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星持ちの少女は赤の秘剣で夢を断つ  作者: 小谷草
第2章 星持ち少女と学園の仲間たち
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第29話 久しぶりの討伐任務

 3学期が始まって2週間目のことだった。ついに、私に討伐任務が課せられた。


「きたきたきたー!! やっと来たね! 私の力を見せるときが来たんだよ!」


 燃えているのはニナ様だった。フォルカー様は仕方ないといったように首を振っている。


「ニナ様、張り切っていますね。一応犯罪者に狙われるかもしれないというのに、そんなことまるで気にしていないようですし」

「ニナ様は容姿もいいし、光魔法の素質も高い。誘拐されたり狙われたりっていうのは彼女にとっては日常茶飯事といったところかもしれないな」


 セブリアン様とアーダ様がそんな話をしていた。


 今までは毎回メンバーが変わっていた私だけど、3学期からはこの5人で組むことが決まったようだった。フォルカー様は一人前とは言えないかもしれないが、セブリアン様は中衛だけど守り手としての動きもできる。光魔法を学んだことでずいぶんと成長したようなのだ。


「おーい! 1年生たち! そろそろ出発するぞ! 魔物を逃がすわけにはいかないからな!」


 前のほうで2年生の生徒が手を振った。以前ご一緒するジークさんたちの隊だ。


 私たちと一緒に戦う部隊が増えるかもしれないというコルネリウス様の予測は当たった。私の部隊は単独ではなく、他の隊と一緒に戦うことになったのだ。ただし、同行するのは同級生ではなく上級生の、討伐に慣れた部隊なのだけど。


 今日一緒に戦ってくれるのは、2年生のジークさんたちの部隊だった。


 ジークさんたちのメンバーは、クリストフさんとマーヤさん、そして南の貴族のエルケさんだった。エルケさん以外とは組んだ経験があるので、ちょっと安心できる。みんな、気のいい人ばかりなのだから。


「呼ばれたね。えっと、上級生だけど中位クラスの人たちだよね? 大丈夫かな」

「ジークさんとマーヤさんは私が初めて討伐任務を経験したときに一緒に戦ったことがあるんですが、実力は十分でしたね。なにせ、あの姉に合わせて戦うことができましたから。上級生でも一二を争うほど強いんじゃないでしょうか」


 私が答えると、セブリアン様は驚いたような顔をした。


「アメリー様のお姉さんって、確か闇魔の四天王を2体も倒した人ですよね? それに私たちのクラスの最初の討伐任務を任されたなんて、相当の部隊ってわけですね」

「あの部隊のマーヤ様は私の幼馴染でもあるんです。学園側はそのことも吟味してくれたんじゃないですかね。後ろの教師たちの部隊も、なんだか相当に強そうですし」


 私はちらりと後ろを見た。


 私たちを守るようについてきているのは教師が率いる部隊だった。先頭にいるのは、ガスパーというメレンドルフ家出身の教師で、ダクマーお姉さまのクラスの担任をしていたらしい。私もこの間一緒に討伐をしたことがあるけど、すさばじいほどの槍の使い手で、詰め寄ってくるヘルムート様を一瞬で牽制したっけ。


「確か、担任を任せられるのって相当に優秀な教師だと聞いたことがあります。中位クラスの担任の先生がついてくれるだなんて、学園側もかなり気を使っているのですね」

「あの教師、確かメレンドルフ本家出身だったよな? メレンドルフの槍は相当に強力だからな。まあ、相手が100人切りの犯罪者でも、何とかしてくれるんじゃないか?」


 私のつぶやきにアーダ様が答えてくれた。


「今回の魔物はキラーエイプ。耐久力はそこまでではないけど、得意の赤の魔力で一瞬だけ体を強化することができる。その機動力には目を見張るものがあり、特に森での動きは相当に厄介。だから僕たち守り手は、後衛を攻撃されないように気を張らなきゃいけない・・・」


 ぶつぶつとつぶやいたのはフォルカー様だ。どこか気楽なニナ様とは対照的に、思いつめたような表情で魔物の情報を反復している。


「フォルカー様。セブリアン様もいますし、私だって動けます。責任を重く感じすぎないでくださいね」


 私がそう言っても、フォルカー様の表情は変わらない。緊張した顔で頷いたけど、動きは固くなったままだった。


 その時、前の部隊から緑の魔力があたりに広がっていった。おそらく、マーヤ様が探索魔法を使ったのだろう。そしてハンドサインでこのまま進むことを知らせてくれた。私たちが了承のサインをすると、上級生たちの部隊は前に進んでいく。


