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星持ちの少女は赤の秘剣で夢を断つ  作者: 小谷草
第4章 星持ち少女と決闘と
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第67話 収まらない魔物災害

「よお。そっちも大変だったんじゃねえか?」


 這う這うの体で教室に戻った私を、ロータル様が出迎えてくれた。


 ニナ様達から解放された私は、何とか教室に戻ってきたんだけど、さっそくロータル様に話しかけられた。


「ロータル様。あの、今回はありがとうございます。私たちが帰っている間、大変だったみたいで」

「いや、冬はお前たちが頑張ってくれたんだから、その代わりってことさ。それに、魔物災害が収まらないなんて誰にも分らなかったことだからな。せっかくお前とハイリーがゴブリンシャーマンを倒したのによ。でもまあ、俺は他の貴族を率いる経験を積ませてもらったから、結果オーライってやつだぜ」


 全学生の討伐任務参加という指令は未だに続行中で、学生だけでなくあの学園長までもが駆り出されているというから、その勢いは相当なものだと思う。


 そうした中で目覚ましい活躍をしたのはロータル様だった。なんでも、同じ学年の生徒を率いた大部隊で討伐を行い、何体もの魔物を葬ったそうだ。


「お前、他のクラスからの評判は相当良かったぜ。中位クラスのやつら、みんな褒めてたぞ。特にランツァウとヴェルザーからは好評だったな。星持ちなのに、偉ぶらずに戦いやすかったってさ。あいつら自身も本当に強かったしな」


 ロータル様は機嫌がよさそうに笑っていた。


「同学年で中位クラスや平民クラスでも、強いやつはいるんだって実感できたのは収穫だった。あと、印象的だったのは、格好はあれだけどアンドレア兄弟かな。へっ。あいつらにも力を示せたんだから、今後はもっと連携が取れると思うぜ」


 ランツァウというのは確かオーラフさんのことね。そしてヴェルザーというのはパウラさんか。アンドレア兄弟というのは、ディースさんとエンデルさんのことだ。


 みんな、一緒に討伐したことがある仲間だけど、どうやらこの春は学園に残って討伐に参加してくれたらしい。エルナさんやエルケさんもこっちに残ったらしいし、私が帰郷している間にみんな頑張ってくれてたみたいだ。


「去年、私が組んだ時はみんな頼りになりましたね。特に、オーラフさんとパウラさんは予想外の出来事にも完璧に対処してくれましたし」

「ああ。あいつら使えるよな! 伊達に討伐任務を繰り返しているわけじゃねえってことだな! まあ、お前の姉たちも中位クラスだし、俺たちの初任務に協力してくれたのは中位クラスの先輩たちだった。強いやつがいるのは知ってたけど、実際に会えるとうれしいもんだな!」


 ロータル様は思い出して笑ったようだが、でも嫌なことを思い出したのか、渋い顔になった。


「でもな。やっぱりちょっとって思うヤツも見たぜ。素質が高いだけでプライドばかり高い奴がな。うちのクラスだけじゃなくて中位クラスの連中にもいたな。昔の自分を見ているようでいたたまれなかったぜ」


 ロータル様は顔に手を当てた。そのとき、教室に生徒が入ってきた。アーダ様やエーファたちが談話室から戻ってきたのだ。彼女たちは私に手を振ると席に戻っていく。


 彼女たちにかるく頭を下げ返した私に、ロータル様が声を潜めて話しを続けた。


「お前らがビューロウに帰っている間に、カーキーの嫡男とも組んぜ。ありゃダメだな。確かに土の素質は高いようだが、コルネウスやハイリーと比べると全然だ。魔法の選択はイマイチだったし、魔力制御も未熟。俺たちにも勝る実力があるとうそぶいていたが、このクラスに来たとしても活躍はできんだろうさ」


 ロータル様はにやりと笑った。そしてアーダ様を一瞥し、再び私に視線を戻した。


「俺は直接見たことはないが、お前の相棒、相当な腕らしいな。中位クラスの連中も言っていたし、エリザベートの奴もほめていた。それと比べると、アルバンの腕は比べるまでもない。中位クラスはもちろん、平民クラスだってあいつより使える奴はいる」


