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雪よ岩よ、我らが出会う

 山はいい。

 美しい自然、支えあう事で生まれる絆。

 そしてそこから生まれる愛。


 ……というわけで、次の婚活はハイキングと相成りました。

 ちなみにさっきのは、そのイベントに書かれていたパンフレットの宣伝文句ね。

 

「マウロさん、怒っていたわよぉー。

 なんで俺が仕事で参加できない日を狙ってそんなイベントに出るんだってぇ」


 ピンクベースのチェックシャツに、チョコレートラップ色のラップスカート……完璧な山ガールファッションに身を包んだステファニーちゃんは、責めるような視線を私にむける。


「しょうがないでしょ、ステファニーちゃん。

 マウロ兄が一緒だと、私の周りに男近づけなくなっちゃうし」


 正直、こういう催し物で顔がいい身内が横にいるとか邪魔でしかない。

 そもそもイベントの趣旨を完全に無視しているし。


「……おかげで俺はいい迷惑なんだけど?」

 恨みがましい言葉を吐いたのは、子猫ちゃん(ダーフィン)である。

 自分が仕事で行けないからと、あたしの見張りとして派遣されたのだ。


 おかげでステファニーちゃんまで付いてくる事になり、あたしこそいい迷惑である。

 ……ステファニーちゃん、中身はともかく見た目は可愛いし、あたしより声かけやすいもんねぇ。

 隣にいると、あたしが『高嶺の花』って雰囲気になってしまうのだ。


 そんなわけで、フワフワガール|(見た目だけ)と子猫ちゃん|(元暗殺者)という華やかなオプション付きで、あたしは目的地に向かう汽車に飛び乗った。

 そして6つほど向こうの駅|(北海道感覚)にある、山沿いの街に到着。


 集合場所がその駅だったせいか、そこはすでに異性を求める男女がひしめきあっていた。

 よし、さっそくいい男を探すとしますか!


 ……と思いきや、あたしが探すより先に、こちらに突き刺さる複数の視線。

 まぁ、あたしたち目立つもんねぇ。


「やぁ、君も恋人探しハイキングに参加するの?」


「もしかして一人? よかったら僕と一緒に歩かないか?」


 早速自分に自信のある男たちが話しかけてくるが、君たち一人も合格ライン突破してないからね?

 あたしはこういうがつがつした感じよりも、ちょっとだけ引いているぐらいのアプローチの方が好みだ。


 とうぜんこんな状況になれば面白くない人もいるわけで……あたしに向けられる視線の中に、好意的でない感情が混じり始める。

 視線の主は、当然ながらほとんど女性だ。

 ごく稀に、男を侍らせる女は嫌いって男性もいるので、全てではない。


 ふと、その視線の中に妙なものが混じっていることに気が付いた。

 好意でも嫌悪でもない、まるで探るような視線。

 マウロ兄やダーフィンが見知らぬ相手によく向けているソレだ。


 どこかの諜報員が婚活でもしているのだろうか?

 そんな面白くもない冗談を考えつつ、あたしは視線の主を探る。


 すると向こうもあたしの意図に気づいたのか、すぐに気配を隠してしまった。


「ねぇ、ダーフィン。

 なんかあたしたちの事を探っている奴がいたみたいなんだけど」


「確かに変なのがいくつか混じっているよな。

 いちばん怪しいのはアレだけど」


 彼の指し示す方向を見ると、ひとりの金髪美女の周囲に何人もの男が群がっていた。

 まぁ、あたしが言うのもなんだけど、けっこうの美人だし、何もおかしいとは思わないんだけど?


 あえておかしい点があるというのならば、あの男たち、あたしに全く目を向けないのよね。

 姿が見えないわけでもないだろうに。


 首をひねるあたしに、ダーフィンは不満げな様子。

 鼻で笑うのとため息を同時にこなすという器用な事をやってのけながら、彼は仕方がないと言った口調でこう指摘した。


「判ってないなぁ。

 男たちの目をよく見ろよ」


「あ、なにあれ。

 キモっ」


 なんと、彼女の周囲にいる男たちは、誰も瞬きをしていなかったのである。

 実際には長い時間をおいて一瞬目を閉じたりはするのだが、そのタイミングが全員同じだった。


「やだぁ、本当に気持ち悪い。

 ちょっと近づきたくないわねぇ」


 ステファニーちゃんもまた、あたしと同じことに気づいて鳥肌を立てていた。

 何かがおかしい。

 だが、まだ介入すべきではないだろう。


 一般人の保護は騎士の務めだが、ここは私の管轄外なので勝手な事をすればあとあと問題になる。

 騎士同士のメンツと言うのは非常に面倒なのだ。


 なので、少し距離を置いて観察し、最悪の事態になると判断した時だけは手を出そう……あたしがそう方針を決めた瞬間である。

 問題の金髪美女と目があった。

 そして、謎の金髪美女は私の顔を見ながらニヤリと笑う。


 何か仕掛けてくる気?


 思わず身構えたあたしだったが、予想もしない事が起きる。


「ほう、庶民が主体の企画だから期待をしていなかったが、なかなか良い女がいるではないか」

 その声に振り向くと、そこにはいかにも金を持ってます……と言った感じの趣味の悪い服を着た30代ぐらいの男がニヤニヤと笑っていた。


 金糸で狼の紋章が縫い込まれた上着、細い糸で編み込まれたブロードシャツ、ゴツくて自己主張の強い金のネックレスときたら、たぶん大きな傭兵の三代目あたりね。


 いわゆる騎士爵なんて呼ばれる成り上がりの家で、庶民と貴族のちょうど中間あたりの地位だ。

 継承権のない爵位なので、この男自体は庶民としてしか扱われないが、それでも普通の庶民にとっては頭の上がらない立場である。


「一緒に来い。

 楽しい思いをさせてやるぞ?」


 怖気が走るような声でそう告げながら、男は手を伸ばし……。


 ステファニーちゃんの腕をとった。


「なんでそっちなのよ!」

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