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星持ちの少女は赤の秘剣で夢を断つ  作者: 小谷草
第4章 星持ち少女と決闘と
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第82話 アーダと両親と学園と

「まあ、連邦のことよりも決戦のことだけどね。アーダ。私たちから離れちゃだめよ。決闘が始まったりすればこっちのもの。ドミニクなんてのしちゃいなさい!」

「え? あ・・・。う、うん」


 メリッサ様の激励に、アーダ様が自信なさそうに答えていた。


「戦っちゃえば勝てると思うけど、心配なのは横やりが入らないか。私たち侯爵家の者がいれば迂闊なことはできない。アーダがちゃんと戦えるよう、しっかりフォローしないと」

「そうよな。決闘が決まったのは当主が勝手に許可を出したからだったしな。俺たちが見ていれば下手なことはできんだろう。コルネリウスもいいな」


 エリザベート様の言葉にギオマー様が答えると、コルネリウス様もしょうがなしといった具合に頷いた。


 そんな話をしていると、使用人に呼び出され、応接間に案内された。


 応接間には先客がいた。


「あ・・・。先輩・・・」


 待っていたのは、ファビアン様だった。隣には勝気そうな少年もいて、こちらを面白そうにねめつけている。


 少年が、ファビアン様を肘でつついた。ファビアン様は不安そうに少年を見て頷くと、決意したような目でこちらを見た。


「アメリー、先輩。本当にすみませんでした。今までのこと、謝罪します。屋敷で貶めようとしてしまって。西の皆さんもすみません。ぼ・・・私の短慮で、フェリシアーノの公開処刑が決まってしまった」

「い、いえ。あれはユーリヒ公爵が狡猾だっただけです。まだ子供のファビアン様を利用するだなんて、かなり非道だと思いますわ」


 エリザベート様が慰めるが、ファビアン様はうつむいたまま首を振るだけだった。


 私は驚いていた。まさか、公爵家の出でプライドが高そうなファビアン様が、こんなふうに謝罪してくるなんて。隣の偉そうな少年がうまく諭してくれたのだろうか。


「私は、この学園でもっと学ばなければならない。兄も姉も、家では気を抜いているけど、公の場では立派な貴族でした。私もあの人たちに追いつきたい。大きな失敗をした後で、何を言ってるんだと言われてしまうかもしれないですけど」

「私も同じですよ」


 思わず口を出してしまった。だって、私もファビアン様と同じだったから。迂闊な言葉で、友人を決闘に巻き込んでしまったばかりだったから。


「私も、家族のための言葉に言質を取られてしまったんです。駄目ですね。もっと考えないと。エレオノーラ様やエリザベート様みたいに、いつも冷静でなきゃいけないのに」


 私はそっと、ファビアン様に微笑みかけた。


「ファビアン様。悔しいですけど、私たちはまだ子供で足りないところもたくさんある。だから、ちゃんと学びましょう。学園って、たぶんそのためにあるんですから。私も及ばずながらサポートします。私、知っているんです。ロレーヌ家が今までたくさんビューロウを救ってくれたこと。まあ、お姉さまはエレオノーラ様に頼りすぎな気もしますけど」


 私が笑うと、ファビアン様もぎこちない笑みを浮かべてくれた。


「な! 言った通りだろう? 兄貴が言ってたんだ。ビューロウの人間は話せば分かってくれる人ばかりだって! 聞いた感じだとお人よしそうな印象があったけど、思ったとおりだったぜ」


 隣の少年が言うと、ファビアン様が慌てて止めていた。


 多分、この少年がファビアン様を説得してくれたんだろうけど、誰だろうか。どこかで見たような顔立ちなんだけど。


「ああ。先輩たちと合うのは初めてでしたね。オレはフォンゾ。フォンゾ・ベールです。このお人よしの友人で、ベール家を継ぐ者になったと言えばわかるかな。そう! 兄貴を差し置いてね!」


 フォンゾくんは高らかに宣言した。隣のファビアン様があわあわしている。


「そうなんだ! やっとオレが後継になることが決まったんだ! クククク! オレの素敵さをやっと両親もおじいさまも認めたってことさ!」


 含み笑いを漏らすと、フォンゾ君は私たちのほうに駆け寄ってきた。


「先輩たちも大変っすね。ヘッセン家ごときに絡まれちゃうなんて。でもオレとファビアンは先輩たちの味方っすよ! きっちりサポートしますんで! でもあいつらおかしいですよね? 学園にもそれ以外にも、この国には手本になるような貴族がいっぱいいるのに」