 ロータル様のアルバンに対する評価は相当に低いようだった。まあ、それは予想ができたことだ。


 正直なところ、アーダ様の兄のアルバン・カーキーがアーダ様より優れている可能性はかなり低いとみていた。もしアルバンにアーダ様の半分でも技術があったなら、このクラスに属していたはずだから。


「資質だけで上位クラスになれるほど、学園は甘いところじゃねえからな。お前の姉たちのような例外がいるとはいえ、基本的には上位クラスにはこの国最高の魔法使いの卵が選ばれるもんだ。少なくとも、アルバンの奴はこのクラスに入れるほどの力は感じられなかった」


 私はうなずいた。中位クラスではアーダ様が違法なことをしたと言われているが、そんなのは根も葉もないうわさだ。信じているのは相当にアルバン様に近いか、資質にしか目のいかない人だけだろう。


 ロータル様は入ってきた生徒をちらりと見た。そして声を潜めながらそっとささやいてくれた。


「それにな。あんまり大きな声じゃ言えねえが、このクラスにも組んでいてキツかった奴はいた。上位クラスに選ばれたっていう自信があるから余計にたちが悪い。やりづれえってなんの・・・。お前も気づいてんだろ」


 つられるように、ロータル様の視線を追う。教室の右後ろのほう。そいつは不機嫌そうにだらけた姿で足を組んでいた。


 私はその姿を見ることなく、そっと視線を戻した。


「ああ。そうだ。あいつだ。ドミニク・ヘッセンさ。このクラスに選ばれただけあって、決して無能ってわけじゃねえ。むしろ、近接の戦闘力で言えばこのクラスでも上位に入るだろうさ。さすがにお前やコルネリウスほどじゃねえけどよ」


 私も、あいつの強さだけは感じている。授業で何度か見かけたけど、北の生徒だけあってかなりの槍の使い手だ。十字槍を使った戦闘技術は相当なものだろう。


 でも、私はあいつを認められない。認めたくない。


「あいつ、強い分だけプライドが高いんだろうな。いつも偉そうで、こっちの言うことなんか聞きやしないんだからな。あいつ個人の討伐数はこのクラスでもトップクラスだが、部隊としてはひどいもんさ。あいつと組まされる連中に申し訳なくなってくるぜ」


 私はそっとうなずいた。私から見ても、ドミニクは独断専行が過ぎるような気がする。自分が魔物を倒すことばかりを考えて行動しているようなのだ。個人としての討伐数は多くても、部隊全員で戦おうという気持ちがない。もっと戦わせろと、エリザベート様やロータル様に噛みついている姿も何度も見かけた。


「ドミニクとアルバンが組んだ時は最悪だったぜ。あいつら、あれで気が合うみたいでよ。無駄に仲良くなって、そろってこっちの言うことを聞かねえんだからよ。2人とも、教師に叱られてもどこふく風だったよ」


 ロータル様は天を仰いだ。


 ドミニクやアルバンが私と合わないことは教師もわかっているのだろうか。幸いなことに私があいつを指揮することはないから安心なのだけど。そのしわ寄せが2人に言っているようで申し訳なく思う。まあ、さすがのあの2人も侯爵家のエリザベート様には逆らわないようなんだけど。


「アメリー。気をつけろよ。あいつらはお前に敵意を持っているようだった。子爵家のお前が星持ちに選ばれたのは気に入らないってよ。アーダもだ。お前の相棒で、しかも教師からひいきされているように見えるらしいからな。カーキ―家は、どうやらアルバンを後継に指名したいみたいだからな。はっ! 資質にしかないやつが何を言うって感じだけどよ」



◆◆◆◆



「お前とロータルが話すなんて珍しいな。あんまり親しく話す間柄じゃなかっただろう?」


 席に戻るなり、コルネリウス様がからかうように声をかけてきた。


「ええ。ロータル様は私たちがビューロウに行っている間、立派にこの学園を守ってくださったようで、その時の話を聞いていたんです。どうやら春休みの間はかなりの討伐をこなしていたそうで」

「ああ。私も聞きましたよ。何でもロータルはうちの学年の生徒たちを率いて大規模な討伐に成功したとか。彼の評判はうなぎのぼりですよ。反対に、評判を落とした人もいるみたいですけどね」


