表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星持ちの少女は赤の秘剣で夢を断つ  作者: 小谷草
第3章 星持ち少女の帰郷
48/157

第48話 ビューロウの道場

「うおおおおおおお!」

「どらああああああ!」


 道場に声が響いていた。訓練生同士が激しく木刀を打ち合わせているのだ。


「すごい気迫ですね。こっちまで振動が伝わってきましたよ」

「さすがは武の三大貴族といったところだね。打ち合い稽古一つでこんなに真剣に取り組むとは」


 フォルカー様とセブリアン様が静かに試合を見ていた。2人とも近接の魔法使いとあって鋭い目で試合運びを見ている。


「ええ。でも、ちょっと動きが遅くないかしら? 討伐任務に就く守り手や攻め手はもっと早いような・・・。このあたりが、貴族と平民の差ということ?」


 エリザベート様が疑問を口にしたんだけど・・・。


「ああ。それはわざとです。ここにいる練習生は、あえて身体強化を使っていないんですよ」


 私が言うと、彼女は驚いた目で振り返った。


「これはお姉さまが言ってたことなんですけど、魔力による強化と体の使い方はまったくの別物です。体の使い方が下手でも魔力があればある程度はごまかしがきいてしまうけど、それでは本当に強くなったとは言えません。だから、ここにいる練習生はみんな、魔力を一切使わないで戦う技術を磨いているんです」


 私の言葉に納得したのはコルネリウス様だった。


「そうだな。俺も、魔力なしでも戦えるよう体を鍛えている。そうか。ここにいる連中は、魔力なしで戦うための技術をしっかりと身に着けているというのだな」

「確かに貴族の魔力があれば腕力やスピードが強化されるから、多少技術が足りなくても何とかなったりする。だから、学園でもある程度の技術しかない近接戦闘者を目にするけど、ここまで徹底しているとはね」


 カトリンもそう言ってくれたが、反対に納得していないのがエリザベート様だった。


「でも、戦闘に魔力の上下は大きく関係してしまうわ。やはり魔力量や資質の高い人のほうが有利なのは確かでしょう?」


 私はうなずいた。


「ええ。確かに魔力量が多い貴族のほうが有利です。でも、魔力を展開しなくてはならない場面はごくわずかです。必要な時、必要なだけ使えれば事足ります。特に平民の場合は使える魔力量が限られてしまいますから。だから、ビューロウでは剣術とは別に魔力の使い方——魔力制御を集中して鍛えているんです」


 私の説明に、全員の視線が集中していた。


「少ない魔力でもタイミングよく使えば、魔力障壁を破壊するほどの力を発揮できる。剣術の腕と、魔力の使い方。その2つを個別に鍛えることで、魔力障壁を持つ魔物すらも倒せる技を使えるようになるのです」


 エリザベート様は何度もうなずいている。


「その理屈は分かるわ。あの本にも書いてあった理論ね。1体当たりの敵に使う魔力は意外と少ないのだと。でも、魔力を滑らかに動かせるようになるには、相当の訓練が必要で、それには大量の魔力が必要になるはずだけど?」


 エリザベート様の言葉に、セブリアン様が静かに頷いていた。おそらく彼にもエリザベート様の言ったことに心当たりがあったのだろう。


「そこで魔道具の出番なんです。ビューロウには当主のおじいさまがいます。魔法技師としても素晴らしい腕を持つおじいさまなら、少ない魔力でも技術を磨く術を用意できたんです」


 私は得意げに胸を張った。そして道場の奥の部屋を指さした。


「ビューロウでは体を鍛える修行とは別に魔力を扱う技術を鍛えています。そして、座学も。あの部屋で、練習生が魔力を鍛える訓練をしているんです」


 見学に訪れた誰かが喉を鳴らす音が聞こえたのだった。



◆◆◆◆


 部屋に入ると、教官役の人が私に一礼してきた。私は気にしないでという意味を込めて手を振ると、みんなを呼ぶために振り返った。


 練習生たちは一瞬手を止めて私を見たが、すぐに下を向いて作業を再開した。


「これは・・・。魔力板? みんな一心不乱に、魔力板の訓練をしているとでもいうの?」

「ああ。確かに魔力板だ。でも、魔力板の訓練なんて、もう何年もやってないよ。ある程度の魔力制御ならすぐに身につくし、あとは術式を覚えるだけじゃないのか?」


 エリザベート様とカトリンが驚きの声を漏らした。


 魔力板とは、ノート大の透明な板を2つ張り合わせ、中に玉が入った単純な魔道具だ。下の板には簡単な通路が書かれていて、中の玉は魔力で動かすことができる。魔法をスムーズに使うために、板の模様通りに玉を動かせるようにして、魔力制御と鍛える。もっとも、通常はある程度技術が身に着くと次の段階に行くのだけど・・・。


 私は苦笑すると、奥の棚に置いてある魔力板を一つ手に取った。


「これ、おじいさまの特注品なんです。通常の魔力板はどの属性でも中の玉が動くようになっていますが、これは違います。決まった属性で、一定の濃さじゃないと動かなくなっていて、属性を絞って色やスピードを訓練することができるんです。中の玉の速さもいろいろ違うんですよ」


