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星持ちの少女は赤の秘剣で夢を断つ  作者: 小谷草
第5章 星持ち少女と異国の魔物
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第108話 トリビオへの尋問 ※ エリザベート視点

※ エリザベート視点


「それで、アメリーのほうはまだ目を覚まさないんですね」

「ええ。おそらく、意識が戻るのはもう少し時間が必要かも。エーファやニナが付いているから心配はないと思うけど」


 学園の地下へと向かう道すがら、メリッサの問いに答えていた。


 アメリーを学園まで運んだのはいいものの、学園長への報告に思わぬ時間を消費してしまった。向こうは王城への報告とかいろいろしなきゃいけないみたいだから、詳しい話を聞きされるのはないことかもしれない仕方のないことかもしれない。


「まあ、学園についたからにはもう心配ないと思うよ。一応、守りは万全だし、万一に備えてあの護衛もついていてくれるからね」


 カトリンの言葉にアメリーの護衛の女性を思い出した。


 フェリシアーノの襲撃を防いだというあの護衛は専任武官でも随一の使い手だった。ビューロウにいるのにクルーゲ流の盾を使った剣士で、しかも飛び切りの腕利き。正直、アメリーの護衛でなければここにいる誰かが確実にスカウトしていたほどの人材だ。


 私たちが無事に合流できたのは彼女の活躍のおかげというのが大きい。宝珠から扉を召喚することこそできなかったものの、あの宝珠を敵に奪われるのを防いでくれた。カトリンが言うには、近くに宝珠を狙う賊がいたようだけど、彼女の剣気に押されて動くことができなかったらしい。


「しかし、人が魔物になるなど聞いたことがないぞ。あの帝国でも確立されなかった技術だからな。セブリアンが嘘を言っているとは思えんが、いまだに信じられん」


 ギオマーがかぶりを振った。


 私たちが気絶したアメリーを確保できたのは、すべて彼のおかげだった。アメリーたちの護衛と合流するや否や、ギオマーがすぐに宝珠を調べ出した。そして、あの宝珠を隅々まで確認すると、そのまま再召喚してあの扉を開いたのだ。そこからアメリーを背負ったセブとデメトリオが駆け寄ってきたのは想定外だったようだけど。


「とりあえず、急ぎましょうか。学園長が許可してくれたのは王城から使者が来るまでの間よ。それまでにトリビオを尋問して目的を聞きださないと」

「本当にね! 短時間で尋問しろだなんて無茶を言うんだから! しかも、暴力は一切なしだなんて! まあ、学園長も私たちのわがままを精いっぱい聞いてくれたんだろうけど!」


 そう。私たちが向かう先にはトリビオが拘束されている。本来ならトリビオは王城にある尋問室で詳しい事情を吐かせるはずだったけど、私たちが学園長に無理を言って先に事情を聞けるようになったのだ。この辺は学園長の融通が利くところだけど、時間があんまりない。急いで、彼から話を聞かなければならないんだけど。



◆◆◆◆


 尋問室ではデメトリオがトリビオの襟首を掴み上げていた。


「いい加減に吐きなさい! あなたはなぜあの場にいたのですか! あなたと、水の巫女との関係は!」

「はっ! 知らねえよ! あの街にいたのはたまたまだ! お前たちがいるなんて知らなかったぜ! せっかく色々見られるチャンスなのによ!」


 デメトリオの尋問は、残念ならがそれほど効果を上げていない。トリビオは余裕たっぷりでデメトリオを見下している。虚勢を張っているのはまるわかりだけど、彼は彼でこちらがあまり乱暴なことはできないのを知っているようだった。


「困ったわね。王城から使者が来るまでしか時間がないのに」

「情報を得るにはあいつの口を割らせるしかない。でも、私たちにそれができるの?」


 私とメリッサはため息交じりだった。護衛のカトリンが面白がるような顔をしていたのに少しイラついてしまう。


「よし。選手交代だ。俺がやろう」


 ギオマーは頷くと、ごきりと腕を鳴らした。


 体格がいいこともあってギオマーは迫力は満点だ。まあ、実際に話すと優しい人だというのはすぐにわかるけどね。見かけに騙されたようで、トリビオはうろたえてじりじりとのけぞっていく。


