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星持ちの少女は赤の秘剣で夢を断つ  作者: 小谷草
第2章 星持ち少女と学園の仲間たち
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第24話 図書館組のアーダ・カーキ―

 学園長室を出てすぐに、私はアーダ様に深々と頭を下げた。


「アーダ様。申し訳ありません。私のせいで、アーダ様が無理やり東の寮に超すことになったみたいで・・・」


 私が謝罪すると、アーダ様はあわてて手を振った。


「い、いや。別に今の部屋に愛着があるわけではない。荷物もほとんどないし、私の護衛や使用人は最低限だから、休みの間に引っ越し自体はできると思う。だけど、両親や弟からなんていわれるか・・・」


 暗い表情になるアーダ様に私は再び頭を下げた。


「本当にすみません! その、アーダ様にも立場があるというのに! あ、あの! 私は放課後は一人で修行したり予習したりしていることが多いので、時間の都合はつけられます。その、アーダ様の御用を最優先にしていただいても構わないですから!」


 私が上目遣いで顔色を窺うと、アーダ様は困ったように頬を掻いていた。


「う、うん。私も学業以外で目立った活動をしているわけではないんだ。ただ、図書館で少し仕事しているくらいで」


 図書館で仕事、か。学園長も言っていたけど、図書館ですることがあるだなんて、まるであの人みたいだと思ったのよね。


「こっちこそ、迷惑をかけるかもしれない。私は放課後は図書館で仕事を任せられることが多いから。今は特に、先輩方の多くが北に向かってしまって、私たち1年生に回ってくる仕事が多いんだ。1年生は私以外の生徒が優秀だけど、それでも大変なことになっていると思うし」


 そうか。やはりアーダ様もラーレお姉様と同じということか。


「うん。悪いけど、アメリーも図書館で過ごしてもらわないといけないかもしれない。私たち図書館組には、やらなきゃいけない仕事がたくさんあるんだ」


 アーダ様は、ラーレお姉様と同じ図書館組のメンバーだったのだ。


 図書館組は生徒たちから劣等生と侮られることも多いが実際はそんなことはない。字が特段にきれいだったり本に関する知識が深かったりと、ある意味選別されたメンバーしか所属するのが許されない。ラーレお姉様はなんでもない顔をしていたけど、彼女は担当の教師から認められてそこに所属していた。


「一応、図書館は生徒ならだれでも利用できると聞いていますが、私なんかが図書館にお邪魔してもいいのでしょうか?」

「あ、たぶん大丈夫だと思う。担当のルイボルト先生も、アメリーのことを評価していたみたいだし・・・」


 自信なさげに答えてくれたアーダ様に少し不安な気持ちになった。とりあえず、一度挨拶しておいたほうが無難かもしれない。



◆◆◆◆


「おお! アメリー・ビューロウではないか! まさか学園が誇る星持ちがこんなところに来てくれるとはなぁ! ゆっくりしていくといい」


 図書館に入るなり、私はルイボルト先生に歓迎された。


 白髪を生やし、よれよれの服を着たこの先生は、こう見えて学園に長く務める教師であり、さらにへリング家の光魔法を操る優秀な教師だ。


「先生。私は東の寮に移ることになりました。それでその、しばらくは図書館の仕事をやれそうになくて・・・」


 上目づかいで見つめるアーダ様に、ルイボルト先生は大声で笑いだした。


「はっはっは。さては、バルバラちゃんが動いたのだな? あの娘はあれでかなり大胆な手を使いかねんからな。レオンハルトがためらった強権を、カーキ―家にも使ったということか。これはいい!」


 笑いだすルイボルト先生を、私たちは茫然と見つめていた。前任の学園長を呼び捨てだなんて。まあこの人は王家からへリング家に婿入りした人だから、王族ともそれなりの付き合いがあるのかもしれないけど・・・。


「なあに。学園はちゃんとお前さんを見ていたということだよ。カーキー家が何かしでかしたら即座に動くことになっておった。レオンハルトはある程度事態が動くのを待っておったようだが、さすがバルバラちゃん。即座に対応したということか」