 フォンゾ君は首をひねるが、思い出したように顔を緩ませた。


「ああ。でもこの前見た貴婦人は本当にきれいだったなぁ。オレ、この前おじいさまについてアウグスト様の出征を見送りに来たんですけど、その中にすごい美人がいたんです! なんか、エーレンフリート様の護衛をしていたんですけど、何つーか、ホントキレイで上品で・・・。いや、かなり年上の人だったと思うんですけどね」


 私は顔を青ざめさせた。


 エーレンフリート様の、護衛? そしてこの子は、あのベール家の息子と言っている。ベール家の人たちは強烈で、一度しかあったことがないけどすごく印象に残っている。


 もしかしたら彼が見たのがあの人で、彼も両親と同じだとしたら・・・。


「え、えっと。私には少しわからないかもしれません。お見送りとかまでしなかったし。ほら! 授業とかありましたから」

「そっかー。ビューロウ家はエーレンフリート様の護衛をしてたから何か知ってると思ったのに、残念だな」


 考え込むフォンゾくんを見ながら汗を流してしまった。


「ベール君。ちょっと話そうか。メラニーも手伝って」

「え、ええ。今なら矯正できるかもしれませんからね。学園長。頑張りましょう。私たち教師はそのためにあるのですから」


 そう言って、2人は戸惑うフォンゾくんの両手をつかみ、部屋を出て行った。ファビアン様は一礼し、慌てて3人を追っていった。


「ア、アメリー?」

「い、いえ! その・・・。何と言いますか」


 アーダ様の問いに口ごもると、クラスメイトはみんな興味津々で見つめてきた。


 私は溜息を吐くと不都合がない範囲で事情を話すことにした。


「私も最近知ったのですけど、ベール家の人たちって叔母のイーダに相当執着しているようなんですよね。ご当主様のハドゥマー様や兄の友人のフーゴ様は違うようですが」

「え? ベール家って、この国の重鎮よね? たしか、かなり古くからある家で。宰相とかも輩出したことがあったんじゃなかったっけ? 中央の侯爵で、国王の信頼も厚いという」


 エリザベート様にそっとうなずいた。


 そう言えば、お姉さまが言ってたっけ。名家の人って特殊な性癖をしている人が多いって。あの時はいつもみたいに冗談だと思っていたけど、ベール家の人たちとあった跡では自信がなくなってくる。


「たしかに、巫女様のお母様は素敵な人でしたね。はっ! まさかあの中央の都会人ども! 巫女様のお母様がバル家出身だからって取り込もうとしているのではあるまいな!」


 興奮し出したメリッサ様を必死で宥めていると、応接間の扉が開かれる音がした。さっき、学園長たちが出て行ったのとは反対側だ。たしか、あの先は謁見の間に続いているはずだけど、謁見を終えた人たちが戻ってきたのかな。


 入ってきたのは3人の貴族とその護衛たちだった。


「あ・・・。え? なんで?」


 2人の貴族を見て、アーダ様が声を上げた。


 彼らは夫婦連れだろうか。服装から見るに、おそらく私と同じ東の貴族。そして、アーダ様の反応を見ると、彼らが何者かは見えてくる。


「カーキー、伯爵夫妻」

「と、ヘッセン伯爵か。よりにもよって」


 私の言葉をハイリー様が引き継いだ。コルネリウス様は、面白がるように笑っている。


「アーダ! この! 無能が偉そうに! 入学してから全然帰ってこないなんて! あなたのせいで、領地に魔物があふれちゃってるのよ! ヘッセン家が助けてくれなかったらどうなっていたことか・・・」

「ふっ。不肖の娘には苦労するものですな。私も次男の時はそれはもう苦労したものです。学園にも何度も呼び出されましてな」


 アーダ様がうつむいている。私はたまらなくなって、思わず言い返してしまった。


「領地に魔物が現れたからって、どうしてアーダ様のせいになるんです! 領地の魔物を何とかするのは領主の仕事のはず! まだ学生のアーダ様に、何の責任があるというのです!」

「黙れ! そうか、貴様。ビューロウの星持ちとかうそぶいている女だな! まったく、子爵無勢が許し難い!」


 思わず口ごもってしまう。


 この前、頭に血が上って失敗したばかりなのにやってしまった。でも! 相棒のアーダ様を貶められて、黙っていることはできない!