 ローン家はあのアレクシア・ザインの生家で、トリビオはこの国で指名手配されていた男だ。なぜこの男がここにいるのか。もしかしたら、アメリーを狙われていることについて何か知られるのかもしれない。


 デメトリオが言うには、この男は一時、連邦に身を隠していたらしい。私たちと連邦には深い因縁がある。ビューロウで襲ってきたのはおそらく連邦の水の巫女の関係者だし、公開処刑を目論むユーリヒ公爵の背後には水の巫女が見え隠れしている。シグが消えた一件にも連邦が関わっている可能性が高く、彼に事情を聞くのは必須だと思えるのだけど。


「お、お前らのような学生が俺から情報を引き出そうなんて、そんなの許されると思っているのか!」

「黙りなさい! なぜあなたがここにいるのか、話してもらいますよ!」


 トリビオが言うが、デメトリオぴしゃりと逃げ口を塞いだ。デメトリオはすぐにでも尋問を始めそうな雰囲気だ。


 だけど、そのタイミングで尋問室の扉が勢いよく開けられた。


「やめなさい! あなたたち、何をやっているの!? まだ学生のあなたたちに尋問なんて許されるわけがないでしょう!」


 唐突に入ってきた女性に、私たちは厳しく詰問された。


「くっ! タイムアップってこと!?」


 悔し気につぶやく中、その女性は私たちとトリビオの間に割って入った。


 黒いスーツを着た、20歳くらいのきれいな女性だった。彼女の後ろには学園長もいて、困ったような顔で頬に手を当てている。


「私たち王国人は野蛮人ではないのです! 捕虜に対しても丁寧に接しなければならないのですよ! 理由もなく乱暴するなんて許されません!」


 その女の人はこともあろうにトリビオを庇い立てした。私たちは不満顔だ。トリビオがにやにやと笑った気配を感じてますます納得できない顔をした。


「ごめんね。王城から彼女がもう来ちゃったのよ。あと数時間は時間を稼げると思ったんだけど」


 片目を閉じて謝罪する学園長を、あの女性がきっとにらんだ。一応学園長は王妹なはずなのに、この態度。どうやらこの女性は尋問において全権を任されているような、強い立場の人のようだ。


 正直、王国を裏切った疑惑のあるトリビオには甘すぎるんじゃないだろうか。多少は強く尋問してもいいのではないかと思ったのだけど。


「リンダさん、お怒りなのはわかるけど、彼女たちにも情報を共有してほしいの。もちろん、あなたの上司には許可を取るわ。この子はあのヴァッサー家のご令嬢で、この捕虜はもしかしたら水の巫女にかかわる情報を知っているかもしれないのよね」


 女性――リンダさんは深く溜息を吐いた。


「王妹とはいえ、許可のない今は、大事な情報を渡すわけにはいきません。ですので、情報を渡すのは私の上司の許可を取れればという話になります」

「ええ。それでいいわ。すぐにリッフェンを出すからね。じゃあそう言うことで! あなたたちも、あんまりリンダさんの邪魔をしないようにね!」


 学園長が急いで尋問室を後にした。私たちはしょうがなしにその部屋を出ていった。背中に、トリビオの嘲笑するような視線を感じながらも・・・。



◆◆◆◆


「私たちが捕らえたのに蚊帳の外ですか! こんなの、ありえないでしょう!」

「デメトリオ! 落ち着け! 学園長たちにも立場ってものがあるんだ!」


 憤懣やるかたないといった声で喚き続けているのはデメトリオだった。セブが止めているが、彼もちょっと納得していない様子に見える。まあ、トリビオを捕らえた彼らとしては、尋問に加われないのには納得できないのかもしれない。


「王家がこれほど早く行動するのは想定外なんじゃない? よく考えればこの事態を重く見ているということだし」

「だが、悪くとれば上層部が連邦に必要以上に気を使っているということになる。ユーリヒ公爵は水の巫女たちの住処を用意したというし、クレーフェ侯爵も連邦を支持しているという話もあるからな」


