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星持ちの少女は赤の秘剣で夢を断つ  作者: 小谷草
第3章 星持ち少女の帰郷
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第57話 フェリシアーノとの戦い ※ ギオマー視点

※ ギオマー視点


「ニナ! セブリアン! 頼む! 力を貸してくれ! 俺の護衛が、闇魔法で操られているかもしれないんだ!」

「え? 闇魔法!? そんな!」


 ニナが口に手を抑えた。いや、闇魔法と言えば光魔法が対になると思っていたが。そうではないのか?


「わ、私の腕では闇魔法だけを切除するなんてできないよ! だって、光魔法だと、相手にもダメージを与えてしまうから!」

「ぼ、僕も難しいです! 僕の魔力制御は、ニナ様に及ばないですから」


 ニナだけでなくセブリアンまでもがそんなことを言い出した。


「光には回復魔法があるだろう!? 精神だって癒せるんじゃないのか? あの闇魔法だって!」

「治療魔法は、へリング家が基礎を作ってくれたから癒しを使えるんだよ! それまでは、光って言うと自分を強化するか、敵を破壊するのがほどんどだったんだから!」

「そ、そうなんです! 僕の国で光が拒まれているのはそのためで・・・。自分を強化したり結界を張ったりはできるんですけど、他人の精神を癒す方法なんて、相当な技術と訓練した人にしか・・・」


 セブリアンの言葉に、思わず唇をかみしめた。


 光は最も治療に優れたイメージがあったが、それは王家やへリング家の努力によってなさしめたことなのか。あの方たちが他の貴族とは一線を画するような力を持つのは、そういった事情もあるのかもしれない。


 しかし、そうなると、ベリアルを救う手は、限られているということか。


「はははははは! どうやら鍛錬が足りないようだな! はっ! 呪われた光を使いこなせるのは限られた人間しかいないということさ!」

「お前か。お前が、闇魔法を使ってベリアルを操っていたんだな」


 アーダが、黒いコートの男を睨んだ。


 たしか、メラニー先生はウェンデルと呼んだか、あの男は濁った眼で俺たちをあざ笑った。ニナは涙目になって睨み、セブリアンはうつむきがちになって上目遣いになっていた。


「やはり! 光魔法とは言え大したことはないな! 上下二属性とは言え、これなら四大属性でも・・・。水でも十分に相手取ることができるということだ!」

「そういうお前も、闇魔法の腕はそれほどではないようだがな」


 アーダが整然と言葉を告げた。ウェンデルはすさまじい形相でアーダを睨んだ。


「おそらく、レーンウォッシュの魔法だな。あの護衛を操っている魔法は。闇魔法で、まあそこそこの難易度の魔法だ。だけどかかり具合も甘い。洗脳具合からしてもうまく魔法を使えているとは言えないし、相当に時間をかけて魔法をかけたんじゃないか? それに、闇魔法を使われたことが一目で分かったよ。ここまであんなに大勢を隠ぺいしたとは思えないな。水魔法の腕と比べるにも値しない」

「きさまになにがわかる!」


 ウェンデルが目を血走らせた。


「貴様も同じか! 上下二属性のみが才能と言いたいのか! それとも家柄か!? 下らん! 私がどれだけ優れていても認めようとしないとは! 私は貴様らよりも何倍も優れた魔法使いだというのに!」


 叫び出したウェンデルをあっけにとられてしまった。だけど、アーダは冷静だった。


「お前が教師たちより優れた魔法使いだとは思えん。お前が教師に選ばれないのは妥当ということだ。あの学園で何を学んだ? 今だに学園の意思を理解しようとしないとは」


 アーダがいっそ憐れむような声で語り掛けた。ウェンデルは憎しげな眼で何かを喚き散らしている。


「黙れ! 今の私はあのころとは違う! お前たちが見捨ててくれたおかげで、私も上下二属性の、闇の力を手にしたのだからな!」


 叫び声に呼応するかのように、べリアンが剣を握り締めた。だけどアーダは、まるで気にしないかのようにウェンデルに指を突き付けた。


「やはりそうか。お前は後天的に闇魔法に目覚めたんだな。だから練度も低いし、魔法をかけるのに時間がかかりすぎている。それに、魔力制御の腕もそれほどではない。お前の魔法使いの腕なんぞ、私に見破られる程度もののでしかない」

