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星持ちの少女は赤の秘剣で夢を断つ  作者: 小谷草
第2章 星持ち少女と学園の仲間たち
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第28話 アメリーと同行するための条件 ※ 後半 ヘルムート視点

「ふむ。報告書の通りだな。さすが優等生。基本はきちんと押さえられている。フェリシアーノがどんな剣を使ったか、よくわかったよ。やはりやつの身体強化は侮れないようだな」


 私の話を聞いて深くうなずいたのはコルネリウス様だった。ハイリー様も感心したように私を見ている。


「あの野郎を抑えたお前の護衛はクルーゲ流を使うんだってな。てことは、俺にも奴を止めることができるってことだ! 俺にも、あいつをやれる可能性が!」


 ヘルムート様が意気込むけど、私はそうは思わない。正直な話、ヘルムート様と私の護衛のグレーテとは腕前にかなりの違いがある。魔力は、確かに貴族であるヘルムート様のほうがあるかもしれない。身体強化だってきっと優れている。でも、剣術の腕前に差がありすぎる。おそらく、グレーテと戦っても、ヘルムート様は手も足も出ないのではないだろうか。


「奴はお前を狙っているんだな! ってことは、お前と一緒に行動していれば!」

「悪いけど、あなたとアメリーが組むことはないでしょうね。アメリーはセブリアン様やニナ様達と組むのが決まっているわ。未熟なあなたがアメリーと一緒に戦わせるなんて、学園長は絶対に認めないでしょうね」


 にらみつけるヘルムート様をまるで気にも留めず、エリザベート様は髪をいじり続けた。


「準備期間はもう終わったってことよ。あなたが再びアメリー様と一緒に戦う機会はない。組んでいた時に力を見せられたのなら可能性はあったでしょうが、その道も潰えてしまった。守り手として力を見せる機会なんて、もう訪れないでしょうね」


 ヘルムート様は何か言おうとしたが、それを遮ったのはエーファだった。


「そうね。アメリーがあなたと組むのは認められないわ。守り手として特段に優れているとは言えないからね。何しろアメリーは、東が誇る星持ち。英雄たるダクマー・ビューロウの妹で、さらにはロレーヌ家の令嬢、エレオノーラ様より特段の寵愛を受けている。東の貴族として、中途半端な実力者とは組ませられない」


 ヘルムート様がらみつけるが、エーファは涼しい顔だ。


「あなたは子爵令嬢のアメリーを過小評価しているみたいだけど、他の人はそうは思っていないわ。私たち東の貴族だけではくエリザベート様やコルネリウス様にとっても頼りになるクラスメイトだし、学園長たち教師陣にとってもなんとしても守り、育てなくてはならない重要人物よ。星持ちってそういうものだからね」


 エーファがヘルムート様を冷たい目で睨みながら宣言した。


「だがそいつらは中位クラスの奴らとも組んでいるんだぞ! 俺だって・・・」

「アメリーが組んでいたのは中位クラスでも特に戦闘経験がある人ばかりよ。北で大活躍しているアメリーのお姉さんたちも中位クラスだったんだからね。中位クラスや下位クラスにも戦闘で秀でた人は大勢いる。討伐経験をするようになったのに、そんなことにも気づかないの?」


 あざけるように言うエーファに、ヘルムート様は口ごもった。何か言い返そうとしているみたいだが、言葉が出てこないようだった。


「エーファ。仲間が貶められてイラつくのは分かるが、少しいいすぎだ。それくらいにしておけ」


 珍しいことに、コルネリウス様がそんな言葉でエーファを諫めてきた。いつもの彼ならこんな時に煽るようなことを言うのに、今回は珍しくエーファを止めたのだ。


「ヘルムート。エリザベートやエーファの言う通り、お前がアメリーと組める可能性は限りなく低いだろう。同じパーティになったとしてもお前がアメリーの指示に従うとは思えない。少なくとも、学園はそう判断するだろう。だが、アメリーを狙うフェリシアーノと、戦うチャンスがなくなったわけではない」


