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星持ちの少女は赤の秘剣で夢を断つ  作者: 小谷草
第5章 星持ち少女と異国の魔物
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第109話 星持ちの目覚めと闇魔法の痕跡 ※ 後半 アーダ視点

 目を開けると、白い天井が広がっていた。シミ一つないそこは、少しだけ見覚えがあるような気がしていた。


「アメリー。目が覚めたのね」


 私の顔を覗き込んだのはエーファだった。彼女の後ろにはグレーテとニナ様が心配そうな顔で私たちを見守っていた。


「えっと・・・。その、私は?」

「大丈夫よ。私たちは学園に戻ってきたの。ここは安全だから。しばらく、体を休めなさい」


 エーファはそっと微笑んで頭をなでてくれた。私はうなずいて、彼女のされるがままになっていた。


「ここは、学園? あれ? でも私・・・」

「いいのよ。今は休んで。あなたは、十分に頑張ったのだから」


 私はあいまいに頷いた。


「っつ!!」


 頭痛がして、思わず頭を押さえた。何か大事なことを忘れている気がして、思わず記憶をたどってしまう。


「!!」


 唐突に、一人の冒険者が微笑むビジョンが浮かんだ。最初は笑っていたその人は、やがて苦しそうな顔になり、そして泣きそうな顔で口を動かした。


「たすけて」


 彼は確かにそうつぶやいていた。そして思い出す。私はあの館で、カミロ様に炎を打ち出したのだ!


「エ、エーファ! どうしよう! 私!」

「大丈夫よ! あなたは悪くない! あそこではああすることしかできなかった! そのままだったら犠牲者がたくさん出ていたかもしれない! あなたは、貴族としてやらなきゃいけないことをやっただけなのよ!」


 夢じゃなかった・・・。私が、カミロさんに攻撃を仕掛けたのは、現実に起きたことだったのだ!


「わ、私! 貴族なのに! あの人は優秀な冒険者で、貴族の私が! 星持ちの私が守らなきゃいけなかったのに!」 

「あなたはできることをやった! 人を襲う可能性が高かった魔物を、ちゃんと倒したのよ! あなたが後悔する必要なんてない! 十分に、できることをやったのよ!」


 エーファが抱きしめてくれたが、私は泣き続けることしかできなかった。



◆◆◆◆


 暴れるだけ暴れて力尽きたように眠ってしまったようだ。エーファとグレーテが話す声が遠くで響いているような気がする。


「じゃあグレーテ。悪いけど、少しお願いね。アーダの話が終わったら私もすぐに追いかけるから」

「いえ。お嬢様を守るのは私の役目ですから。むしろ、私の至らなさがこの事態を招いたのです」


 悔やむように言うグレーテに、エーファは悲しそうに首を振った。そしてエーファが向かう先にはアーダ様がいた。彼女も心配そうにこちらを見ていたが、エーファに促されると静かに部屋を出ていった。


 エーファに縋りつくように泣き叫んだ私を見られたかもしれない。でも私は何のリアクションもできなくて、グレーテのされるがままになってしまう。


「さあ。お嬢様。後のことはアーダ様に任せて、私たちは部屋に戻りましょう。しばらくは、ゆっくり休んでていいのですからね」


 慰めるように言うグレーテにも、私は返事をすることができない。


 何の罪もない、しかも誘拐されたかもしれないカミロさんを、私は手にかけてしまったのかもしれない。その事実は重く、私の肩にのしかかっていた。エーファたちはしきりに「仕方のなかったこと」と慰めてくれるけど、到底納得することはできなかった。


 私はグレーテに従いながら、寮へと向かう馬車に向かうことしかできないのだった。



※ アーダ視点


 談話室にはすでにクラスメイト達が揃っていた。


 アメリーと一緒に出掛けたエリザベートたちやファビアン様、セブリアンたちに加え、私と一緒に図書館にいたコルネリウスとハイリーがいた。そして、アデリーノ先生の話を聞きに行ったロータル達もいる。ヘルムートはしきりにセブリアンに話しかけているようだった。


「おう。そっちはどうだった? アメリーの様子は?」

「いや・・・。うん。今は、エーファやグレーテと一緒に寮の部屋に戻ったよ。今、話ができるような状態じゃなかったからな」


 コルネリウスの問いに、戸惑いながら答えた。あの状態ではアメリーが冷静に話せるとは思えない。帰したのは、仕方のないことだと思うけど。


「ですよね。あんなシーン、私にも今だに信じられませんよ。人が、魔物に代わるなんて」

「お前たちが嘘を言っているとは思えんが、ちょっと信じられんな。人間と魔物を合成するなんぞ、あの帝国でも、アレクシス・タルボットでも無理だったんだからな。しかし、お前はてっきりアメリーについていくと思ったが?」


 ギオマーの言葉に、ちょっと困ってしまう。


 確かに、アメリーの状態を見たときは、私も及ばずながらついていくつもりだった。だけど、エーファやニナたちの顔を見て気づいたのだ。私も、この場でしなければならないことがあるのだと。