「だまれ! だまれぇぇ!」


 そうか。ウェンデルは、後天的に闇魔法の資質に目覚めたのか。


 闇魔法は、火水土風と光と闇の6属性の中で唯一後天的に資質が伸びる属性だとされている。心が裂けるような出来事があれば、後天的に資質が高まるのだ。


 逆上したウェンデルが水魔法を放つが、アーダはそれをあっさりとかき消してしまう。怒り狂うウェンデルに対し、アーダはどこまでも冷静だった。


「くっ・・・! 私の魔法を相殺したか!? 資質のない、貴様ごときが!? だがいい気になるなよ! こちらにはこいつがいるんだからな!」


 ウェンデルが唾を飛ばしながラ叫んだ。その言葉に、べリアンがゆっくりと足を進めてきた。さらに、黒づくめたちが一斉に襲い掛かってきた!


 フェリシアーノもそれに続こうとするが、動けない。さすがというか、やつはゲラルト師を抜くことができないのだ。だが、それはこちらも同じだった。頼りになるはずの護衛や子爵夫人たちは、他の黒ずくめたちを止めるので手いっぱいになっていた。


 武器を持った黒づくめたちがこちらに向かってきた。フォルカーとセブリアンが、悲壮な顔で迎え撃とうとした。


 だが、そのときだった。


「秘剣・鴨流れ」


 赤い髪が俺と黒ずくめたちを追い抜いていった。胴を薙がれた黒ずくめが、腹を押さえて倒れていく。


「えっと・・・。『安心しろ。峯打ちだ』でしたっけ?」


 すれ違った赤い影——アメリー・ビューロウがそうつぶやいていた。


「さすがですね。一瞬で斬ってしまうとは」


 そういったのはハイリーだった。彼女も、見事な腕で黒ずくめを仕留めていた。不覚なことに、彼女がいつからそこにいたのか全然気づかなかった。


「くそっ! ターゲットのくせに! だが、こいつを斬ってもいいのか!? ビューロウとインゲニアーの禍根になるぞ!」


 ウェンデルがゆがんだ笑みを浮かべながらべリアンを盾にした。


「くっ。そうか! だからお前はべリアンを洗脳したんだな!」

「くははははは! 家族同然の護衛を失った地の者とは親しく付き合うことはできまい! お前にこの男が斬れるか? お前がこの男を斬るか、それともこの男がお前の仲間を斬るか! まあ、私としてはどちらでもいいがな!」


 フェリシアーノたちの狙いが読めた。アメリーを消そうというのが第一目標だろうが、それを実現できなくても俺や俺の護衛を消せればそれでいい。もし、べリアンがこの地でアメリーたちに殺されたら、俺はきっと罪悪感で押しつぶされそうになるだろうから。そうした相手と仲良くすることはできないかもしれない。


 今まで順調な関係を築いてきたインゲニアーとビューロウの仲を、乱すことができるのだ。


 唇をかみしめた俺の肩に、手がそっと添えられた。アーダが、決意を込めた目でべリアンを睨んでいたのだ。


「大丈夫だ。ギオマー様の護衛にかけられた魔法は、それほど強固なものではない。奴のレーンウォッシュの魔法は完ぺきではない。優れた使い手が使った魔法なら解除するのは難しいだろうが、あれならなんとかできるかもしれない。大丈夫。やり方はある」


