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星持ちの少女は赤の秘剣で夢を断つ  作者: 小谷草
第1章 星持ち少女と学園生活
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第8話 マヌエラ先生の指導と回収部隊

「即席のメンバーにもかかわらず、見事な連携でした。素早く動き回るビッグバイパーを、顎に攻撃を集中させることで魔法を当てられる状態にしましたね。あの素早く動き回るビッグバイパーに土壁を直撃させた腕も見事でした。完全に、ビッグバイパーの軌道を読んでいましたね」


 マヌエラ先生が私たちを称賛した。とりわけ褒められているのがアーダ様で、彼女はほめられなれていないのか、顔を赤くして目をそらしている。


「アメリーさんの魔法が当たらないと踏んですぐに足止めに切り替えた判断も素晴らしい。そして、中位クラスの2人もアーダさんの意図をすぐに読んで切り替えたのもよかったわ。即席チームの3人が迅速に動けたからこそアメリーさんの魔法を当てることができた。3人がうまく連携できたことでこの戦いに勝利できたといっても過言ではないでしょう」


 ほめられた3人は三者三様だった。パウラ様は照れたように頭を掻き、オーラフ様はどこか自慢げに眼鏡の位置を戻している。まあ、アーダ様だけは相変わらずのようだけど。


 そんな3人を微笑みながら見つめていたマヌエラ先生は、次の瞬間にはちょっと困ったような顔になった。


「でも、ごめんなさいね。年寄りだから、気になるところは指摘せずにはいられないの」


 私たちの間に緊張が走った。みんな、いつの間にか背筋を伸ばしている。


「まずは前衛の2人ね。あなたたちの行動は今回に限っては悪くなかった。アメリー様の火魔法は正確で、魔物のみに攻撃することができていた。でも、すべての魔法使いにそれが可能なわけではないの。中には、誤って仲間に当ててしまう魔法使いもいる。特に火魔法は制御が難しいから」


 2人は沈痛な顔でうつむいている。


「馬車から見ていたけど、アメリーさんにあまり質問していなかったのは良くないわ。遠慮は大切だけど、この場合はちゃんと聞かないといけないわ。初めて組む仲間とは、戦闘前にしっかりコミュニケーションを取りなさい。何ができて、何を苦手としているかをね。星持ちと言われる魔法使いにも苦手分野はあります。それをちゃんと聞かないと本当のチームワークは発揮できないのではないかと思うわ」


 マヌエラ先生は諭すように言うと、次は私に向き合った。


「さて。次はアメリーさんです。さすがに星持ちだけあって、魔法は威力も制御も素晴らしかった。でも、それが魔物に避けられたのなら、同じ魔法に固執せずもっと早く工夫すべきでしたね」


 私は思い出した。確かに魔法を避けられた後も、私はむきになって同じ魔法で攻撃してしまった。魔法の軌道を変えることも、緩急をつけることもせずにただ速い魔法のみを打ち込んでしまったのだ。


「アメリーさんなら、速さを変えたり軌道を工夫することもできたはず。一朝一夕に倒せる魔物ばかりではありません。すぐに頭を使う癖をつけたほうがいいわ」


 私は神妙な顔で頷くしかなかった。


「そして、アーダさん」

「は、はい・・・」


 マヌエラと目が合うと、アーダ様は背筋を伸ばし、ごくりとつばを飲んだ。だけど先生は一転して優しい笑みを浮かべた。


「貴女の工夫は本当に素晴らしかったわ。ビックバイパーをいち早く見つけた用心深さ、当たらないとわかると足止目に切り替えた機転、アメリーさんの魔法が当たるようにするための連携ーー。どれをとっても素晴らしかった。だから、もっと自信を持ってもいいのよ」


 呆然とするアーダ様に、マヌエラ先生は優しく微笑みかけた。


「貴女が最初から指揮を取っていればもっと効率的に魔物を倒せたと思うわ。アメリーさんの力を、もっとうまく引き出せたはず。あなたには素晴らしい才能がある。だから、もっと胸を張って周りを引っ張っていってもいいのよ」