「えっとね。私もいまだに信じられないんだけど・・・」


 おずおずというニナにギオマーが怪訝な顔を向けていた。ニナは戸惑ったように床とギオマーたちを繰り返し見比べている。私はニナの肩に手を当てて彼女の言葉を引き継いだ。


「うん。エーファやニナと会って、感じたんだ。そして今、エリザベートやギオマーたちを見て確信した。みんなに、闇魔法を掛けられていることを」


 私の言葉にみんなが絶句していた。いきなりこんなことを言われて信じられないのも仕方のない気がするけど、街に行ったみんなから闇魔法の気配を感じたのは確かなことだった。


「み、見間違えじゃないのかい? 君に闇魔法の資質があるのは知っているが、気のせいだろ? ずっと一緒にいたけど、魔法を掛けられる瞬間なんてなかったよ。いくら君とはいえ、そんなの信じられるわけはない」

「いや。みんなの顔を見て確信したよ。アメリーと一緒に街に行ったみんなには、確かに闇魔法の気配がしている。すぐに効果があるものではないけど、間違いないと思う。現に、エーファやニナたちには闇魔法がかかっていた」


 私が断言すると、みんな顔が青ざめさせた。


 この国の貴族にとって、闇魔法はすべからく忌むべきものだ。長らく敵対していた帝国が活用していた属性で、今もまだ帝国の残党が使うことが多い。闇魔法によって被害を受けた事件も多く、簡単に受け入れられる属性ではないのだ。


「あなたを疑うわけじゃないけど、そんな隙はなかったと思う。私が魔法を掛けられた覚えなんてないのだけど?」

「そ、そうですよ! 闇魔法どころか普通の魔法すらも掛けられた覚えはありません! 何かの間違いではないですか?」


 エリザベートとデメトリオが言い募るが、私は静かに首を振った。セブリアンも厳しい顔で私を睨んでいる。


「おそらく連邦の魔法使いの仕業だろうな。水魔法の力が強いあの国の魔法使いには、隠蔽技術に優れていることが多いから」


 事実、連邦の奴らはビューロウ領での奇襲に、私たちは直前まで気づくことができなかった。私たちは未熟とはいえ、魔法使いの卵だ。普通に考えて誰かが伏兵を察知できるはずなのに襲われるまで気づかなかったのは隠蔽技術に優れていたからに他ならない。


「私なら、お前たちに掛けられた闇魔法を解除することもできる。お前たちが許可してくれるなら、解除させてほしいんだが」

「えっとね。私とエーファはアーダに解除してもらったんだけど、魔法が掛けられているのは確かなことだったよ。あの魔法を使われたとき、確かに解除された気配を感じたもん」


 ニナがすかさずそう言ってくれた。だけど・・・。


 私がバル家の秘術を使えるのは周知の事実だったけど、みんながためらっても仕方がないと思う。みんなに掛けられた魔法を打ち消すには私の闇魔法を使うしかない。闇魔法を掛けられると知ってすぐに決断できないのは当たり前のことなのだ。


 にもかかわらず、頷いたのはエリザベートだった。


「いいわ。私に掛けて。それで、本当に私たちが闇魔法の影響にあるかがわかるはずだから」

「エリザばっかりに格好のいい真似はさせませんよ。私にもかけてください。闇魔法がかかったままなんて気持ちが悪いですからね」


 エリザベートの賛同にすかさずメリッサが同意した。ギオマーもにやりと笑って頷いてくれた。


「あ、あなたたち、わかっているのですか!? 闇魔法を解除するには、バル家のあの秘術を、闇魔法を掛けられる必要があるのですよ!」

「今さらアーダが俺たちに害を与えるはずはないさ。べリアンを助けてくれたあの魔法なら問題はない。それより気になるのは、いつの間に闇魔法が掛けられたのかだ。どんな魔法が掛けられているかも分からなかったからな」


 デメトリオの疑問に答えたのはギオマーだった。驚いたことに、彼は余裕のある顔でデメトリオを、そして私を見つめていた。


「し、しかし! 今の彼女は中央の大貴族ですよ! 南や西の貴族の貴方たちが、容易に信頼していいはずがないではありませんか!」

「あら? でもアーダが私たちを裏切るなんて、そんなことありえないじゃないですか」


 笑顔で答えたのはメリッサだった。


「デメトリオの言うことは分からないではありません。確かに中央の貴族と私たち南は、それほどうまくいっているとは言えません。私たちの盟主のフランメ家が第一王子派と決裂したのはついこの間のことですからね。でも、そのことをよく理解しているアーダが助言をくれたんです。私たちの友人がわざわざ言ってくれたこと信頼しないわけがないでしょう?」


 笑顔で言うメリッサに、エリザベートが続けてくれた。


「そうね。1年以上クラスメイトだからアーダのことは少しは分かるつもりよ。たしかに、今のアーダは中央の貴族だけど、私たちの友人が意味もなく貶めてくるはずがない。あまり積極的な行動をしないアーダが言うのだから、本当に危険な状態なんでしょう」


 エリザベートはそっと両手を広げてくれた。


「アーダ。悪いけどお願いできるかしら。私たちに掛けられたとされる闇魔法を、あなたのあの秘術なら消し去ることができるでしょう?」

「う・・・。うん」


 私は戸惑いながらも、黒の魔法陣を展開させていく。


 正直、もっと抵抗されるかと思ってた。同じ部隊に属しているニナや友人のエーファとは違い、エリザベートは西の貴族だ。彼女に信頼される可能性は低いと思っていたのに、こんなに簡単に信頼してくれるなんて・・・。セブリアンやデメトリオも、驚いた顔でこちらを凝視している。


 私は歯を食いしばりながら、あの魔法を紡ぎ出していく。まさか、私が信じてもらえるとは思えなかった。だけど、信じてくれたからにはその信頼に必ず答えてみせる!


