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星持ちの少女は赤の秘剣で夢を断つ  作者: 小谷草
第7章 星持ち少女と夢の終わり
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第156話 報告と素晴らしい仲間たち

「というわけで、この国を襲った死霊使いを、みんなの手で倒すことができたんです」


 私が説明するとクレメンテ殿下はほう、と溜息を吐いた。


 あの一件からしばらく経った午前のことだった。私は王城に招待され、クレメンテ殿下に今回のことを説明していた。


 殿下も公開処刑を見に闘技場に来たかったらしいが、陛下に諫められて王城で待つことしかできなかったらしい。だから、当事者の私が直接お話をお聞かせすることになったのだけど。


「そんな感じですね。今回は僕もある程度、王家に貢献できたと思います。まあ、それで僕のやらかしがチャラになるとはおもいませんけど」


 そう言って、出された紅茶をすすったのはファビアン様だった。彼は、私がクレメンテ殿下に呼ばれたのを知って同行してくれたのだ。


 お姉さまの時はエレオノーラ様がいつも同行してくれたみたいだし、私としては助かるのだけど、クレメンテ殿下はどこか不満げな様子だった。


「えっと。僕の情報だと、前回同様に今回の一件で処分される人はかなり少なくなりそうです。あのフェリシアーノの関係者にはかなり厳しい処置が下されるそうですが、それ以外の人には恩情が下されるとか。なんでも大叔母様の口添えがあったみたいで」


 クレメンテ殿下の情報に、少しだけほっとしてしまう。


 ヴァレンティナは難敵だった。あいつのせいでファビアン様は死にかけたし、あの一味のせいで亡くなった人は少なくない。でも、あれに参加した人すべてが悪い人と言うわけではないことを、私でも察することができた。特にシクストはエリザの幼馴染でセブリアン様の兄弟だし、あまりひどいことにはならないようで複雑な思いがあるのだ。


「じゃあ、ヴァレンティナは」

「さすがに首謀者の彼女は、すぐに許されるわけじゃないですけどね。でもペドロ君の身内でもありますから、死刑は何とか免れたとか。それでも終身刑にはなりそうですけどね。あの人、あれでも水のレベルが高いから利用したいって声はありみたいで、収監中の態度次第ではこっちに戻ってくることもあり得るそうですよ」


 そう。ヴァレンティナは命を長らえた。


 どうやら、トリビオから情報を得た時、学園長はすぐに部隊を走らせたらしいのよね。学園の風魔法使いウーテ先生を筆頭に、ヴァッサー家の元後継でエリザのお兄様のルイ先輩、ニナの師匠であるリオニー・へリング様、そしてマルク家のリンダさんという豪華な顔ぶれで、公開処刑と前後して見事にヴァレンティナの体を確保することに成功したのだ。


「えっと。探索隊はヴァレンティナの体を見つけてすぐに治療を開始したんでしたよね?」

「ええ。さすがはへリングの癒しと、まあその・・・東の霊薬ですね。どちらかが欠けていたらヴァレンティナを助けることはできなかったそうですよ」


 クレメンテ殿下はなぜかばつが悪そうだ。反対にファビアン様はなんだか得意気にしている。まあ、クレメンテ殿下はともかく、ファビアン様が自慢げにしているのは分かる。霊薬を作るのも流通させているのもロレーヌ家だから、彼が得意気になっているのだ。一応うちも東に属しているから霊薬が褒められてちょっとうれしいんだけどね。


「あ、そういえば、もうご存じかもしれませんが、うちの姉がアルプロラオウム島で宝探しをするらしいんですよ。なんでも、あのランドルフの遺産が南のどこかに眠っているとかで。珍しい魔道具を見つけたら陛下に献上すると息巻いていました」

「おお! それは楽しみですね。ビューロウ家には今回の件といい、闇魔の件といい、何と言っていいのか・・・。この貢献には何とか報いなければと、陛下も考えているですよ」