 アーダ様がおずおずと頷くと、マヌエラ先生は上品に微笑んだ。


「さて。すぐに回収部隊が着くはず。彼らが着いたらすぐに学園に戻りましょう。短時間で討伐できたとは言え、さすがに疲れたでしょう? 私も久しぶりに動いてちょっと体が痛いわ。年を取るって本当に嫌ですわね」


 そういうマヌエラ先生の言葉に、私たちはうなずき続けるのだった。



◆◆◆◆


 30分ほど待っただろうか。完全武装した戦士たちがこちらに駆け寄ってきた。30代くらいだろうか。がっちりとした体形の男がこちらに深く頭を下げてきた。


「お待たせしました! 討伐任務、ご苦労様です!」


 男は一礼すると、素早く魔物のほうへ走りこんでいった。


「え? あ、あれは?」


 私は彼の持つ武器にくぎ付けになった。彼が腰に佩いているのは、片刃の両手剣で切ることに特化した武器――刀だったのだから。


「あ! ブラス先輩の武器が気になるんっすね! さすが学園の生徒さん! お目が高いっす!」


 私の声を耳ざとく聞いた冒険者の青年が私に声をかけてきた。


「あれは刀って言って、王都の鍛冶屋で最近売り出したものなんすよ。なんでもあのロレーヌ家のご令嬢が開発してくれたらしく、殺傷能力がすごくて人気なんす。なかなか手に入らなくて、ブラス先輩、飲むといつも自慢してくるんすよね」


 そして目ざとく私の腰の刀に目を向けた。


「お、お嬢さんも刀を持ってたんすね。これは余計な話だったかな? 失礼したっす。でも、同じ刀の愛好家なら、先輩と話が合うと思うっすよ」


 へへへと笑う青年は調子に乗ったように言葉を続けた。


「あ、俺はカミロで、先輩はブラスって言うっす! こう見えても、王都の銀級のパーティ『虹色の風』に属してるんすよ! へへ! いずれは貴族にも負けないくらいビッグになってみせるっす! ここで会えたこと、後で自慢するといいっすよ!」


 白い歯を見せてガッツポーズをするカミロさんだったが、ブラスさんがすぐに戻ってきて頭を小突いた。


「こらカミロ! ナンパなんかしてんじゃない! 貴族の皆様に失礼するな! さっさと片付けるぞ!」


 怒鳴りつけられて肩をすくめた。カミロと呼ばれた青年は慌てて先行したブラスさんの後を追っていった。


「へへっ! ブラス先輩と俺の名前、覚えておくといいっすよ! そのうちきっと、誰でも知ってるくらい有名になるっすから!」


 笑いながらいうカミロさんをブラスさんがすかさず頭をはたいたのが見えた。そして2人はじゃれ合うように魔物の死骸のほうへと向かっていく。


「な、なんだか調子のよさそうな奴だったな。こっちは貴族なのに、全然ものおじしていないようだったし」


 アーダ様が面食らったように言うと、マヌエラ先生が彼らについて説明してくれた。


「皆さん。今後も世話になるかもしれないから紹介しておくわ。彼らは王都の銀級の冒険者・『虹色の風』のメンバーよ。正直、この程度の魔物なら彼らだけでも倒せたけど、念のために待機していてもらったの。ビッグバイパーでも彼らならなんとかできただろうし」


 マヌエラ先生が安心させるように言った。しかし私は、彼らに何かしらの違和感を感じていた。なぜか、彼らの体に流れる魔力がおかしいと感じたのだ。


「先生。あの、彼ら、何か特殊な装備でもしているんですか?」


 私が問うと、アーダ様は驚いたように彼らと私を見回した。


「アメリーさん。さすがはビューロウ家の、バルトルド先輩のお孫さんといったところかしら。たったあれだけで気づくなんてね」


 マヌエラ先生は嬉しそうに笑うと、違和感の正体について教えてくれた。


「彼らは身体強化を安定させてくれている下着を装備しているらしいのよ。こちらで開発された魔道具らしいけど、廉価版を作ったのは連邦で、そこから西のほうに逆輸入たという、複雑な経路を辿った魔道具よ。平民にとってはまだ高価だけど人気でね」


