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星持ちの少女は赤の秘剣で夢を断つ  作者: 小谷草
第6章 星持ち少女と公開処刑
122/157

第122話 一年生との邂逅 ※ 後半 ファビアン視点

 学園長室から帰る道すがら、私たちは話をしていた。


「なんか大変なことになったわね。私たちが、陛下のそばで護衛をするだなんて。アメリーも大変よね。審判の手伝いをさせられるなんて」

「少し緊張します。学生のうちから審判の手伝いをするなんて。去年は兄が斬られたり闇魔に侵入されたりで結果は大変なことになりましたから」


 メリッサの言葉に私は前回の公開処刑のことを思い出した。私が入学する前のことだけど、領地で兄が斬られたと聞いて青くなったのよね。そのあと、お姉さまが処刑人に立候補したと聞いてさらに顔を青くしたんだけど。


 アーダが何か考え込んでいるのが目に入った。前回の公開処刑の際、アーダも会場で戦いを見守っていたそうだから、その時のことを思い出したのかもしれない。


「さすがに俺たちまで駆り出されるのはしんどいが、力を見せつけるチャンスではあるな。北の手伝いみたいなことになるのは気になるがな」

「ふっ。捜査と言ったら我らだから仕方があるまい。魔物との戦いになったらお前たちが前に立つのに文句はないんだ。期待しているぞ」


 ぼやくロータル様に、コルネリウス様がにやりと笑いかけた。


 確かに、討伐となると侯爵家のコルネリウス様でも伯爵家のロータル様や子爵家の私の下に立つことを認めているのよね。爵位的にはコルネリウス様が上なのに黙って従うのは専門性を加味したことだろうが、そのあたりはさすがだと思う。


「しょうがないんじゃない? 私たちは戦地に行くのを逃れたんだし、こんな時こそちゃんと国に協力しないと。北で戦っている先輩たちに恥ずかしいことはできないしね」

「そうよね。ロジーネが帰ってきた時に笑われちゃうわ。まあ、あの子のことだからのほほんとしてるんだろうけど」


 ナデナとエーファが言うと、思わず笑いだしてしまう。確かにロジーネちゃんにはそう言うところがあるよね。たまに来る手紙でも現地で食べたものの話ばっかりだし。ほんとに戦地にいるのか分からなくなるくらいのほほんとしたことが書かれていない。


 そんなことを話しながら階段に向かうと、こちらのほうに近寄ってくる集団が目に入った。


「あれ? 先輩に叔母さんじゃないっすか。ちっす!」


 声のしたほうを見ると、フォンゾ様とファビアン様率いる1年生が、なぜか嬉しそうに私たちを見ていた。


「あ、フォンゾ様」

「ニナ先輩じゃないですか! やっと会えた! あの時のこと、お礼を言いたかったんですよ!」


 私の言葉を遮ったのはロミーさんだった。後ろにはテレサさんもいて、興奮した様子でニナに駆け寄ってきた。


「おお! 2人とも元気? 後遺症とかない? 一応、治癒したのは私だから気になって」

「もうばっちりでしたよ! 傷一つ残りませんでした! いやあ、光魔法ってすごいんですね! 怪我の痕跡も、古傷だって癒しちゃったんですから!」

「そうなんです! 私も白の属性を持っているけど、あんな回復魔法は使えなくて! さすがは先輩ですよね!」


 のんびりと答えるニナに、ロミーさんとテレサさんは興奮した様子だった。最初に声をかけたフォンゾ様も、その勢いに面食らっている。ファビアン様なんて手を上げようとしたまま固まっているし。


 何やら話し込んだ3人を見て、私は思わずセブリアン様に話しかけた。


「えっと。ニナの光魔法って、やっぱりすごいんですね?」

「ええ。あれは見事なものですよ。白の属性を持っているだけじゃ、回復魔法は使えません。僕はニナ様より濃い白を持っていますが、相手の魔法を阻害するのがせいぜいで、ニナ様ほどの魔法は使えませんから」

「ニナはあれでもへリング本家の人から直接教えを受けているらしいから。本人も相当努力したらしいわ。ま、性格はあの通りだからそんなそぶりは見せないけどね」


 光属性といえば回復魔法を思い浮かべるけど、学園に来てそれが誤った常識だと思い知ったのよね。どうやら白の資質を持っているだけでは回復できないらしく、セブリアン様のように資質があっても使えないことは多いみたいだ。