 言われて、ちょっとだけ恐縮してしまう。たかが一子爵の私たちが、王家にここまで言っていただけるなんて恐れ多い。


「ダクマー様には王家の色である“白”を名乗っていただいているし、彼女の貢献には何としても報いたいと思っているんですよ。その、彼女が後継に指名されたときは、お力添えできるかと」

「え? いやあの、姉のダクマーはビューロウを継ぐ気はないようですけど?」


 私はきょとんとして言い返した。クレメンテ殿下はなぜか固まったようだ。


「おじい様は姉にビューロウを継いでほしいって言ってたんですけど、姉のほうで断っちゃいまして。どうやら本人には他にやりたいことがあるみたいで」

「え? えっと、お兄さんのデニスさんはルックナー領のビルギット様と婚約されているんでしたよね? イーダ様夫妻にはあの計画もあるし。じゃ、じゃあアメリーさんは・・・」


 なぜか恐る恐る聞いてくるクレメンテ殿下に私は笑顔を返した。


「そうですね。おそらく私がビューロウを継ぐことになると思います。ということは、今回の件は私がビューロウを継ぐ資格があると証明したということかな? 上位クラスに入れても、あのヨルダンを倒しても否定する人は出てきたでしょうし。私の実力を示すいい機会になったということか」


 私がそう言ったと同時に、扉が開かれた。そこには王城の使用人がいて、私たちに恭しくお辞儀をしてきた。


「殿下。そろそろお時間です。皆様方も」

「ああ、そうですね。では殿下、そろそろお暇します。今日はお時間をとっていただき、ありがとうございました。では」


 そう言って、私たちはなぜか固まった殿下を置き去りにして、部屋を後にするのだった。



◆◆◆◆


 クレメンテ殿下たちと別れた私は、学園へと戻っていた。今はもう夏休みだけど学園長は仕事しているらしくて、挨拶だけでもしておこうという話になったのだ。


「学園はやっと落ち着いた感じですね。これから帰郷する生徒も多いそうですし。ファビアン様のクラスはどうですか?」

「うちも帰っている生徒は多いですよ。王都の魔物災害もかなり減ってきていますし、この機会に顔見せしておこうッて生徒は多いみたいです」


 そんなことを話しながら、廊下を進む。


 少し前まではこんなふうにファビアン様と話せるとは思わなかったのよね。今はどう思っているのかはわからないけど、少なくとも雑談ができるほどの仲になっている。


「あ、あの! 先輩!」

「はい?」


 私が返事をしようとした時だった。


「お姉さん!」


 元気な声が、私たちに聞こえてきたのだ。


 慌ててそちらのほうを見ると、息を切らしたペドロ君が満面の笑顔でこちらを見ていた。


「ペドロ君! 学園に来ていたんですね!」

「うん! 僕も来年の春からここに通うことになって! それで見学させてもらうことになったんです!」


 嬉しそうに笑うペドロ君に私も笑顔を返した。隣のファビアン様はムッとして、でも次の瞬間にはしょうがないと溜息を吐いた。


「こらペドロ! 急に走り出すんじゃない! お前には落ち着きってもんが足りない。そんなんで良い魔法使いにはなれないよ!」


 すかさずペドロ君を諫める声が聞こえてきた。ペドロ君は首をすくめるが、ごまかすように頭を掻いた。そして、ペドロ君を諫めた人を見てはっとしてしまう。


 その人は、私も知っている大人物だったのだから。


「ガブリエーレ・フランメ侯爵!」

「フロリアン様も!」


 ファビアン様が驚くのも無理はない。このお2方は貴族家における重要な人物だった。現役のフランメ家の当主にとユーリヒ公爵家のフロリアン様だ。爵位で言っても実力で言っても間違いなこの国を代表する人物たちである。