 あ、その魔道具って、お姉さまはおじいさまに聞いたことがある。オーラフ様も耳に挟んでいたのか、マヌエラ先生の言葉に疑問を投げつけた。


「でも、貴族にはあんまり効果がないそうですよね? 確か、あれを使ったクルーゲ家の長男が、その、ビューロウの英雄に叩き潰されたって聞いた気が・・・」

「ええ。そうね。アメリーさんのお姉さまのダクマー様が、闘技場であれを装備したフリッツ・クルーゲ様に大金星を挙げてね。その結果、身体強化の魔道具は貴族には使えないってことになったのよ。ある程度身体強化を使える魔法使いなら魔道具に頼らずに済むみたいですからね」


 説明して呉れたマヌエラ先生にうなずいた。前におじい様やお姉さまが言ってたけど、貴族にはあんまり向かない魔道具らしいのだ。でも、平民の冒険者には人気って、初めて聞いた気がする。


「平民が使う分にはかなり有効なことは確かみたいね。あれを装備すれば制御だけでなく出力調整も自動で調整してくれるみたいだからね。でも、魔法に長けた貴族が使うには・・・。その、属性の問題もあるしね。それに、安全性の問題もあるから」


 マヌエラ先生の思わぬ言葉にぎょっとしてしまう。


「まだ事故は起こっていないようだけど、あれに否定的な意見を持つ教師は少なくないわ。今の段階だと、優れた魔法使いの身体強化にはかなわない。それに・・・」


 何か考え込んでしまったマヌエラ先生を真剣に見つめてしまった。


「いえ。まああなたたちには関係のないことかもね。アメリーさんは言うに及ばず、アーダさんも他の2人も、あれを装備するより優れた身体強化を自力でできるようですから。さて、私たちは学園に戻りましょうか。あんまり遅くなると、学園長をやきもきさせちゃいますからね」



◆◆◆◆


 学園につくと、なぜか周りがあわただしかった。生徒や職員が忙しそうに走り回っているのを見て、私たちの部隊以外にも非常事態が起きたことを察せられた。


「なにか、起きたのかな? 教師も生徒も、みんな慌ただしくしてる」

「何かがあったということでしょう。怪我人が出たわけではなさそうだけど、非常事態が起こったとみて間違いはないわ」


 アーダ様の言葉に、マヌエラ先生が思案顔で答えた。私も落ち着かなくなって、思わず周りをきょろきょろ見回してしまった。


「さて。このあたりでいいでしょう。学園長への報告は私がやっておくから、あなたたちは少し休んだほうがいいと思うわ」


 去っていくマヌエラ先生を一礼して見送ると、オーラフ様がこちらに一礼してきた。


「では、我々もそろそろ戻ります。大丈夫でしょうが、別部隊の様子も気になりますし。パウラ。行くぞ」

「ええー。もっとゆっくりでいいじゃない」


 不満の声を上げるパウラ様を、オーラフ様は引きずるように連れて行った。私は思わずその後姿を微笑みながら見送った。アーダ様はあっけにとられたようにその後姿を見つめていた。


 でも、次の瞬間だった。


「アメリー・ビューロウ」


 名を呼ばれて振り返ると、そこにはエリザベート・ヴァッサー様が腕を組んで私を睨んでいた。今日は彼女も討伐に向かっていたようなのに、私たちより前に戻ってきていたのだろうか。


「ちょっと、話があるの。悪いけど、アーダと一緒に少し顔を貸してくれるかしら?」


 私はアーダ様と顔を見合わせると、エリザベート様の後に続くのだった。

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