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悪人を殴るだけの簡単なお仕事……だったらよかったのに

 遠くから、花火大会のような音が響いている。

 だが、その正体は美しくもなんともない。

 ただの暴力だった。


 そんな音の源へ、あたしはパルクールよろしく屋根の上を飛び跳ねて移動している。

 馬車よりも自分の足の方がずっと早いし、地面を走るよりも屋根の上を移動したほうが障害物がなくて効率がいいからだ。

 ……たまに強く蹴りすぎて屋根にヒビがはいるのは、正義のためだと思って許してほしい。


 現場が近づくと、避難中の住民たちがあわただしく現場から離れようとしている姿が目に入った。

 荷物を持ち運びするために、あるいは怪我や病で避難が遅れた人たちだろう。

 動きは鈍く、爆発音が鳴り響く場所からもかなり近い。

 よく見れば、子供や老人もそれなりに混じっている。


 ……これは危険ね。

 そう思った矢先に、一際大きな爆発音が響いた。

 同時に、細かな破片――それでも子供の握りこぶしほどはあろうかという瓦礫がいくつも飛んでくる。


「こっち来るんじゃないわよ!」

 あたしはとっさにプラーナを開放し、それを光線のように打ち出して飛んできた破片をすべて打ち砕いた。

 そして即座に下にいる連中に注意を促す。


「厚手の布か何かで頭を覆って!

 今みたいに破片が飛んで来たら、怪我をするわよ!!」


 すると、私の姿に気づいた避難民たちから歓声が上がる。


「あ、団長だ!」

「よかった、これでどうにかなる!」

「傭兵団の連中、ザマーミロ!」


 最後の台詞はちょっと意味を問いただしたいところだが、おおむね好意的な反応だ。

 これも普段のあたしの行いって奴よね。


「団長さーん、がんばってー!

 でも、あたしのお家は壊さないでね!」


 そんな子供からの声援に、避難民たちからドッと笑い声が上がる。


「団長ー! 俺の家も壊さないでくれよー!」

「ウチの庭も荒さないでくれよなー!」


 調子にのった馬鹿がそんな台詞を言い出したせいで、思わずこめかみのあたりがヒクヒクと痙攣しはじめた。


「うるさいわね! 冗談言っている暇があったら、さっさと逃げる!

 あたしは今からバカ騒ぎしている連中をお仕置きしにゆくから、あんたたちだけにかまってる暇ないの!!」


 そんな捨て台詞を吐き捨てる、あたしは足早にこの場を後にした。

 まったく、この街の平和を守るあたしの事を何だと思ってるの、あいつら!


 コロコロの中で思わず愚痴をこぼしつつ、あたしは現場に待機している騎士を見つけてその近くに降り立つ。


「どう、状況は?

 住民の避難は終わった?」


「はい、完了しています。

 この向こうに一般人はいません」


 まだ二十歳ぐらいの若い騎士は、あたしの姿を見るなり慌てて敬礼をとる。


「よし、上出来ね!」


 一般人がいないのならば、あとはあたしの手下を下がらせて一気に制圧するだけよ。

 見てなさい!

 これ以上建物を壊さず、全て解決してあげるわ!


「どゃあ、現場で対応している騎士を全員引き上げさせて!

 デカいの一発ぶちかますから」


「え、本気ですか!?」

 和解騎士は慌てて胸ポケットから増えを取り出すと、それを一定のリズムで吹き鳴らす。

 これは全員撤収の合図だ。


 そのリズミカルな警告を聞きながら、あたしは呼吸を整えてプラーナを練る。

 同時に、色とりどりのプラーナを纏った騎士たちが逃げる野良猫のようなあわただしさで後ろに駆け抜けていった。


「騎士の撤収、完了しました!」


「お疲れ様。

 君も下がって頂戴」


 その言葉と同時に、あたしはプラーナを開放する。

 イメージとしては、現場となっているエリアを幕ですべて覆いつくす感じだ。


 ……覚えているだろうか?

 他人の強烈なプラーナを浴びると、一般人はプラーナ酔いをするという話を。


 あたしぐらいの使い手になると、そのプラーナは一般人でなくともプラーナ酔いを引き起こしてしまう。

 そう、傭兵崩れや多少プラーナの心得のある程度の傭兵では、あたしの纏うプラーナの圧力に耐えられないのだ。

 

 その証拠に、現場全体を真っ赤なプラーナが覆いきると、即座に爆発音が止まった。


「……はい、おしまい」

 ふっ、これが真の強者の力って奴よ。


 おそらく現場の中にいる傭兵たちは、そのほとんどが意識を失っているでしょうね。

 あるいは気持ちが悪くて動けなくなっているか。


 たかが傭兵共を鎮圧するのに、建物を消し飛ばすような爆発なんか必要ないわ。

 あとは騒ぎを起こした連中を捕まえて、事情徴収をするだけなのだけど。


「あー、面倒なのが混じっていたみたいね」


「テメェ、ドーラ!

 いきなり何しやがる!!」


 現場の奥から怒号と共に現れたのは、しんょう2メートルを超える筋肉だるま。

 悲しいかな、あたしの知っている男である。


「誰が騒ぎを起こしているかと思ったら、ブルート!

 あんたのところだったの!?」


 腰に差していた剣を引き抜き、返事の代わりに飛んできた斧を受け流す。


「やかましい!

 俺は今、自分の情婦(イロ)を殺されて気が立ってんだよ!」


 うわぁ、誰よそんな面倒なことしたの!

 ブルートは見た目に反してそれなりに話が通じる奴なんだけど、身内に手を出されたときだけは別だ。


「それで、犯人に報復を?

 やるならもうちょっと周りの迷惑も考えなさい!」


「うるせぇ!

 身内をやられたっていうのに、そんなことまでいちいち考えてられっかぁっ!」


「そういうの嫌いじゃないけど、立場上見過ごすわけにはゆかないのよね!

 罪人は法で裁きます!

 私刑は看過できません!

 ……と言うわけで、お願いマウロ兄」


「おぅよ」


「何っ!?」


 いつの間にかブルートの背後に回っていたマウロ兄。

 その腕が、文字通り目にもとまらぬスピードで奴の首に絡みつく。


「はい、しばらくお休みしようなー」


「テメェ、よくも……ぐべっ」


 抵抗しようとするブルートを、マウロ兄は一瞬で絞め落とす。


「はぁ、いいところ取られちゃったわねぇ」


 結局美味しいところを持って行かれてしまったあたしは、その無念さを隠すことも無く撤収の合図を出す。

 まぁ、ブルートとまともにやりあったら建物に被害が出ちゃうし、これでよかったんだとは思うけど。


「じゃあ、みんなで手分けして今回の騒ぎの関係者を確保してちょうだい。

 あたしたちの本当のお仕事は、ここからよ」


 そう、あたしたちの仕事はこの街の治安を守ること。

 ただ暴れる奴をおとなしくさせるだけでは、それは治安を維持した事にはならないのだ。


「正義のヒーローって、今になって思うと楽な仕事ね。

 後始末なんてしなくていいんだから」


 このあと大量に増えるであろう書類の事を考え、あたしはちょっと陰鬱な気持ちになるのであった。


 


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