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星持ちの少女は赤の秘剣で夢を断つ  作者: 小谷草
第1章 星持ち少女と学園生活
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第5話 アメリーの相棒 ※ 後半 セブリアン視点

 あれから1週間が過ぎた。


 あのメンバーで何度かの討伐任務をこなしたが、結果は順調とは言えなかった。


 あの時のように想定以上の魔物が現れることはなかったものの、前衛のヘルムート様は相変わらず細かいミスをしていたし、アーダ様が思わず注意するのが恒例の出来事となっていた。例外はセブリアン様で、光魔法と刺突剣を使いこなし、魔物を見事に倒してくれていた。もはや、この部隊のメインの守り手はセブリアン様といっても過言ではないだろう。


「セブリアン様。今回の任務でもお見事でした。セブリアン様が牽制してくれたおかげで、今回も何とか無事に任務をこなせたと思います」

「い、いえ。そんなことはないですよ。僕なんてまだまだです」


 私がほめても、セブリアン様は恐縮するように手を前で振った。そしてすぐに思案顔になった。


「正直、僕が部隊を率いてもこんなに簡単にはいかないと思います。この部隊はアメリー様とアーダ様が優秀すぎます。僕がちょっと足止めしただけで魔物を簡単に仕留めてくれるわけですからね」


 まあ、その気持ちもわかる。私はもちろん、アーダ様も見事な働きをしてくれている。セブリアン様が魔物の態勢を崩すと、すかさず魔法で仕留めてくれているのだ。決して色の濃い魔法ではないのに、それでも的確にダメージを与えるのは見事というほかない。それでいて、ヘルムート様への援護にも余念がない。探索の腕も見事だし、魔法使いとして隙が無いのだ。


 もっとも、彼女に問題がないわけではないのだけれど。


「アーダ様。今回もフォロー、ありがとうございました。この隊が怪我人なく任務を終えられているのはすべてアーダ様のおかげだと思っております」

「いや・・・。その・・・。うん」


 私が声をかけてもアーダ様は短く言葉を返すことしかしてくれない。戦闘中はヘルムート様たちにはっきりと指示を出しているのに、終わった後は急に寡黙になってしまう。何度も討伐任務でご一緒しているのに、アーダ様とはいまだにうまくコミュニケーションが取れないのだ。


 私は溜息を吐きそうになりながらもう一人の同行者に声をかけた。こうやって声をかけるのがリーダーの役割だけれど、あまりうまくいっているとは言えない。


「ヘルムート様も、今日は位置取りが良かったかと思いますわ。前回と違い、魔物に後衛が接敵されることもなかったと思いますし」


 私は何とか声をかけたが、ヘルムート様は私をにらみつけるとそのまま去っていった。私は溜息を吐きながら、そっと彼の後ろ姿を見送った。


 結局、最後まで彼とはうまく付き合うことはできなかったな。


 残念に思いながらも、私も学園長が待つ学園へと足を進めるのだった。



◆◆◆◆


 学園に戻ると、いつかのように学園長室に呼ばれた。私たちが入室すると、学園長のバルバラ様が笑顔で迎えてくれた。


「皆様。ご苦労様でした。特に討伐経験者の皆様には後進の指導で大変な思いをされたと思います。これからは、討伐経験の浅かった人同士が組んで、それぞれの力量にあった相手と戦っていただきます。そのほうが、各々の成長につながると思いますから」


 学園長室にどよめきが走った。セブリアン様が驚愕の表情を浮かべていたし、ヘルムート様は嬉しそうな笑みを見せていた。おそらく彼は、子爵である私の指揮下にいるのが不満だったのだろう。


「さて。討伐経験の浅かった皆様の編成はこちらで考えさせていただきますが、指導役をこなした皆様の要望は聞き届けたいと思っております。何か希望があるのでしたら聞きますよ」


 私は思わず目を瞬かせた。今回で指導が終わることは予測していたが、まさかこちらの要望がかなえられるとは思わなかったのだ。


「前任のレオンハルト君はこまめにメンバーを変えていたけど、正直今はその余裕がないの。戦える上級生の多くが北に行ってしまったからね。だから、しばらくは固定メンバーで組んで、少しばかり厄介な相手を倒してもらおうかと思うんだけど・・・。あ、エリザベート様とロータル様とアメリー様はそのまま隊を率いてもらいます。3人とも、指揮官としての素質は十分ですからね」


 バルバラ様の言葉に真っ先に答えたのはエリザベート様だった。


「私は、このままエーファ様とご一緒できればと思います。これまでの討伐で彼女が非常に頼りになることは分かりました。これからも私を支えてくれたらこれ以上の望みはありませんわ」


 エリザベート様は意味ありげに私を見ながらそう言った。


「わかりました。エリザベート様はエーファ様と組めるよう手配いたします。エーファ様もそれでよろしいでしょうか」


 エーファは何か言おうとしたが、結局何も言わずに頷いた。


 やられた、と思った。私が動揺している隙に、友人のエーファと組むことができなくなってしまったのだ。エリザベート様ならエーファを無碍に扱ったりしないと思うが、それでも友人と一緒に討伐できなくなって気落ちしてしまう。


