第11話 メラニー先生とニナ
あのあと、私は職員室に呼ばれてメラニー先生から事情を聴かれることになった。といっても犯罪者のような扱いをされたわけではない。あくまで事情を知るものとして扱われているという気がしている。アーダ様の同行も認められたわけわけだし。ガスパー先生もかばうように一緒にいてくれることだしね。
「そうか。あなたたちは前回の任務でビッグバイパーに襲われたのだな。不測の事態が起きたことをクラスメイトに報告したらこんな事態に巻き込まれることになるとはね」
メラニー先生が頭を押さえた。疲れたような顔をしているけど、先生が私たちを叱責するつもりはないようだった。
「えっと。私たちを信用してくれるのですか?」
この先生は西の生徒を優遇しているという話もあるから、かなりまっとうな対応に少し驚いてしまう。
メラニー先生はため息交じりに答えた。
「ゲラルトはね。今回あの生徒たちを引率した教師だけど、彼は本当に優秀なのよ。少なくとも、私を含めた教師陣が認めるほどにはね。彼が守りをしくじったとは考えられない。彼らの汚れの件もあったし、確認してみたらやはりという感じだったけど」
なるほど。優秀な守り手であるあの先生を適正に評価するためということか。
「まあ、今回の討伐でだれがどんな行動をしたかなんてすぐにわかった。上空から召喚獣が生徒たちの戦いぶりを見ていたわけだから」
そう言ってメラニー先生は小さな四角い箱のような魔道具を見せてくれた。
「南のほうで開発された魔道具よ。これを向けた先にある景色を切り取ることができる。そんなに鮮明に景色が残るわけではないけど、誰がどんな行動をしていたかはわかる。これを確認すれば、誰が原因かを判別できるのよ」
疲れたような顔でメラニー先生は説明してくれた。
「あなたたちはもう戻っていい。学園長にも見ていただいて、それで対応を検討する。あなたたちに責が及ぶことはないでしょう。今回の件とは本当に無関係のようだから」
そういうと、メラニー先生は私たちに退出を促したのだった。
◆◆◆◆
「アメリー!」
職員室を出るといきなり声をかけられた。息を切らしながら駆け寄ってきたのは、ニナ・シュニー様・・・今回の任務で軽い怪我をしたはずの令嬢だった。彼女を支えている少年――フォルカー・マリーネブラオ子爵令息が心配そうに彼女を見ている。
「私の部隊員が、ごめん! アメリーは悪くないのに、ヘルムートの奴が勝手なことをして!」
「僕らの部隊のもめごとなのに済まない。その、メラニー先生から怒られなかったか?」
クラスで中心にいる2人にそう言われると委縮してしまう。
「い、いえ。メラニー先生も私たちの言うことを信じてくれているようでしたし、こちらは大丈夫です。それよりも、もういいんです?」
ニナ様はほっとしたように金髪をかき上げた。
「まあ、これでもあたし、へリング家の分家だし、回復魔法が得意だからね。あの引率の山賊みたいな先生がすぐに助けてくれからさぁ。ヘルムートの奴、ホント余計なことするよね。守り手として大した仕事もしていないくせにさぁ」
そして当時の状況を思い出したのか、興奮気味に話し出した。
「でもすごかったのよ! ヘルムートの奴がどんどん先に行ったせいであたしたちは分断されたんだけど、私たちがコボルトに襲われたのを見てすぐに山賊先生がかばってくれたの! ヘルムートを止めに行ったはずなのに気づいたら私たちのそばにいて! いつの間に移動したのかと思ったわ! 山賊みたいななりのくせに、ホントすごかったんだから!」
襲われたはずのニナ様は、教師の働きぶりに感じ入ったようだった。身振り手振りを交えて必死で説明してくれている。それを、フォルカー様が優しい目で見つめている。
「あ! 私も証言したから! 先生方はちゃんと守ってくれたって! むしろ、ヘルムートの奴が暴走しちゃってたってさ!」
「僕も僭越ながら。守り手と分断されちゃったら本当に危険だったよ。セブリアン様が、教師が来るまで何とかしのいでくれたけど、それがなかったらもっとひどい怪我をしていたかもしれない」
ニナ様は笑顔で言うと、急に思案顔になった。
「でも、私たちが急に討伐を任せられたのはちょっと早かったかなと思う。セブリアン様は頑張っていたようだけど、討伐経験のある人たちとは全然違ったもの。部隊員の数も足りなかったんじゃないかな? 前の時は、後衛が襲われるかなんて考えたことなかったからさー。まあ、その辺も含めての采配かもしれないけど、人数が足りない気がする。5人組くらいがちょうどいいかもね」
私はうなずく。失敗を経験させることも授業なのかもしれないが、でも後衛を危険にさらすのはやりすぎではないかと思う。特にニナ様は、光魔法を使える貴重な癒し手であることだし。
「ほんと嫌になるわ! メラニー先生は私たち西の生徒のことを気にしてくださる貴重な先生なのに、彼女にまで嚙みつくなんて! ノード家ではどんな教育をしてるのよ! 伯爵家の後継になったからって乗せられてきたんじゃないの? アイツのお兄さんの評判はいいみたいだけど、本人の実力は大したことないよね!」
ニナ様は憤慨すると、呆然とする私たちに慌てて説明してくれた。
「あ! メラニー先生は西の貴族に優しいけど、決して不正をしているわけじゃないからね! 教師の規約を破ることなんてないし! でも、成績の悪い生徒に個別授業をしてくれたりして、結構助かってるんだ。私も受けたことがあるけど、すんごいわかりやすいんだよ!」
慌ててメラニー先生をかばうニナ様に、私は笑顔を向けた。
「メラニー先生、教師になったときにあのへリング家の当主が直々にお祝いの言葉をかけてくれたって嬉しそうに言ってた。後継でもないただの一貴族の自分に、西を代表する大貴族が激励の言葉をかけてくれたって。だから、教師として誇れる自分になるために頑張ってくれてるんだと思うの!」
「ニナは本当にメラニー先生のこと好きだよな。まあ僕も、いい先生だと思うけどさ。西以外の貴族には厳しいけど、理不尽なことは絶対にしないしさ」
うすうす感じていたことだけど、やっぱりこの学園の教師って優秀な人ばかりだ。戦闘力もすごいし、みんな公正だ。生徒一人一人のことをちゃんと見てくれてるって気がする。西びいきだと思っていたメラニー先生も、東の私たちの話をちゃんと聞いてくれたことだし。
「まあ、でも今回私も失敗しなかったわけじゃないしね。もっと経験を積まないとダメかなぁ。でもちょっとずつうまくやれていると思うよ。そのうちアメリーっちとも一緒に戦えるようになるかもね」
ニナ様はそう言って、とびっきりの笑顔を見せてくれたのだった。




