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星持ちの少女は赤の秘剣で夢を断つ  作者: 小谷草
第5章 星持ち少女と異国の魔物
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第102話 新しい武具

 私は再び案山子と対峙していた。


 案山子には鎧と魔力障壁があって容易に壊すことはできない。学園の道場と同じものだが、私の目はあの日以上に真剣身を帯びていたと思う。


「アメリー・・・。頑張って!」

「なに。心配いらんさ。俺とお前が作った魔道具があるんだからな」


 メリッサ様は心配そうに、ギオマー様はどこか自信ありげに答えていた。


「あの嬢ちゃんとはだいぶ構えが違うな。あの時はいきなり叫び出して度肝を抜かれたもんだが」

「アメリーっちの場合はあれだよね。すんごいんだから」

「まあ、あの技は見ごたえがありますよね。魔物の厚い魔力障壁も、抵抗なく斬っちゃいますから」


 鍛冶屋の店主の言葉に、ニナ様とフォルカー様が答えている。彼らにはこの試みに期待しかないようだった。


「ビューロウではあれで武威を示すのよね。確か、ダクマー・ビューロウは鎧を真っ二つにしたというけど。アメリーはまだ、その域には達していないと思う」

「さて。今回はどうかねぇ。学園でやったときは傷を与えただけだったようだけど。ま、ギオマー君たちの魔道具次第というヤツかな」

「前に試した時より気力が満ちている気がする。怪我をしなければいいけど」


 エリザベート様の疑問に、カトリンとエーファが答えていた。


「デメトリオ。よく見ておくといい。あれが、ビューロウの秘術だ。色の濃いほうが強いなんて、ことがただの幻想だと分かる」

「・・・。あの鎧は単に魔力を込めただけでは壊せない。そのことは、わかっているつもりですが」


 セブリアン様とデメトリオ様が小声で語り合い、真剣な目でこちらを見ていた。


「先輩・・・」


 ファビアン様が祈るように見つめていた。ロレーヌ家の彼にとっても、この試し切りがどうなるか、興味を引かれたようだった。


 私は左手で鞘に納められた刀を握り締め、右手で鍔にそっと触れた。


 ギオマー様が用意してくれた魔道具は鍔と鞘の形をした対の魔道具だ。どうやら居合の構えをした時に魔力を武器に帯びさせるものらしい。これがあれば、武器だけに火の魔力を帯びさせることも難しくはないとのことだけど。


 私は呼吸を整えた。


 そして――。


「いやああああああああああああああああ!」


 腹の底から叫び声を上げた。


 狙いはつけた。魔力も込めた。あとは、ことを成すのみだ。


「たあああああ!!」


 叫ぶと同時に刀を抜き放った。


 鎧には、切り裂いたような赤い傷。赤い魔力を帯びた刀により、鎧に深い傷を与えたのだ。


 私は息を吐いて一礼しながら、ゆったりと刀を鞘に納めた。


「アメリー! 大丈夫!?」


 駆け寄ってきたのはニナ様だった。彼女は私の全身を確認し、ほっとしたように息を吐いた。

 

「攻撃の瞬間、赤い魔力がアメリーの全身を覆ったように見えたんだ。でも、よかった。怪我はないみたいだね。 もう! 心配したんだから!」

「す、すみません。武器だけに魔力を通したつもりが、無意識に火の魔力で外部強化していたみたいですね。魔力制御は、やっぱりお姉さまたちにはかなわないなぁ」


 心配してくれたことに感謝し、私はニナ様に深く頭を下げた。


 にやりと笑ったのはカトリンだった。


「やっぱり無意識に火の魔力で外部強化する癖は抜けなかったようだね。怪我がなかったのはその魔道具のおかげかな?」

「ええ。メリッサ様の魔道具のおかげです」


 私がメリッサ様に微笑みかけると、彼女は得意げに笑ってくれた。


「ふふん! 私は何度も試行錯誤しましたからね。たくさんの子たちを犠牲にした甲斐がありました。それに、そのネックレスに使われている魔石は巫女様が使っていたものですから!」

「え? あ、ああ! そんな! そんな貴重なものを!」


 私は首元のネックレスを掴み、思わずメリッサ様を見つめてしまった。ビューロウで母がメリッサ様に何か渡していたようだけど、まさかこれのこと?


