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星持ちの少女は赤の秘剣で夢を断つ  作者: 小谷草
第7章 星持ち少女と夢の終わり
153/157

第153話 暗闇での戦い ※ 前半 バイロン視点 後半 エーファ視点

※ バイロン視点


 3体のデスモールにビッグバッドが3体。さらには、3体のグールの他にナイジェルまでいる。対する敵は、バルバラにおつきの2人。3人の女しかいない。いくらバルバラとはいえ、対処できるはずがない!!


「それだけの人数で、しかも暗闇でどこまでできるかな」


 にやりと笑うワシだったが、次の瞬間には驚愕に口を閉ざしてしまう。


 襲い掛かったはずの3体のデスモールが、一瞬のうちに返り討ちにされたのだ。首と喉をあっという間に貫かれて瞬時に倒れてしまう。


 ビッグバッドも同じだった。空を飛び、手の出せない上空から超音波を放つはずだったが、1体目は飛び上がった瞬間に、2体目はまさに攻撃に転じようとした瞬間に、3体目は攻撃を放った瞬間に風魔法で貫かれたのだ!


 驚愕するワシの耳に、女生徒の明るい声が聞こえてきた。


「やれやれ。あっという間に暗闇になるから驚いたよ」

「油断しないで。まだ敵は残っているんだから」


 声からすると、若い女だ。2人はまだ学生のはずなのに戦闘力は底知れぬ! ナイジェルが召喚した6体の魔物を、わずかな時間で片づけてしまったのだから!


「魔法使い!? そうか! 風魔法で魔物の場所を特定すると同時に仕留めたのか! だが、デスモールはどうやって!」

「すごいものだよね。一瞬にして暗闇に染まっちゃったんだから。でも、見えないから何だってんだって感じだけど」


 ナイジェルの言葉に青い髪の少女が余裕を見せながら答えた。


 男子にも見える気取った様子の少女だが、技はすさまじい。ワシの暗闇を全く気にせずに、一瞬でモグラの魔物の急所を貫いてみせたのだから!


ごきり! どかし!


 グールたちのうめき声が聞こえたと思ったら、すぐに沈黙してしまう。倒れる前に聞こえた打撃音からすると、ナイジェルがバルバラに殴りつけられたところだった。周りに現れた血だまりに、グールがあっという間に仕留められたのが分かった。


 さすがは狂乱のバルバラ! だが、ワシらとてこのまま好きに終わらせられるわけにはいかぬ!


「う、うあ・・。あああ! ロ、ロック、ブラスト」

「!! そんな! グールが魔法を使うなんて!」


 緑の髪の女生徒が驚きの声を漏らした。


 くふふふふ! そうだ! ワシはヴァージルをグールに変えたのではない! 高度な魔法をも操れる死霊へと、進化させてっやったのだ!


 もちろん、ただの死霊ではない。普通の死霊に意思はなく、生前の行動を繰り返すだけの出来損ないの魔力だまりだ。だが事前に魂をいじることで、ヴァージルを、意思を持ち魔法を使える死霊へと進ませてやったのだ!


 ヴァージルならばこの状況を打破してくれるはずだ! 土の魔法使いとしてかなりの技量を持つ魔法使いの技と、物理攻撃が聞かない資料としての力を併せ持つこの弟子なら!


 だが、そうはならなかった。あの若い声が聞こえたと思ったら状況は一変していたのだから。


「エア・スラッシュ」


 澄んだ声が聞こえたと思ったら、ヴァージルが生んだ魔法が一瞬にして粉砕された。あの緑髪の女生徒が、精密な風魔法でヴァージルの岩をあっさりとかき消したのだ!


「ば、馬鹿な!」


 驚愕の声が漏れた、次の瞬間だった。一瞬にして接近したバルバラが、メイスを振るってヴァージルの頭を吹き飛ばした。


「ナイス、援護。さすが、星持ちの友人だけあるわね」

「いえ。しかしまさか、人が死霊になるのに立ち会うとは思いませんでしたけど。かなり強力な土魔法を使えるみたいでしたね」


 バルバラと女生徒がそんな軽口をたたき合う。ワシは暗闇の中でその光景に呆然としていた。


「な、なぜ?」

「そりゃあ、魔法使いとしての腕の差でしょう。悪いけど、あんたの弟子はこの子には、うちの上位クラスでも随一の腕を誇る生徒には敵わないってことよ」


 そう断言すると、バルバラはメイスを突き付けながら凶悪な笑みを浮かべてきた。


「帝国の魔法使いのバイロン・ドラモンド。かの帝国で生まれ、ワイマール帝国に拾われた死霊使いだっけ? 私が若いころにすでにじじいだったはずだけど、いまだに生きて悪さをしているのね。忌々しい」


 そしてバルバラは一瞬にしてワシのそばまで踏み込んできた。最初の一撃を何とか躱し、ばねを使ってバルバラから距離を取ろうと飛びのいた!


 しかしバルバラは、瞬時にワシに接近してくる。ワシを追撃するつもりのようだが、それを待っていたのはこっちも同じよ!


「はっはっは! 勇敢だな! だがそれが命取りよ!」


 距離を取ろうとしたのはフェイク! 本命は、バルバラの頭を掴むことにあり! この距離なら、バルバラの頭を掴める! ワシの秘術で、バルバラをグールにすれば!


