にさせていただきます。我々はゴルドー家の者たちとは違う。決闘とはいえ、若い命が失われるのはもうごめんですからな。どちらかに命の危険があり次第、すぐに試合を止めさせていただきます」
「い、いえ! 十分です! 私が騎士団に臨むのは公平なジャッジだけですから! その言葉が聞けただけでも十分です!」
アーダ様が慌てて首を振った。それを見て、コルネリウス様があざけるような目を向けていた。
そんな時だった。
「マキシミリアン様! オットー様がお呼びです!」
「馬鹿者! 今は来客中だというのが分からんのか!」
騎士団長の土星が響いた。だけど、伝令に来た騎士は申し訳なさそうにしながらも言葉を続けた。
「すみません。ですが、至急話をしたいことがあるとかで」
苦虫をかみつぶしたような顔になった騎士団長に、伝令の騎士は頭を下げると、慌てたように立ち去っていく。
「申し訳ございません。オットーは最近こちらに戻ってきた男なのですが、優秀なのに独断専行が過ぎるようでして・・・。その、さる大貴族からの推薦もありまして」
さる貴族というのに嫌な予感がした。
「あの、私たちは席を外したほうがよさそうですね」
「え、あ・・。そ、そうですね。申し訳ないのですが、こちらの話が終わったら」
騎士団長が頭を下げながら言ったその時だった。
「おお! マキシミリアン様! こちらにおられたのですな!」
「オットー! 貴様! 来客中だぞ! 後にはできんかったのか!」
魔法使いのような白いローブをまとった男が2人、この部屋に入ってきた。おそらくオットーという男と・・・。もう一人は、デメトリオ様!?
「いえね。私も心苦しいのですが、あの公爵様から直々に与えられた任ですからね。しくじるわけにはいかないのですよ」
「だからと言って来客中に押し入るとは何事だ! このことはユーリヒ家にも抗議させてもらうぞ!」
記事団長の声は厳しいが、オットーの態度は変わらない。こちらを一瞥すると、あからさまに馬鹿にしたような顔になった。
「これはこれは。ビューロウの災炎の星持ちと、その友人ではないですか。決闘の下見ですか? まあ、少しでも勝つ可能性を上げたいのでしょうね。何とも熱心なことです」
「オットー!」
騎士団長がたしなめるが、オットーは止まらない。
「いいではないですか! アーダ様は勇敢にも、土質の使い手たるドミニク様に挑もうというのですから。私も魔法使いの端くれ。この試合、結構楽しみにしているのですよ。何でも、この試合は賭けの対象になっているとか」
言葉では私たちを称賛しているようなことを言っているが、オットーは明確に私たちに言いたいことがある様子だった。
「大丈夫です。この決闘は第2騎士団の手によって行われます。資質が低いものでも怪我をするわけはありません。もっとも、怪我をしないからと言って無事に済むとは限りませんがね」
オットーは、アーダ様を揶揄するような言葉を述べた。頭に血が上った私より、騎士団長より先に、オットーをたしなめるような声が上がった。
「オットー様。そのような言、あまり歓迎できませんね。あなたが優れた素質を持つ魔法使いということは存じていますが、アーダ様は私のクラスメイトです。暴言はそれまでに」
「こ、これはすみません。リンクス家のご意向に逆らうつもりはないのです」
オットーはあわててデメトリオ様に頭を下げるが、上目遣いで彼を見上げた。
「しかし・・・。いえ、疑問に思いましてね。優秀な魔法使いを数多く輩出してきたリンクス家のご子息ともあろうものが、まさか素質以外を重視するとは・・・。少々意外でしたね」
「黙りなさい。私は、学園に通う貴族の卵には礼を尽くすようにと言っているのです。アーダ様の資質の件はどうあれ、彼女は学園の上位クラスに属する生徒です。決して、暴言を吐いていい存在ではないはずです」
デメトリオ様がぴしゃりと言うと、オットーは頭を下げ、何か言い訳して慌てて部屋を出て行った。騎士団長に何か話が合ったようだが、それは良いのだろうか。
「まったく。勝手ばかりしおって・・・。後で説教だ。ああ。時間ができたようですので、視察ならば付き合いますよ。私がいたほうが、変な疑いはなくせるでしょうし」
「え・・? あ、ああ。うん。それじゃあ、試合の会場を見せてもらおうかなあ。それと、審判をしてくれる方々にご挨拶させていただけると助かる。当日は、迷惑をかけてしまうと思うから」
アーダ様を聞いて、彼女の後に続こうとしたその時だった。
「アメリー様。ちょっとよろしいでしょうか」