 アーダは冷たい目でべリアンを睨んでいた。


「私が、やる。私の闇魔法なら、あの護衛を傷つけずに倒すことができる。うん。私ならやれる。この屋敷で学んだ、バル家の魔法なら!」


 アーダは素早く黒い魔法陣を構築していく。相変わらずの、素早く正確な魔法構築。だが、初めて見たウェンデルは絶句していた。


「ば、馬鹿な! こんなに素早く、しかも正確な魔法陣だと!? 貴様程度の資質の持ち主が!」

「だまりなさい! アーダ様は優れた魔法使いです! あの狂犬の肩を持つあなたごときに、妨げられるものではない!」


 アメリーが強い言葉で遮った。


「確かに資質が高ければそれだけ魔力制御の腕は上がる。でも、魔法の腕はそれだけには留まらない! 日々の絶えぬ修行でそれを上回ることだってできる! 私の2人の姉や、アーダ様のようにね!」

「だ、だまれ! 資質に恵まれた貴様が何を言う!」


 ウェンデルが反論するが、アメリーは意に介さない。


 俺も知っている。レベル4という素質は確かに強力だが、それだけではない。魔力制御の腕を相当に鍛えないと魔法をうまく扱えないのだ。幼いころは暴走の危険性が伴うとよく耳にする。


「貴方も星持ちと言われるほどの資質があるのならわかるはず。かつて、魔力過多と言われるほどの資質の持ち主なら、レベル3ほど簡単には魔法を扱えないということを。だけど、ずっと地道な努力を続けてきたアーダ様なら、どんな魔法でも発現できる。だったら!」


 俺は思わずアーダを振り返った。彼女は魔法の構築は終わったようだが、どこか自信がなさそうに、魔法を放つのをためらっていた。


「ア、アメリー・・・」

「大丈夫です! アーダ様ならその魔法だってできます! それで、べリアン様を解放してください! 大丈夫! 確かに難易度の高い魔法ですけど、アーダ様なら! ずっと頑張ってきたアーダ様ならできるんです!」


 アメリーが言うと、アーダは決意したかのように叫んだ。


「行け! フレイゲーベン!」


 アーダが唱えたのは、有名な魔法だった。かつての闇の魔法家バル家に伝わる高等魔術だった。魔法構築の難易度は高くとも、あれを使えば一瞬にしてすべての魔法を無効化できると!


 あれを使えば、闇魔法に汚染されたべリアンだって!


 黒い波動は、一瞬にしてべリアンを包んだ。べリアンは頭を押さえてうずくまったが、やがてゆっくりと膝をついていく。


「馬鹿な! フレイゲーベンだと? その魔法は失われたはずだ! カーキ―家の出来損ないごときが使える魔法ではないはずだ!」

「何を言っているのです? アーダ様は、私のクラスで一番の魔法使いなんですよ? いかに難しい魔法でも、簡単に発動させることができるのです!」


 アメリーが不敵に笑いながら言葉を返した。


「べリアン!」


 思わずつんのめった。べリアンに駆け寄ろうとした俺のベルトを、誰かが引っ張ったのだ。


「!! メ、メリッサ!」


 俺を引き留めたのは、幼馴染のメリッサだった。彼女がなぜ俺のシャツを握り締めているのかはわからない。いつもほんわかと笑っているはずの彼女は、鋭い目でべリアンを睨んでいた。


「ギオマー・・・。あれ、わからない?」


 メリッサがべリアンの首元を指さした。怪訝な顔で彼女を見て、べリアンに向き直った。首筋にある、見慣れないチョーカーだ。赤い光を放つ宝石が付いたあれは、見覚えがあるものだった。


「ま、まさかあれは!」

「ええ。あれは多分そうでしょう。あれたぶん、ブラオボベよ。安物みたいだけど、どれだけの効果があるのかわからない。近づいたらどかん!よ」


 俺は頬をひきつらせた。


 フラウボベは、悪名高い魔道具だ。ネックレスに、赤い魔石が着いたネックレス。魔道兵を支配するために使われるフェッセルンとは一味違った魔道具だ。フェッセルンはあくまで相手を拘束するためのものだが、フラウボベはあらかじめ登録した魔力を当てると、一定時間後に周りを巻き込んで大爆発を起こす。相手を周りごと吹き飛ばすための呪われた魔道具なんだ。