 クレーフェ侯爵か。


 確かに最近はクレーフェ侯爵の台頭が著しいと聞いている。侯爵の息子が近衛騎士に任命されたのは周知の事実だ。ロレーヌ公爵やユーリヒ公爵の反対を退けたというから、その権勢は相当なものだと思う。まあ、内容が陛下の身の安全だから、他の貴族は大っぴらに反対できなかったのかもしれないけど。


「みんな、ごめんね! で、でも! 許可は得たから! 尋問で得た情報はこっちにも回してくれることになったからさ」


 焦ったように言う学園長は、書簡をこちらに見せびらかしてきた。学園長は尋問官の上司に迅速に許可を得てくれたらしい。こんなに早く許可を得てくれるのは本当にありがたく、恐縮してしまうのだけど・・・。


 デメトリオやセブは不満を隠せない。やはり、トリビオから直接事情を聞き出したいと思っているようだった。特にデメトリオは王家に敬意があるはずなんだけど、不満を隠せないくらい憤っているらしい。


「まっ。大丈夫じゃないかな? 学園長のおかげで僕たちにも情報を流してくれることになったし。僕たちが尋問するよりも詳しい情報が聞けるはずさ」


 あくび交じりに話したのはカトリンだ。


「何を言っているんです! 尋問したからって詳しい情報が聞けるとは限らないじゃないですか! あんなに甘い態度なら大した情報を聞き出せないに決まっています!」

「そ、そうです! あいつが本当のことを言うとは限らない! 検証などに時間がかかるはずです! 明日にも公開処刑が始まるかもしれないのに、悠長なことはしていられないんですよ!」


 デメトリオとセブが反論するが、カトリンっは面白がるような顔を崩さない。


「でも、今尋問しているのはリンダ様だよ? あのマルク家の、秘術を扱えるご令嬢の」


 全員が固まった。


 確かに、学園長は彼女のことを『リンダさん』と呼んでいた。ということはつまり、彼女がリンダ・マルクと考えて間違いがないのだろう。


「マルク家って・・・。あのマルク家ですか! 王家は本気ってことじゃないですか!」

「まさか、そんなことがあり得るのか! トリビオに同情することがあるとは思わなかったぞ!」

「単なる逃亡者の一人に、あのマルク家の令嬢が派遣されるなんて・・・」


 騒ぎ出す私たちに呆然としているのはセブだった。


「え、えっと。今の女性に何か問題があるのですか?」

「問題って・・・。そうか、セブは連邦出身だから知らないのね。マルク家っていうのは尋問のプロよ。あの家にかかわるとすべての情報が明らかになる。暴動を未然に防いだことは数知れずよ」

「どんなに言わないと心に誓っても、魔法を使って心を閉ざしてもマルク家の秘術にはかなわない。知らないうちに心を丸裸にされて、知っている情報を残らず吐き出させられるのよ」


 私とメリッサがかわるがわる言うけど、セブは信じられないといった表情だ。


「確か、マルク家の秘術を使うには王族の許可が必要なくらい、危険なもののはずですよね? 学生時代は教師にも裁量権があったこともあるそうですけど」

「ああ。貴族には各仕事の一つや二つはあるものだからな。マルク家の秘術を使えばどんな情報も隠せない。しかも、掛けられた本人は情報を漏らしたことすら忘れてしまうという・・・」


 私たちは戦々恐々としながら話していた。


「まあ、信じられないのは無理はない。学園長が交渉してくださったおかげで俺たちにも情報が伝わるんだ。それを待つしかないさ」


 ギオマーの言葉に、私たちはうなずくしかないのだった。



◆◆◆◆


 えぐい。


 リンダさんからの報告書を読んだ感想がそれだった。


 そこには、出身地や生誕の経緯、そこで感じたことや留学のきっかけ、はては、趣味嗜好や性癖についてなど、事細かに記されていた。


「わ、私は絶対に王国には捕まりたくはありません。こんな、誰にも言えないような情報まで細かく調べられるなんて・・・」

「私たちが尋問したらこうはいきませんよね。この資料の最初の数行くらいしか聞けないと思います。こんなの他人に知られたら、生きてはいけません・・・」


 セブとデメトリオが驚愕の声を漏らしていた。


 これが、尋問のプロの仕事か。確かに私たちではここまでの情報は得られなかっただろう。隣のカトリンも悔しそうな顔をしていたし。


「本当ならもっと詳しい情報が分かるはずだったんですけどね。対象が対象だから、ちょっと入れ込みすぎてしまいました。あの程度の意志力なら、もっといろいろ聞けたと思うんですけど」