 照れながら説明するニナを微笑みながら見ていた時だった。


「あの、先輩」


 ファビアン様が意を決したように話しかけてきた。


「ファビアン様」

「私たちはこれから学園長に話を聞きに行くんですが、先輩たちは先に呼ばれていたようですね」


 真面目な顔で尋ねてくるファビアン様にちょっと戸惑ってしまう。答えてあげたい気がするけど、機密があるから、言えることは限られてしまうのよね。


「ええ。詳しい話はできないけれど、その、今後の話がありました」

「そうですか。やはり、公開処刑の日程が決まったんですね」


 さすがファビアン様。学園長の話に大体の見当がついているようだった。それだけでは何も言っていない気がして、私は一言付け加えることにした。


「その、当日は私たちはいろんなことでお手伝いに狩り出されるようです。メインイベントもそうですが、会場の整理をお手伝いする人もいるようで」

「やはり、そうなのですね。上のほうは次のイベントがただで済むとは思っていない。他国から干渉される可能性が高いと踏んでいる。私たち学生の、手が必要なくらいに」


 少し考えこんだファビアン様だが、私の視線に気づくと気まずそうな顔をした。


「いえ、私が悩むことではないかもしれないですけどね。この前の戦いでも対して役に立たなかったですし。公爵家の次男なのに、キマイラに攻撃することもなかった」

「そんなことはないですよ。私がキマイラに集中できたのは、ファビアン様やフォンゾ様が他の魔物を引き付けてくれたおかげなんですから」


 落ち込みだすファビアン様に私は思わず言いつくろった。


「私はこれでも武の三大貴族出身ですし、エリザは水の魔法家出身です。アーダは私と一緒に様々な魔物を討伐している戦友ですから、戦闘で成果を上げるのは当然のことなんです。一応これでも、ファビアン様たちよりも先輩でもありますし」

「でも!」


 声を高めるファビアン様に、私は静かに首を振った。


「貴族としての役割は討伐だけじゃないと思うんです。お姉さまも言っていたけど、祖父の一番の功績はビューロウの地を豊かに変えたことだと思います。直接的な力は必ずしも必要とされるわけではない。事実、私の父は戦闘力よりも街の整備や指揮のほうで存在感を示していますから。それで領内の評判は祖父に次いで高かったりします」


 確かに直接的な戦闘力は貴族としての力が分かりやすいけど、私たち貴族に求められるのはそれだけではない。土地を豊かにしたり街の設備を作ったり兵士たちの指揮をとったりと役割は様々だ。戦闘力を示していないからと言って貴族として力がないというのは間違いだろう。


「ファビアン様たちは十分に私を助けてくれています。胸を張っていいと思います。公爵家の支援があることは、子爵としてはかなり助かっていますから」

「いや、確かに爵位は高いが、私としては・・・」


 私は首を振った。


「爵位が高いのは重要ですよ。姉はエレオノーラ様のおかげでずいぶん助かったと言いますし、私も、地位の高い皆さんのおかげで戦えたことも多かった。前線で戦う私たちには、皆さんのご支援が不可欠なんです」

「だけどあなたは!」


 顔を赤くして叫ぶファビアン様に、私はそっと首を振った。


「私は、星持ちとは言えただの子爵令嬢にすぎません。武の三大貴族の一人として、前線で戦うのは当然のことです。今までだってロレーヌ家の支援は十分です。そんなに、ご自分のことを卑下される必要はないんですよ」


 涙目になって顔を上げたファビアン様にそっと笑いかけた。


「ファビアン様はファビアン様のできることをしてください。それで十分です。前線で戦うのは私の、私たちの役目です。ファビアン様がフォローしてくれるのなら、私たちはどんな魔物だって打ち破ってみせますから」


 そう宣言すると、私は教室に向かって歩き出すのだった。



※ ファビアン視点


 立ち去っていく彼女を見つめることしかできなかった。彼女のクラスメイト達も一礼して、彼女の後に続いていく。


「かわいい顔をしているが、やっぱ先輩はビューロウ家のご令嬢だよな。覚悟がちげえや。まあ、叔母さんにも感じていたことだけどよ」


 落ち込む僕に声をかけてきたのはフォンゾだった。


「意気込みと責任ってやつが、やっぱ違うんだよ。俺たちみたいに、現場を知ろうと討伐任務に当たってるんじゃない。武の三大貴族として必ず敵を討伐するって気持ちで臨んでいるんだ」

「だけど先輩は! 星持ちとは言え貴族令嬢なんだぞ! あんなに、小柄なのに!」


 感心したように言うフォンゾに思わず反論してしまう。その声に反応したのは、サミュエルだった。


「私は、メレンドルフ家のフェリクス様にお会いしたことがありましたが、今のアメリー先輩と同じ雰囲気を感じましたね。彼は騎兵で必ずしも討伐の専門家ではない。しかし、討伐に当たるときは絶対に失敗させないという気概を感じました。武の三大貴族や魔法家の人たちは討伐に掛ける意気込みが、私たちとはまったく違う」


 ごくりと息をのんだのはテレサだった。


「そうですよね。初めて聞いた時は妙に頷いちゃったけど、今思うと異常ですよね。あのキマイラを学生が討伐したなんて。でも、納得です。ビューロウ家は、あんな覚悟で討伐に臨んでいるんですね」

「え、ええ。キマイラは、あのウェディンゴよりも討伐難易度の高い相手なのですから」


 ウェディンゴと聞いてサミュエルがぶるりと震えた。やはりあの魔物に狙われたのは相当に嫌な思い出になっているようで、サミュエルは名前が出るたびにびくついている。


 そんな僕たちを見てフォンゾがあきれたように声をかけてきた。


「おーい。先輩たちが気になるのは分かるがそろそろ行こうぜ。あんまり学園長を待たせるわけにはいかないからよ」


 そうだった。僕たちは学園長に呼ばれているのだった。アメリー先輩は言葉を濁していたけど、おそらく公開処刑とそれにかかわる僕たちに任務について説明があるのだろう。


「そうだな。次こそは、ちゃんとしないと。アメリー先輩に格好の悪いところばかり見せるわけにはいかないからな」


 そうつぶやいて、僕たちは学園長室へと足を進めるのだった。

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