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星持ちの少女は赤の秘剣で夢を断つ  作者: 小谷草
第4章 星持ち少女と決闘と
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第81話 カロライナとアルセラの資質

 教室の入り口で思わず立ち止まってしまった。まごまごしている私をエリザベート様が見とがめた。


「どうしたの、アメリー?」

「い、いえ。なんだか入りづらくて」


 上目遣いになってしまった私をコルネリウス様が嘲笑った。


「大方気まずい思いをしているんだろうさ! 何せお前は、怒りに我を忘れてつまみ出されたんだからな!」


 むっとして、思わずコルネリウス様を睨み返した。いえそうですけど! そうですけど!


「はいはい。じゃあ私から入るわね。あんまりアメリーをからかわない! あんたの情けないとこ、ハイリーやナデナから聞いているんだからね!」


 エーファが私を隠すように前に立つと、私の手を引いて迷わず教室に入っていく。私もしょうがなしに続く。コルネリウス様は絶句したような顔になっていた。


 教室に入ると生徒たちが一斉に振り向いてきた。私はどきりとしながらも、平静を装いながら席へと戻っていく。


「おお! 妹様! お戻りになられたのですね」

「え、ええ。ごめんなさいね。皆さんにも迷惑をかけたようで。その、机や椅子も戻してくれたようですし」


 声をかけてくれたカチヤさんに挨拶を返しながら、そっと教室を見渡した。ドミニクがいないことにほっとしながらも、なぜか不安が過った。


 あいつ、どこに行ったというのか。


 席へと戻る途中で、誰かが教室に駆け込んできた。担任のハンネス先生だ。


「ああ! アメリーさん! アーダさんもいるのですね! すぐに準備してください! 王城に呼ばれているのです」


 へ? 私たちが王城に!?


 戸惑っていると、近くから冷静な声が聞こえてきた。


「アメリーとアーダに何か用ですか? 彼女たちはドミニクとの戦いの準備があるのですが。先生とは言え、黙って彼女を引き渡すことはできません」

「ああ・・・。いや、確かに彼女たちの立場を考えると容易にはいけないか。城にはあの人たちもいるし。いいでしょう。随行の方を認めましょう。私たちも向かいますからお願いします」


 焦ったように頭を下げるハンネス先生に、私とアーダ様は顔を見合わせるのだった。



◆◆◆◆


「ついこの間ここに来たと思ったのにまた来るなんて・・・。嫌なことがなければいいのですけど」

「私は王城に来るのは初めてで・・・。う、うん。こうなっているんだな。やっぱり、すごくきらびやかだ」


 私とアーダ様はドキドキしていた。ここは本来私のようなものが来る場所ではない。ただでさえ恐れ多いのに、また来る羽目になるとは・・・。


「ふっ。情けないな。貴様ともあろうものが。王城とはいえ、恐れ入るほどのことはないさ」

「あなたの足も震えているようですけど? 偉そうなことを言っても貴方もここに来るのは数えるほどしかないでしょう?」


 いつもみたいに生意気言ったコルネリウス様に、ハイリー様はあきれたようだった。


「あの魔道具、ちゃんと動いているかな。父上がメンテナンスしたから大丈夫だろうが。転移に問題ないといいのだが」

「ふふん。あれは出征前に巫女様がチャージしてくれたからね。専門家のエッボ先生がいないから不安なのはわかるけど、おじ様自らが作業したんだから大丈夫だと思うわ。あれが使えるんだから、何かあってもすぐに移動できると思うし」


 ギオマー様とメリッサ様が嬉しそうに話している。


「実は私もここに来るのは初めてなのよね。エリザベートはよく来たりするの?」

「昔はね。私はよく父に連れられてここに来てたわ。エレオノーラ様やハイデマリー様ともお会いしたことがあるのよ。2人とも北に行っちゃったから、最近はあんまり来る機会がないけどね」


 エーファとエリザベート様がそんな話をしていた。


 というか、意外だった。エーファが王城に来たことなかったなんて。彼女の家、ウォルキン家は東でも有数の力がある貴族家だ。だから、てっきり王城には何度も足を運んでいると思ったのだけど。


「みなさん。王城ではお静かにね。あんまり騒いではいけませんよ」

「あら。王城なんて大したことないわよ。いいんじゃない? たまにははしゃいでも。あんまりかしこまることもないわよ」


 ハンネス先生の言葉を遮ったのは学園長だった。


 というか、王城が大したことないなんてドキリとするんですけど! ここで暮らした学園長には大したことないように思えるようだけど。


「いや無理を言わんでください。生徒にとってここはそんな簡単な場所ではないでしょう! まったく、あなたは・・・」


 メラニー先生が眉間を抑えている。というか、帰ってくるなり学園長の面倒を見させられるなんて、この人もついていない。


 私たちがなんやかんやで騒いでいると、この部屋に近づいてくる足音が聞こえた。珍しくともハイヒールの音。察するに、おそらくこの国の人ではない。外国の人か。ということは・・・。


