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星持ちの少女は赤の秘剣で夢を断つ  作者: 小谷草
第3章 星持ち少女の帰郷
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第54話 4日目の過ごし方

 4日目の朝食は、いつも以上に騒がしかった。


「朝からこんなに入らないと思いましたが、意外と入るものですね」

「ね! 最初に見たときは絶対無理だって思ってたけど、意外とするする食べられるよね! このお豆腐なんて本当においしくて!」


 楽しそうに食べているのはフォルカー様とニナ様だった。


「うん! おいしい! というか、朝からこれだとちょっと体重が怖いんだけど」

「ちょっと! いやなこと思い出させないで! この休みの間だけは忘れていたいのよ!」


 カトリンとエーファは仲良く喧嘩している。


「はぁ・・・。このお澄まし、いい!」

「このお漬物もいいですよ。このメニューを考えた人って天才ですよね。私はこの後のデザートが楽しみなんですよ!」


 ハイリ―様とデメトリオ様も楽しそうだった。


 一方で、口数少なく静かに食べるクラスメイトもいた。


「エリ。大丈夫ですか? あまり根を詰めすぎないようにしてくださいね」

「え、ええ。ありがとう。でも、あと少しでこの地から離れてしまう。今頑張るしかないのだから。あなたも、ここで魔法のことを調べたいのでしょう? もう3日しかないのだから急がないと」


 セブリアン様とエリザベート様が深刻な顔で話し合っている。私も少し心配になったが、結局口に出すことはできなかった。


 元気がないのはエリザベート様だけではなかった。


「ギオマー。その、べリアンは?」

「いや。まだ帰ってきていない。一昨日に、出かけたままなんだ。土地勘がないから手伝うこともできん。子爵代理には迷惑をかけるが、こればっかりはこの領の人を頼るしかない」


 心配そうに尋ねるメリッサ様に、ギオマー様は力なく首を振るだけだった。


 ギオマー様の護衛のべリアンは、口調こそ気安いものの、仕事に手を抜くタイプではないそうだ。なのに、一昨日に出掛けたっきりその姿を見かけたことはないらしい。


「捜索に当たっているグンターはこの領で指折りの風魔法の使い手です。祖父も頼りにしている人で、失せ物失せ人ならすぐに見つけてくれるはずです。今は、待つしかないのが辛いところですけどね」


 グンターは小さいころからお世話になった人で、養い子のヤンやウドはホルストお兄様やデニスお兄様の専任武官を務めるほどだ。彼が指揮を執ってくれたなら簡単に見つかるはずなんだけど・・・。いまだに見つかったという報告はない。


「これだけ見つからないというのは異常ですよね。土地勘がないにしろ、何か痕跡くらいは見つかると思うんですけどね」


 私もちょっと責任を感じて落ち込んでしまう。グンターは優秀なはずなのに、ここまで見つからないなんて・・・。


 なにか、魔法を使った隠蔽でも行われたとしか思えない。


「ふむ。なかなかおもしろそうだな。この領地の戦士たちでも見つけられないという事態とはな」


 口をはさんできたのはコルネリウス様だった。面白がるような口調にギオマー様とメリッサ様が眉を顰めた。だけど、コルネリウス様は構わずに話を続けた。


「ビューロウの戦士たちの練度は高い。魔法使いとして高名な当主がかかわったのなら、捜索部隊の練度も相当だろう。それなのに見つからないとはな。魔法で妨害がかかっているというのが妥当なところだろう」


 やはり、コルネリウス様もそういう結論になるということか。


「いいだろう。俺のほうでも探ってみよう」


 急に立ち上がったコルネリウス様を意外な思いで見つめた。今までのコルネリウス様なら、こんな事態があっても我関せずの態度を崩さなかっただろう。まあ、私たちは貴族だからよっぽど親しくない限り手を貸したりしないのだけど。