 ハイリ―様が口をはさんできた。同意する声を聞いて安心した私は、思い切って気になっていたことを聞いてみた。


「そういえば、フェリシアーノから情報を聞き出すことはできたんですかね? 王城に移送されて尋問が始まったと聞いていますが」

「ええ。確か、マルク家の令嬢が来てくれるって話だったけど、その前にかなりの情報が得られたらしいんです。あいつと同時に捕らえた魔法使いが素直に話してくれたらしいわ。もっとも、奴らのアジトはもぬけの殻だったらしいけど」


 フェリシアーノと同時に捕らえた魔法使いというと、あの召喚門を呼び出したあの人のことね。


「メリッサ様の秘術であいつらを捕らえることができたんでしたよね」

「あの女は気に入らんが、あの秘術だけは見事だったな。あれがなかったら自害どころか、こちらを巻き込んで自爆された可能性もあった。フェリシアーノ自身にも逃げられたかもしれん」


 意外なことに、コルネウス様がメリッサ様を評価した。普段は罵りあっているような2人だけど、あんまりお互いの実力をけなすような感じはないのよね。仲良く喧嘩しているというか、そんな感じなのだ。


「あいつらの安全を確保したらこちらの質問に素直に答えたそうだ。連邦では水の使い手以外の扱いはひどいものらしいからな。ただ、新しい情報は得られなかった。奴らは連邦の関係者かと思われたが、残念なことに証拠になるようなものはなかったらしい」


 ヴァルティガーは連邦にしか現れない魔物らしいけど、それでも関連付けることはできなかったということか。


「連邦の水の巫女の関係者と思われたんだがな。魔物だけでは西からきた証拠にならないとさ。残念ながら、水の巫女がかかわっているという証拠も見つけられなかった。逃亡した水の巫女候補が暗躍しているという情報もあってな。そいつの逃亡に手を貸したのはうちだと責められる始末さ」


 逃亡した巫女候補?


「なんでも、追放になった水の巫女候補が逃げ出して、この国で騒動を起こしているんじゃないかとか。正直、連邦の連中が、なんでわざわざ外国のうちで騒動を起こすのかは納得できないんですけどね。連邦の外交官たちはそれで押し切るつもりみたいですし」


 トカゲのしっぽ切りか。


 私でも想像できることだけど、おそらく連邦そのものがこの国に敵対しているのは間違いがない。だけど、逃亡した水の巫女候補が勝手にやったことと言い訳するつもりなのだろう。


「はあ。これは王国の外交官だよりと言うことになりそうですけど、相手も狡猾でしょうからね。でも、あのフェリシアーノももういないのだから、多少はこっちの被害を減らせたんじゃないです?」


 そこまで言って、私は言いよどんだ。コルネリウス様の表情が、こわばっているようだった。そして苦々しい顔で説明してくれた。


「あいつは本当に何も知らないようで、魔法で調べたが大したことは分からなかったそうだ。だから本来なら、フェリシアーノの処刑はすぐに実行されるはずだがな。横やりが入った。国内外から、な。貴族殺しを成したフェリシアーノを、ただ処刑するだけでは貴族の威を示せないのではないか、とな」

「え? どういうことです?」


 ハイリ―様がため息交じりに続けてくれた。


「実は、複数の筋からフェリシアーノの公開処刑を行うようにという要望が出ているんです。処刑人として立候補する貴族も多くて。しかも、連邦の水の巫女から直々に、フェリシアーノを公開処刑にしてほしいとの声があったとか」

「え? こっちの貴族からそんな声が上がっているんですか? それに水の巫女? 連邦の教会が、なんで?」


 確か、西の貴族には連邦と付き合いがある家も多いらしいけど、でもこの状況で?