 彼女は何でもないように首を振って微笑んだ。


「いいんですよぉ。私の分はありますし、魔道具としてきちんと役割を果たしてくれたんですから。なにしろ、星持ちの火力に耐えることができたんです。それに、今回の成果はギオマーのおかげですよ! あれのおかげで身体強化に使われた魔力がかなり少なく、効率的になったんですから!」


 メリッサ様は私と同じネックレスと首から下げていた。そして紹介されたギオマー様は得意げに、魔道具について解説してくれた。


 彼からもらった魔道具は、刀の鍔と、鞘につけるものだった。


「この鞘は最新技術をふんだんに使っているのよな。特に最近開発された黒い短杖の技術を利用させてもらった最新鋭の魔道具というわけよ!」


 ギオマー様が早口でしゃべりだした。


 技術者ってそういうところがあるわよね。周りを置いてけぼりにして自分の成果を延々と語るというか・・・。ギオマー様ほどの人格者ですらこれなのだから、全員の特徴なのかもしれないけど。


「黒の短杖のすごいところは魔力の維持能力にある! あの杖は一度放出した魔力を長期間保存する効果があってな? 属性を混ぜるまで維持できるから、4種類の属性を全て合わせて黒にできるというわけよ!」


 語りだすギオマー様をだれも止めることはできない。


「この鞘にも同じ技術が使われている! 放出した赤の魔力を保持することができるようにしているのだ! 鞘に納めた状態なら刀に赤の魔力だけをまとわりつかせた状態を維持できる。そして次の一撃までならば、な!」


 ギオマー様が言い切ると、私たちは思わず拍手してしまった。


 店主は苦笑いしながらも感想を続けてくれた。


「まあそう言う感じだ。これでお前さんの新しい秘剣とやらも完成したんじゃねえか? 威力も下げず、しかも自分を傷つけずに秘剣を放つことができたんだからよ。まあ、さすがにあの英雄の一撃には及ばないようだがな」


 みんなが少し戸惑った気配がしたが、私は構わず微笑み続けた。


「ええ。そうですね。でも、リスクなしに『鴨走り』を使えるようになったのは大きな収穫です。これで、私の『鴨扇ぎ』の完成にも一歩近づけました」


 私が言うと、みんな一様に驚いていた。


「か、『鴨扇ぎ』ですか? まだ改善点があるんですね」

「ええ。今はリスクなしに炎の魔力を使えるようになったに過ぎません。『鴨走り』では、すへての魔物に有効なわけではない。だって、魔物の中にはヴァルティガーのように、渾身の一撃でも倒せない個体もいるのですから」


 私がいうと、カトリンが面白がるような顔になった。


「ほう。つまりあれかな? 前にも言っていたけど、君の秘儀のさらなる改善というやつだね」

「ふふ。私も伊達にアーダ様の隣で戦ってきたわけではありませんよ。彼女には及ばないかもしれませんが、この秘剣をさらに強化するプランはあるんです。色が濃い魔力でも、彼女の技術を応用すればね」


 不敵に笑って、言葉を続けようとした時だった。店主があきれたように手を振った。


「ああ、それは長くなりそうだからいいわ。とりあえず、その魔道具は無事に作動したってことでいいんだな。その刀をよこせ」

「え? な、なにをいうのです!」


 私が刀をかばうように遠ざけたが、店主は構わず私の手から刀をもぎ取った。


「ちゃんとメンテナンスしなきゃいけねえだろ。ただでさえお前さんの秘剣は特殊なんだ。刀と鞘を微調整して、しっかりメンテナンスする必要がある。日々の手入れはちゃんとやってるようだけど、やり方もきちんと守ってもらうからな」


 憮然とする私に、店主は一本の刀を突き付けた。


「ほら! 代刀は用意してやるから! 出来たらすぐに連絡してやるからな。お前たちはもう帰れ。これから護衛用の武器を完成させなきゃいけねえからな。まったく、魔鉄の武器を新調したいだなんて、お貴族様は大変なこって。光魔法に特化した武器は俺がきちんと見なきゃいけねえんだからよ」


