ウサギとウサギとウサギとカメの争い
「ルールを確認するわ。
まず、この登山道の地形を変えるよう行為は慎むこと」
冗談みたいな話だろうが、これは一番に守らせなければならない事だ。
あたしとステファニーちゃんが見境なく暴れたら、それが直接何かを傷つけるものじゃなくても災害となる。
そうでなくとも、山道には土砂災害の危険が常にあるのだ。
そして怪しい金髪女も、
見世物になるのは仕方がないが、その野次馬を巻き込んで怪我をさせるわけにはゆかない。
……さすがにステファニーちゃんはわかっているだろうけど、このミランダとか言う金髪女はどうなんだか。
あの態度からすると、あたしたち近い何かを持っているだろう。
最悪の場合、勝負を投げ捨てでも被害の発生は阻止しなければなるまい。
視線だけで問いかけると、ミランダは苦笑しながらあたしに告げた。
「ご心配なく。
さすがに見物人を巻き込んで怪我をさせるほど野蛮な事をするつもりはありませんわ」
さて、口だけならばなんとでも言える詩ね。
どこまで信じたものだか。
「次に勝敗の付け方だけど、よーいドンで走り出して、この山の中腹にあるキャンプ場に最初にたどり着いたものが勝ちよ」
「うふふ、単純でわかりやすいわねぇ」
「そのぐらいシンプルな方が面白いですわね。
……むろん、ただ走るだけの遊びにはならないでしょうけど」
さて、全員が納得した事だし、さっさと勝負を始めますか。
けど、その時だった。
「おい、ちょっと待ってくれ」
「どうしたの子猫ちゃん」
あたしが問いかけると、ダーフィンは思いっきりしかめっ面をしてあたしを指さした。
「それだよ、それ!
俺を子猫ちゃんと呼ぶのはやめてくれ!」
「えー、でも、子猫ちゃんは子猫ちゃんだし」
そうやってむくれた顔をしても可愛いんだから、罪な子よねぇ。
横にいるステファニーちゃんがドロッドロに溶けた顔でニヤついているから、気持ち悪いったらありゃしない。
「だったら、俺も勝負に参加する!
俺が勝ったら、二度と子猫ちゃんなんて呼ばせないからな!」
おお、そう来たか。
まぁ、金髪女が胡散臭いからあまり参加させたくないんだけど、ここでダメとか言うとゴネて面倒な事になりそうよねぇ。
そんな事を考えていたら、当の金髪女まで口を挟んできた。
「そういえば、私が勝った場合の事を決めてもせんでしたわね。
では……その子猫ちゃんをいただいて帰るというのはいかがかしら?」
「ンだと、テメェ!」
「……落ち着いて、ステファニーちゃん」
思わず殴り掛かりそうになったステファニーちゃんを押しとどめ、あたしは金髪女に向きなおる。
この女、どうもあたしたちを試しているような、妙な気配がするのよねぇ。
「何を考えている野かはいらないけど、その要求は受けられないわ。
人の身柄を賭けの対象にするなんて、良識としてやっていい事ではないでしょ。
悪いけど、別の事にしてちょうだい」
「あら、思ったより冷静なのね。
……いいわ。
賭けの景品は、勝ってから考えることにしましょう」
「じゃあ、始めるわよ。
よーい……」
「ドン!」
開始と同時に、あたしはかなりのプラーナを使って身体を強化した。
そして風を切るようにして走り出す。
時速60キロぐらいは出ているだろうか。
その気になれば亜音速まで出せるが、これ以上スピード出したらたぶん靴がぶっ壊れるわね。
あと、他の連中が何かしてきたときに、あまりスピードを出していると対応できなくなる可能性がある。
さてと、あいつら何をしているかしら?
プラーナの気配を探り、他の連中の大まかな位置を把握する。
今のところあたしがブッチギリでトップだ。
続いて、ダーフィン?
金髪女に至っては、なんと歩いている。
なぜかステファニーちゃんが大きく出遅れているが、これは怪しい。
そう思った瞬間、あたしは地面の下を何かが動いている気配を感じた。
前方の地中に大きなプラーナの塊……いつの間に!?
まずい、たぶんトラップだ!
そう思っても、急には止まれない。
いくら山歩き用の靴とはいえ、タイヤと比べると接地面積があまりにも小さく、制動距離はかなり長い。
そのまま土埃をまき散らしつつ、あたしは不気味な気配のする場所へと突入する。
「これは……ステファニーちゃんね!」
問題の場所に入ると、地面から黄色い触手のようなプラーナの塊がウネウネと顔を出した。
この触手の一本一本が、いわばトラクタービームのような力を持っていて、捕まったが最後……ステファニーちゃんの気分次第では一瞬で挽肉に変わる。
「このままかわして突っ切る!」
あたしはブレーキを諦め、ふたたび加速してジグザグに動きながらその場を駆け抜けようとした。
だが、その瞬間、あたしの肩にプラーナで出来た蜂が止まろうとしていることに気づく。
「ちっ、鬱陶しい!」
体にまとったプラーナを膨らませ、ダーフィンが放ったのであろう蜂を弾き飛ばす。
だが、その一瞬だけ注意が薄れた。
「くっ……!?」
踏みつけた地面の感触がおかしい事に気づき、思わず声が漏れる。
地面に出てきた触手はすべて囮。
本命は地面に隠したまま、地雷を模倣したプラーナか!
足元に向かってプラーナを放ち、盾のような形状で固めるが、いかんせん体勢が悪かった。
ズドンっ!
激しい爆発と共に、あたしの体が大きく中を舞う。
さすがに怪我をする事はないが、せっかく稼いだ距離を完全に無効化されてしまった感じだ。
「ちょっと! あんな爆発起こしたら、山道が崩れるでしょ!」
「指向性が強い奴だしぃ、周囲の地面はプラーナで補強したから、大丈夫ぅ!」
空中に跳ね飛ばされたあたしに向かってプラーナの鞭を放ちながら、ステファニーちゃんはいけしゃあしゃあと詭弁を繰り出す。
鞭の攻撃は完全に防いだものの、その衝撃であたしはスタート地点まで吹っ飛ばされてしまった。
だが、このぐらいすぐに巻き返して見せる!
そう思った時だった。
あたしの視界を、真っ白な霧が多い始める。
むろん、これが自然現象のはずもない。
かといって、プラーナを使って霧を生み出すような方法は、寡聞にして聞いたことがない。
そうなるど……まさか……呪具!?