 リンダさんが力なく笑っていた。


「そうね。今日はちょっと調子が悪かったみたいね。いつもならもっと詳しくわかるはずなのに」

「ええ。その、友人の妹分を追いつめたかもしれない相手ですから、ちょっと力が入り込みすぎました。申し訳ございません」


 資料を読み込む学園長にリンダさんが謝罪した。性癖や趣味趣向まで細かに調べられたのにまだ足りないなんて・・・。マルク家の秘術というのは恐ろしい。セブやデメトリオはおののいたような顔をしている。


「ゆ、友人というと! リンダ様は巫女様と同い年で、同じ図書館組に属していたんですよね! み、巫女様はどんなだったんです? どんな些細はことでもいいから教えてください! お金ならあるんです!」

「悪いですが、ラーレの情報は本人から言わないように止められているんです。同じ南の人なら、炎の巫女の意にそわないことは言わないですよね?」


 リンダさんにのぞき込まれて、さすがのメリッサもそれ以上言えないようだった。未練がましく何か言っているが、即座にリンダさんに叩き潰されている。


 そんなやり取りを聞きながらも、私は報告書にくぎ付けになっていた。そこに、気になる名前を見つけたのだから。


「トリビオ・ローンがこの国で組んでいたのは、シクストだった? シクストは、水の巫女崩れのヴァレンティナの、従者のような役割を果たしていたということ?」

「そうですね。私が得た情報と合わせると、巫女崩れのヴァレンティナは、神殿騎士や宮廷魔法使いの選考に漏れた人材を集めて集団を作っているそうです。そして、連邦本隊への配属を餌に、後ろ暗いことをいろいろやってきたとか。現在のところはこの国の戦力を削ることですかね。魔物の召還や要人への襲撃を実行することで、闇魔との戦いに集中するこの国に揺さぶりをかけているとか」


 そしてリンダさんは私の目を見つめてきた。


「先の、ビューロウ領での襲撃騒ぎも、企てたのはヴァレンティアの一派だったそうです」


 私を含む、みんなの目が鋭くなったと思う。


「いやな話よね。ヴァレンティナの一派だけど、水の巫女は失敗すれば彼女たちが勝手にやったことだと切り捨てるつもりじゃないかな。成功すれば採用が確約されているみたいなことを言っているようだけど、どうなることやら。成功したからと言って本隊に組み込まれるとは思えないんだけど」


 学園長が溜息を吐いた。彼女の言う通り、計画が成功したとしても取り立てられるとは思えない。むしろ、情報保持とか言って消されちゃうのが席の山じゃないかな。にもかかわらず彼女たちが水の巫女に従い続けるのは、何か他に要因があるということだろうか。


「でもこんなことまでよく調べられましたね。この表記なんか、当人でも知らないことのような?」


 そこまで言って、気づいた。


 幼いころに見た、あの風景。もしかしたら、この情報と合わせれば・・・。


 そんな私の考えを読んだかのように、学園長がリンダさんに語り掛けた。


「そうね。この情報を見ると、あそこをもう一度調べ直さなきゃかもね。リンダさんに、もうひと働きしてもらわないかも」

「はい? 私、あんまり戦闘能力はありませんよ?」


 戸惑うリンダさんに、学園長は面白がるような顔を向けた。


「大丈夫、大丈夫! 私の古い友人に加え、2人ばかし頼りになる護衛をつけるから。悪いけど、あなたにしかできないことだからさ。手伝ってね」


 学園長はウインクすると、私たちを見回して部屋を出ていった。最後に私を見て微笑んでいたのは気のせいだと思いたい。リンダさんも溜息を吐きながら学園長の後を追っていった。


 学園長とリンダさんを見送ると、私たちは再び報告書に目を落とした。学園長たちはおそらく、トリビオから得た情報をもとに何かをやるのだろうけど、私たちは見落としがないかもう一度報告書を隅々まで読み直していた。