デメトリオ様が声をかけてきた。
「ええ。何でしょうか」
「いえ、その・・・。少し、話せればと思いまして」
ちらりとアーダ様達のことを見た。
どうやら、デメトリオ様は私と込み入った話がしたいようだった。この人がハイリー様に気があるのは周知の事実だ。気づいていないのは、当のハイリー様くらいだろう。そういう意味では心配ないのだけど、話というのは気になった。
「あ・・・。う、うん。私のほうは大丈夫だ。騎士団長を待たせるのもあれだし、よかったらデメトリオ様の言葉を聞いてあげてくれ」
「ふっ。ならば俺がアーダに付いていこうか。お前がどんなことをするのか興味があるからな。エリザベートはアメリーを頼む」
◆◆◆◆
部屋を出ていくアーダ様たちを見送ると、私はデメトリオ様に向きなおった。私が言葉をかける前に、エリザベート様が話し始めた。
「デメトリオ様。申し訳ないですが、私も同席させていただきます。この情勢で、しかもユーリヒ家のおひざ元でアメリーを一人にするわけにはいかないので」
「え、ええ。確かに、ユーリヒ家には何をしでかすかわからない怖さがある。我が家も、第2騎士団やザイン家の援護がなければかの家につぶされていた可能性がありますから」
デメトリオ様の言葉に、少しだけ納得した。
「私の家のリンクス家は第2騎士団に多大な恩がありまして。第2騎士団は決闘のような催しにはあまり慣れていない。こういった催しは、今まではゴルドー家が取り仕切っていましたからね。戸惑うことが多いらしく、我が家が救援に来ているのです。我がリンクス家は、こういった催しのお手伝いをすることが多かったものですから」
そうか。彼の家のリンクス家は、第2騎士団に恩があるということか。あんまり中央の貴族の事情は知らなかったけど、それなら、彼が騎士団の詰め所に来ていたことにも納得させられる。
「ああ。オットーのことは大丈夫ですよ。彼はユーリヒ公爵と深いつながりがあるようですが、何かを仕掛けるつもりはないようです。試合に使われる魔法に関しても、事前に確認しましたから」
説明しながらも、最初はデメトリオ様は言い淀んでいた。でも口を開くのを辛抱強く待つと、意を決したように私の目を見つめてきた。
「アメリー様。アメリー様は今回の件、納得されているのでしょうか。今回、アーダ様がドミニクと戦うことに」
やはりその話か。
一緒に旅行した仲間だけど、デメトリオ様がアーダ様の実力に疑問を持っていたことには気づいていた。彼も、その資質を讃えられたことが多かったのだろう。彼の資質は、おそらく風と水と土がレベル3。3属性の資質がレベル3なのは相当に優秀な数字だ。
「魔法使いにとって、資質は絶対的なものです。色の濃い魔法は、色の薄い魔法を容易く凌駕する。それは、我々魔法使いの常識です。星持ちと言われたアメリー様には、そのことが分かるはずです!」
デメトリオ様が叫び出した。後ろのエリザベート様がそっと顔を反らした。
「アーダ嬢は良い人だ。一緒に旅したからわかります。礼儀正しいし、性格だって穏やかだ。でも、少なくとも4属性の魔法の資質はない。武術の腕だってありませんよね? 闇魔法の素質はあるようですが、あの属性は魔法だけで戦うのに決定的に向いていない。武術の腕もなく、魔法の資質もないのなら、せめて戦わないようにしてあげるのが友情というものではないのですか!」
必死で訴えるデメトリオ様を見ながら、私は昔を思い出していた。
そうよね。私も、昔は色の薄い魔法使いが色の濃い魔法使いを凌駕するだなんて思わなかった。
「デメトリオ様は、アーダ様がドミニクに勝てるわけがないと思っているのですね」
「当然です! それが、魔法使いの常識です! レベル2ならともかく、レベル1の資質しかないアーダ様が、土のレベル3の資質を持つドミニクに勝てるわけはない!」
息を切らして訴えるデメトリオ様に、私は溜息を吐いた。エリザベート様は何か言いたげだったが、それでも口を閉ざしたまま、私の言葉を待っていた。
「デメトリオ様。私も同じだったんです。資質のない魔法使いが、高い資質を持つ魔法使いに勝てるわけがない。幼いころは、私もそう思い込んでいたんですよ」
デメトリオ様が驚いたが、どこか納得したようにうなずいた。私自身、星持ちと言う高い資質があるから当然のことなのかもしれない。エリザベート様も悲痛な顔になっていた。
「姉のダクマーが、すべての資質がない存在なのはご存じでしょう? 私は小さいころにそれを知ったのですけど、それが分かったとき、言ってしまったんです。討魔物の討伐は、お姉さまの分まですべて私が請け負うと」