 思わずといった感じで、ヘルムート様がコルネリウス様のほうを見た。


「おそらく、アメリーの部隊が討伐任務を避けられることはないだろう。あれは学園生としての義務だからな。星持ちの力を見せる絶好の場でもあるし、ビューロウが犯罪者から逃げたという印象をつけるわけにはいかない。だが、このままというわけにもいくまい」


 コルネリウス様は薄く笑いながら言葉を続けた。


「教師陣の護衛に加えてもう一部隊、というところか。ひそかにアメリーを援護される部隊がつけられることになると思う。その部隊は学園生の中から選ばれることになる可能性がある。ひっそりと護衛対象を守る訓練になるのだからな」


 ヘルムート様は顔を輝かせた。


「そうか! 討伐任務で実力を示せば、俺がフェリシアーノを殺る機会が得られるってことか! 討伐任務で結果を出せば!」


 そう叫ぶと、ヘルムート様はずんずん歩いて部屋を出ていった。あまりの勢いに、誰も彼を止められなかった。


「コルネリウス」

「私はうそを言ったつもりはない。アメリーを援護する部隊が着くのは予想できることだろうからな。その部隊が、私たち学園生の中から選ばれるのも可能性としてはないわけではないのだからな」


 コルネリウス様はそういうが、私はちょっと疑問に思ってしまう。


 私をフェリシアーノを捕らえるためのおとりにするという話は分かる。私を狙わせることで隠れていたフェリシアーノをおびき出せるのだったら、それを利用しない手はないのだろう。でも、その部隊が学園生から選ばれる可能性は低いはずだ。おそらく、学園生ではなく隠密に優れた正規の騎士が選ばれるのではないだろうか。


「おっと。そんな顔をするなよ。私は可能性のことを言ったまでだ。そのことをヘルムートがどう感じるかはあいつ次第さ。だがこれで、奴の恨みがアメリーやエーファに向かわないのなら結構なことではないか」


 いつものようにあざけるように笑うコルネリウス様に、エーファは溜息を吐いた。予想したことだけど、この人も確信犯よね。きっと彼も、学園生から私をフォローする部隊が選ばれることはないと思っているのだろう。


 学園生から選ばれるとしても、相当に隠形と戦闘に長けた人物――コルネリウス様本人くらいではないだろうか、と。


「本当に厄介な人ね。ヘルムートと同じ部隊の生徒たちが困ってしまうことでしょうに」

「だが学園が誇る星持ちを煩わせるよりはましだろうさ。奴の部隊員にとってもいい経験になる。なにせ、厄介な隊員を使いこなすための何よりの訓練になるだろうからな。まあ奴の部隊にはドミニクの奴もいるし、大変だとは思うがね」


 ため息を吐くエリザベート様に、コルネリウス様は面白がるような笑顔を向けた。


「やれやれ。ハイリーも大変だね。コルネリウスのような男の面倒を見なくてはならないんだからさ」

「私のほうはあきらめていますから。こんなでも幼馴染ですし、彼の両親からも私の両親からも、くれぐれもとお願いされていることですし」


 カトリンの慰めに、仕方ないといった風勢でハイリ―様が首を振った。


 こうして、ヘルムート様の一件は、なんとか着地点を見つけたのだった。



※ ヘルムート視点


「ヘルムート」


 教室に戻ると、いきなりドミニクに声をかけられた。


 こいつは北出身の伯爵家出身なんだが、なぜかアメリーを敵視してことあるごとに突っかかっている。どうやらアメリー、というかビューロウに隔意があるようだけが・・・。


「なんだ。何か用か?」


 不機嫌に答えると、ドミニクは探るような目でこちらを見てきた。


「いや、あの子爵の星持ち、やっぱり何かしてきたのか? 星持ちだからって調子に乗ってんじゃねえか」


 こいつ、アメリーにちょっかいをかけようかって俺に近づいてきたが、正直それどころではない。次にアメリーがフェリシアーノに襲われるまでに、あいつのそばに行けるくらい戦果を上げて、信頼されなければならない。学園に認められなければ、奴と戦うことすらできないのだ。


