第4話
「今日は朝から疲れた…」
大和には根掘り葉掘り記憶障害について聞かれるわ、教室に着いた後も普段そこまで話をしないクラスメイトから質問攻めにあうわ…。
正直、頭をぶつけた前後はあまり思い出せないから、何か聞かれても困るんだよなぁ。
大和は俺の現状を聞くと、気になることがあったら気軽に頼ってくれよと言ってくれた。相変わらず良い奴だ。
どうやら救急車を呼んでくれた先生の話を聞くと、階段で倒れていた俺を男子生徒が見つけてくれたらしい。先生が駆けつけたらその場をすぐに去ってしまったから名前も聞けていないみたいだが。
確かに僅かな記憶だけど、倒れた直後に東王の制服を着た男子に声を掛けられていたような気がする…。
いずれにしてもその男子生徒には直接会ってお礼をしたいものだ。発見が遅れていたら大事になっていたかもしれないし。
放課後、大和がサッカー部の練習に行ってひとりぼっちになった俺は、電車で秋葉原へ向かおうとしていた。
自分の席から立ち上がろうとした時、後ろからふいに声を掛けられる。
「あの、伊波くんだよね?」
「ん? そうだけど」
声を掛けられた方を振り向いて答える。
この人は確か桃園さんだっけ…。俺たちの学年でも人気のある女子だ。どうして俺なんかに声を…?
「えっと、私は桃園朱里です」
横顔に垂れた髪の毛を耳に掛けながら、桃園さんが唐突に自己紹介を始める。
サラサラのショートボブヘアーがよく似合っていると思う。綺麗な容姿、明るい性格、二次元ヒロインだったら間違いなくメインヒロイン確定。
…っと、いかんいかん。いつもの悪い癖が。
「うん、知ってるけど…」
「私のこと知ってたの?」
「いや、だって桃園さん有名人だし。それにホームルームで自己紹介してたじゃん」
「あは、そうだったね。というか、有名人っていうなら伊波くんも大概だと思うよ?」
桃園さんが急に意味の分からないことを言い出した。
「俺?」
「うん、いつもヒロインヒロインうるさいって有名だよ? 自己紹介の時だって…」
「あぁ…」
なるほど…。そんなことで有名になっているなんて思ってもみなかった。俺は自分の好きをアピールしていただけなのに…。
もっと、みんな自分の本質をさらけ出そうぜ! オタクの部分をさらけ出せよ! 隠しているよりそっちの方が楽しいよ?
…まてよ、桃園さんはまさか、気持ち悪いからそういうのはやめてくれって言いに来たのかな? 進級早々に面倒ごとは避けたい。目をつけられる前にここは適当に謝っておこう。
「ごめん、今後は気を付けるよ」
「え?」
キョトンとした表情になる桃園さん。
「ん? 気持ち悪いからやめてって言いに来たんじゃないの? だから今後、クラスでは気を付ける」
「私、そんなこと言わないよ? 伊波くんはいつも通りでいいと思う。その方が見てるこっちも楽しいし」
微笑みながらそんなことを口にする桃園さん。表情からは建前で言ってるようにも感じない。
…こんなオタクに対して理解のある女の子なんて二次元でしか見たことないぞ?
「桃園さん、なんか変わってるね。アニメのキャラだったら絶対一番人気だよ」
俺にとって精一杯の褒め言葉を伝えた。思ったことは正直に相手に伝えること、良いことならなおさらだ。これはラノベやギャルゲーで俺が学んだこと。
オタクってすぐに影響受けるからなぁ。
「え? う、うん…、ありがとう…?」
戸惑いながらもお礼を言う律儀な桃園さん。
てか、現実でも既に桃園さんは人気者だったな。
「急に声を掛けられたからビックリしたよ、何か俺に用だった?」
主に俺のせいで逸れてしまった話を軌道修正する。
「階段で転んじゃった時の記憶がないって本当なのかな?」
「そうだけど」
「そうなんだね…」
ん? なんで桃園さんは俺が記憶障害になっていることを気にしているんだろう。
「どうかした?」
「んーん。なんでもない。教えてくれてありがとね!」
「うん、俺は全然かまわないけど」
疑問が深まる…。いったい何なんだ。
ここで時計を見ると、帰りのホームルームから20分が経過していた。
まずい! 遅刻だ!
「ごめん、桃園さん! 俺、今から秋葉原でちょっと用事あるからもう行かなくちゃ。また明日にでも話そう」
「え、秋葉原!?」
急に眼がキラキラと輝きだす桃園さん。
「今度はどうしたの!?」
両肩をガシッと掴まれて身動きが取れなくなった。普通男女逆だろ…。
てか、こんな所他の生徒に見られたら絶対めんどくさいことになるぞ。今は誰も居ないからいいけど…。
ここで桃園さんが衝撃の一言を口にした。
「私も着いて行っていいかな?」
「へ…?」
なぜか桃園さんも秋葉原に用事があるみたいだった。
登場人物紹介
・伊波月斗
・桃園朱里
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補足事項
・主人公は相変わらずオタク丸出しですね。
・やっとヒロインが出てきました。