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食材に贖罪せよ

 その頃、この山道を一人軽快なリズムで走る人物がいた。

 ダーフィンである。


 その目の前を、プラーナで出来た蜂が、先導するように飛んでいた。

 おそらくこの疑似生命体の視覚を借りることで、霧の幻惑をすり抜けたのだろう。

 根本的に雑なドーラや、本性が荒々しすぎるステファニーにはできない芸当である。


 まだ未成年であるにも関わらずそんな達人技駆使しつつ走るダーフィンの目に、ゴールが見えてきた。

 前には誰もいない。


 ……これで子猫ちゃん呼ばわりの屈辱から解放される。

 そう思うと、自然と顔が笑顔になった。


 でが、その時である。

 後ろから大きな爆発音が響く。


 きっと、ドーラだ。

 おおよそロクでもない事をしたに違いない。

 何の根拠もなくダーフィンはそう考えた。

 そしてその判断はほぼ正解である。


 何か変な事に巻き込まれる前に、さっさとゴールしてしまおう。

 彼がそう考えた瞬間であった。


 上から何かが降ってくる!?

 風をきって飛んできた何かの気配に、ダーフィンは思わず足を止めて身構えた。

 そんな彼を大きな影が一瞬黒く染めて通り過ぎる。


 ほどなくして、ソレは激しい衝撃と共にゴール地点である広場へと墜落した。

 土埃が押し寄せ、飛んできた砂利がバシバシと体に当たって擦り傷を作る。


 いったいこれは何だ?

 何が起きている?


 混乱しつつ心の中でそう叫んでいたダーフィンの耳に、その答えと鳴るような声が響いた。


「はい、私の優勝!」


 見れば、先ほど飛んできた何かの衝突地点に銀色の髪が揺れているではないか。


「ド、ドーラ!?」


 あの見事な銀髪は見間違いようもない。

 ゴールまであと一歩と言うところで勝利を持って行かれた事を、ダーフィン悟った。


「そんな……」

 あんまりな展開に、その場に膝から崩れ落ちるダーフィン。

 どうやら彼から子猫の称号が外れる日はまだしばらく来ないらしい。


 **********


「えー、予定外の事がありましたが、ここから先は本来のスケジュール道理に進めようと思います」

 主催の男の宣言に歓声が沸き上がる。


「それでは、皆さん男女6人ほどのグループを作るため、くじを引いてください」


 スタッフが穴の開いた箱を二つ持ち出し、壇上に置く。

 どうやらその中に数字の書かれた紙が入っていて、同じ番号を取った者が同じグループになるというシステムらしい。

 箱が二つあるのは、言わずもがなグループ内の男女の比率を同じにするためだ。


「そういえば、この後の予定って何だったっけ?」


「やだぁドーラちゃんってばぁ。

 パンフレット見てなかったのぉ?

 この後の予定ってぇ……BBQだと!?

 ヤベぇ、死人が出るぞ!」


 ステファニーの顔色が悪くなり、その声がわずかに震える。

 その様子からすると、冗談や演技ではなさそうである。


「死人が出るってなんだよ、ステファニーの姐さん」


 だが、ステファニーは蒼褪めたままダーフィンの問いに答えない。

 言葉を選び、それをどうつなぎ合わせていいのかわからないようである。


「まって、子猫ちゃん」


 声をあげたのはミランダだった。

 その呼び方が気に入らなかったのだろう、ダーフィンの眉間に皺が生まれる。


「……ダーフィンだ。

 次に子猫ちゃんって言ったら、蜂をけしかけてその顔に腫れもの作るぞ!」


 ミランダは彼の脅しに反応することなく、黙ってドーラを指さした。


「ドーラさんの顔色が……」


「うわっ、なんで死人みたいな顔色してんだよ!」


 そんな不穏な会話をよそに、主催の男の朗らかな声が響く。


「それでは、くじを引いた方は同じ番号の人と一緒に集まって、BBQをお楽しみください」


 そう、ドーラにとって料理は鬼門である。

 相当にヤバいとは聞いていたが、まだ騎士団に入って間もないダーフィンに、その危険性は理解できなかった。


「料理ができないって履いていたけど、もしかしてステファニーの姐さんもできないとか?」


 危険性を知らぬがゆえにステファニーを揶揄するダーフィンだが、ステファニーにそれを受け入れる様子はなかった。

 ただ顔を真っ青にしたまま首を横にふる。


「確かにわたしも得意では無いけどぉ……ドーラちゃんのは、本当にシャレにならないのよねぇ」


 そして塔のドーラはというと。


「こんなの……聞いてないわよ」


「パンフレットをよく見ずに決めるからこうなるのよぉ」


 ステファニーの責めるような言葉に、ドーラは大きくため息をつく。

 そして自分の頬を叩いて気合を入れなおすと、断固たる決意をもって告げた。


「仕方がないわ。

 もしかしたら今日は巧くゆくかもしれないし」


 その瞬間、ステファニーが逃げた。

 誰も止める間もなく、全力をもって距離をとる。

 さらには周囲の岩を使って塹壕を作り始める始末だ。


 あっけに取られて誰もコメントできない中、ドーラはくじを引く。

 そして自分の番号と同じ番号の割り振られたテーブルに行くと、そこにあった肉を串にさしてあぶり始めた。


「なんか、ものすごい真剣な表情だな」

 ダーフィンがボソリとつぶやくのをよそに、ドーラは深呼吸を繰り返しながら静かに肉をあぶり続ける。

 その額には汗の玉が輝いていた。


 だが、次第に焼いている肉に異変が起き始める。

 原因は、ドーラの持つプラーナの凝縮だ。

 プラーナを吸い込んだ肉は内側から熾火のように真っ赤な光を放ち始め。しまいにはパチパチと雷を纏い始める。


「ドーラちゃんストップぅ!

 それ以上はヤバいわぁ」


 塹壕の向こうから、ステファニーが必死に声を上げた。

 その理由を、様子を見ていた人間たちもうっすら気づき始める。

 ――これ、もしかして爆発とかしない?


「これ、どうしよう?」


 バチバチと火花を散らす肉を掲げ、ドーラがポツリとつぶやく。

 その言葉に、頭痛を覚えたミランダが投げやりな返事を返した。


「自然にプラーナが抜け落ちるまでどこから放置するしかないんじゃない?」


「はぁ……また爆発物作っちゃった」


 そう告げると、ドーラは焼いていた肉をポイと無造作に放り投げる。

 危険物は放物線を描き、ステファニーの作った塹壕の中へ。


「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁ!」

「……ちっ、不発か」


 かくして、この世にまた一つ余計なものが誕生してしまったのであった。


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