 ルイボルト先生を呆然と見ながら私は何となく事情を理解した。


 おそらくだが、アーダ様は何らかの事情で実家から疎まれていた。学園に悪い噂が流れていたのも、恣意的に実家が流したものではないだろうか。でも、そんな小細工は学園には通用しない。上位クラスに属せる優秀な魔法使いのアーダ様を、学園は守るために行動しようとしていたということだろう。


「まあしばらくは仕事は任せなさい。今年の1年生は元気で動ける奴もいることだしな。ワシからも、アーダ君の護衛についてはワシからも話をしておこう。引っ越しがすむまでこちらは任せておきなさい」

「いえ。今手を付けている写本だけは終わらせたいんです。アメリー。すまないが、少しだけ待っていてくれるか? すぐに用を済ませるから」


 私が笑顔で頷くと、アーダ様は先生を伴って奥の部屋へ向かっていった。「気にせんでもいいのに」とアーダ様をたしなめる声が聞こえてきたけど、アーダ様はずんずんと奥の部屋へと入っていく。


 一人残された私は、この機会に調べたいことがあるのを思い出した。私はルイボルト先生一礼すると図書館の本を探し始めた。


「えっと、たぶん、魔物関連はここにあるはずだけど」


 つぶやきながら歩き回ると、目当ての本がありそうな棚を見つけた。


 そして一冊一冊本を探すと、探していた本を見つけることに成功した。


「これだ。連邦に現れた新種の魔物。ここにきっと、あの魔物のことが書かれているはず」


 ページを素早くめくっていく。この本なら、セルリアン様が言っていた魔物も見つけることができるはずだ。


「あった。これね。このページに、イナグーシャのことが書いてあるわ」


 討伐任務でセブリアン様が言って以来、ずっと気になっていたのだ。何しろあの魔物はこの国では見たことのない存在だったから。


 その本はイラスト付きで、魔物の来歴や特徴、そして倒し方が詳しく記されていた。あの時みたいに2足歩行ではなく昆虫みたいに6つの足があるようだけど、イラストに描かれていたのはまさにあの討伐任務で会ったのと同じ顔だった。


「えっと、イナグーシャ。まるでバッタのような外見をした昆虫型の魔物・・・。かの帝国が連邦を侵略するために作り出したとされている、か。帝国が滅んで相当な年月が経っているのにその爪痕はまだ残っているということか」


 この魔物が現れたのは100年以上前とされている。大量のイナグーシャが出現し、連邦の都市を一つ落としたのが始まりらしい。


 硬い甲殻に覆われた体。考えられないようなばねを持つ手足。そして、高い身体能力をさらに強化する黒い魔力。連邦を襲ったイナグーシャに、騎士も冒険者もかなり苦戦を強いられたようだ。その状況は今でも続いており、1世紀以上経った今でもイナグーシャを駆逐するには至っていない。


「さすが学園の図書館ね。こんなに詳しい情報が得られるなんて。でも、この文字って、ラーレお姉様のものよね? イラストのタッチだってそうだし・・・」


 私は懐かしい気持ちになりながらそのページを見ていた。ラーレお姉様は図書館で写本をしていたと言っていた。だから、この本を書き示したとしても不思議ではないということか。


「珍しいな。お前がこんなところに来るとはな」


 急に声をかけられた。驚いて顔を上げると、そこにはクラスメイトが私を見下ろしていた。この人と、ここで会うなんて予想だにしなかった。


「コルネリウス様・・・」


 そう。私を見下ろしていたのは、武闘派のクラスメイト。彼の家、ポリツァイ侯爵家は、北の高位貴族でメレンドルフやラント家には一歩劣るものの、相当な影響力があるはずだ。


 本人もメレンドルフの槍を学んでいて、授業などでは無双の強さを誇っている。あいにくと私とは戦ったことはないけれど、水と土の素質が相当に強く、身体強化を駆使した武術でクラスでも一目も二目も置かれているのだ。


 でも、運動が得意そうな彼は、図書館にいるのは似合わない気がするのだけど・・・。


「ふっ。まあいい。私は忙しい。あまり、ルイボルト先生に迷惑はかけるなよ」


 そう言って挨拶すると、コルネリウス様は立ち去っていく。彼が、ワゴンを押しながら大量の本を次々と片付けているのを見て、思わぬ邂逅に私は茫然としてしまうのだった。

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