第77話 見送りとアーダの秘密 ※ 後半 セブリアン視点
「叔母様!」
私はビューロウ家のタウンハウスに来ていた。叔母様たちが出征するのを見送るためだ。今日は王城に行って、アウグスト様やエーレンフリート様と合流してから北へと向かうらしい。私は学園があるので、この場で見送ることしかできないのだけれど。
叔母様はそっと、私を抱きしめてくれた。
「アメリーちゃん。ごめんなさいね。私たちは北へ戻らなければならない。ラーレやホルストにも多分会えないけど、この国の貴族として役目を果たさないといけないから。ダクマーちゃんの戦果も、無駄にするわけにはいかないしね」
そっと離れ、寂しそうな顔をした叔母様に、私は何も言えなくなった。
叔母様たちはたぶんラーレお姉様やホルストお兄様が心配なのだろう。できれば一緒にいたいはずだ。でも、この国の貴族としてあの神鉄の弓をしっかり持ってこなくてはならない。それは、巡り巡ってお姉さまたちを助けることにつながるのだから。
「向こうには親父がいるから大丈夫と思いたいが・・・。戦火が広がっちまってるからな。親父とはいえ、離れた場所にいるアイツやあの娘を守ることはできないだろうしな」
戦火が広がっているといっても、悪いことではない。お姉さまが水のランドルフを倒したことで、王国は攻勢に出ているのだ。アルプロラオウム島に大軍が渡り、街を解放するために戦っているという。
おかげで、私たちは北へ派遣されないという見方が強い。むしろ、領地を獲得するため、参戦を立候補する貴族が後を絶たないらしい。後継でない貴族にとってまたとないチャンスなのは分かるけど、勝てると思ったら戦いに積極的になるなんて、現金なものだと思う。
「アメリーはクラスの上位貴族とうまくやってるようだな。この前の城で見て安心したぜ。最悪、ベールの連中の手を借りなきゃいけないかと思ってたからほっとしたよ」
へ? ベールって? 確か、中央の上位貴族よね? 過去には宰相も出したという名家だけど、その家が叔父様と何の関係があるのだろうか。
ため息を吐いたのは、叔母様だった。
「ほら。この前の謁見の時、陛下の隣にいたでしょう? 側近が2人も。ハドゥマー様とグス様。2人はベール家の人なんだけどね。あの人たちに頼めば、ちゃんと対応してくれるはずだから」
そういえば、あの時陛下の側近の人が2人いたわね。叔父様、若いほうの人を見たときに嫌そうな顔をしていたけど、あれはベール家の人だったのか。
叔父様は乱暴に頭を掻きむしった。
「ハドゥマー様は、親父に匹敵するくらいすんげえ人なんだよ。この国のためにいろいろやってくれているし、陛下の信頼も厚い。俺たちみたいな者にも公正でな。いつだって助けてくれた。中央の貴族とは思えないくらい、立派な人なんだが、問題はグスの奴だ!」
えっと、グスって言うと、あの若い側近のことかな。
「グスの野郎、昔からイーダに付きまとってくるんだ! こいつは、妹たちが嫁ぐまであの家で踏ん張ってただろ? だから結婚はのびのびになってたんだが、あの野郎はかなりしつこくてな。イーダに嫁に来いってうるさかったんだ! まったく! ハドゥマー様がいなかったらどうなっていたことか!」
叔父様は憤懣やるかたないって顔だ。
えっと、グスさんって、確かお兄さまの友人のフーゴ様のお父様よね? お兄さまやお姉さまから聞いた感じだと、フーゴ様は結構礼儀正しい人に思えたけど・・・。
「それならグスさんの奥さんに知られるとまずいですかね? たしか、あの人って息子さんいましたよね?」
私が聞くと、叔母様は大きくため息を吐いた。
「正直、グス君は大したことないの。あんまり私が嫌がることはしなかったからね。でも、あの娘は・・・。フィオナは、ちょっと、ねえ」
あ、やっぱり奥さんに知られるのはまずいのか。とすると、叔母様の姪の私は、ベール家に近づかないほうがいいかもしれない。
「ああ。フィオナ、な。あいつはグスの奴がかすんじまうくらい熱烈だからな。だって、俺がイーダと結婚したときなんか、刺そうとしてきたんだぜ? 『私の先輩は渡さない!』とか言ってよ。まったく、ハドゥマー様がとりなしてくれたからいいものの」
え。ということは、グスさんの奥さんも、イーダ叔母さんの熱烈なファンなの?