 待合室の扉が開かれた。入ってきたのは、予想通り水の巫女の2人だった。彼女たちを追うように、護衛たちが歩み寄ってきた。当然のことながら、全員が水の資質であふれている。


「あら? これはこれは。学園を率いるバルバラ様ではないですか。そちらにいらすのは教師の方々かしら? 王国が誇る学園の長に会えるとは光栄です」

「こちらこそ。まさか連邦の民の心を集める水の巫女とお会いできるとは思いませんでした。お会いできて光栄ですわ」


 学園長がいつもの雰囲気を感じさせないくらい、見事なお辞儀をした。私たちは戸惑ったが、何とか学園長に続いて頭を下げた。


 水の巫女はたおやかに微笑むとそっとうなずいた。そして、私の後ろを見ると、せつなそうな顔を浮かべた。


「そちらの生徒さんは、闘技場での催しに参加されるそうですね。大丈夫ですか? 私たちが決闘などなくせればよかったのですが」

「そうだな。見た感じ、お前の色は、まあ厳しいもんだ。才能ってもんが、な。相手は土貢の魔法使い。お前の才能じゃあ、ちょっとかなわない相手だろうぜ」


 二人して勝手なことを言う彼女たちに怒りが込み上げてきた。


「あなたたち! ふざけ・・!」

「これは連邦の水の巫女らしいですね。魔力の資質だけで強さを判断するだなんて。でも、我が国の魔法使いは素質が低くても問題ないのですよ」


 私の言葉を遮ったのは学園長だった。丁寧だが、どこか小ばかにしたようなのは気のせいだろうか。その証に、2人の巫女も不愉快そうに眉を顰めている。


「はっ! 何言ってやがる! 魔力は色が濃いほうが強い魔法が打てる。おまえらの国でも同じだろうが!色の濃い魔法使いを星持ちだのなんだの言ってありがたがってるの、知ってんだぞ!」

「確かに、色の濃い魔法使いが優秀なのは認めます。だけど、王国はそれだけではないのですよ。現に、今北で活躍しているダクマーさんは資質が全くないので有名です。でも、彼女は王国の誰もがなしえなかった成果を上げている。まあ、連邦の方々はご存じないのかもしれませんが」


 学園長の言葉に、アルセラがあからさまに不機嫌になった。顔には出ていないけど、カロライナもなんだか威圧感を放っている。


「はっ! 魔法使いの国だからって偉そうに! あんた、止めなくてもいいのか? このままだと、その娘、殺されちまうぞ? なんつったって相手は土質の魔法使いさ。土は水に次ぐくらい優秀な資質なんだ。分かってんだろう!」

「ふふふふ。王国では属性に優位性などないのですよ。色も、濃ければいいとは限らない。次の決闘は、そのことを知る機会にもなるでしょうね」


 2人の言葉にも、学園長はひるまない。見下すような目をしたまま、彼女たちを挑発し続けている。


 ちなみに土質の魔法使いとは土のレベル3の資質の持ち主を言う。連邦では身体強化にも使える土はそこそこ優遇されると聞いている。まあ、水ほど大絶賛されているわけではないみたいだけど。


「アルセラ。いいではないですか。決闘になればすべてが明らかになるのですから。では、私たちはこのあたりで」

「ちっ。 今度の決闘、あたしたちも楽しみにしておいてやるよ」


 カロライナは優雅に、アルセラは乱暴な動作で振り返っていく。2人の護衛たちはこちらを一睨みしながら彼女たちの後に続いた。


 立ち去っていく彼女たちを見送りながら、私は溜息を吐いた。


「相変わらず威圧的というかなんというか・・・。いくら色が濃いとはいえ、そんなに見せびらかすほどじゃないと思うんですけど」


 私はぼやきながら後ろを振り返ると、アーダ様の視線に気づいた。アーダ様は怪訝な顔で立ち去っていく2人を凝視していた。


「アーダ様?」

「ん? あ、ああ。すまない。今のが水の巫女なんだな。初めて見たよ」


 私の視線に気づいてそう言ったけど、なんだか歯切れが悪そうだった。


「アーダ? どうした? あの水の巫女どもに何か変なことでもあったのか?」

「コルネリウス!」


 ハイリ―様が叱責するが、コルネリウス様は止まらない。


「ハイリー。お前も気になるだろう? アーダが何に気を取られているのかを。そいつは、俺たちよりも数段優れた魔法使いだ。気になったことがあれば教えてくれ。お前は何に気づいたんだ?」