「い、いいのか? お前が手伝ってくれると心強いが」

「ふっ。たまには力を出さんとな。俺の相棒を使えばこの領の捜索隊とはかち合うこともあるまい。あいつらは鼻が利く。ポリツァイ家の力をアピールするのもうってつけさ」


 コルネリウス様は、そのまま食堂の入口へと向かっていった。そして不意にこちらを振り返ると、にやりと笑いながらギオマー様に話しかけた。


「ギオマーはこの領でしかできないことがあるのだろう? こちらのことは専門家の俺たちに任せて、お前はお前のやるべきことをするといい。なに、俺が手を貸すからにはお前の護衛もすぐに見つけて見せるさ」


 そう言って、手を振りながら屋敷の外へと向かったのだった。



◆◆◆◆


「さて。私もそろそろ行かないと」


 そう言って立ち上がったのはエリザベート様だった。他のクラスメイトはどこか休暇中のような雰囲気があるが、彼女だけは疲労がたまっているようで顔色も悪い。


「しょうがないな。何に焦っているのかは知らないけど、まあ護衛なら任せていてくれ。ゲラルト先生だよりになるのはよくないからね」


 やれやれといった具合にカトリンが立ち上がった。


「カトリン。悪いわね」

「君は遊んでいるわけではないからね。君を守るのはボートカンプ家としての使命でもある。でも約束してくれ。あまり根を詰めすぎず、休憩をきちんと挟むんだよ。倒れてしまっては元も子もないからね」


 エリザベート様はそっとカトリンにうなずくと、一礼して食堂を後にした。カトリンとハイリ―様の小狸が続く。とてとてとかわいらしくついていった小狸を、私は癒されるような目で見送った。


「私、今日は本を読んで過ごそうかと思って。だってこの屋敷の図書室の本って学園よりもわかりやすいんだから。セブっちもそう言っていたし。あの解説書って偉大だよね!」


 ニナ様はそう言って、図書室に向かった。エーファはあきれながらも彼女についていき、フォルカー様とセブリアン様もその後に続いた。


 彼女たちを見送っている私に、グレーテが話しかけてきた。


「ではお嬢様。私たちも失礼します」

「ええ。あなたたちも気を付けてね」


 立ち去っていくグレーテの背中をそっと見送った。食堂の入り口にはシンザンもいて、私にそっと頭を下げた。


 彼女はシンザンと組んで行方不明のギオマー様の護衛を探しに行くのだ。シンザンは、剣の達人であると同時に風魔法の使い手でもある。ああ見えて、探し人ならグンターに次ぐ実力者なのだ。


「アメリーはどうするんです?」

「私は両親とちょっと話をしてからみんなの様子を見ようかなと。一応、ホストですからね」


 私が微笑みながら言うと、ハイリー様は笑顔を返してくれた。


「では、今日は不肖ながら私がついていかせていただきます。あなたの護衛や中央の騎士たちにも休みが必要でしょうし、今日は私は空いていますからね」


 私は驚いてしまう。ハイリ―様はとっつきやすい人物だが、彼女の家は伯爵位を持つ北の貴族でもある。


「何か申し訳ないですね。ハイリー様に来ていただくなんて。でも、ハイリ―様がついてきてくれるのなら安心です」

「ありがとうございます。私はデトキウ家に生まれた娘なので、要人の護衛をするのは慣れているんですよ。昨日と一昨日はゆっくりさせていただきましたし、今日くらいはお仕事させていただきます」


 穏やかにほほ笑む彼女に、私も思わず笑顔になった。ゴブリンシャーマンとの戦いで共闘したこともあって、この人とは親しい付き合いをするようになっている。今ではアーダ様と同じくらい、仲のいいクラスメイトなのだ。


 静かな外見に似合わず、彼女は強い。短剣を使った技もそうだし、土魔法を利用した隠蔽術も相当なものだ。以前はコルネリウス様と同じく対人に特化していたが、魔物討伐を通じてそちらのほうの腕も上がってきている。


「では、申し訳ないですがよろしくお願いします。ハイリ―様なら一緒にいても肩ひじ張らずに済みますし、腕が立つことも知っていますから安心です。まずは両親に会いに行って、その後図書室に行くという感じで過ごしましょうか」


 私が言うと、ハイリー様は笑顔で頷いてくれたのだった。

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