「そうね。この前も、正直フィオナがいなくて安心したわ。聞いたところによると、全然変わっていないみたいだから。あの娘、2人も息子がいるはずなのに、あれでいいのかなって思うわ」
どうやら、フィオナさんは私が考えていた以上にまずい人らしい。
「そういえば、あいつらの次男は今年学園に入学したんだよな? あの家は次男のほうが継ぐことになったって聞いたぞ。うわさだと、次男のほうはちょっと悪ぶっているというか、そんな感じらしい。デニスから長男が礼儀正しいって聞いて安心してたんだがよ」
なんか、下の学年もいろいろありそうなのね。おそらく、ベール家の子供って言うと、上位クラスに在籍しているだろうし。
「一つ下かぁ。ファビアン様といい、あんまり順調じゃなさそうね。トラブルにならないといいけど」
「うん。なんかごめんなさいね。私たち世代のことに巻き込んだみたいで。ベール家のことだから大丈夫と言いたいけど、グス君とフィオナの息子なのよね。どうなることやら・・・。あ、そうだ!」
叔母様が手を叩いた。
「これ、アメリーちゃんに渡そうと思っていたのよ! 私が学生時代から使ってるものだけど、お守りよ。大したことはないけどね」
私の左手を取りながらそんなことを言い出した。手首には銀の鎖が巻き付いており、思わず叔母様を見つめてしまう。
「えっと、こんなの、いいんですか? 結構高そうですよね?」
「ええ。これ、実は私のお手製なのよ。こう見えて、同級生には欲しがられたんだから。こんなものでも、私の実家の秘術が組み込まれていてね。闇魔法に耐性があったり、警告してくれたりするのよ。これまで私を守ってくれたものだから、あなたの助けになると思う」
叔母様がつけてくれたこのブレスレットは装飾もきれいで、かなりおしゃれに見えた。なんか学生の私が付けるのはもったいないような気がする。メリッサ様が新たに用意してくれたネックレスもやたらと豪勢だし、ちょっと私の身にはそぐわないような・・・。
「これでよし! まあ、気休めだけどね」
叔母様は汗をぬぐった。
「なんかこんなに高級そうなもの、すみません」
「いいのよ。あの子は魔道具なんてつけるとすぐ壊しちゃうし、ホルストには他の物をあげちゃったしね。結構いいデザインでしょう? あなたの刻印だってあるから。自分で作ったものだけど、我ながらいいできだと思うわ」
叔母様は笑った。叔母様の実家というと、闇の魔法家だったバル家の秘術が使われているものなら相当に貴重なもののはずだ。叔母様もメリッサ様も、高級なものを簡単にプレゼントしてくれるのよね。
「こんなものだけど、少しはあなたの力になるはずよ。星持ちだから手を出してくるとは思えないけど、ユーリヒ家には、あのアダルハードの爺には十分注意するのよ」
「アダルハード?」
私が首を傾けると、叔母様は溜息を吐いた。
「ええ。アダルハード・ユーリヒ。この前会ったユーリヒ公爵家の当主よ。私たちを目の敵にして、いろいろと画策しているらしいわ。なんでも、北に参戦しようとする貴族を止めているのはあいつらしいからね」
「まあ、そのおかげで中途半端な戦力は入れないようになってるんだがな。特に中央や西の貴族に顔が利くらしく、北への援軍を、強硬に拒んでいるらしいんだよ」
叔母様の言葉に叔父様が続けた。私は力なく笑うことしかできなかった。
「おおーい! そろそろ行こうぜ! アウグスト殿下がもう発つってよ!」
大声を上げたのはグスタフだった。どうやら彼も、エーレンフリート様に着いていくらしい。
「グスタフ! あなたも行くんだから気を付けてね! エーレンフリート様に、あんまり失礼なことしちゃだめですからね!」
大声で呼びかけると、グスタフは照れたように手を上げたのだった。
※ セブリアン視点
その日のお昼休み、図書館で調べ物をしていると、後ろから急に話しかけられた。