「この先300歩ほどの場所にキラーエイプを見つけた、か。さすがマーヤ様。探索魔法はお手の物ということね。護衛獣を召喚しても、あんまり関係ないということか」


 私は幼馴染の顔を思い浮かべて微笑んだ。


 マーヤ様、この前会ったときに護衛獣と契約したと言ってたけど、相変わらずの風魔法で、その影響もないようだった。彼女が召喚したのは白いきつねで、任務の前に見たけど3本のしっぽがかわいらしい。彼女はビヴァリーさんからコツを聞いて目当ての獣を召喚したようだけど、あのかわいらしさを見ると少しうらやましくなってしまう。


「ほらフォルカー! 行くよ! 先輩たちに送れるわけにはいかないからね」


 ニナ様の声に現実に引き戻された。フォルカー様はすぐに先頭に立って歩きだしていく。私も慌ててフォルカー様の後に続くのだった。



◆◆◆◆


「この! この!」


 フォルカー様が必死で短杖を振り、キラーエイプにとどめを刺していく。


「レイ!」

「ウォータ!」


 私とアーダ様の魔法が残りのキラーエイプたちを貫いていく。やっとのことで魔物を倒したけど、みんな怪我もないようでちょっと安心だ。


「おお~! 危なげなくやれたね! フォルカーもすごいじゃん!」


 奮闘する私たちを、ニナ様が笑顔で応援してくれた。


 まあ、彼女は癒し手だからあまりすることがなかったりする。下手に攻撃して魔物に狙われても厄介だ。彼女が狙われたら、まだ守り手としての経験の浅いフォルカー様には対処できない可能性もあった。


「向こうも終わったようですね。こちらより敵の数は多いはずなのに、もう仕留めてしまうなんて。さすが上級生といったところですか」


 セブリアン様の言葉に前の部隊を確認すると、向こうもどうやら終わったみたいだった。さすがジーク様達の部隊だ。こちらよりも多いはずの魔物を、あっさりと仕留めてみせるなんて。


「! なんだ?」


 アーダ様が怪訝な顔をしたのはそんな時だった。そして同時に、前の部隊から緑の魔力が通り過ぎていく。あれは、探索魔法。向こうもすぐに、索敵を開始したらしい。


「あれ!? 先輩たち、なんか手を振り回してるよ? ハンドサイン!? 何かを伝えようとしてる?」

「!! ニナ! 構えて! なんかがこっちに近づいてきてる!」


 私たちはあわてて戦闘態勢を取った。私たちの左側から、何かが近づいてきてる!?


「フィーデン!」


 アーダ様が風魔法を放った。四方に飛んだ魔力は、いつもより早いタイミングでアーダ様の元へと戻っていく。あれは、探索範囲を短くした代わりに短時間で調査できるよう調整したのか。さすがはアーダ様。こうした魔法の調整はお手のものらしい。


「早い、だと!? 2体! すぐに接敵するぞ! フォルカー! セブリアン!」


 アーダ様が叫んだその時だった。セブリアン様めがけて、黒い何かが飛びついてきたのだ!


「くっ! この程度で!」


 セブリアン様が刺突剣で勢いを反らし、魔物の突進を躱していく。同時にニナ様を狙った攻撃は、フォルカー様が盾になって防いでいた。


「イナグーシャ・・・! 連邦に巣くう魔物が、こんなところまで現れるなんて!」


 硬い殻に覆われた体に、昆虫のような足が6本も生えている。この前見た2足歩行の魔物とは違っているが、その顔はあれと驚くほど似ていた。複眼に、線が入ったような口。バッタのようなその顔は、あの時と同じイナグーシャに違いなかった。


「風よ!」


 アーダ様が魔法を放つが、魔物の勢いは止まらない。固い殻に防がれて、アーダ様の魔法ではダメージを与えることができないのだ。


「魔法が効かないのなら!」


 私はニナ様を襲った魔物に素早く近づく。そして間合いに入ると、素早く刀を抜き放った!


「やああああああ!」


 抜き放たれた一撃は、魔物の顔を一瞬で切り裂いた。だけど顔を切り裂かれたにもかかわらず、魔物は素早く後ろに下がっていく。


 でも、顔を切っても動ける魔物がいるのは想定内よ!


「消えなさい! フランベルジュ!」


 私は左手を突き付け、大きな炎の剣を作り出す。炎の剣はそのまま直進すると、逃げようとする魔物の頭から胸にかけてを焼き尽くしていく!


「おお! すごい! あの強そうな魔物を焼き尽くすなんて!」

 

 頭だけを焼いても動くかもしれない。でも、魔核ごと消し去れば、魔物を確実に倒すことができるはずだ!


 予想通りだった。上半身を焼き尽くされた魔物は動くことはなかった。フォルカー様が油断なく魔物の死骸を見張っているが、あの魔物は死んだといっていいと思う。


「ふっ! はぁ! やあ!」


 もう一匹の魔物と早退しているのはセブリアン様だ。アーダ様の的確な援護もあって、反撃を許さずに足止めしている。でも火力が足りないせいか、小さな傷はつけられても相手を仕留めるには至らないようだった。


 やはり、私が行くしかないか。そう思って次の魔法を構築しようとした時だった。いつの間にか魔物の後ろに接近していた影が、槍の鋭い一撃でその頭を貫いたのだ!


