表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星持ちの少女は赤の秘剣で夢を断つ  作者: 小谷草
第6章 星持ち少女と公開処刑
126/157

第126話 グールと青の狙撃

 馬車を降り、300歩ほど歩いた時だった。森の中を先頭になって歩いていたロッキーが不意にこちらを振り返った。


「はあ! はあ!」


 ロッキーが首を振るのを見て、私たちは息を潜めた。


 馬車を降りたときから何か匂いを嗅いでいたようだが、ここにきていきなり様子が変わったのは、きっと何かを見つけたということだろう。


「いましたな。皆さま、警戒を」


 厳しい顔でこちらを振り返るナータンさん。さっき男泣きしていた人と同じ人物とは思えないほど、まじめで鋭い視線だった。


 森の中、ひざ下まであるような草むらの中だった。何の痕跡もない場所で、ここに何かが潜んでいるとはさすがに読めないだろう。でも、そうした中でロッキーは何かを見つけてくれた。


 ナータンさんが慎重に草むらをかきわけていく。グレーテとシンザンが私たちをかばうように武器を構えた。フォルカー様がまたごくりと喉を鳴らしていた。


 何かを見つけたナータンさんが、確認するようにこちらを振り向いた、その時だった。


「ぎゅらあああああああああ!」


 茂みから何かが飛び出してきた。


 数は、かなり多い。動きも鋭くて、場合によっては見事な奇襲となったのではないだろうか。現れたのは5体ほどのグールで、魔物たちは叫び声を上げながら戦闘を歩く3人に飛び掛かってきた。ナータンさんが慌てて大剣を構えたのが目に入った。


 突然の魔物の出現。警戒していても不意打ちになるほどの勢いだった。あまりの勢いに、死傷者が出てもおかしくない。


 でも、その場にいたのはグレーテだ。


「お嬢様!」


 言いながら、グールの顔面に盾をぶつけた。グールが下がったのを確認すると、横からお襲い掛かるグールの首を一閃――。近づいてきた2体を瞬時に吹き飛ばした。そして最初のグールに止めを刺しに行く。


「ひょおおおおおお!」


 雄たけびを上げて斬りかかったのはシンザンだ。持ち前の刀で走りかかってきたグールを下から斜めに切り裂いた。


 3体のグールを瞬く間に倒した2人。そのあまりの戦闘力に、第三騎士団の2人は絶句しなたらそれぞれの敵と切り結んでいた。


「すご・・・。私たちの出番はないかも?」

「まだです!」


 気を抜きそうになったニナを慌てて止めた。だってまだ、脅威が去ったわけではないのだから!


「う、うそ!」


 ニナが驚愕の声を上げた。視線の先には、倒したはずのグールたち。グレーテたちが倒したはずの2体のグールが、ゆっくりと立ち上がってきたのだ。


 グレーテの盾で吹き飛ばされたグールはもちろん、首を断たれたはずのグールも動き出している。動きは緩慢だけど、ゆっくりとこちらに近づいてきているのだ。


「首がないのに! なんで動けるの?」

「嘘だろ!? この! この!」


 驚き戸惑うニナとフォルカー様。フォルカー様は続けざまに杖を振るが、驚いたことに杖先から飛び出した火の弾はグールの魔力障壁にあっさりと防がれてしまう。それどころか、2つの火の弾が、フォルカー様に向かって直進してきた!


「壁よ!」


 火の玉の軌道を反らしたのは、アーダの魔法障壁だった。フォルカー様に当たらなくてほっとしたが、次の瞬間に気づいてしまう。


 あの魔物! まさか、フォルカー様の火の弾を反射したとでもいうの!?


「な、なにそれ! 魔法を反射したっての? 迂闊に魔法を使えないってことじゃん! こんなの、どうすれば!」

「落ち着け! 見ろ! シンザンが斬った相手は倒れたままだ!」


 アーダの言うとおりだった。


 動き出したのはグレーテが攻撃した2体で、シンザンが斬った相手はピクリともしていない。


「魔核、ですな。拙者が斬った個所に運よく魔核があったのでしょう」

「そうだな。しかし、首を断っても動き続けるとは。しかも、それほど強力ではないとはいえ、魔法を反射できるのか? 初見ならば、かなり苦戦したかもしれん。だが、核をつぶせば仕留められるのは朗報だ。胸のあたりだ! その付近に核がある!」


 グレーテが剣を振りながら周りに警告した。本人は剣でグールの胸を切り裂いているからさすがとしか言えないんだけど。


「む、むう! 前に戦った時は首を斬れば倒せたのですが、急所の位置が変わった? しかし、さすがは銀の盾! あっさりと弱点を見つけましたな!」

「左のその個体は核の位置が違う! 右肩だ! そこをつぶせば倒せる!」


 ナータンさんの簡単と同時にアーダの警告が飛んだ。対峙していたのはニナの専任武官か。彼女は慌てて右肩を斬りつけ、グールを瞬く間に仕留めていった。


「固体によって核の位置が違うとはな。どうやって魔核の位置を変えたのかは知らんが・・・。だが、弱点が分かればどうということはない」


 グレーテが目を細めた。そして、3体目の左わきを斬りつけた。グールが動きを止めたのを見て、ハンスさんが絶句した。魔物と切り結んでいたナータンさんからも驚愕の思いが読み取れた。