「おや? 君が図書館に来るなんて、珍しいこともあるんだね」
振り向くと、そこにはカトリン様が意外そうな顔で佇んでいた。
「ちょっと気になることがあって。今のうちに本を借りて、帰ってから読もうと思っていたんですよ。カトリン様は?」
「ああ。僕はちょっとナデテ君に話があってね。ほら。この前討伐任務があったじゃん。ビューロウ隊と僕の隊は戦果を上げてたけどね。なんか、ロータルの隊はいろいろあったみたいで。副官のナデナ君に話を聞きたくなってさぁ。ナデナ君、ハイリーと一緒にここにきていたそうなんだ。でももう居室に戻ったらしく、無駄足だったけどね」
ああ、そういうことか。
ナデナ・ツィーテンは北の伯爵家出身で、ハイリーと仲が良い。2人で図書館に来たとしても不思議ではないと思う。
「ああ。あの時のことですか。確かに、ロータル様は大変そうでしたね」
「お! そうか。デメトリオ君も、ロータルの部隊の指揮下にあったんだよね。何があったんだい? ロータル君に聞いても要領を得なかったんだよね」
う~ん。何があったか知らないけど、ナデナはカトリンがまくし立てるから逃げたんじゃないかな。彼女、結構しつこく付きまとっていたし。好奇心旺盛なカトリンに付き合うのは大変かもしれない。
「あれは、確かに大変そうでした。いえ、私も忙しかったですが、指揮を執っていたロータル様は本当にきつそうで・・・。ナデナさんなんか、途中で暴れそうになっていましたよ」
え? あの戦いは私たちの隊は順調だったけど、デメトリオたちに何かあったのだろうか。
「えっと、なんでもロータルが率いていた他の部隊が言うことを聞かなかったとか? デメトリオ君たちはちゃんと仕事をしていたそうだけどね」
「ええ。うちのクラスのヘッセン隊と、中位クラスのカーキー隊がかち合ったんですけどね。あの2部隊、なんだか気があったみたいで全然いうことを聞いてくれなかったんですよ。平民クラスの生徒たちも困惑していました」
デメトリオは疲れたように息を吐いた。
そうか。ドミニクとアルバンが気が合ったということか。
ヘッセン隊というのはドミニクが率いる隊だ。彼と気が合う人たちで構成されただけあって、アメリー様とは相性が悪い。爵位が高いほど偉いという感じなのだ。強さは、爵位なんて関係がないというのに。
「あの2部隊、かなり似ている印象がありました。ワンマンチームという感じですかね。ヘッセン隊はドミニクが、カーキー隊はアルバンが一人で倒しました。他の隊員は足止め役というかなんというか・・・。リーダーを活躍させるのに徹している気がするんですよね」
ああ、なんとなくわかった。でも・・・。
ドミニクは槍で戦う近接だし、星持ちではないアルバンの魔法攻撃もアメリーほどではない。一人が頑張るだけのやり方では、ビューロウ隊ほどの戦果は挙げられないだろう。
「確かに、私の部隊はドミニク様より討伐数を上げられる人はいないのですけど・・・。でも、部隊全体を考えると、私の部隊のほうがずいぶん上なんですよね。向こうは爵位や素質こそが最上で、敵を奪ったらそいつを敵視していました。あげく、『俺の獲物を取りやがって』と怒り出す始末ですからね」
「ああ。それはだめだね。僕らはあくまで部隊として戦っているんだから。個人で戦うだけじゃいけないよなぁ。ちなみに自慢の個人戦闘はどうだったんだい? いや、授業では見ているけど」
デメトリオは少し考えこんだ。
「そうですね。ドミニクに関してはさすがではありました。槍さばきはすさまじかったですし、技のキレもよかった。あれに勝てるのはクラスでも少数でしょう。コルネリウス様とも、結構いい勝負をするかもしれません」
「いやあ、それはどうかな? ナデナは同じ武器を使っているけど、自分なら勝てるみたいなこと言ってた。魔法を組み合されたら多分ハイリ―にも勝てない。いいところ、クラスで10番目くらいじゃないか?」