「!!!!!」


 影は素早く槍を引き抜くと、2撃、3撃と続けて槍を放った。頭や胸を穴だらけにされたイナグーシャは、崩れるように倒れていく。


「これが、連邦でおそれられた魔物か。確かに少しばかり固くて厄介だったな。学生や一般の冒険者にはかなり厳しい相手かもしれん」


 そう言って、槍を担いだ影――ガスパー先生はつぶやいた。


 やはり学園の教師は恐ろしいな。強力な槍の一撃もさることながら、恐るべきはその移動手段だ。気が付いたら先生はいつの間にか魔物のそばにいて、魔物を攻撃していた。私には、先生がいつの間に移動したのか、全然読めなかったのだから。


「学園に知らせろ。あまり見ないはずの魔物だ。サンプルはいくつあってもいいはず。弱点を調べつくして、学生でも倒せるようにしよう」


 ガスパー先生の言葉に、慌てて駆け寄ってきた大学生が上空へと火を放つ。おそらく花火を放ってこの場に回収部隊を呼び寄せるつもりだろう。さすがというか、やはり教師のやることには無駄がない。


 その時、何かに見られている気がして後方をにらみつけた。


「やっパリ教師は頼りになるね~。ん? アメリーっち。どうかした?」


 ニナ様の言葉に我に返った。


「いえ。何かに見られているような気がして。それよりも、ニナ様は大丈夫ですか? 怪我とかしていません?」

「大丈夫だよ。フォルカーとアメリーっちが助けてくれたしね。向こうの2人も、怪我はないようだしね」


 ニナ様が言うほうを見ると、セブリアン様とアーダ様がこちらに歩いてきたところだった。2人とも怪我はないようだ。特にセブリアン様は魔物と切り結んだのに、敵に触れられもしなかったのは、さすが光魔法の使い手ということか。


「セブリアン様もお疲れ様です。そちらも、怪我はないようですね」

「ガスパー様がすぐに援護してくださいましたからね。私も、光の魔力の使い方が少しわかってきたようですし」


 そう言ってほほ笑むセブリアン様に、私は笑顔を返した。


 セブリアン様は学園に来るまで光魔法をほとんど使ったことがないようだったのだ。というのも、彼が生まれたピレイル連邦では、光の魔力は「神をも恐れぬ大罪の力」として忌避されるものになっているらしいからだ。


「確か連邦では白の魔力は忌避されるものだと言われているそうですね」

「ええ。故郷では水の魔力こそが至高で、他の魔力はそれほど重視されないんですよね。特に光は、『反逆者の証』とかで素質があるとあまりいい顔はされなかったんです。向こうには水の巫女がいるし、水の資質が高ければすごく優遇されるんですけどね」


 まあ、この国でも『炎の巫女』とかあって、南のほうでは相当優遇されているそうですし。巫女に認定されたあの人は、南の貴族からあがめられたりと結構大変みたい。


「セブっちも苦労したんだね。あの帝国では闇の素質があると出世しやすかったりしたみたいだし、素質って国や時代によって優遇されたりされなかったりってあるんだよね。この国でも昔は闇魔法の使い手は迫害されたそうだし」


 振り返ると、ニナ様が笑顔で話に入ってきたところだった。


「あたしもだけど、セブっちもだいぶん討伐任務になれたよね。最初は結構戸惑ってたのにさ」

「ええ。まあ、アメリー様とアーダ様が本当に頼りになりますから、僕たちも安心して戦えるってことはあると思いますよ。おかげさまで、魔法の使い方も慣れてきましたし」


 ニナ様とセブリアン様は笑い合った。でも次の瞬間、ニナ様が真顔になった。


「私たちが討伐任務に就くようになってずいぶん経つよね? でも魔物の数が減ったようには見えないのはどういうことだろう。相当数の魔物を仕留めたはずだよね?」

「ああ。通常よりも部隊が多いのに一向に数が減らないのは気になるな。やはり、あのうわさは本当ということか」


 うわさ? アーダ様の言葉に興味をひかれた。


「アメリーも聞いたことがあるだろう? 召喚魔法を扱える魔物がいるかもって話。そいつがたびたび召喚魔法を使っているから、魔物の数が減らないんだって言われてるんだ」


 確か、闇魔は召喚魔法が使えて、1体現れるとかなりの数の魔物を呼び出したりするのよね。私も、故郷を襲われたことがあるからわかる。あの闇魔のように、魔物を召喚できる敵がいるのなら、相当に厄介なことになるかもしれない。


「1年生。そろそろ戻るぞ。あんまり遅くなると学園長を心配させてしまうからな」


 ガスパー先生の言葉に、私たちはあわてて帰り支度を始めるのだった。

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