第8話
…男子生徒が桃園さん?
「ちょっと待って、どういうこと?」
「あの時ちょうど東王の制服を着て男装してたの。そしたら伊波君が階段で倒れていて…」
「なるほど…」
てことはまさか星羅が言っていた、病院でうろちょろしていた東王の制服を着た女の子も…。
「ひょっとして、桃園さん、俺が入院してる時に病院来てた?」
「うん。心配だったから…。なんでその事を知ってるの?」
「妹の星羅が病院に東王の生徒が居たって言ってたんだ」
…やっぱりそうだったか。帰ったら星羅に報告しておこう。謎が1つ解けた。
「あと、伊波君が退院して最初の登校日の朝も、ちょっと尾行してたよ」
「そうだったの!?」
「磯村君、だっけ? 仲良く話してたから話し掛けるのは止めておいたけど」
「あぁ、そういえば大和と一緒に学校行ってたわ」
あの時は前日の星羅のご馳走で胃もたれになってたっけ。
てか、尾行してたんだ…。全く気づかなかったぞ…。
「ちょっと、何あんた達だけで盛り上がってるのよ。ちゃんと私達にも分かるように説明しなさいよ!」
「月斗君と桃園さん…、運命の出会い………。……………認めない認めない認めない認めない認めない…」
置いてきぼりを食らった莉々花と雫ちゃんが、こっちを見てくる。
…特に雫ちゃんの目線がものすごく怖い。今すぐ逃げ出したいなぁ…。
「簡単に言うと、桃園さんと俺は面識があったみたい。俺は記憶が飛んでてあんまり思い出せないけど」
「もし、伊波君が階段の男子生徒のことを私だと気づいてて、言いふらしていたら恥ずかしいと思ったんだ。不純な動機で近づいてごめんなさい…。だけどコスプレに興味があるのは本当だから」
「いや、別に俺は構わないよ。桃園さん、コスプレが好きなら話合いそうだし。話してて楽しかったから気にしないで」
「よかったぁ。そういって貰えて助かるよ。ずっと黙ってたからモヤモヤしてたんだ。これでスッキリしたよ」
さっきから桃園さんの歯切れが少し悪いと思ってたのはこのせいだったのか。納得納得。
「…あんた、3次元の女の子にもそういうこと言うのね。ホントに2次元ヒロインのことだけが好きなの?」
「月斗君が私以外の女の子に優しくしている…。許さない許さない許さない許さない…」
「2人とも俺の扱いひどくない!?」
なぜか莉々花と雫ちゃんの俺を見る目が鋭くなった。
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「それはそうと、朱里はなんで学校で男装なんかしてたの?」
「前から興味があったんだ。東王の制服カッコいいし。お兄ちゃんの制服借りて着てみたの。放課後だったから誰かと会うこともないだろうと思って」
「なるほどね~」
「それに練習にもなるし。来週、池袋であるコスプレイベントにも参加しようって思ってる」
「いいじゃない! そう言えば私が最近好きなレイヤーさんも参加するって言ってたわ」
「そうなんだ。どんな人? 莉々花ちゃんが好きなレイヤーさん気になる!」
桃園さんも興味津々だ。やっぱり桃園さんと莉々花を会わせて正解だった。こうやって趣味の交遊関係が広がると、より一層楽しくなるからな!
「えっとね、ちょっと待って」
そう言って莉々花は俺達にスマホの画面を見せてきた。
そこに表示されていたのは、『shuri』というコスプレネームでフォロワー30000人のアカウントだった。
「うわっ、すごいフォロワー数だな」
「私もこの人回ってきたから知ってるわ。男装似合ってるわよね」
「………………」
雫ちゃんはどうやらこの人のことを知っているみたいだ。
桃園さんは黙ってるから知らないのかな?
「すごいよね。最近初めたばかりみたいなのにコスプレのクオリティーが高いから、フォロワーがどんどん増えてるの。朱里もイベントに行ったらshuriさんに会えるかもね!」
「…………う、うん」
…ちょっと待てよ。俺は莉々花のスマホに表示されている今話題だというshuriさんが男装している画像を凝視する。この目元って…。
「これってさ、もしかして、桃園さんじゃない…?」
「「え…………?」」
莉々花と雫ちゃんが鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をしている。…こんな表現初めてリアルで使ったわ。
「だって、目元とかそっくりじゃない?」
3人ですぐ隣に座っている桃園さんを凝視した。
「「「…………………………………」」」
「……………………………………私です…」
「ほら、やっぱり」
「「えぇ~~~~~~~!」」
照れながら眼を伏せている桃園さんを横目に、本日二度目の大声を上げる莉々花と雫ちゃんだった。
…てか、莉々花は俺より先に気付けよな!
登場人物紹介
・伊波月斗
・桃園朱里
・天坂莉々花
・雪島雫