猛禽たちの集い。 仁義なき恋愛作法
そして時間はあっという間に過ぎて、今日は合コン当日。
スティファニーちゃんと女同士でメイクを施しあい、今日こそは完璧な美女を演じて理想の彼氏をゲットするのよ!
「うふふふふ、合コン、合コン」
「まぁ、とっても不気味よぉドーラちゃん」
思わず口からオリジナルソングがこぼれていたあたし横で、ステファニーちゃんが半歩身を引きながら不適切なコメントを述べやがった。
なによ、なんか文句があるの?
「やだぁ、ステファニーちゃんったら。
これは単に、幸せな気分があふれ出しちゃってるだけだってばぁ」
「もードーラちゃんったらぁ! 絶好調ね!
これは男の人たちの視線を一人逃げ間違いなしだわぁ」
「それを言うなら、独り占めでしょ?」
「ううん、全然間違っている気がしないのぉ。
すっげーキモい」
「あ゛ぁん? なんか言ったか、元モヒカンの猫かぶり」
「テメェのキモさでアタイの足引っ張んなっていってんだよ、顔だけ女」
「うふ、うふふふふふふ」
「うふふふふふふふふふふ」
周囲に緊迫した空気が流れ、あたしとステファニーちゃんの間に見えない火花が散る。
野良猫は逃げ出し、犬は狂ったように吠えたり、バサバサと大きな音をたてて鳥たちが遠くの空へと飛び立った。
まぁ、いつもの展開よね。
だが、今日のあたしたちは一味違う。
合コンに参加する素敵なレディは、路上でガチンコして周囲の家を壊したりはしないのだ!
「……もうすぐ現場に到着するわ。
対合コン用ネコの皮Exスタンバイ」
「OK、スタンバイ」
戦場が近い事を示して停戦を申し出ると、あたしたちはお互いに偽装をかぶり直し、決戦へと挑む。
今日の戦場は、まだ出来たばかりのパラドールレストラン。
パラドールとは、こっちの世界にある美食で有名な国の名前だ。
フレンチレストランあたりを想像してくれると、イメージ的には近い。
時間を確認すれば、ちょうど約束の時間。
だが、私たちはまだ入らない。
少し遅れて入ることで、「やだー、遅れちゃってごめんなさい」としおらしさをアピールする作戦なのだ。
それに、早く来すぎてガツガツしているという印象も男性陣にあたえたくない。
あざといと言うなかれ。
合コンと言う戦場では、男も女も目立たない者からその存在意義を失ってゆくものなのだから。
つまりやったもの勝ち。
同席する同性は結局のところすべて敵である。
負け犬の言葉には何の意味も価値もないと知れ。
それが嫌ならば、最初から業コン……もとい合コンなんて場所には来ない方がいいだろう。
繊細な人には、もっと穏やかな婚活がお勧めだ。
我等は恋の猛禽。
ここは修羅場であり、戦場なのである。
「ドーラちゃん、目標を確認したわぁ。
男子側のメンツはすでにそろっている模様よぉ。
そして合流予定のメンバーも、あたしたちとおんなじ作戦みたいねぇ」
向かいの植え込みを見れば、あたしたちと同じように店に入るタイミングをうかがっている女子の集団。
ほほう、敵の戦力は……。
これは……先手必勝あるのみね。
私とステファニーちゃんは視線を合わせるだけで互いの言いたい事をすべてを理解する。
そして、即座に行動を起こした。
「やだぁ、ごめんなさい。
お待たせしちゃった?」
「あ、この席空いてますかしら?」
服装、顔、雰囲気、チェック完了!
一瞬で男たちに対して仮の品定めを終わらせたあたしたちは、すかさず上物の前をキープする。
遅れて登場作戦の欠点は、良い席を取られてしまうと言う事。
そして、同じ作戦がブッキングすると、後から来た方の印象が霞みがちになる事である。
「あら、残りの子も到着したみたいね」
私たちに先手を取られたことを悟ったもう一方の女子たちは、慌てて作戦を切り上げて店に入ってきたようだ。
ふっ、悪くない判断ね。
このままだと、あたしたちに上物の男子をキープされてしまう。
さらに、先に集まったメンツで話題が盛り上がってしまうと、自分の居場所がなくなってしまうからだ。
そもそも遅れて登場作戦は、自分がほかのメンツより目立つ存在であることが前提である。
そして目立つことにかけては、この街に私以上の存在はいない。
この合コンの主導権、あたしたちが貰ったぁ!
「じゃあ、みんなそろったことだし、自己紹介をはじめようか」
この合コンの主催である男性が立ち上がり、場を仕切り始める。
その瞬間だった。
殺気!?
このレストラン全体から、人が殺せそうなほどの濃密な悪意を感じる。
「え、何?」
「今、なんか背中がゾワっとした」
さすがに素人も今のはわかるのだろう。
同席した男女たちの中から不安げな声が上がる。
……けど、これが殺し屋の類ならば三流ね。
何も怖くない。
本物は殺気など感じさせず、そっと忍び寄るものだ。
では、いったい誰が?
ふと気づくと、隣の席のステファニーちゃんがマウロ兄のお祈りポーズみたいな格好になって「あの駄犬共が……」と小さくつぶやいている。
もしかして、ステファニーちゃんの知り合いだろうか?
いささか不穏な物を感じつつ、あたしたちの合コンはスタートしたのだった。