 コルネリウス様の言葉に全員が注目した。


 エリザベート様も、エーファも、コルネリウス様もハイリ―様もギオマー様もメリッサ様も。そして学園長たちも固唾を飲んで彼女の発言を待っている。


「あ・・・。い、いや、ちょっと気になって。いや、大したことではないのかもしれないけど」


 彼女は全員の視線に気づき、口ごもった。でも、2人が立ち去った方向を見て決意したように説明してくれた。


「なんか、あの2人の魔力に違和感があったんだ。あの2人ほどじゃないけど、2人の護衛の一部にも。なんだか、ちぐはぐな気がして」

「ちぐはぐ?」


 アーダ様はそういうけど、私は全然気づかなかった。


 彼女たちの水の資質は、おそらく5と4だ。カロライナが私よりも濃い5で、アルセラが私と同じ、4。この見立てを間違ったことはほとんどないんだけど。


「あ・・・。そうか。私の目は完ぺきじゃなかったんだ」


 そう言えばそうだった。最近、間違ったばかりだ。ほかならぬ、アーダ様のことを。


 私は、てっきりアーダ様の資質は、水と土がレベル2だと思っていた。でも、ドミニクの奴が言うには、アーダ様の4属性の資質はすべてがレベル1。これはアルバンから聞いた情報らしく、彼は魔力検査の結果から言っているはずだから間違いがない。


「う、うん。魔力の波動は一人一人違うけど、傾向はある。色の濃さの影響を大きく受けてしまうんだ。アメリーは波動も色も生粋のレベル4。多分、生粋のレベル4を示していると思うんだけど・・・」


 魔力の波動はもちろん、傾向まで見破るなんて、ちょっと考えられないことだ。いや、アーダ様が私よりも何倍も優れた魔法使いなことには気づいてはいるんだけれど。


「そうか。魔力の色は、薄くはできるけど逆はできない。でも波動のほうはかなり細かく調整できる。俺が、お前の資質を誤認していたのはそういうわけなのだな」


 コルネリウス様がにやりと笑った。


 この人も、アーダ様の資質を読み違えていたのか。この人と同じなのはなんだか癪に障るのだけど。


「う、うん。そうなんだ。波動のほうは調整できる。あんまり大きな声では言えないけど、私は波動を調節して土と水をちょっとだけ偽装していたんだ。あいつらは水の魔力に限ってはその波動と色の濃さのバランスがちぐはぐだったんだ。他の属性は波動だけで資質は全然感じられなかったし。意味が分からないよな」


 全員が押し黙った。


 魔力の波動なんて意識したことがなかった。色と波動の違いなんて考えたことすらない。


「えっと、つまり、アーダは魔力の波動からも大体の色を予測できるってことね。なるほど。それを利用して、相手の魔力を打ち消しているってことか。で、連邦の人たちはそれがおかしいってことか」


 エリザベート様が要約してくれた。アーダ様は自信がなさそうな顔をしていた。


「う、うん。私が見た感じだと、魔力の波動のほうは、ちょっと低い感じだったんだ。カロライナが多分4で、アルセラが3。だけど、色の濃さはカロライナが5で、アルセラが4を示していた。こんなの、あんまり見たことがなかったから・・・。あ、そういえばウェンデルも同じだったな。連邦の魔法使いだと事情が違う? でもウェンデルはこっちの魔法使いだったはず・・・」


 アーダ様は首をかしげている。


「それに、あの2人。一見してうまく付き合ってるようだけど、本当は仲が悪いんじゃないかな。2人が話す時、とげがあった。まあ、2人の立場を考えると仕方のないことかもしれないがな」


 そうなのか。私には普通の2人組に見えたけど、アーダ様の目にはそう見えたということね。


「なるほど。私たちはあいつらの秘密に迫ったのかも。2人の仲はともかくとしてね。メラニー。たしか、ウェンデルは再会したときにレベル4になっていたのよね? 学生時代は確か星持ちではなかったはず」

「え、ええ。ウェンデル先輩が星持ちに選ばれていなかったのは確かです」


 学園長が聞くと、メラニー先生は何かを考えこみながら答えていた。


「アーダさんが言っていた波動というのは、なにがしかの技術で調整した資質のことを表しているんじゃないかしら? カロライナもアルセラも、生来の魔力の色は今より薄かったのかもしれない。でも、後天的に伸ばすことに成功した。連邦は、魔道具で水の魔力の色を変える手段を手に入れたのかもしれないってことよ」


 私は息をのんだ。


 王国では、資質の色を調整する手段はまだ見つかっていない。ロレーヌ家でそれらしい手段を見つけたようだが、その手段というのは大量の魔力を必要とするらしく、まだ公表されていないのだ。


 もしかしたら、連邦では事情が違うのかもしれない。確かに、魔道具作りではこの国に分がある。でも、向こうには遺跡がいくつもあって、そこでかなりの品質の魔道具が発掘できたりするのだ。


「これは、ちょっと調べてみる必要があるかもね。まあいいわ。謁見をさっさと済ませちゃいましょう。お兄様のことだから、応接室で待っていればすぐ来ると思うわ。さあ行きましょう」


 ずんずんと進んでいく学園長の背中を見ながら、私は溜息を吐いたのだった。

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