「あ・・・。わ、私もできればアーダ様とご一緒したいですわ。彼女は非常に頼りになる人材ですから。同じパーティに組ませていただくことができればこれ以上安心なことはありません。もちろん、本人のご意思によりますけど」


 やはり頼りになる仲間は一人は欲しい。そう思ってアーダ様と組めるよう言ったのだけど、言われた本人は驚いたような顔をしていた。隣のエリザベート様が私たちを意味ありげに一瞥したのが見えた。


「ということですが、アーダ様、いかがです? あなたが希望されるのでしたら、アメリー様と組めるようにご手配いたしますが」

「あ、は、はい。その・・・。私なんかがお役に立てるかわかりませんが、アメリー様とご一緒できるなら光栄です・・・」


 アーダ様が小さな声を聞いてほっとした。どうやら彼女とはこれからも一緒に戦うことができるようだった。頼りになる人と組めるようになってちょっとだけ安心できた。同じ東の貴族だし、うまく会話できないとはいえ彼女がいてくれると心強い。


「じゃあ僕もいいかな。僕はエリザベート様と一緒の組を希望する。彼女を守るのは面白そうだしね」


 そう宣言したのはカトリンだった。彼女は今回の討伐ではロータル様と組んでいたようだけど、この機会にエリザベート様、というよりはエーファと組むことを言ってくれたのだ。


 東の貴族であるエーファが西の重鎮であるエリザベート様とうまくやれないのではという不安があった。だけど、西の貴族でありながら友人のカトリンが間に入ってくれるなら、エーファが板挟みになることはないと思う。


「では、エリザベート様はエーファ様とカトリン様と、アメリー様はアーダ様と組むように手配いたします。それ以外は、今まで通り学園でパーティの編成を任せていただきますね」


 私はほっとしたように、学園長に一礼するのだった。



◆◆◆◆


「本当に私と組むのでいいのか? 星持ちのアメリーなら、もっといい相手がいたと思うが」


 学園長室から教室に戻る道すがら、アーダ様が声をかけてきた。


「ええ。アーダ様が組んでくださるとこれ以上安心なことはありませんわ。その、姉は毎回討伐にご一緒するメンバーが違って苦労したと言ってましたし」


 まあお姉さまはなんだかんだでうまくやってたみたいですけど。


「私の場合、編成されたメンバーによって役割を変えなければなりません。そうした中で一人、私のやり方を知っている人がいると心強いのです」


 ロジーネちゃんがいれば一緒に組んでもらったけど、今は彼女は北に行ってしまった。頼れる人がいない中でアーダ様のような優秀な魔法使いと組めるのは正直助かるのだ。


「いや・・・。私はレベル3の素質もないし、闇魔法もこれまで使う機会もなかった。星持ちのアメリーと比べて本当に大したことはないのだ・・・」


 しりすぼみになりながら説明するアーダ様に私は笑顔で答えた。


「祖父の教えなんですけど、素質は確かに重要だけどそれがすべてではない。大事なのはその人がどんなことをできるようになったかです。討伐でご一緒した限り、アーダ様は本当に頼りになる魔法使いだと判断しました。爵位が上のアーダ様にこんなことを言うのは僭越かもしれませんが、今後もご一緒できれば心強いと思ったのです」


 私が伝えると、アーダ様は涙目になりながら何度もうなずいた。


 こうして、私は有能な魔法使いであるアーダ様と組むことになったのだ。



※ セブリアン視点


「はっ! やっと東の星持ちから解放されたぜ。子爵ごときの下につくなんぞ耐えられなかったんだよ」


 ヘルムートはそんなことを漏らした。僕は溜息を吐きながら、それでも彼に同意することはなかった。


「東の根暗もうるさかったんだよな! あれこれ口出ししやがって! 同じ伯爵家だからって何様だって感じだよ! レベル3の素質もない、伯爵家の味噌っかすのくせに!」


 ヘルムートの愚痴を聞き流しながらこれまでの討伐任務を振り返った。


 アーダの指摘はもっともなことばかりだった。私が指摘を受けることは少なかったが、彼女のおかげで気づくことも多く、いろいろ勉強させてもらったと思う。


 何より星持ちのアメリーと組めたのは本当にいい経験になった。前衛、中衛、後衛とすべての役割をこなしていたし、彼女の援護がどれほど私たちを助けてくれていたかは想像だにできない。


「見てろよ! これから俺の力を見せてやるからな! はっ! 西で鳴らしたノード家の力! 思い知らせてやるよ!」


 ヘルムートの叫びを聞きながら、そんなに甘いものではないと思った。


 次からの討伐任務では、間違っていたり危うかった点を指摘してくれる魔法使いはいない。まして、わずかなスキをついて魔物を仕留めてくれる星持ちはいないのだ。自分を立ててくれる仲間なしに、ヘルムートがどれだけのことができるか――。彼の思うような成果は上げられないだろう。


 私は溜息を吐きたい気持ちになった。もしかしたら、またヘルムートと組むことになるかもしれない。経験豊富な仲間がいない中で、果たして無事に任務をこなすことができるだろうか――。


 意気込むヘルムートを眺めながらそんなことを考えたのだった。

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