第14話 アーダのうわさ
「最初はどうなることかと思いましたが、ローデリヒ様のおかげで楽しい時間を過ごせましたわね。さすがは、ロレーヌ家の当主でしたわ。もうすぐ領地にお帰りになるのが本当に残念です」
「ええ。でもファビアン様には、エレオノーラ様ほどの采配は期待できそうにありませんね。むしろ、私たちが支えていかなければならなそうです。まあ、エレオノーラ様へのご恩返しと思えば頑張らなくてはと思いますが」
「お二方とも頑張ってくださいましね。私はもうすぐ卒業ですから、あまりファビアン様に振り回されることはなさそう。まあ、その分北の情勢は気になるところですが」
帰りの道すがら、私は3人と姦しく話しながら歩いていた。アーダ様は少し離れて歩いている。
確かに。ファビアン様にはエレオノーラ様ほどの援護は期待できなそうだ。ローデリヒ様も領地に戻るそうだし、新学期からの学生生活に不安が過った。
「あ、あの!」
世間話をする私たちに思いつめたような声が聞こえてきた。
「私のせいで、場の空気を悪くして申し訳ありません。せっかくのロレーヌ家との会見を、台無しにしてしまって・・・」
アーダ様の言葉に、私たちは顔を見合わせた。
「アーダ様は気にされることはありませんよ。ローデリヒ様も言っていたではありませんか。あんなうわさを噂を真に受けることはないって」
「そうですわ。アーダ様が討伐を請け負ってくださるおかげでこちらは助かっています。うちのクラスでも話題に上がってるんですよ。アメリー様とアーダ様と組めれば本当に任務が簡単になるって。まあ、私たちのクラスが上位クラスと組む機会は少ないのですけど」
マーヤ様とエルナ様が必死でなだめている。私はアーダ様に流れるうわさを知らなくて、効果的なフォローができなかった。
「大体、無理があるのよ! いくらアーダ様が上位クラスにいるとはいえ、うわさみたいに仲間を使って中位クラスのアルバン様を貶めるなんて、できるはずないし! 二人の格好を見ても明らかでしょう! アルバン様はいつも流行の最先端をそろえているのにアーダ様はそうでもないし! どっちが優遇されているかなんて明らかよ! ほんと、私たちを馬鹿にしないでほしいわ!」
デリア様の言葉でおおよそ察することができた。
「うわさでは、アーダ様が教師を買収して上位クラスに入ったって聞きましたが、うちの教師や学園長がそれを許すわけないと思います。アルバン様の成績がとびぬけて優秀という話でもないようだし、うわさ通りのことになるなんて無理がありますわ。質の悪い話だし、そんなんで王国貴族をだませると思っているのかしらね」
確か、アルバン様は中位クラスに属するアーダ様の双子の兄だったはず。うわさは上位クラスのアーダ様が中位クラスのアルバン様を虐げているというものだと推測できたが、少し無理があるのではないだろうか。付き合えばアーダ様がそんなことしないのは分かるし、アルバン様が上位クラスになれるほど優秀だという話も聞かない。討伐任務にも参加していないようだし。
「とにかく、ある程度考える力のある貴族で、あのうわさをうのみにしている人はいません。あんなのに引っかかるのは就学前の子供くらいですよ。アーダ様もあんまり惑わされないでくださいね」
3人の言葉に、アーダ様は驚いた顔で頷くのだった。
◆◆◆◆
「うわさっていうのは、アーダ様が教師に賄賂や色仕掛けをして上位クラスに入ったって話です。アーダ様が不正をしてアルバン様を陥れ、中位クラスに落として後継になるってことらしいけど、正直、この学園の教師相手にそれが通じるとは思えないんですよね」
アーダ様たちと別れた後、エルナ様と2人で歩いていると、例のうわさについて説明してくれた。
中位クラスを中心に、まことしやかにささやかれているうわさ。でもそれをうのみにするなんて、王国貴族として考える力がないことを証明するようなものだと、エルナ様は憤慨している。
「私はアルバン様と同じクラスなんですけど、勉強も運動もうちのクラスで中の下くらいですかね。上位クラスでやっていけるほどの努力も才能もないように見受けられます。確かに、土の素質だけは上位クラスに匹敵するみたいで、本人は自信があるようですけど、訓練が足りていないというか、実際は・・・」
エルナ様が溜息を吐いた。
「このうわさ、思わぬ試金石になっていると思うんですよね。これを信じるかどうかでその後の扱いが変わってくるような・・・。上位クラスではどんな感じなんです?」
「私、そのうわさを初めて聞いたくらいです。確かにクラスにはいろんなうわさがありますけど、アーダ様に関することはなんにも。うちのクラスでは取るに足らない与太話だと思われているんじゃないでしょうか。アーダ様本人も、そのことで責められることはないですし」
エルナ様はやっぱりといった顔で頷いた。
「上位貴族の側近の選定ってもう始まってるってことですね。こんなうわさを信じるような人は上位貴族の側近には向かない。まあ、うわさの存在を伝えることは有益かもしれませんが。でもファビアン様みたいに信じる人もいるから、うわさってあんまり馬鹿にできないんですよね」
思案するエルナ様にはこちらを見て何かに気づいた様子だった。
「でも、うわさの真偽ももうすぐ明らかになるかもしれません。こんな話もあるんです。上位クラスに続いて、私たち中位クラスの生徒も、全員が討伐任務に駆り出されるかもって」
エルナ様の顔をまじまじと見つめてしまった。今のところ、討伐任務が必須になったのは上位クラスだけだった。私たちの成果を見て中位クラスの全員参加も始まってしまうのだろうか。
「なんでも、王都の優秀な冒険者たちが何人も行方不明になっているそうなんです。学園で回収に当たってくれるような冒険者でも急にいなくなるケースが増えて、魔物の出現は増えているのに討伐隊が足りないという状況になっちゃっているらしく、私たちも戦わなきゃいけないらしいんです」
エルナ様は決意を決めたような顔になっている。
「もしかしらたアメリー様とご一緒する機会もあるかもしれませんね。その時はよろしくお願いします。アメリー様とアーダ様、こっちでは人気があるんですよ。優秀だし、一緒になったらすぐに助けてくれるって。私も風魔法なら多少の心得がありますから」
そう言って、エルナ様はぎこちなく微笑んだのだった。




