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星持ちの少女は赤の秘剣で夢を断つ  作者: 小谷草
第2章 星持ち少女と学園の仲間たち
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第21話 ヘルムート・ノードの夢 ※ ヘルムート視点

連載を再開しました。

※ ヘルムート視点


「この愚か者が! あれほどヴァッサー家には従順になるように言ったではないか! エリザベートの小娘の不興を買っただけでなく、ベーヴェルン家の教師に逆らうとは! 両家から叱責を受けたのだぞ! どうしてくれる!」


 領地に戻るなり、父上から厳しく叱責された。どうやら俺の学園での振る舞いは問題視されたらしく、学園はもとより、ヴァッサー家とべーヴェルン家から抗議されたらしい。


「まったく! 討伐任務なんぞに駆り出されて不満なのはわかるが、そこで活躍できないばかりか、叱責されるような事態になるとは! お前はそれでもノードの男か! 恥を知れ!」


 格上のヴァッサー家やべーヴェルン家から叱責を受けて相当悔しかったようだ。俺は父上の言うことを忠実に守っていたはずなのに、それが評価されないなんて、奴らが間違っているとしか思えない。


「いえ。俺は魔物を倒しているはずなのに、あいつらは全然俺を評価してくれないのです。貴族としてやるべきことをやっているはずなのに・・・。魔物を、誰よりも倒しているのに!」


 俺は思わず言い訳したが、


 バン!!!


 父上は憤怒の形相で鋭く拳を振りぬいた。


 赤くなった頬を抑えながら見上げると、父上は荒い息を吐きながらこちらを睨んできた。


「口答えするな! ノード家の男が情けない! お前は資質も魔力量も問題ないのに、なんというざまだ!」


 不満な顔のまま、歯を食いしばった。


 この国の貴族は、5歳ごろに魔力診断を受ける。火水風土の四属性と、光と闇の上下2属性、その6属性にどれだけの潜在能力があるかを測るのだ。俺は水魔法の資質でレベル3を出した。魔力量も伯爵家で上位になるほど多く、一気に兄を抜いて後継候補に躍り出たのだ。その時から、家中での俺の扱いは変わったと思う。


 なのに、学園での俺の扱いはいいものだとはとても言えなかった。上位クラスに属しているのに敬われることはない。確かに、星持ちと言われるアメリーほどの資質も魔力量もないかもしれない。だけど、あいつに迫るほどの討伐量を誇っているはずだ。それなのに、あいつはほめられて俺は不当に貶められている。


「まったく! 討伐任務など簡単ではないか! たかが学生に任せられるだけのお遊びだろう! それでヴァッサー家の小娘に不興を買うとは! お前には、ヴァッサー家の当主になるという野望があるのではないのか! 私たちの前で宣言したのは嘘なのか!」


 俺は思わず父上を睨んだ。


 学園に行く前に、俺は家族の前で宣言したのだ。必ず、エリザベートに取り入ってノード家を発展させてやると。そしてヴァッサー家に婿入りし、あの家を牛耳ってノード家にさらなる栄光をもたらすと! だが結果は、思うようにはいかなかった。エリザベートから疎まれただけでなく、討伐任務でも評価されない。


「同じクラスにビューロウの星持ちがいます。あいつは子爵令嬢のくせに、ひいきされている。あいつと比べられたせいで、俺は不当に低く評価されてしまってるんです」


 言い訳したつもりだが、これは案外的を射ているかもしれない。大体おかしいんだ。星持ちとは言え子爵ぶぜいのあいつが討伐隊のリーダーを任され、伯爵家の俺がただの部隊員に甘んじるなど! 爵位を無視するだなんてそんなのは間違っている!


「ビューロウ家・・・。身体強化の宗家だな。武の三大貴族だからと言って、子爵家ぶぜいが調子に乗りおって! あそこの家の者がナターナエルを倒したという話もあるが、何かの間違いに決まっておる! 子爵令嬢ごときが、そんなことができるはずないではないか!」


 父上は叫ぶと、何かを思い出したかのように考え込み始めた。


「まてよ。資質はどうにもならんかもしれんが、魔力量のほうは何とかなるかもしれぬ。それに今は、身体強化を補助するための道具もあることだしな。 ふん! たかだか子爵が偉そうなことを言っていられるのも今のうちよ! 兄上から引き継いだこのノード家の力を甘く見るとどうなるか、教えてやらねばな」


 ゆがんだ笑みを浮かべながら父上は俺を見つめてきた。


「ヘルムートよ。お前に2つの魔道具を与えよう。それを使えば、ビューロウの小娘など問題ないくらいの力を出せるようになるはずだ。お前が再び学園に戻る前に用意しておく。それを使って、ノード家の力を学園に見せつけてくるのだぞ!」


 黒い笑みを宇部る父に、俺はうなずくことしかできなかった。



◆◆◆◆


「ヘルムート」


 屋敷の廊下で、俺は呼び止められた。振り返るとそこには、兄のヘンリックが困ったような顔で手を挙げていた。2学年上の兄も俺と一緒に冬休みをこちらで過ごすことになったが、この俺に何の用だというのだろうか。


「なんだよ。何か用か?」


 ぶっきらぼうに答えた。本来なら、この家の長兄にこんな口調は許されないかもしれないが、この家での俺の扱いが変わるにつれ、この口調でも許されるようになった。今はもう、この家の後継と目されている俺に、逆らう者などいないのだから。


「討伐任務に就いたようだな。その、いろいろと大変みたいだが」


 俺はそっぽを向いた。


 昔はそこそこ仲の良い兄弟だったと思う。偉そうに遊びまわる俺の面倒を、兄はしょうがなしに見ていたものだ。だけど、幼いころの魔力診断で変わってしまった。俺が、水魔法のレベル3の資質を表したことで――。


「父上の言うことは古いかもしれない。あの方は学生時代に討伐をしたことはなかったはずだからな。今は、役割分担がきちっとしていて、単に魔物を倒せばいいというわけではないんだ。私たち守り手は、魔物を倒すよりも相手を足止めすることが重要になる。だから――」

「うるせえよ! 俺たちは貴族だ! だから魔物を倒すことのほうが重要だろうが! 中位クラスにしかなれなかった兄貴にはわからんかもしれないがな!」


 俺が睨むと、兄貴は押し黙った。


「上位クラスには上位クラスなりのルールがあるんだよ! 中位クラスの兄貴にはわからないだろう! 俺に指図すんじゃねえよ!」

「いや討伐任務に関しては私も言わせてもらう。私は一年生のころからこの任務に当たっているのだからな」


 俺は悔しげに歯をかみしめた。


 ノード伯爵家に生まれながら、兄貴は学園で討伐任務を積極的にこなしている。意外なことに周りからの評価は高く、守り手として結構重宝されているようだ。だからと言っていい気分はしない。それに、伯爵家の出身なのに討伐に積極的に参加するなど、誰かを思い出してイライラさせられてしまう。


「俺の行動は伯爵家の当主の親父の許可を得てるんだよ! 素質のレベルが低く、中位クラスにしか入れなかった兄貴が口出ししていいことじゃねえ!」


 俺はそういうと、兄貴を押しのけて部屋へと戻っていった。心配そうに背中を見つめる兄貴の視線に、気づかないふりをしながらも・・・。

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