 カトリンが興味深そうに魔力板を手に取った。そして、操作しようとしたが、戸惑ったように顔をしかめた。


「なんだこれ? 中の玉が全然動かないんだけど。えっと、ここに書かれている色に合わせると動かせるんだよな? 僕がやるには低すぎるってことかな」

「ええ。それはレベル1の板ですから、カトリンやエリザベート様が修行するにはちょっと色が薄すぎるかもですね」


 高い水の資質を持つ彼らでは、この魔力板を動かせれるほど色を薄くするのは困難だと思う。


 私は部屋の奥にある棚に向かった。そこで取り出したのは、レベル3の水の板だ。レベル3ほどの板は訓練生では扱えないので、数が少ない。一応、この棚にある予備しかないのだけれど・・・。


 手渡すとカトリンはすぐに魔力板を操作しようとした。だけど、思うように中の玉を動かせないようだった。彼女はイラついたように、魔力板を睨んでいた。私は苦笑して、カトリンに語り掛けた。


「そのレベルは結構シビアで、魔力の色が薄くても濃くても動かないんです。色の濃さの調整もそうですが、スピードなんかも変わっちゃってて、少し魔力を込めただけですごく動いたりするものもあるんですよ。だから、少ない魔力で技術を磨くのに効果的なんです」


 カトリンは恐る恐るといった具合に魔力を調整した。そしてある一定の濃さになると中の玉が動き出す。彼女が思った以上のスピードが出たようで、主通りに行かない作業に何かを吐き捨てながら頭を掻いた。


「なんだ、これ! 全然うまく動かせないんだけど! ちょっと魔力を込めただけで予想以上に動いちゃうし! こんなのクリアできないだろ!」

「いえ。今北に行っている2人はこれより難易度が高い魔力板を難なくクリアしていました。まああの2人はちょっとおかしいというか、魔力制御の腕は比類する人がいないというか・・・。それこそ何年も訓練した成果なんですけどね」


 コルネリウス様も試したようだけど、すぐに失敗して悔しげに板を睨み、カトリンに手渡していた。


「ふむ。ダクマー君が道場に持ってきたのと同じものか。これなら、少ない魔力でも効率的に制御を学ぶことができるからな」


 そういえば、お姉さまがこれと同じものを学園にもっていってたわね。そして、さすがは教師のゲラルト先生。先生が手に取ったのはレベル2の魔力板だけど難なくクリアして見せた。あれはかなり難易度が高い水の板なのに、すぐにクリアするとは・・・。メラニー先生たちが信頼するだけのことはある。周りの練習生たちもあっけにとられたように先生を見ていた。


 エリザベート様が、カトリンから魔力板を受け取った。そして丁寧な手つきで魔力板を撫でつけると、私の目を見て問いかけてきた。


「これを、いただくことはできないかしら。多分これは、私に一番必要なものだから」


 私は絶句してしまった。魔力板は普通、それほど高価なものではない。貴族ではない平民のにも使われる程度の魔道具だ。ヴァッサー家の直系たる彼女が、おじいさまのお手製とはいえ欲しがるとは思わなかった。


「すみません。これは特注品で、おじい様意外に作れる人がいなくて。うちの魔法技師も頑張ってはくれているけど再現できないようで・・・。制作した本人もいないことだし、お譲りすることはできないんです」


 私は申し訳なく思うが、きっぱりと断った。何しろこれは、おじいさまの所有物だ。好意で使わせてもらっているものだから、私の独断でお譲りすることはできない。


「そう・・・。そうよね。あなたのものではないのなら、勝手に譲ることなんてできないわよね」

「申し訳ありません。私のは火属性で、エリザベート様が使うには適さないと思います。その、レベルもかかわってくる問題ですし」


 この魔力板は、当然のことながら資質によって難易度が変わってくる。私の場合は火属性の資質が高いので、土に比べるとかなり簡単に動かせる。まあ、その分色を薄くするのは難しくなるのだけど。


 エリザベート様は残念そうに溜息を吐いた。正直、ちょっとだけ不安だったのだ。彼女はあの、西の重鎮たるヴァッサー家の娘だ。爵位を盾に、強引に譲れと言われたら、逆らうことができるかどうか・・・。


 でも彼女はそんなことは言わず、全く違うことを懇願してきた。


「じゃあ、ここにいる間はこれで訓練させてもらってもいいかしら。私は絶対に、この技術を習得しなければならないの。ここにいる間だけでいいから」


 いつになく強い目でエリザベート様は私を見た。強引に奪われるようなことを言われなくて、私はほっとしながら彼女に返事をした。


「ええ。ここにいる間でしたらご自由に。本当はお譲りできればよかったんですけどね。複製の許可はあるし、製法も公開しているけど、相当の技術が必要らしいので」


 私は言って、本館のほうを見た。


「魔道具と言えばギオマー様ですけど、そういえば彼らは大丈夫ですかね。父が案内するとか言って張り切ってましたけど」


 エリザベート様もつられるように本館を見た。おそらくかなりの数のクラスメイトがお父様の案内で図書室に行っているはずだ。うちの図書室には大量の本があって、魔法使いなら参考になるものもあるかもしれないのだけれど・・・。


 彼女はすぐに視線を戻した。そして戸惑う私たちを振り返ることなく、魔力板が置かれた棚を見つめだした。


「じゃあ、悪いけど私はここで訓練させてもらうわ。時間は、わずか5日間しかない。少しでも多く、訓練を重ねないと・・・」


 彼女はわき目も降らず訓練を始めたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