第7話
「月斗君、もう体調は大丈夫なの?」
「そうよ。あんた入院したって結局原因は何だったのよ」
話題は俺が入院したことになっていた。
雫ちゃんと莉々花が事の詳細を話せと目で訴えかけてくる。
メッセージアプリである程度は伝えたけど、詳細は直接話した方が分かりやすいよな。
2人には迷惑かけてしまったし、ちゃんと話そう。
「学校の階段で転んで頭を打っちゃったみたいなんだ。それで気づいたら入院してた。今は痛みもほぼないから安心して」
「月斗君…、私が頭ヨシヨシしてあげるわ。そうすれば完璧に治ると思うの」
「…雫は少し黙ってなさい。話が逸れるでしょ」
「何よ。莉々花はそういうこと自分には恥ずかしくてできないからって八つ当たりしないでくれる?」
「それで? 頭打った以外には何も異常はないわけ?」
雫ちゃんの煽りを完全スルーする莉々花。
俺も気にしないでおこう…。
「実は記憶障害になっちゃったみたいなんだ」
「なっ!? あんた私のこと忘れたわけじゃないでしょうね? 今だって普通に会話してるし」
一瞬驚いた様子を見せるも、今の状況を考えて冷静に物事を判断している莉々花。
「月斗君!? 私の事忘れるわけないわよね? 月斗君が私とあんなことやこんなことをした大切な想い出を忘れてるなんて耐えられないわ。ねぇ、頼むから嘘だと言って頂戴」
莉々花とは対称的にあわてふためく雫ちゃん。
てか、あんなことやこんなことって何…?
俺全くそんな記憶ないんだけど…?
「限定的な記憶障害だから安心して。頭を打った前後の記憶が薄れてるだけみたい」
「そっか。ならよかった」
「私のこと忘れてないなら安心だわ」
「そういえば、倒れてた俺を東王の男子生徒が助けてくれたって先生から聞いたんだ…、桃園さん何か知らない?」
「私!?」
「うん。桃園さん友達多そうだし何か知ってたり聞いたりしてないかなって思って」
急に話を振って驚いたのか、桃園さんが体をビクッとさせた。そんなに驚かなくても…。
「ごめんね。分からない…」
「そっか。そうだよね…。まぁ、俺の事はこれくらいにして早速オタクトークして楽しもうよ。せっかくみんな集まったんだからさ」
「桃園さんのことはどうするつもりなのよ? あんたが連れて来たんでしょ」
「そうよ。もとはといえば私達との約束があるって分かっておきながら他の女の子にかまけるなんて…」
「大丈夫! 桃園さんもオタクトークに参加すればいい話だし!」
桃園さんもコスプレが好きなんだから話に加われるはずだ。
「…相変わらずあんたは勝手ね」
「身勝手な男は嫌われるわよ? 2次元ヒロインにもね」
2次元ヒロインに見捨てられたら俺の人生終了しちゃうからそれだけは本当に勘弁して欲しい。
「勝手じゃない! 桃園さんはコスプレに興味があるらしいんだ。だから今日秋葉原まで来たって訳」
「コスプレ…」
ボソッと呟く莉々花。
「……………」
無言の雫ちゃん。
「そ、そうなの! 伊波君が秋葉原で会う友達がコスプレ詳しいからって教えてくれて…。だから着いてきたんだ」
「桃園さん、ちなみにコスプレに詳しいのは莉々花の方だよ」
「そうなんだね。天坂さん、よかったらコスプレについて教えて貰えると嬉しいな。私まだ始めたばかりでよく分からなくて…」
桃園さんが莉々花の手を取りお願いしている。
美少女同士が手を取り会うその姿は、端から見ると輝いていてすごく尊い光景に見えた。
…いかん、またオタクの悪い癖が。
「そういうことだったのね! 最初、態度悪くしてごめんね。気分悪かったでしょ?」
「ううん。そんなことないよ」
「莉々花はいつも態度悪いじゃ…ブホッッ」
莉々花に思いっきりみぞおちを殴られた。
俺はただ正直に思ったことを言っただけなのに…。
「コスプレが好きな女の子はみんな友達よ。よろしくね、朱里!」
「う、うん」
「私のことも名前で呼んでいいから」
「じゃあ、よろしくね、莉々花ちゃん」
早速名前で呼び合って意気投合している莉々花と桃園さん。
なんだかんだ莉々花もどちらかというと陽側の人間だしなぁ。桃園さんと相性が良さそうだ。
表裏の激しさは相変わらずだけど…。さすがはリアルでもバーチャルでもクソガキキャラを貫いてるだけのことはある。
「朱里はどんなコスプレしてるの?」
「えっとね本当にまだ始めたてなんだけどーー」
「…月斗君、月斗君」
「ん?」
莉々花と桃園さんがコスプレについて話してる時に、雫ちゃんが小声で俺に話し掛けてきた。
「…暇になったし2人で抜け出しちゃおっか」
「抜け出さないよ!?」
「……………ちぇっ」
「そうなんだ! 朱里は男装メインなのね!」
「う、うん…」
「私もやってみようかな~」
「莉々花ちゃん、顔整ってるからきっと似合うよ…」
「えへへ、そうかしら」
俺が雫ちゃんの強引な誘いを断っている中、莉々花と桃園さんはコスプレについて会話を弾ませているみたいだ。
桃園さんは男装するんだな。確かに似合いそう…。
でも桃園さん、さっきからなんとなく歯切れが悪いような気がする。どうかしたんだろうか。
「ご、ごめんなさい!」
「桃園さん!?」
「朱里? 急にどうしたの?」
「あら、急に謝ってどうしたの?」
桃園さんが俺達3人の方に向き直り、唐突に謝ってきた。
「実は3人に黙っていたことがあって…。もう耐えられないから言わせて下さい。特に伊波君…」
「俺!?」
「「……………」」
突然の告白に動揺してしまった。いったいなんだというんだ…。俺何かしたっけ?
一方それを無言で見守る莉々花と雫ちゃん。
「さっき伊波君、倒れてるところを助けてくれた東王の男子生徒がいたって言ってたよね?」
「うん。言ったけど…」
話の展開が読めない…。
「伊波君は記憶が無くなってるかもしれないけど、実はそれ私なんだ…」
「へ…」
「なっ…!?」
「…………」
三者三様の反応を見せる俺達の間に一瞬の間、無言の時間が続いた。
登場人物紹介
・伊波月斗
・桃園朱里
・天坂莉々花
・雪島雫
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
補足事項
・今回もヒロイン大集合です。