第66話 学級裁判 ※ 後半 ギオマー視点
王城から戻ると、いきなり談話室に連行された。私はなぜか正座させられて、クラスメイト達が私を取り囲んでいた。
集まっていたのは、一緒にビューロウ領に行ったクラスメイトだった。仲良くなったはずなのに、みんなやけに真剣な目で私を見ている。
「じゃあ、決を採ります。アメリー・ビューロウさんが有罪だと思う人は手を上げてください」
ニナ様がいつもと違って無表情で宣言した。
「ギルティ」
真っ先に手を上げたのは、エリザベート様だった。
この前の旅行で少しは距離が縮まったかと思ったのに、いきなり私の有罪を告げてきた。
「ギルティ」
続いて手を上げたのは、なんとあのハイリー様だった。
彼女とはアーダ様のように仲良くなったと思ったのに、まさかこんなことになるなんて・・・。
「う~ん。たとえアメリーでもねぇ。ギルティ」
2人に続いたのはメリッサ様だった。
彼女はうちの領でフェリシアーノの野望を砕いてくれたはずだった。私と友好な関係を築いたと思ったのに、それが幻想と言うことなのか。
「アメリー、ごめんね。ギルティ」
エーファが申し訳なさそうに片目をつむった。親友の彼女までもが私を糾弾するだなんて・・・。
「いや、アメリー。さすがにあれはまずかったから。いくら敵が強大だったとはいえ、ね」
カトリンが気の毒そうな、だけどどこか面白がるように手を上げた。
ギオマー様たち男性陣はあきれたように事態を眺めている。コルネリウス様なんか、今にも笑い出しそうだ。
「はーい! 賛成多数で、アメリーっちは有罪です! これ以降、あの身体強化は絶対に使わないこと! 王都に回復の専門家がいなかったら絶対に顔に傷が残ってたんだからね!」
ぷんすか怒るニナ様に、私はあきらめたように溜息を吐くのだった。
◆◆◆◆
そもそも、私が学級裁判にかけられたのは、王城で使った身体強化が原因だった。敵は強固な魔力障壁を持つ上位闇魔で、私は土の内部強化と火の外部強化を組み合わせて魔力障壁を切り裂くことに成功したのだけど・・・。
私は火の魔力で身体強化したせいで全身に大やけどを負ってしまったのだ。
「今回、アメリーっちの顔に傷が残らなかったのは本当に奇跡みたいなものだからね! いくら威力があるとはいえ、あれはもう禁止です! 防御力に定評がある土の魔力とはいえ、星持ちの火を止めるほどではないんだから!」
ニナ様が頬を膨らませた。
「土は確かに固いけど熱いものを冷やす効果はないわけだから。水で守ったのなら火の熱だって冷やせるだろうけど」
「熱を静めるのは青の魔力ですからね。黄色の魔力もそう捨てたものではないのだけど」
エリザベート様とハイリー様、それぞれの専門家がそんなことをいいだした。
ん? なんかあの2人、ちょっと雰囲気が悪くなってない? 西のヴァッサー家と北のデトキウ家って、それぞれ水と土を扱う貴族家ではあるのだけど。
「わかってる!? アメリーっちのしたことって本当に危険なんだからね! せっかくきれいな顔に生まれたのに! 女の子なのに顔に火傷しちゃう技なんて、私は許しません!」
「そうね。あなたの顔にやけどの後でも残ったのなら、エレオノーラ様がどれだけ悲しむか・・・。あれはもう使っちゃダメな技でしょう」
ニナ様とエリザベート様に重ねて言われ、私は押し黙ってしまった。
「もうもうもう! 魔物災害が収まったわけじゃないんだからね! アメリーっちがあの強化を使えそうな機会があるかもだけど、駄目だから! ちゃんと他の手段を使わなきゃいけないから! 光魔法の治療あるからって、期待しすぎるのはダメなんだから!」
心の底から怒りだすニナ様に、私は何も言い返すことができないのだった――。
※ ギオマー視点
ニナとエリザベート、そしてハイリーに叱られているアメリーを何ともなしに見ながら、メリッサに話しかけた。
「なあ。アメリーの奴、行動を改めると思うか?」