「ど、どうしてあなたたちが!」

「まあ、ペドロくんの今後のこともあるからね。保護者と指導者にもこっちに来てもらったのよ」


 いつの間にかそこに立っていた学園長が説明してくれた。


「そうね。談話室を借りようかしら。あなたたちも気になるでしょう? なんでこの人たちがいるかはね」


 なぜか誇らしそうに語る学園長に、頷くことしかできなかった。



◆◆◆◆


「アンタらは相変わらずだね」


 そう言ってガブリエーレ侯爵はお茶をすすった。


 この人と再会するのは、王城に闇魔が現れた時以来か。あの時の毅然とした態度には実はあこがれるところがある。


「ええ。微力ながら王都の治安を守るお手伝いをさせていただきます」

「ふっ。あんたらしいね。ハイデマリーとは大違いだ。ペドロ。こいつには見習うところは多いけど、決してこいつのようになるんじゃないよ。あんまり星持ちらしくないわけだからね」


 相変わらず憎まれ口をたたかれてしまう。


「ガブリエーレ侯爵が、ペドロ君を指導するというわけですね」

「そういうこと。フランメ家には長年炎の巫女を輩出したという実績がある。バルトルド子爵が戦地で戦っている今、この方にお鉢が回ってきたというわけ」


 学園長の言葉に頷いてしまう。レベル5という巨大な火の資質を持つペドロ君を指導できる人なんて限られている。ユーリヒ家が侯爵を頼るのも分かる気がした。


「ということは、ペドロ君はフランメ家に在籍することになるということですか?」


 ファビアン様が尋ねると、なぜか学園長は笑い、ガブリエーレ侯爵は苦いものでも飲み込んだような顔になった。


「えっと。僕はユーリヒ家の養子ってことになりそうです。なんでも、新公爵のうちに引き取られることになるとか。おじさんが、本当に叔父さんになるのにびっくりですけどね」


 ペドロ君がいうと、フロリアン様が傷ついたような顔になった。


「あ、ああ。お兄さんも、ペドロが来てくれるのはうれしいよ。魔法使いにするっていう約束も果たせそうだしね。でも、しっかり勉強しないとだめだぞ」

「うん! 叔父さん! 今まで僕はどうしようもない人扱いされてたからね! 勉強はすごく大変だけど、僕だって夢のために頑張るんだ!」


 鼻息荒く言うペドロ君を微笑ましく見てしまう。


「見ての通りこの子は実年齢よりもちょっと幼いけど、うちではこういう境遇の子を引き取ってきた実績もある。年周りの近い子はうちにもユーリヒ家のまわりにもいるから、その子たちとの交流を通じで魔法使いとして大成させてやるさ。ま、うちとしても未来の大魔法使いとユーリヒ家への貸しが作れるなら悪い話ではない」

「なるほど。ペドロ君と年周りが同じの後輩は、僕にも心当たりがあります。そいつに話してみますよ」


 静かに火花を燃やす3人に、きょとんとした顔のペドロ君。どうやらガブリエーレ侯爵はペドロ君を取り込みたいみたいだけど、それに待ったをかけたのがユーリヒ家で、ロレーヌ家もそれに参戦したということか。


 レベル5が天災と言われ恐れられたのは今は昔だ。従姉のラーレお姉様やギルベルトさんのおかげでレベル5は決して御せないものじゃないと証明されてしまった。だから、どの家もペドロ君をとろうと躍起になっているのだ。


「ペドロ。ユーリヒ家が嫌になったらいつでもうちに来ていいんだからね」

「先生! 大丈夫です! 叔父さんも新しいお義父さんも優しいですから! 僕のこと、いろいろ褒めてくれたりして! 僕、まだまだだけど、この家なら頑張れるって思うんです!」


 環境が変わって不安だろうに、ペドロ君は力強く宣言した。彼の意思が固いことが証明されて、ガブリエーレ侯爵は溜息を吐いたようだった。


「えっと、その、大丈夫そうだな。サルバトーレのことがあったから、ちょっと心配していたんだけど」

「ファビアン様」


 私の視線に、ファビアン様はしまった! と言う顔をした。まだペドロ君にサルバトーレの話をするのは早いと思ったけど、当のペドロ君はきょとんとした顔のままだった。


「えっと、サルバトーレっていう人がいるんですね。その、僕と何か関係がある人なんですか?」


 ペドロ君の言葉に、私たちは思わず顔を見合わせたのだった。



◆◆◆◆


 手続きがあるとかでペドロくんはフロリアン様たちと行ってしまった。私たちは学園長に詳しい事情を聞くことになったのだけど。


「サルバトーレと言う魔法使いは、確かにペドロ君の教育者としてこの国に入国していた記録がある。でも、不思議なことに、この国に来るまでペドロ君の教育者は別の人間だった。ビオレタという中年の女性が教育者兼監視役としていたはずなのよ」


