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毗沙門戦記〜上〜  作者: 虎の威を借る正覚坊
プロローグ
1/2

開戦 甲

——大悲(だいひ)(よろい)に身を飾り、忍辱(にんにく)かぶとを(こうべ)()。慈悲の(まなこ)夜刃神(やしゃじん)(かたど)りて、大定縁如(だいじょうえんにょ)の月の(かお)こそ、降魔(ごうま)のために曇れたり——


      (『毘沙門天王和讃』より)





 時は、転輪聖王()があまねく天地を統べる御代(みよ)——。



 羅刹(らせつ)一族の鬼々は、古来より人肉を好物とし、人界や天界などかまわず村里あらば見境無く襲いかかって生命を食すという凶暴者の集団であった。人間からも神々からも恐れられ、それゆえに羅刹一族の討伐は誰一人として成功をおさめたことはなかった。


 雪崩のように雨の降るとある季節に、作物も実らず、天竺(てんじく)の大地は洪水に流され、霹靂に世界が火の海となった。その混乱のさなか、これみよがしに羅刹の大群が動き出し、天災で弱った人々に狙いを定めて次々と襲撃を仕掛けていった。

 悲鳴の聞こえない瞬間は無く、地には死体が敷き詰められるまでになった。辺りには死臭が漂い、黒煙が立ちこもり、草木は枯れ果て、空は暗黒に包まれた。その被害は人界のみならず、天界にまで及んだのである。この凄惨さになす術もなく、神々でさえも世の戦慄を食い止めることができずにいた。


 さて、かつてのヴェーダ期における神々の帝王にして、今は須弥山(しゅみせん)に住まう護法の天主である帝釈天(たいしゃくてん)が、大勢の騎士を従えて、醜悪なる羅刹鬼の群衆の征伐に挑んだ。

 帝釈天率いるその大軍は、皆が皆、色鮮やかな甲冑を身に纏い、華やかな装飾をつけ、体をしなやかに動かせるたびに甘い芳香を放つは誘惑のごとく、一糸乱れぬ厳格さを保ちつつも穏やかさと妖艶さに満ち満ちた最も強力な護法善神たちの群れであった。


 かつてはこの大軍で、妖魔ヴリトラを討ち取って大地に恵みの雨をもたらし、また、仏法をおびやかした悍ましきアスラ神族の軍勢には一閃の雷霆でもって圧倒の勝利を得たのである。帝釈天を中心とする数多の守護神から成り立つ構造が、難攻不落の地である須弥山を創り上げているのであった。


 ところが、このような帝釈天の大軍でさえも、未知の凶暴性を備える羅刹鬼の群れには全く歯が立たず、従来の戦術では通用しなかったのである。初戦は、護法軍側の惨敗であった。二戦、三戦と交戦を重ねるも、結果は相変わらずであった。


「まさかここまで追い込まれるとは。光明(こうみょう)の力が弱まっているのか」


 さすがの帝釈天も打つ手を見出せず、焦りと悔しさに唇を噛んでいた。


 それから間もなくのことである。世界の破滅もまさに目前に迫ったその時、どこからともなく神獣の雄叫びが天空に響き渡った——。

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