「な、なんで、グールの魔核の位置が分かるんですか! それぞれ違うところに核があるようなのに!」

「動きと、魔力の流れだ! 魔核をかばうような動きをしているし、魔力も核から流れている。それを読めば、どこに核があるのかを読むのは難しくない」


 たいしたことないと告げるように言うグレーテ。アーダもうなずいている。私でも魔核の位置は大体予想できたから、経験があれば読めるものかもしれない。


 でも、魔核の位置が読みやすい魔物ばかりではなかった。


「グレーテ! あれ!」

「むっ! なんだ。あの魔物は!?」


 私が指さしたのは、後ろからゆっくりと歩み寄ってくる一回り大きな2体のグールだった。起動に時間がかかったのか、他のグールより遅れたそれは、しかし魔核の位置を読むことはできなかった。


 あの魔物から複数の魔核の存在を感じたのだ。


「バウ!バウ!」


 ロッキーがうなり声を上げている。彼もあのグールの異様さに気が付いたようだ。


「そんな! あいつの弱点が見えない! いくつも反応があるみたいなんだけど! なんで?」

「魔力の源泉が複数ある? すべての魔核を破壊しないと、あいつを止められないということか!」


 疑問を言うだけの私に、アーダが答えを出した。


 複数の、魔核! それをすべて破壊しないといけないなら、かなり厄介だ。剣で一つつぶしている間に反撃されてしまう。点や線の攻撃では、無傷で仕留めることは難しいかもしれない。お姉さまなら、あの「鶏喰み」という技で倒してしまうかもしれないが。


「ニナ! 光魔法だ! おそらく、奴の魔力障壁では強力な魔法までは反射できないはず! お前の、光魔法なら!」

「おお! あたしの出番だね! 光魔法のすごさを見せる時が来た!」


 叫んだニナは、右手を包むように腰をひねった。その手からいくつもの魔法陣が展開され、両手の間から光の弾が生まれている。あの強烈な光から強力なプレッシャーが感じられた。


「行くよ! リッヒ・ストロメッシュ!」


 つきだした両手から光の本流が伸びていく。その光はグールの腹に大穴を開けた。光は軌道を変えてグールの頭上に集結し、光を降り注いでその体を消し去っていく。


 さすがはニナの光魔法! あの巨大なグールを簡単に消滅させてしまった!


「あの威力で消えるのなら! アメリー! あの魔法だ! アイツはきっと、火魔法にも弱い! お前の、星持ちの力なら!」


 思わずアーダを振り返った。彼女は強い目で私にうなずくと、最後のグールを指さした。


 そうか。アーダは、ニナの魔法から魔力障壁の強度を読み切ったのね! そして、私の火力なら反射をさせずにグールの全身を焼き尽くせると読んだ。


 反撃を受ける前に倒すことができると踏んだのだ。


 正直、恐ろしくないわけではない。万が一、私の炎が反射されたらこちらは大ダメージを受けてしまうだろう。


 でも、私は星持ちだ! グールごとき、焼き尽くせないわけはない! この程度の魔物が私の魔法を反射など、できるはずがない!


「アメリー・ビューロウ! 参る!」


 私は素早くグールの前に駆け込んだ。使うのは、アーダが教えてくれたあの魔法だ。


 魔法陣を素早く展開した。確かに、あの魔法はパヒューゼ・ギフトよりもなお難しい。でも、私だって必死に練習してきた! 私だって、新しい魔法を発現させることができるんだ!


 私は思いきり右の手のひらをグールにつきだした。


「食らいなさい! ラヴァ・エンスチレッジ!」


 手のひらから放たれた、すさまじいまでの紅の炎!


 放物線上に伸びていく炎は一瞬にしてグールを飲み込み、その全身を焼き尽くしていく。そして唐突に、炎は消えてしまう。残ったのは黒い炭のようなものだけだった。


 炎が出現したのは一瞬だけ。でもその一瞬で、グールを燃やし尽くすことに成功したのだ。


「なっ! 一瞬でグールを焼き尽くした!? 炎があった痕跡すらないなんて!」

「さすが、星持ちだな。私では、ここまでの威力は出せない。でも、うん。予定通りの効果だ。やはり、再生の力はアンデットにも有効なのだな」


 ハンスさんが驚愕の、アーダがあきらめと満足感を交えた声を漏らしている。製作者の彼女が満足できる完成度を出せたようで、私は内心ほっとしてしまった。


 私は周りを確認した。


 私の隊のメンバーも、専任武官も警戒を解かないままに周りを見渡した。グールはいない。専任武官と私たちの魔法ですべて倒してしまった。動いている魔物はもういなくなったのだけど。


 でもなぜか、私は警戒心を解く気にはなれなかった。


「アメリー殿。素晴らしい、魔法でした。ニナ様も見事で」

「アメリー!」


 アーダから警告の声が飛んだ。同時に、左手のブレスレットが強烈に締め付けた。アーダと、叔母さんのブレスレッドからの警告!? 私は反射的に体をひねった。


 そして、その瞬間だった。


 現れたのは、細い青の線。それはすさまじい勢いで私の右肩を貫いていく。


「あ、あああああああ!」


 青い線に貫かれた右肩からとめどなく血が噴き出した。私はとっさに右肩を押さえたが、勢い余って体勢を崩してしまう。そしてふらつく体を立て直そうと足を踏みしめるが、こらえきれずに崩れ落ちてしまった。


「アメリー様!」


 グレーテの焦ったような声が聞こえた気がした・・・。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