アメリーは3人の高位貴族に叱られてしゅんとしてはいたものの、どこか不満そうに見えた。
「う~ん・・・。アメリーは優等生だし、普段は使わないとは思うけど、難しいんじゃないかな。強敵に会ったら迷わず使うと思う。ヴァルティガーを斬れなかったの、相当気にしていたみたいだしね。あの子は2人の姉の存在が強すぎるから。まあ、巫女様にあこがれるのは当然だと思うけどね」
メリッサの言う言葉に、心から同意した。
火と土の二段階強化——。
正直、すさまじい技術だと思う。違う属性を同時で使うのはかなりの高等技術とされている。ただでさえ、魔法陣なしに魔力を扱うのは難しいのにな。それを実戦で使いこなしたのはすごいが、火の魔力での身体強化は、なあ。
火の魔力を使った身体強化は、自身をも傷つけるとされているが、まさにそれを実証した形だった。多少は火に耐性があるはずの星持ちが大やけどを負ったのだ。星持ちの強力な火の素質が、かえってひどいけがを負わせてしまったのだろう。
「火の魔力で怪我をしないのは巫女様くらいなんですよね。あの素晴らしい赤の魔力で身体強化できるのは、火で傷つかないあの方だけなのに・・・」
炎の巫女には何かとうるさいメリッサだが、今回ばかりは同意だった。
身体強化で火の魔力を身にまとうのは自殺行為だ。確かに他の属性よりも強化の度合いは大きいかもしれないが、使い手にも大きなダメージを与えてしまうのでは使えない。巫女はそれを見据えて装備を燃えない素材で使っているというが、それだけ火の魔力を使った身体強化は危険なのだろう。
「しかし、まずいよな。アメリーはおそらく、闇魔のような魔力障壁を使う敵と戦ったらきっとまたあの技を使うのだろうな。その姿が目に浮かぶぞ」
「ええ。闇魔だけでなく、ヴァルティガークラスの敵には迷わず使っちゃうと思うわ。あのかわいらしい顔に醜い火傷あとが残っちゃうと考えると、いたたまれないわね。みんな心配してるんだけど、本人があの調子なら、ねえ」
そういうと、メリッサは何か考え込んだ。
「2段階強化は素晴らしい技だけど、自分まで傷つけちゃうなら使い勝手がよくないと思う。巫女様のように、火の刺激を何とかできないならね」
そこまで言って、メリッサは何かを思いついたように目を輝かせた。
「技術で火の刺激を消し去ることはできないかもしれないけど、それ用の道具を使ったら行けるんじゃない? 巫女様のご実家でいただいた、あの宝石を使えば!」
そういえば、メリッサはビューロウ夫人からいくつかの宝石をもらったと言っていたな。その一つを使ってアメリー用のアクセサリーを作ってほしいと言われたそうだが・・・。
「うん! いける! 使うのを止められないのなら、使っても大丈夫なようにすればいいのよ! 我が家の技術を使えば、アメリーに適した装飾品を作れると思う! ちょっとやってみるわ!」
メリッサはそう言うと、出口に向かって走り出した。相変わらず、思いついたら一直線だな。まあ、メリッサはアメリーを気に入っているみたいだから、あいつのために行動できるのは喜ばしいことなのかもしれない。
出口の前で振り返ったメリッサは、俺に向かって声をかけてきた。
「ギオマーもなにか考えてね! アメリーは巫女様や白の剣姫と違って魔道具で補助できる。だったら私たちでも、あの子に合った魔道具を開発できるはずなんだからね!」
そう言うと、嬉しそうに談話室を出て行った。クラスメイトは嬉しそうに走り去っていくメリッサにあっけにとられたようだった。
だが・・・。
面白い。実に面白い!
「確かに、バルトルド様の館で学んだ知識を生かす時かもな。アメリーの戦闘スタイルはあんな感じだったな。武器はかなりいいものを使っているようだが、しかしもっと強化する術はある。一度、あいつの武器を見てみたいな」
そう言って、アメリーのさらなる強化に思いを馳せたのだった。