今から考えると、随分生意気を言ったものだ。
でも、あの時はそう思ったのよね。何の才能もない、けど大好きな姉のためにできるのはそうだと思っていたんだ。おじいさまの考えも理解することなく、お姉さまを助けるにはそうするしかないと、そう思っていた。
「でも、そう言ったらおじいさまはすぐに私と姉が模擬戦をするように言ってくれましてね。それで、急遽私とお姉さまは戦うことになったんです。魔法ありの模擬戦で。当時、私は星持ちの認定はなかったものの、すでに火魔法を使うことができて、負けるはずのない戦いだった」
「それは・・・。さすがは武のビューロウといったところね。まだ小さかっただろうに、魔法まで使用できる模擬戦を行うなんて」
エリザベート様もデメトリオ様も神妙な顔になっていた。私にとって剣あり魔法ありの模擬戦は普通のことなんだけど、どうやら他の領地では違うようだ。
「結果は・・・。惨敗でした。私は魔法を使ったのに、2属性の同時展開まで使ったのに、お姉さまに触れることすらできなかった」
「なっ! 小さかったとはいえ、星持ちの貴女が、触れることすらできなかったというのですか!」
デメトリオ様が目を見開いている。エリザベート様も驚いた顔のまま固まっていた。
「自信喪失でしたね。私、それまではみんなが星持ちだって褒めてくれてたし、自分より上はいないって思い込んでいたんです。でも違った。私より低い資質でも、私より強い人がたくさんいるって思い知ったんです。外ならぬ、大好きな姉の手でね」
私は力なく笑うと、デメトリオ様に向きなおった。
「この学園に来てから、いろんな人に会いました。色の濃い魔法の強さも、肌で感じることが多かった。色の濃い魔法は、色の薄い魔法を凌駕する。それはきっと、事実なのでしょう」
デメトリオ様は頷いた。でも、どこか不安そうに見えるのは気のせいではないはずだ。
「でもね。それがすべてではないことを私は学んだんです。確かに、お姉さまは私のような魔法は使えない。でも、戦いになった時に勝利するのはお姉さまでしょう。私では、お姉さまにはかなわない。自分の資質を知って、それに合った強さを身に着けたお姉さまには、星持ちだってなんだってかなわないんです」
認めるのが辛かったけど、たぶんそれが真実だ。
「強くなる道は一つではない。色の濃い魔法を極めることも強さなら、色のない魔法を使いこなすこともまた強さなのでしょう。お姉さまだって完ぺきとは言えない。何しろ私は見ているんです。お姉さまが、ラーレお姉様に何度も敗北してしまっている姿を」
デメトリオ様が悔し気に下を向いている。私が言っていることは理屈ではわかるけど、納得できない。そんな感じではないだろうか。
「アーダ様もきっと同じなんです。彼女には確かに資質はない。でも資質を超えた強さがあるんだと思う。だから、彼女はたぶん勝つのでしょう。ドミニクにも、そしてきっと、私にも」
デメトリオ様ははっとしたように私を見た。エリザベート様も、慰めるように私を見ている。
私は取り繕うように2人を見た。
「私、あきらめたわけじゃないんです。今の段階では私はダクマー姉さまにもラーレお姉様にもかなわない。そしてきっと、アーダ様にも。でも、私にだっていつかは彼女たちに並び立てるはずです。まだその術は見つかっていないけど、きっとあると思う。何しろ彼女たちは、絶対無理だということはないんだって証明してくれたわけですからね」
私は2人の顔をしっかりと見た。
「次の戦い、きっとアーダ様は勝つでしょう。でも、どうやって勝つのかはわからない。だから、デメトリオ様も見てほしいんです。アーダ様の強さがどんなものかを。多分そこに、私たちがもっと強くなるためのヒントがあるはずだから」
私は確信している。この戦いで、ドミニクが勝てるわけはない。多分、どんなに対策を練ろうとも、アーダ様はそれを容易く上回ってしまうだろう。私はその様子を見なければならない。資質が低くても強さにかかわりがないのを証明するようなものだけど、そこには私がさらに強くなるためのヒントがあるはずだから。
私はそう確信しながら、2人の顔を再び見つめたのだった。
※ ドミニク視点
「くそがぁぁ!」
皿が割れる音が響いた。
怒りのまま、食器を叩きつけるが、気分は一向に晴れなかった。近くの使用人どもが怯えたように部屋から出て行った。
「なんだ? どうしたんだ? ずいぶん、荒れているじゃねえか」