 あきれたように腕を回し、私の刀を持って立ち去っていく店主だった。私はそれを呆然として見送ることしかできなかった。



◆◆◆◆


「うう。私の武器なのに! これからいっぱい訓練したかったのに!」

「まあまあアメリー。メンテナンスに時間がかかるのは分かってたでしょう? 自分用の武器ができてうれしいんだろうけど我慢なさい」


 ぶつぶつという私を、エーファがゆったりと慰めた。ギオマー様とメリッサ様も、微笑ましいもののように見つめていた。


「しかしどうします? 思ったより早く終わりましたね」

「そうだね~。せっかく街に来たんだから色々見て回ろうよ。みんなで街に遊びに来る機会なんて、あんまりないしさー」


 ニナ様が言うとみんな顔を輝かせた。


「ま、まあたまにはいいんじゃない? 友人たちと街を回るのも。こんな機会、今まであんまりなかったことだし」

「いいですね! 私、おすすめの店を知っているんです! そこの甘味が本当に絶品で! なんでも、あの白の剣姫の使用人がいつも通っていた店らしく!」


 エリザベート様とメリッサ様も、なんだかうれしそうだ。後ろのギオマー様も苦笑しながらもうなずいてくれた。


「え、えっと。じゃあ僕はこの辺で」

「何を言っているんだい。ファビアン様もあんまり街に来る機会がなかったんだろう? 君もきたまえよ。甘味くらいなら、僕がごちそうするからさ。アメリーもくるんだから、ね」


 遠慮するファビアン様を、カトリンが引き留めた。


 なんで私が引き合いに出されるかわからないけど、ファビアン様は照れながらもうなずいてくれた。とりあえず一緒に来てくれるようでほっとしてしまう。


 確かに、学業や討伐任務などがあって、私たち上位クラスは毎日忙しく過ごしている。せっかくの機会だし、みんなで街を見て回るのも悪くはないかもと思うんだ。


 はしゃぎながら歩く私たちだったが、ふとエーファが足を止めた。彼女は眉を顰めたとおもったら急に顔が険しくなり、みんなのことを手で制止した。


「ストップ。なにか、いる。なんなのこれ。まるで爆発物のような・・・」

「前のほうに人が集まっていますね。何かを遠巻きに見つめているようですが」


 気づけば人混みができていた。みんな何かに警戒しているようで、中心にいる何かに怯えているようだった。中には慌ててその場を逃げ出す人もいて、現場は大混乱に陥っていた。


 みんな、何を恐れているというのか。


 私たちが人をかき分けて進むと、その中心には私たちより少し年下の、14~5歳くらいの少年がきょろきょろしながら歩いていた。ぼろきれを着て、首に豪華なネックレスをしているのが印象的だ。その子は怯えたような重い足取りでゆっくりと歩いていた。


 不安そうな様子に庇護欲が刺激されるが、駆け寄る人は誰もいない。その子の異様な雰囲気にみんな戸惑っているのた。


 原因は、赤の魔力。魔法使いじゃない人でも分かるくらいの、濃密な魔力が彼を中心に渦巻いているのだ。


「な、なんだあれ! すごく危険な気配がする! 一般人でも分かるくらい、異常な魔力だ!」

「!! あれは、新型のフラウボベ! というか、このプレッシャーは何? あんな危なそうな魔力! 見たことない!」


 ファビアン様とメリッサ様が悲鳴のような声を上げた。護衛たちも雰囲気を感じたのか、緊張したような顔でかばうように前に出てきた。


「火の、魔力! しかも、私よりも濃い! すぐに爆発しそうな、そんな危険な気配を感じる!」


 幼い少年に、首輪のようなネックレス。それだけを見ればすぐに保護しなければいけない気がするが、一人として動ける人はいなかった。みんな、その子が放つ異様な雰囲気に足を縫い留められているようだ。


「火の、魔力過多者・・・。そうか、調整されていない魔力過多者はあんな感じなのか。それも、私よりも濃ゆい火の魔力だなんて!」


 色の濃さで言うと、従姉のラーレお姉様ほどではない。でも、彼女とは長年一緒に暮らしてきたけど、こんなプレッシャーを感じたことは一度としてなかった。ラーレお姉様の魔力に恐怖を感じたことなんてなかったのに、それよりも薄いあの魔力に怯えているとでもいうの!?


「そ、そんな・・・。あれが、火の魔力過多者・・・。レベル5を超えた者は『天災』と呼ばれているけど、あれがそうだってこと?」


 エーファの言葉に、私たちは息をのむことしかできなかった。

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