「私も聞きたいわぁ。ねえ。どうして領地に魔物が倒せないのがアーダの責任になるの? まだ未成年のアーダにそんな責任を負わせているのは、なんで?」


 メリッサ様が頬に手を当てながら聞いてきた。図星を刺されたのだろうか。カーキ―伯爵は逆上して唾を飛ばした。


「だ、黙れ! 学生無勢が! 大人には大人の事情というものがある! お前たち学生にはわからんだろうがな!」

「グンテル!」


 隣のヘッセン伯爵が止めたが、もう遅い。


「あら? カーキー家は私の質問に答えられないということ? 私、そんなに変なことを聞いたかしら? まだ学生だし、常識的なことしか聞いていないと思ったけど?」

「くっ! ラッセ侯爵令嬢。申し訳ありません。彼は陛下にお会いできて少し舞い上がっているのです!」


 ヘッセン伯爵が悔しそうに頭を下げるのを見て、カーキー夫妻の顔はみるみる青ざめていく。彼らはやっと気づいたのだ。アーダ様のそばにいる学生たちが、何者かを。


「い、いえこれは違うのです! その娘が何を言ったかは知りませぬが、それは嘘に過ぎない! 我々カーキー家は、王家に弓引こうなど!」

「それでは、先ほどのメリッサさんの質問には答えられますよね?」


 口をはさんだのは、ハンネス先生だった。


「アーダさんは何も言っていませんよ。でも、彼女に世話をするメイドも、身を守るための護衛もついていないのは確認しています。息子のアルバン君はかなり手厚く保護しているようなのにね。そんな不自然なのに、学園が調査しないわけがないでしょう?」


 カーキ―伯爵は口ごもった。そんな彼を見てヘッセン伯爵は舌打ちし、鋭い目で先生を睨みつけた。


「学園は貴族家の方針に口を出さないのがルールのはず! これは越権行為ではないか!」

「確かにそういうルールだけど、子供が虐待されている可能性があるならその限りではない。貴族法に書かれているでしょう?」


 きっぱりと言ったのは学園長だった。王妹の言葉に、3人は口ごもってしまう。


「あの子のこと、メラニーに任せてきちゃった。メラニーってば、融通が利かないし、私以上に手厳しいのよね。あの子、泣き出さなきゃいいけど」


 学園長は溜息を吐くと、カーキ―伯爵に向きなおった。


「カーキ―伯爵。あなたは息子のアルバンが可愛いあまり、娘のアーダを虐待した疑いがあります。使用人も護衛もつけないなんて、そんなあからさまなことをするなんて学園もなめられたもんだわ」

「いや! そ、それは・・・。アーダです! アーダの奴が使用人や護衛を首にして・・・。今、あいつを世話する奴がいないのは自分のせいなのです!」


 カーキ―伯爵が必死で言い訳をするが、


「黙りなさい!」


 学園長がぴしゃりと言った。


「どこまで学園を愚弄してくれるの! そのあたりの事情なんて、調べてないわけがないじゃない! アーダ・カーキーが一人でこっちに来たのは分かってる! 証拠だってあるのよ! 少なくとも、アーダが使用人らしき人と接触した形跡はない! 護衛ともね!」


 学園長の剣幕に、2人は何も言えなくなった。ヘッセン伯爵は悔しそうだ。


「学園を統べる長として、カーキー家に告げます。あなたたちにアーダさんを育てる資格はない。彼女は学園で預かります。しかるべきところの養女に出して育成します。もう、カーキー家にはかかわらせない。でも満足でしょう? あなたたちの望み通り、アルバン君がカーキー家を告げるのだから」


 冷たい声で告げた学園長は、それまでの怒りとは打って変わり、優しい目でアーダ様に向きなおった。


「アーダさん。助けるのが遅れてごめんなさいね。そして、私たちの事情に巻き込んだことも申し訳ないわ。あなたの意見も聞かず、勝手に進路を決めちゃったのだから」


 驚いたことに、学園長はアーダ様に深く頭を下げた。


「でも安心して。これからあなたが所属するところは、あなたを決して無碍に扱ったりはしない。学園長として、ううん。王妹のバルバラとして約束するわ」


 そう言うと、バルバラ様はアーダ様にやさしく微笑みかけた。当のアーダ様は事態が呑み込めていないのか、ぼうっとした様子だった。


「さて。謁見をさっさと済ませちゃいましょうか。お兄様をあんまり待たせるわけにはいかないからね。さあ皆さん。行くわよ!」


 すっかりいつもの調子を取り戻した学園長に、私たちはあわててついていくのだった。


 呆然とする3人の貴族を、置き去りにして。

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