話が少し戻りますが、これまで『卸時に受け取った消費税から、仕入れ時に支払った消費税の金額を控除できる』しくみである『仕入税額控除』は誰でも利用できるものでした。
ですが、インボイス制度が施行される10月からは、インボイス登録している事業者との取引でしか『仕入税額控除』を使えなくなります。そして、インボイス登録している事業者との取引では、年間利益が1000万円以下の免税事業者だろうが、1000万円以上の課税事業者だろうが納税義務が発生します。
だから、インボイス登録をしなくてはならない、みたいな単純な話だったらよかったんですが、残念ながらインボイス登録は強制ではないことに加えて、メリットデメリット両方ともある複雑な話なのです。
まず、先程までの話では、ポテトチップス製造会社と駄菓子屋と皆さん、の三者にわかれていますね?
この中でインボイス登録をするのは、『ポテトチップス製造会社』です。
そして、製造会社と契約しているのは駄菓子屋だけでなく、年間利益1000万円以上の大手スーパーもいます。駄菓子屋だけとの解約だったら、稼げないでしょう?
ということで最初に、ポテトチップス製造会社がインボイス登録をしなかったと仮定しましょう。
この時、契約していた大手スーパーは今まで利用できていた『仕入税額控除』が適用されなくなるので、困っちゃいます。
なぜなら、製造会社に払う『8円』のみならず、皆さんから受け取った『16円』も国庫に納めないといけないからです。
つまり、これまで『16円』で済んでいた消費税が、『24円』に増えてしまうのです。増えた税額は自腹で払わなくてはならないので、大手スーパーにはデメリットですね。
逆に、これまで『益税』を得ることができていた駄菓子屋は、これからも『益税』を合法に受け取ることができます。ですから、駄菓子屋としては製造会社がインボイス登録なんてしなくていいのです。
では次に、製造会社がインボイス登録した場合はどうなるのでしょうか。
大手スーパーはこれまでのように『仕入税額控除』のお陰で、皆さんから受け取った『消費税16円』のうちで国庫に収めなければいけないのは『16ー8=8円』で済みますね。つまり、合計納税額は『16円』です。結局のところ差し引きすると、大手スーパーの負担税額はありませんね。
しかし、駄菓子屋はというと、これまでは『益税』を得ることができていましたが、インボイス登録している事業者との取引なので、これからは納税の義務が生じてします。
つまり、大手スーパーと同じく『16円』納めなくてはならず、不当に得ていた『益税8円』は手に入らなくなるのです。
纏めると、インボイス登録した場合は『駄菓子屋にとって損』で、登録しなかった場合は『大手スーパーにとって損』というわけです。
もちろん、このインボイス登録は企業の裁量に掛かっています。ぶっちゃけ、してもしなくてもいいんですよね。
登録するにも面倒な書類手続きが必要ですし、放っておいても違法ではないんですよね。
でも、大手スーパーと駄菓子屋の両方と契約しているポテトチップス製造会社は、もちろんインボイス登録をしたほうがいいでしょう。
なぜなら、登録しなければ、損となる大手スーパーが他の製造会社へ鞍替えするかもしれないと同時に、大手の新規取引先から敬遠される可能性もあるからです。
そして、もし製造会社が駄菓子屋だけと契約しているのなら、インボイス登録しないほうがいいでしょう。これまでのように取引できますし、『益税』目的の新規取引先が現れるかもしれません。
結局は、メリットデメリット鑑みて自分で決めなければいけないのです。