からかうような声をかけてきた親父を、俺はたじろいだように見つめてしまった。いつの間に、この部屋に入ってきたのだろうか。
「お、親父・・・。い、いや・・・。その・・・」
「おいおい! しっかりしてくれ! 大金をせしめるまたとないチャンスなんだぜ? しかも、あのラッセ家からなあ。ラッセ家があの小娘に賭けてくれたおかげで、俺たちは奴らの金を奪うチャンスに恵まれたんだからな。俺もお前に賭けたぞ。ふっ。ラッセ家の人間が、まさか情なんかに流されるとはなあ。だが、チャンスだ。カーキー家とは比べ物にならないくらいの儲け話に食い込めるんだからな」
親父はソファーに座ってだらしなく俺を見つめている。
「大体、相手は資質のない魔法使いだろう? お前が負けるわけがないじゃないか。それなのに、なんで荒れているんだ? レベル3だなんて、あんまりあり得る数字じゃねえんだぞ?」
「い、いや・・・。その・・・」
言い淀んだ。でもこれはチャンスかもしれない。俺は思い切って、親父にアーダの奴のことを話してみることにした。
「アーダの奴、よく分かんねえが、資質が低いくせに上位魔法が使えるかもしれねぇんだ。もし、あいつが最上位魔法まで使えるとなると・・・」
「なに阿呆なことを言っているんだ? 資質の低いやつが、最上位魔法を使えるわけがないだろう? お前、担がれたんだよ。ばからしい」
親父はあきれたように俺を見ていた。親父は確か、学園では中位クラスに属していたはずだ。だから、パヒューセ・ギフトのことを知らなくても仕方のないのかもしれない。アーダがそれを実際に使ったと言っても、あまりピンとこないのだろう。
一向に震えが止まらない俺を見て、親父はいらだったような顔になった。
「てめえ! しっかりしやがれ! このビジネスにいくらかかったと思っているんだ!」
「い、いや、でもよ! もしあいつが最上位魔法を使えるなら、俺は生きて帰れねえかもしれねえ。最上位魔法はどれも即死級だ。使われたらその場で勝負が決まっちまうものも多い。そんなの使われたら・・・」
俺は弱音を吐いたが、そんな俺を親父は怒鳴りつけた。
「いい加減にしやがれ! 資質の低いあいつに最上位魔法なんて使えるわけがねえだろうが! そんなの常識だろう! 下らねえうわさに惑わされんなよ!」
親父は襟首をつかんで怒鳴りつけてきたが、何かを思いついたようににやりと笑った。
俺を突き飛ばすと、へらへら笑いながら諭すように語り掛けてきた。
「ただのうわさに騙されるなんぞ、お前もしょうがねえな。でも、よく分からんがユーリヒ公爵もその点は少し懸念していた。まあ、取るに足らんうわさだと言っていたがなぁ。心配しすぎなんじゃねえか?」
親父は悩むようなしぐさをしたが、すぐににやりと笑いかけてきた。それは獰猛で、息子と言えど身震いしてしまうものだった。
「まあ、いいだろう。上位魔法を使えるわけがねえが、万が一ということもある。俺のほうでそれを使えないようにしてやるよ」
俺は目を見開いた。まさか、そんなことができるのか!? いやでも親父なら! 親父なら、ユーリヒ公爵をうまく動かして、それを実現できるかもしれない。
でも、俺の不安は消えなかった。何かを見落としている気がする。それが何かは一向にわからないけど、このまま戦えば勝ち目がない気がするのだ。
「おいおい! これだけおぜん立てしてやったのにまだ不安だってのか! てめえ! 肝の小せえこと言ってんじゃねえ!」
親父は再び俺の襟首をつかむが、当然のことながら俺の顔色は青いままだった。
親父は俺を突き飛ばすと、仕方のないといった感じで頭を掻いた。
「分かった。分かった。お前が不安だってなら、万が一負けた時のペナルティは俺が払ってやる。このくらいの金額なら問題ないからな。それなら、安心して戦えるだろう? 契約魔法だって使ってやるさ。これくらいの額、支払えないことはねえからな」
俺は唖然とした。まさか、親父がそんなこと言うだなんて!
「ただ、わかってんだろうな? 俺にここまでさせたんだ。今回の戦い、お前の賞金はこっちがもらう。ま、はした金くらいはくれてやらんでもないがな」
親父は葉巻を咥えてどっかりとソファーに腰を下ろした。
「はぁ。気の弱ええ息子を持つと苦労するもんだぜ。まあいい。どうせ勝てる勝負だ。お前、俺にここまで協力させたんだ。お前も、手を貸してもらうぞ。なあに、無理させるつもりはねえ。決闘の前のパフォーマンスってやつさ」
そう言ってにやりと笑う親父に、俺は不安を感じるのだった。