 ごきり。


 嫌な音が響いた。バルバラのメイスが、ワシの左腕を叩き折った音だ。あまりの早業に錯覚かと思った。だが、現実としてバルバラのメイスの一撃で、ワシの腕はあらぬ方向へと曲がってしまった。


 バルバラはワシの手をメイスで振り払うことで、秘術を避けてみせたのだ。


 つかめれば、形勢を逆転できた。こいつの魂を砕き、その体に死霊を取り憑かせられれば、グールにして他の奴らを仕留められるのに!! この魔女は、それすらも許さないのか!


 本当に恐るべき、光の魔力だった。光を使った身体強化をこいつほど極めている者はおるまい。目にもとまらぬ速さとはこのことか!


「あら? あなたもしかして、掴めれば逆転できると思ってる? そんなわけないじゃない。あなたが私を掴んだとしても、グールに変えることなんてできない。私には光があるからね」

「ぐっ! そういうなら試してみるのはどうだ? お前の光が,死霊を操るワシにどれだけ通用するかをな!」


 残った右手で再びバルバラを掴もうとするが、あの女はそれも簡単に避け、回し蹴りを放ってワシの右腕を砕いた。


「いやに決まってるでしょう? 枯れ木のようなあなたに触られるなんて。気持ち悪いったらありゃしない」

「はっ! ババアのくせに何をぬかす! ワシの弟子よりさらに年を食っているくせに! だれがおまえなんぞを」


 そこまでだった。ワシはそこまでしか、言葉を発することができなかった。


 いつの間にか、バルバラは大きくメイスを振りかぶっていて――。


 がつり。


 一瞬にして視界が反転し、いつの間にかワシの目は後ろの弟子たちの死体を眺めていた。


 そしてーー。


 頭上からすさまじい衝撃を感じたワシは、そのまま意識を失ったのだった。



※ エーファ視点


 学園長が敵の首魁の頭にメイスを振り下ろした。敵は何の抵抗もできずにあっさりと地面に縫い付けられた。外から見ていた私にも、学園長がいつ動いたのか分からなかったほどだ。


「いや、すごいもんだねえ。アメリーが身体強化に一番向いているのは光だって言ってたけど、まさかそれを証明されるとは思わなかったよ」

「そうね。いつもはあれな学園長が、あっという間に死霊使いを叩きのめしたんだから。ちょっと夢に出そうよ」


 カトリンと口々にそんなことを言い合う。まあ、軽口を叩けるカトリンとは違い、私のほうはほっとして肩から力が抜けてしまいそうなのだけど。難しく、しかも重要な任務だったから、ちゃんとこなせるか心配だったのよね。


「さて。やるか。めんどくさいからほおっておきたいんだけどね」


 そう言って学園長はバイロンの死体のそばに駆け寄った。そしておもむろに手を振り上げると、すさまじい勢いでメイスをバイロンに叩きつけた!


「ああ、めんどくさい! ほんっと! いやになる! 念のために! もう一体も処理しないとだし!」


 学園長からあふれ出る白の魔力から、彼女の意図を察してしまう。


 バイロンとか言うあの老人は死霊使いだ。確実に死んだと思うけど、どんな手で復活するかはわからない。それを防ぐために、学園長はあいつの死体に光の魔力を浴びせ続けているのだろう。


「あんまりいい光景じゃないわね。必要なのはわかるけど」

「まあねえ。あいつさ、かなり名のある死霊使いだったんだよ。だから万一のことを考えているんだと思う。事後処理ってやつは大事だからね。ここまですれば大丈夫だと思うけどね」


 私のボヤキにカトリンが髪をかき上げながら答えてくれた。


 そう。私たちはあえて今回の公開処刑を見学せずに、バイロンたちが来るのを待ち構えていたのだ。本当はアメリーの戦いに参加したかったけど仕方がない。学園長は学生の中からあの死霊使いに対抗できる生徒を選んでいた。暗闇でも自在に動けるカトリンや探索が得意な私が選ばれたのは、腹立たしいけど納得せざるを得ないことだ。


 死体潰しを終えたのか、学園長が汗を拭きながらこちらに向きなおった。


「これくらいでいいか。あなたたちもご苦労だったわね。おかげでこの化石のような男を今度こそ倒すことができたわ」

「いえ。お役に立てて何よりですよ。代わりと言っては何ですが、成績のほうは色を付けてくださいね」


 カトリンが冗談めかして言うと、学園長は笑い声を上げた。


「うふふふ。あなたたちもいい仕事をしたからね。成績は期待しなさい。お小遣いも、多少は出してあげるわ」

「期待してますよ。教師の代わりにここまで働いたんですからね」


 2人の会話を他人事のように聞きながら、私はバイロンだったものから目を離せなくなっていた。


 バイロンと言う老魔法使いは、原形をとどめていないくらいに体を打ち付けられている。頭はつぶれているし、手足も変なところに曲がっている。確実に死んだと思われるそれが、なぜかひどく気になったのだ。


「エーファ? さすがの死霊使いもここまですれば形無しだね。もう死んだんじゃないか? あとのことは回収部隊に任せようじゃないか」

「ええ。そうね」


 答えつつも、バイロンの死体から目を離せない。何かを、見落としている気がするのだ。


 そんな私を気にすることなく、学園長は一仕事終えた顔で汗を拭いていた。


「さて。戻りましょうか。アメリーちゃんたちも心配だし。一応、みんな無事に帰ってきたという報告は受けたけど、実際に顔を見るまで安心できないのよね」


 そう言って、手を頭に組んで歩きだす学園長。カトリンも苦笑しながら続いていく。


「死んだはず、よね。あれだけ白の魔力で打たれたんだから」


 私は何度も振り返りながら、それでも学園長たちについていくのだった。

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