 神妙な顔でそう教えてくれる学園長。私は背筋が凍るような思いがして、思わず自分の肩を抱きしめてしまう。


「つ、つまり、サルバトーレは」

「ええ。ずっとペドロ君に闇魔法を掛けていたのよ。魔法で自分が家庭教師だと思い込ませていた。恐ろしい相手だったわね。あなたのクラスメイトやあの近衛騎士どもにヴァ―ビデンの魔法を掛けたのも彼だったようだし。本当に、ガスパー先生がいてくれて助かったわ。彼がいてくれたおかげで、隠ぺいと闇魔法に優れた魔法使いを仕留めることができたのだから」


 そういえば、この前の遺体安置所にハイリーの護衛として現れたのはコルネリウス様じゃなくてガスパー先生だったわね。幼馴染で親しいコルネリウス様じゃないのはちょっと疑問だったんだけど、それがうまい具合に作用したということか。


「それは思わぬラッキーでしたね。コルネリウス様・・・。いえ、僕たち学生だったら逃がしたかもしれなかったですし」

「ラッキー、ねえ。そうならよかったんだけど」


 ファビアン様の言葉に、学園長は渋い顔になった。


「えっと、学園長?」

「いえ、どうやらあそこにガスパー君が行くことは、あの狸が強硬に主張したからのようなのよね。最初、ハイリーさんはコルネリウス君を護衛に使用しおうとしてたみたいだけど」


 ハイリー様の狸、か。


 人懐っこい姿に惑わされるけど、あの子はかなりの魔法使いなのよね。ビューロウ領でエリザを守ってくれた実績があるし、この前も私を助けてくれた。


 私を狙った土魔法は本当に強力なものだった。あの死霊が作り出した岩は大きく、密度も高いもので、上位魔法に匹敵するほどの威力だったと思う。それを簡単に消してしまうなんて、今考えたら異常だ。


「もしかして、あのキラーラクーンは私が考えている以上に強力ってこと? ハイリーの魔力量が低いのは、彼に大量の魔力を持っていかれているから?」

「ふふふ。あなたのクラスは本当に面白い人ばかりね。その縁、大事にしなきゃいけないからね」


 学園長の言葉に、私はクラスメイト達の顔を思い浮かべた。


 ハイリーの笑顔に、コルネリウス様の皮肉気な顔。いつも私を助けてくれるエーファに、騒がしいけどいろいろ教えてくれるカトリン。一緒に騒いでくれるナデナ。美しくも可愛くて、いつも一生懸命なエリザ。頼りになるけど集中したら周りが見えなくなるギオマー様に、いつも楽しそうなメリッサ。毎日笑顔だけどいざというときは頼りになるニナに彼女をフォローしているフォルカー様。困ったときにそれとなく助けてくれるセブリアン様とデメトリオ様。


 そして――私の大事な相棒の、アーダ様。


 クラスメイトとの思い出が浮かぶたび、私は笑顔になった。


「ええ。このクラスに入れたのは、私にとって何よりの幸運だと思います。お姉さまたちやロジーネちゃんに言ってやるんです。私だって、学園でみんなと最高の時間を過ごしたんだって」


 そう胸を張る私に、学園長は胸を張った。隣でファビアン様もまぶしそうな顔で私を見ている。


 学園長は微笑みながら私に応えてくれた。


「さて。じゃあ、その最高の時間を過ごした仲間に挨拶するとしますか。ここんとこ本当に忙しくて、お礼を言う時間も取れなかったからね」

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