「ちっ! 何考えてるのか知らねえ。お前にどんな思惑があるかもな。だが、ことがすむまではあいつに手を出すんじゃねえぞ! あいつには、フェリシアーノを引き付けるおとりになってもらわなきゃいけないんだからな! お前も、今のままでいいとは思うなよ!」


 フェリシアーノのことはノード家で調べている。奴は蛇のように執念深い。一度狙った獲物は必ずまた狙ってくるだろう。奴のターゲットになった貴族でもそういう報告があった。一度追い詰めたにもかかわらず、再び襲われて打ち取られたという報告が!


「はっ! あいつが餌か! 星持ちとか言っておだてられているアイツが餌とは! これはいい! 下賤な子爵ぶぜいにはちょうどいいんじゃねえか! あいつ! ちょっと資質に恵まれたからって、それだけで学園長や上位貴族にかわいがられてるんだからな」


 ドミニクが大口を開けて笑い出した。こいつを見て頭のどこかから警鐘が鳴らされた。


 本当にそうか? アメリーは資質が高いだけでこのクラスに在籍しているのか?


「エリザベートも大変だよな! 上位貴族のお気に入りだからって、子爵ぶぜいを気にしなきゃいけないんだからな! 大体おかしいんだよ! やつが」

「それぐらいにしておけ。耳障りだ」


 なおもアメリーを罵ろうとするドミニクを止めたのはギオマーだった。


「聞くに堪えん。あいつは授業態度もまじめだし、討伐任務をきっちりこなしている。この冬休みだって、のんびり帰郷した俺たちと違って魔物を片付けてくれた。特にお前んところは戦になったのに帰れたじゃないか。だれのおかげでのんびりできたと思ってるんだ」


 ギオマーがドミニクをぎろりと睨んだ。ドミニクは噛みつこうとして、気づいた。ギオマーの後ろのメリッサが、すさまじい形相で俺たちを睨んでいたのに!


「貴様・・・! 巫女様のお身内を、餌だと? 北のやせ犬ごときが、巫女様を煩わそうなどと!」


 地の底から這い出るようなメリッサの声にも、ドミニクはひるまない。


「あ? 俺は伯爵家として子爵のあいつに助言してやろってだけだが」

「助言? 同性でもなく、成績でも学園への貢献度でも足下に及ばないお前が、何を助言すんだよ」


 遮ったのは、俺と同じヴァッサー旗下のローダルだった。ロータルは席に座ったまま腕を組んでドミニクを睨んでいる。


「陰口ならもっとひっそりしたところでやれ。教室の真ん中でやることじゃねえだろ」


 さすがのドミニクも、討伐で活躍するロータルにまで言われてひるんだ。そして周りのクラスメイトが非難めいた目で見ていることに気づくと、悔しそうな表情のまま教室から出ていった。その後姿をメリッサが最後まで睨んでいたのが少し恐ろしかった。


 ロータルは溜息を吐くと、俺に話しかけてきた。


「ヘルムート。今のはダメだ。ドミニクの奴がクラスで波風立てようとしたなら止めないと。エリザベートがこのクラスをまとめるのに心血注いでるの、知ってんだろ」

「い、いや、俺は・・・」


 他の奴に言われたなら一笑に伏したかもしれない。でも、俺と同じヴァッサー家旗下のロータルに言われると、心に来るものがあった。


「メリッサ。それくらいにしておけ。ハイリーには言うなよ。ヘルムートもだ。アメリーと合わんのかもしれんが、よけいなことはするな。俺ではこれ以上、こいつを抑えられんやもしれん」


 まるで闘犬のようにうなり声を上げるメリッサを見て、俺は思わずうなずくのだった。

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