「くっ! そういうことかよ! お前ら! べリアンごと、俺たちを葬るつもりか! こんなことに使う気なのか!」

「ギオマー。落ち着いて」


 メリッサは憤る俺を諫めてくれた。


「相手がそういう手を使ってくるのは予想していたわ。べリアンを捕らえたのなら、その命を私たちを害するために使おうってのはね。あいつらが外道なのは予想通りということよ」


 べリアンが首を振り、そして俺に気づくとゆっくりと体を起こした。


「あれ? 若・・・。俺、どうしたんだ?」


 頭を振りながらゆっくりと立ち上がろうとしていた。多分、あいつがこっちに近づいてきた時が終わりだ。俺に近づいたらフラウボベを発動させて俺たちを害するつもりなのだろう。


 あっけにとられていたウェンデルが、俺たちの様子を見てあざ笑った。


「くっくっく。さあ、どうする? 発動させる前にアイツの首を魔道具ごと吹き飛ばせば、爆発する前になんとかできるかもしれないが」


 ウェンデルが調子を取り戻したかのようににやにやと笑いだした。俺は無言であいつらを睨むことしかできない。


「何ともえげつないことをすると思うけど、粗悪品を使ったのが運の尽きね。こういう計画の時こそ、ちゃんとした品を使わないといけないのに」


 メリッサが懐から道具を取り出した。


 短い紐がつけられた、小さな鈴。


 そうか。メリッサはあれをやるつもりなのか。


「わ、若・・・。俺は・・・」


 べリアンが手を伸ばした。駆け寄りたいのはやまやまだが、今近づけば俺もべリアンも命を失ってしまうだろう。


「さて。魔道具を無効化できるのはベール家の専売特許というわけではないことを見せてあげる。我がラッセ家の秘術。しかとご賞味あれ、ですわ」


 りーーーん。


「ベフライウング」


 鈴を鳴らすと同時にメリッサが静かに呪文を唱えた。


 メリッサを中心に展開される、赤い波動。それは、敵味方関係なく、周りのすべての人に直撃していく。


「!! なんだ!? なにもない? 驚かせてくれる」


 ウェンデルがどこか安堵したような声を上げた。


 メリッサが放った赤い魔力は、誰にも影響を与えた様子はなかった。クラスメイトにもビューロウの戦士たちにも、そして黒づくめにも。


 もちろん、それだけで済むはずがない。


 ぱりーん! ぱりーん!


 破砕音がした。


 べリアンにつけられていたフラウボベが、音を立てて壊されたのだ。


「なっ! バカな!?」


 ウェンデルが絶句していた。メリッサの放った赤い波動は、フラウボベを完全に破壊したのだ。破壊音が何度か続いたのは、他にもあれをつけられた黒づくめがいたということか。


「ふふん! 私のベフライウングは、狙った魔道具を壊すことができるんですよ。高度な魔道具ならある程度は抵抗があるけど、そんな粗悪品なんて、私の秘術にかかればひとたまりもないわ」


 メリッサは俺にうなずくと、そっと微笑んだ。


「べリアン!」


 立ち上がったべリアンに慌てて駆け寄った。


「わ、若・・・。俺、どうしたんだ?」

「いい! 大丈夫だから! 何も言うな!」


 俺は涙ながらにべリアンを抱きしめた。べリアンは、呆然としたように俺を見ている。


「ば、馬鹿な! 無傷で終わるだと!?」


 ウェンデルは悔しそうな顔をしていた。それを見て、メリッサが誇らし気に胸を張っている。


 こちらを見てにやりと笑ったのはアメリーだった。


「さて、頼みの綱のべリアン様は解放しました。お姉さまの言うところの『年貢の納め時』というヤツですね。おとなしく、お縄につきなさい」


 アメリーが刀を突き付けると、ウェンデルは悔しそうに歯をかみしめたのだった。

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