「おお! トリビオが街にいた理由も調べているんだな。うむ、ヴァレンティナの身内が、街に現れたといううわさがあって、それを調べに来たということか。ヴァレンティナの、身内?」

「追放された水の巫女候補の身内って、あんまり優遇されているイメージはないのよね。ヴァレンティナの人質なのかな? でも人質にするのならわざわざこんなところに連れてくることはないと思うし。取り返されかねないような愚を犯したとしか思えないんだけど」


 ギオマーとメリッサの言う通りよね。人質なんてこの国にわざわざ連れてくるとは思えないんだけど、やっぱり単なるうわさなのかな。それとも、危険を押してもその人物を連れてくる理由があるのだろうか。


 そう考えてはっとした。危険を押してまでこちらに連れてくる意味に心当たりがあったのだ。


「みんな、覚えている? 街で会った2人組のことを。火の魔力過多者と、それを押さえる家庭教師。トリビオが探している人が、あの2人組だとしたら?」

「! そうか! 火の魔力過多者、それもあれくらいの資質の持ち主はめったに現れるものではない。魔力に優れたこの国でも、10年に1度現れるかどうかの人材よ。その巫女崩れの身内が、魔力過多者だとしたら!」


 ギオマーと思わず顔を見合わせた。連邦で火の魔力過多者が生まれるのはかなりのレアケースだ。あの時会った少年の資質はレベル4のアメリーよりも濃かった。そんな資質の持ち主は連邦でも他にはいないだろう。


 もしかしたら、彼は連邦でも随一の火の資質の持ち主かもしれない。その彼に何かをさせるためにこの国に呼び出したとしたら!


「ま、待ってください! 僕は連邦からこの国に留学してきましたが、魔法技術に関しては連邦はこの国と比べて大きく劣ります! ましてや火属性の扱いはこの国とは大きな差がある! それなのに、魔力過多者がこの国で何ができるというんですか!」

「確かに連邦の関係者が火の魔法を扱うことはできないだろうな。しかし、暴走させるだけなら、レベルの関係がなくとも可能だ」


 ギオマーが静かにセブを見つめていた。


「魔力過多の人間に無理やり魔法を使わせることで暴走を引き起こすことも難しくはない。それどころか、魔力過多ではなくても、ある程度の火の資質があれば地脈の魔力を混ぜ合わせて暴走させることですさまじい爆発を起こせるのではなかったかな。確か、それを利用した事件がこの国でも起こったことがあるはずだ」


 火の魔力は危険なものだった。国によってはレベル3でも危険なものされると聞いたことがある。それくらい、扱いの難しい魔力なのだ。


「そうよ。昔は赤の魔力は本当に危険視されていたのよね。自作の魔道具に欠かせない属性だと知られて見直されたけど、それまでは本当に危険視されていて、大量の死者を出す事件にも使われてしまっていた」


 メリッサはそっと目を伏せると、静かにつぶやいた。


「そう。ケルンの変のような事件のせいで、一時は赤の魔力が危険な属性だとみなされたのよ」


 全員が押し黙った。


 確かケルンの変は、魔力過多でもない普通の学生が起こした事件で、それでも闘技場は半壊近い被害があったと言われている。もし、その学生が魔力過多の人間だったなら、被害はあれ以上になっていたと思う。


「ヘルムートたちはどうだ? 確かコルネリウスたちも教師にその件について質問していたはずだが?」

「まだよ。この後教室に来る手はずになっていて、そこでいろいろ話してもらえると思う」


 私はそっと答えていた。


 セブたちが遭遇した人が魔物になる一件と、トリビオによってもたらされたシグたちの一件。もしかしたら、という思いはある。もしかしたら水の巫女たちは、過去にあった一件のように、この国に大きな害を与えようとしているのかもしれない。


「とりあえずは、コルネリウスやロータルたちと話し合いましょう。アメリーの件も気になるし、彼らが教師からどんな話を聞かされたかは興味がある。これからのことは、その時にということで」


 みんな暗い顔をしながらも、私の言葉に頷いたのだった。

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