どうやら、カトリンはドミニクのことを相当下に見ているようだった。
「でも突撃のスピードなんかは相当なものでしたよ。彼の獲物は十字槍です。攻撃を避けるのは難しい。魔法使いタイプでは、彼に勝つのは難しいのではないでしょうか」
デメトリオは主張するが、カトリンはあいまいに笑うだけだった。
「ところで、君たちはどんな本を求めてるんだい? ハイリーもナデナも教室に戻ったようだし、ちょっと急いだほうがいいかもしれないよ。何なら、本を探すのを手伝ってあげようか? そういうのは得意だからさ」
「あ、もうこんな時間か。急いだほうがよさそうですね。あの、魔法の威力とかを記した本はありませんか?」
あまり悠長に話していると、昼休みが終わってしまうかもしれない。放課後にまた来るのは避けたいんだよなぁ。まあ、そうなったらハイリーに会えるから、デメトリオは喜びそうだけど。
「魔法の威力か。それは、魔法使いなら全員が気にしているところだよね。このあたりかな?『魔術基礎理論』はちょっと古いし、これもなぁ。あ、これはどうだい? 『魔術構成の仕組み』。僕ら魔法使いにとってバイブルというべき本だよ」
その名前には聞き覚えがあった。魔術の基礎が丁寧に記されていて、私たちが使っている教科書なんかも、この本を元に書かれていると聞いている。
カトリンから本を受け取ると、ぱらぱらとページをめくった。お目当てのページを探す私を見て、カトリンはクスリと笑った。
「この本さ、僕らが生まれる前に書かれたものなんだけど、いまだに読まれているんだよね。しかも、著者はバルトルド・ビューロウ。アメリーの祖父が書いた本なんだよ」
驚いて顔を上げるとカトリンの面白がるような顔が見えた。
「えっと、確かアメリー様の祖父は、北に旅立ったんでしたよね? この前は会えなくて、メラニー先生がずいぶん残念がっていたのを覚えています」
「ああ。あの先生はずいぶんとバルトルド様にあこがれているからねえ。アメリーの姉のダクマー様がバルトルド様をぞんざいに扱ってるの、かなり怒っていたようだし。その割には、バルトルド様はずいぶんとダクマー様をかわいがっているようだけど」
やはりアメリー様の友人だけあって、そのあたりのことは詳しいようだ。
「カトリン様はアメリー様のこと、なにかと気にかけておられるようですね」
「まあねえ。最初は星持ちだからずいぶんと横柄な奴が来るんだと思っていたけど、ふたを開けてみればあんなだったからね。なんかほおっておけなくて、世話を焼いているうちにああなったって感じかな」
カトリンはクスリと笑った。だけど、好奇心に満ちた目を、今度は私に向けてきた。
「だけど、ちょっと気になるね。今更、魔法の威力を高めるための方法を探すなんてさ。何かあったのかい? せっかく情報を教えたんだ。そっちも教えてくれてもいいだろう?」
やはり、質問が飛んできたか。まあ、世話になったのは確かだから、少し話してみるとしようか。
「この前、討伐任務に就いた時に気づいたんですよ。アーダ様が、いつもおかしいことをやっているって。彼女、資質が低いとか言われていたのに、魔物を一撃で倒しているんですよね」
私が言うと、カトリンは何か考え込んでいるような顔をした。
「それは・・・。確かにおかしいね。討伐任務で会うのは、ゴブリンとかコボルトとかリザードマンとかか。どいつもこいつも魔力障壁を持っているし、レベル1とか2だと、簡単には倒せないはずなんだけど」
「ええ。アメリー様が当然のように受け入れていたから気にしていませんでしたけど、ちょっと考えてみるとおかしいですよね? 資質が低いのに一発で魔物を倒すだなんて。確かに態勢が崩れていたり隙がある状態でしたけど、それにしたっておかしい。本人に直接聞くのははばかられるので、ちょっと調べてみることにしたんです」