 驚く私に、コルネリウス様が溜息を吐きながら説明してくれた。


「そいつらの主張だと、闇魔と戦っている今こそ、貴族の力を見せつけて鼓舞するべきだとさ。フェリシアーノを公開処刑することで、貴族の力を示して北を援護しようとな。笑わせるよな。あれだけ犠牲を出したのはほんの少し前のことだというのに」

「でも陛下は公開処刑に反対の立場ですよね? それなら、貴族たちや連邦が何を言ってもやめられるのでは?」


 私が疑問をぶつけると、ハイリ―様は疲れたように教えてくれた。


「それが、ね。公開処刑を押している貴族に問題があるですよ。ユーリヒ公爵。かの大貴族が、強硬に公開処刑を行うよう強硬に主張しているんです」


 私は顔をこわばらせた。


「ユーリヒ公爵ですか・・・」

「そうです。言わずと知れた、中央の公爵家ですね。西との付き合いも古く、あの家から流行が発信されたことも多い。あの家は第一王子の乱でも損害がなかったわけですから、今や一大派閥になっているんですよね。王家もその意見に耳を貸さざるを得ないわけです」


 ユーリヒ公爵家はロレーヌ公爵家に匹敵するくらいの勢力を持つとされている。でも、ロレーヌ家と違って考え方はかなり中央寄りで、人を人とも思わぬような態度で迫るらしい。


「中央にあらざれば貴族にあらじ、ですか。なんて面倒な・・・」

「はっ! ふざけた話よな! この国は中央だけで存在しているわけではないというのにな! お前も気をつけろよ。奴ら、ビューロウには特に因縁があるようだからな!」


 コルネリウス様の目が爛爛と輝いている。


 確か、ユーリヒ家の3男がある夜会で言ったセリフなのよね。さすがに国王陛下も無視できなくて、その男は謹慎になったらしいけど、いつの間にか戻ってきて、今も王都で幅を利かせているらしい。


「ユーリヒ公爵家か。あの家の者は学園にはいないので安心していたんですけどね」

「まあ、お前たちビューロウとしては、あんまり好ましい相手ではないだろうがな」


 ぎょっとして顔を見ると、コルネリウス様が心底楽しそうな顔で笑っていた。


 え? もしかして、この人あの事を知ってる? なんでこの人、うちとユーリヒ家のこと知ってるの?


「ビューロウ家と、ユーリヒ家、ですか? 領地間の距離も遠いし、付き合いはなかったはずですよね? あ、いえ、詮索するつもりはないんですけど」

「くくくく! お前たちビューロウにとって、ユーリヒ公爵家は因縁のある相手だからな!」


 ううう。まさか、コルネリウス様にあのことを知られているだなんて・・・。


 たしかに、ロレーヌ家と付き合いが深い私としては、王国のもう一つの公爵家であるユーリヒ家とは、あまりいい関係とは言えない。でも、それ以上に私たちとユーリヒ家とは、深い因縁があるのだ。


「はっ! そうだよな! 例の公爵家の3男に、お前の親戚が婚約破棄されたんだよな! まあ親戚と言ってもお前とは血のつながりはないようだがな」

「うん? アメリーと血のつながりのない親戚・・・。って、まさか!?」


 目を見開くハイリー様に、私は黙ってうなずいた。


「ええ。その親戚と言うのは、イーダ叔母様の姪なんです。もう5年ほど前になりますけどね。聞く限りだと、従姉に悪いところはないはずなのに、ユーリヒ公爵に一方的に悪いことにされちゃったらしいんですよ。あの時はいつもは穏やかなイーダ叔母様が本当に怒っていて・・・」

「そ、それは何というか・・・。えっと、ということは、炎の巫女の従姉とユーリヒ家の3男が婚約破棄したというわけですね。メリッサにはあんまり聞かせたくはないわ」


 ハイリ―様は頬をひきつらせた。


 というか、それに関してはもう遅いんですけどね。ラーレお姉さまが巫女だと認定された瞬間に、ラッセ家をはじめとする南の貴族はユーリヒ家と縁を切っちゃったらしいし。爵位が低いけど、フランメ家を筆頭にかなりの賛同者がいたらしく、ユーリヒ公爵家は大打撃をうけたとか。


 ハイリ―様はさらに質問を続けようとしたが、そのタイミングでハンネス先生が教室に入ってきた。


「あ、ハンネス先生・・・」

「皆さん。席についてください。授業を始めますよ」


 朝の授業の始まりね。


 私はそっと息を吐きながら、ハイリー様達に頭を下げて自分の席へと戻るのだった。

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