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星持ちの少女は赤の秘剣で夢を断つ  作者: 小谷草
第4章 星持ち少女と決闘と
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第65話 アーダ・カーキ―の悪夢 ※ アーダ視点

※ アーダ視点


「おめでとうございます。ご子息は土の祝福が強いようです。うまくすれば、学園の上位クラスに選ばれることも不可能ではありませぬ」


 おお! という声が響いた。父が嬉しそうに笑い、母が誇らしげに胸を張っていた。


「よくやった! お前はカーキ―家の誇りだ! これで我が家も、ウォルキン家にも勝る影響力を取り戻せるかもしれぬ! よくやった! よく、土の資質を見せつけた!」


 叫ぶように笑いだす父に、一歩引いてしまう。まだ私の検査は終わっていなかいのに、まるで気にもしていない。ただただ、兄の試験結果を喜んでいた。


 6つの水晶の中心にいた兄は誇らしげだ。父は、兄の頭を乱暴になでつけると、そのまま抱き上げて出て行ってしまった。母も笑顔で父の後を追っていった。


「あ、あの・・・。まいったな。まだご息女の、アーダ様の検査は終わっていないのに」


 検査員が乱暴に頭を掻きむしった。そして溜息を吐くと、申し訳なさそうな顔で私に向きなおった。


「ではすみません。魔法陣の中央に進んでください」


 調査員は疲れたような声で私を促した。私は慌てて頷いて水晶の真ん中に進んだ。


 私が立つと、水晶が光を放ち出した。だけど、光の強さはそれほどではない。兄のように、左の水晶がまばゆい光を放つということはなかった。


 ちょっとだけ期待していたんだ。もしかしたら私も、星持ちみたいな資質があるかもって。


 ヨルン・ロレーヌやアロイジア・ザインのように、秘められた資質があるのでは、と。


 まあ、普段の様子から、私に素質がないのは予想できたことだけど。


「!! これは!!」


 叫び声が聞こえた。驚いて、調査員の顔を見た。彼が指した方向を目で追うと、私の足元にたどり着いた。足元の水晶は、静かに黒い光を放っていた。


「闇の、資質・・・。初めて見た。上下2属性の資質か・・・。しかも、この光量ならレベル2はありますね。魔法家の血を引いているわけでもなかったですよね?」


 私はコクコクと頷いて、両親が出て行った方向を振り向いた。


 つられるように調査員が私の視線を追ったが、両親たちがいた場所にはもう誰もいなかった。失礼なことだと思うが、兄の資質に喜ぶあまり出て行ってしまったのだ。


「はぁ・・・。上下二属性の資質があることは、四大属性の資質が高いことよりも素晴らしいことだと思うんですけどねぇ。彼の土属性の資質が、目を曇らせてしまうということか」


 調査員がどこか残念そうにつぶやいた。でも、闇の資質があっても、なあ。この属性、王国ではあんまり好かれていないのだ。闇の魔法家だったバル家も、随分前に没落してしまったし。


 私の四大属性の資質はそれほど優れたものではなかった。レベルなしこそなかったものの、すべてがレベル1。貴族として低いとしか言えない数字だった。前から予想できたことだが、伯爵家の再興を目指すうえで全然足りていない。


 昔からそうだった。魔法を使う腕は兄にはかなわず、両親からすらもあきらめられたような目を向けられていたんだ。


「アーダ嬢の資質の件に関しては、私から報告します。あ、私の愛読書もあげますから。決して気を落とさず、地道な修練を繰り返すんですよ。闇属性の資質があることは素晴らしいことですからね。それに、魔法使いの力は、資質だけで決まるわけじゃないのですから」


 そう言ってため息を吐くと、応接間に置かれた水晶を片付けだした。私はその姿を呆然と見ていることしかできなかった。



◆◆◆◆


「あ、あ、あ、あ、あ・・・」


 私は目を覚ました。


 気づいたら頬が濡れていた。


「アーダ様。大丈夫でしょうか。その、何かありましたか?」


 扉の向こうから遠慮がちに声が掛けられた。


「え・・・。あ、ああ。そうか。う、うん。大丈夫・・・だ。大したことはないから」


 涙をぬぐいながら答えた。


 世話をしてくれる人がいる生活は、やっぱり慣れない。新しい学年になってもう学園も始まったのに、いまだに違和感があった。貴族としては当たり前のことかもしれないが、私にはそれまでなかったことだったから。


「失礼します」と、ドアを開けたのはビューロウでお世話になったマユさんだ。彼女は、学園に来て私の世話をしてくれているのだ。何でもメラニー先生やゲラルト先生が骨を折ってくれたらしいけど、気心の知れた人がついてくれて私としては安心だった。


 通常は、他領の人間がそばに使えるのは忌避されがちだというのに。


「アーダ様。その・・・。本当によろしいんですか? アメリー様も皆様も、アーダ様が参加されるものと思ってたそうでしょうに」

「い、いや・・・。せっかくの幼馴染との集まりなのに、私のような者が参加していいわけではないさ。特にあの2人とは、休みの間は全然会ってなかったんだから」


 私が言うと、マユさんはどこか悔しそうに唇をかみしめた。


 アメリーは今日の放課後に幼馴染と会う予定だと言っていた。幼馴染とのお茶会には私も誘われたけど、断ってしまった。あんまりアメリーと離れるのはよくないことかもしれないが、私のような者がいると幼馴染と気軽に話すことができないだろうから。


「アーダ様、遠慮されることはないんですよ。アメリー様も幼馴染の皆様も、それにクラスメイトの皆様だって、アーダ様を邪険にする方はいないのですから」


 私はちょっと困ってしまう。おそらくマユさんは、私に仕えてくれるからそう言ってくれるんだけど、私はそんな大したことはない。資質も優れたものはないし、武術だってできるほうではない。


 両親にも顧みられないくらい、矮小な存在でしかないのだ。


「ま、まあ、一応図書館での仕事もあるしな。あんまり他の人に任せていてばかりでは顰蹙を買ってしまうし。それに、学園長の話というのも気になるからな。特に今の王都には魔物が大勢出現しているんだから」


 ベッドから起きた私は、朝の準備をしながら答えた。


 そう。ゴブリンシャーマンを倒し、収まるかと思われた王都の魔物災害は勢いをますます強くしていた。私たちがいなくなった学園では、学生たち忙しく駆り出されていたらしい。


 生徒全員が魔物討伐に強制参加という事態は、今現在も続行中ということだ。


「あんまりロータル様ばかりに討伐を押し付けるわけにはいかないからな。私はこんなことにしか役に立たないから、力を尽くさないと。私だって、上位クラスで何の貢献もしないようにとは、思わないからな」


 そして私はカバンを見つめた。


 懐かしい夢を見た。あの日は私にとって思い出したくもないことだったけど、悪いことばかりではなかった。


 あの後、調査員がくれた「魔術構成の仕組み」は、今でも私の愛読書だ。いつもカバンに入れて持ち歩いている。あそこから学んだ技術は多い。まさか、あの本の著者の孫で星持ちのアメリーと一緒に戦うことになるとは思わなかったけど。


 私がそう言うと、マユさんは心配そうに顔をしかめたのだった。

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