私が言うと、カトリンは考え込んだまま何度もうなずいた。
「アメリーは魔法に関しては常識知らずのところがあるからね。さっきも言ったように、あの子の祖父はあのバルトルド様だ。高度な技術もできて当たり前のように認識しているところがある」
そういうと、何かを思いついたようにあの本を取り上げ、ページをめくりだした。
「魔法の素質は変えられない。技術で色を薄くすることはできても、逆はできない。そんなことができたら表彰ものだよ。だから、アーダ君は色の薄いまま、魔物を仕留めているんだと思う」
カトリンはあるページを見つけると、私たちの顔を見た。その目は、いつもよりも好奇心に満ちた顔をしているようだった。
「魔物に色の薄い魔法が通じない理由は単純だ。まとっている魔力障壁や体に流れる魔力が攻撃魔法を阻害しているからだ。もし魔力障壁や体に流れる力が無効化できたら、低い魔力でも体を傷つけることができる。そのうえで、装甲が薄い場所を狙い撃てば、素質が低くても大きなダメージを与えられるということになる」
さすがは魔法使いの国の貴族だ。こんなに簡単に答えにたどり着くなんて。
「しかし、しかしですよ? 魔力障壁や体に流れる魔力を無効化することなんてできるんですか? 魔力の質は一人一人違う。そんなの、私の実家でも聞いたことがないですよ!」
デメトリオが思わずといった形で口を開いた。彼の家は、この国の中央にあるリンクス領に位置している。あの家は元ユーリヒ家の旗下にあって、魔法家ではないものの優秀な魔法使いを多数輩出してきた。その彼がそう言うのであれば、一般的な知識ではないのだろう。
「魔力を無効化する技術はいくつかある。今、一番旬なのは色のない魔法を使うことだね。ダクマー様はこれを自在に使うことで、魔物はもちろん闇魔の魔力障壁だって打ち破っているそうだ。これはアメリーから聞いたんだけど、ダクマー様は相当に魔力制御を鍛えているそうで、色のない魔法を使って相手の障壁を破壊しているらしい」
デメトリオがごくりと息をのんだ。
たしか、アメリー様の姉のダクマー様は、王国では100年ぶりに闇魔の四天王を倒すという快挙を成し遂げた。それも一度ではない。4度もだ。デメトリオは悔しそうに歯を食いしばっている。
「この本にもあるだろう? 色を薄くすれば威力は下がる代わりに浸透の力は強くなる。聞くところによると、ダクマー様は透明な魔力を扱うそうじゃないか。色が薄いということは浸透の力も強くなる。彼女は内側から魔力障壁を破壊して、たぐいまれなる成果をあげているんだよ」
得意気に説明するカトリンの声を聞きながら、私は本のページを見ていた。たしかに、本には無属性魔法と浸透の関係が書かれている。こんな古い本にも書かれているなんて、さすがは魔法使いの国といったところか。
だけど、私の目を引いたのはもう一つの文章だった。
「気づいたかい。そう、魔力を無効化する手段は無属性魔法だけではないんだ。同じ属性の魔法で、この魔法陣をうまく調整すれば、色の濃さにかかわらず一時的に魔力を消し去ることができるんだ。むしろ色が薄いほうが魔法陣を使えるから無効化には有利だろう。それには、魔法の質とか性質を合わせる必要があるんだけどね」
はっとして顔を上げると、楽し気なカトリンと目が合った。
「アーダ君がやっているのはこれだね。多分、一撃に見えたけどそうじゃないんだろう。彼女が打っているのは2発。魔力を無効化する魔法と相手を攻撃する術を同時に扱っているんだ。いや、これを使っているならすごくない? 相手と同じ属性と弱点になる属性の2種類を使っていることになるんだから! しかも、相手の魔力を無効化する術を瞬時に作っていることになる! え? なにそれ! それってかなりの高等技術なんだけど!」
興奮するカトリンの様子を、私たちは茫然として見ているのだった。