「い、いくぞ。 フレイゲーベン!」


 私が構築した魔法陣から黒い光の柱が伸びていく。光の柱は私を中心に広がっていき、エリザベートたちを飲み込んだ。


 彼女たちの言動に偽りはなかった。王国で嫌われていたはずの闇魔法なのに、静かにそれを受け入れている。


「!! これは!」

「え? なに!?」


 ギオマーとメリッサが同時に漏らした。エリザベートも驚いた顔をしている。


「私にも、わかった。アーダの魔法が私たちの何かをかき消したのが。疑っていたわけではないけど、本当に闇魔法が掛けられていたのね」

 

 黒い光は静かに収まっていく。3人は茫然として、自分の手を見つめ続けている。


「あ、あれが、バル家の秘術か・・・。すげえもんを見た。バル家が没落したときに王家に納められたと聞いていたけど、確かフレイゲーベンの魔法は難易度が高すぎて誰も使えなかったんじゃなかったか?」

「す、すげえ・・・。あれ、闇魔法を払ったのか? あんな巨大な魔法なのに、なんて静かに収まっていくんだな」


 ロータルやヘルムートが驚きを隠せない様子だった。やはり彼らにとっても、バル家の魔法はかなり珍しいものだったらしい。ファビアン様やフォンゾは言葉もないようだった。


 黒い光の柱は静かに消えていく。みんなは茫然とその光景を見つめていた。


 どうやら、予想通り痛みも何もなかったようだった。ギオマーが首を振りながら私に問いかけてきた。


「なあ。俺たちに掛けられた魔法はどんなものだったんだ? 一応俺たちの許可を取ったことから、それほど即効性がある魔法ではなかったんだろう?」

「おそらくヴァ―ビデンの魔法だ。あれは、魔法自体には特別な効果はない。だけど、特定の魔法の効果を高めることができるんだ。しかも水魔法や土魔法と組み合わせることで隠蔽や効果時間の長期化を成し遂げることができるという・・・」


 コルネリウスが興味深そうにうなずいていた。


「それ自体には効果はないが、魔法の効果を高めることができる闇魔法とはな。これは、相当に危険な罠を仕掛けられそうだな」

「ああ。かつては支配の魔法や相手を自在に操れるプレエンの魔法をスムーズに使うために使われたとされる危険な魔法だ。早いうちに見つけられてよかった。あれは時間が経てばたつほど、見つけづらくなるという特徴があるからな」


 私は汗をぬぐいながらほっと一息ついた。神妙な顔で考え込んだのはエリザベートだった。


「アーダ。ありがとう。あなたのおかげで闇魔法を解除できたのが私にもわかったわ。でも、いつの間に私たちは魔法に掛けられたのかしら。思い当たることがないのだけど」

「そうさな。私たちに魔法が掛けられていたなんぞ、最初は分からなかったぞ。いつの間に、魔法に掛けられたんだ?」


 疑問を口にする彼女たちに、私は自分の考えを話し出した。


「おそらくだが、連邦出身の相当な手誰が関わっている気がする。技術の研鑽だけじゃない。資質だって相当に優れた相手だと思う。闇魔法がレベル3以上の使い手が関わっているのだと思う」

「やっぱり、アーダは連邦が関わっていると思うんですか?」


 メリッサの疑問に、私は静かに首肯した。


「ああ。これだけの隠蔽技術は水の魔法について研究を重ねた連邦の力であるかの威勢が高い。確かにあの国の魔法技術は、多くがこの国には及ばない。だけど、こと隠蔽技術に関してはあの国のほうが優れていることが多いんだ。旧帝国の魔法使いが、闇魔法の高い技術を持っているのと同じようにな」


 私の答えに、エリザベートがはっとしたように顔を上げた。


「ねえ。覚えている? あのサルバトーレという男、連邦から来たと言っていなかった? あの時、確かアメリーが手首を押さえていたけど、それはあの魔道具に何か反応があったってことじゃない? もしかしたら、彼こそが私たちに魔法を掛けた犯人なのかもしれない」


 私は首を傾けた。


 サルバトーレという名前に心当たりがない。コルネリウスやロータルも知らないようで、私と同じようにエリザベートの答えを待っている。


「そうね。街での出来事だから、アーダたちが知らないのはもっともなことね。私たちが街に行ったとき、炎の魔力過多者を見かけたのよ。それで・・・」


 そして私たちは、エリザベートから街での出来事について聞き出したのだった。

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