第3話
「…うぅ、腹の調子が…」
まさか高校2年生という若さで胃もたれを体験することになるとは…。
春の心地よい風が吹いている中、俺の全身から冷や汗が吹き出ている。
昨日の晩ご飯は星羅が退院祝いで用意した、揚げ物フルコース。唐揚げに豚カツ、天ぷら、エビフライ、メンチカツ等々…。
可愛い妹がせっかく俺のために作ってくれたんだから、残す訳にはいかなかったんだ…。
「でも、あんなに量があるなんて…。コンビニで胃薬買っていくか…」
退院した次の日の朝。俺は自分のお腹を擦りながら登校していた。
通学路の途中にあるコンビニに寄って胃薬を購入する。
これで多少はましになるだろう。
コンビニから出たところで見慣れた顔に声を掛けられた。
「おぅ、ゲットじゃん! おはよう!」
「おはよう、大和。なんか久しぶりな感じがする」
磯村大和。中等部からの腐れ縁だ。
ちなみにゲットとは、俺が一部の人から呼ばれているあだ名だったりする。
「バカ、始業式以来だから2日しか経ってねぇよ。もう大丈夫なのか? 階段で頭打ったって聞いてビックリしたぜ」
「昨日、目が覚めて退院した。先生からも問題無いって言われてる」
大和のことも忘れて無いし、先生の言う通り日常生活には何の問題も無いことを改めて認識する。
「そっかそっかぁ! 安心したぜ。陽菜さんと星羅ちゃんも心配してたんじゃないか?」
大和は俺の家にもよく遊びに来るから、陽菜姉と星羅のことは知っている。
「まぁ、それなりには心配してくれたよ。でも俺はそれ以上に自分を許せないんだ…」
実は、さっきから揚げ物で胃もたれしていることよりも、ムカムカしていることがあるのだ。
「なんだ、何かやらかしたのか?」
「やらかしたどころの騒ぎじゃないよ。一大事だ」
「まじか。ちょっと俺に話を聞かせてみろ。力になれそうだったら協力するから」
「恥ずかしいことなんだけど、実は…」
「実は…?」
大和が真剣な表情で俺の話に耳を傾けている。やっぱりお前と友達になってよかったよ!
俺は大和に自分の失態を、包み隠さず話すことにした。
「俺の部屋のヒロイン達に合わせる顔が無いんだ! これからどうしたらいいのか分からない!」
「お前…、いきなり何を言い出してるの?」
急に冷めた眼をしてくる大和。
「いや、だから俺が1日入院していたせいで、ミレイヤちゃんやマリアちゃんに寂しい思いをさせてしまったっていう話だけど?」
俺の部屋にはヒロイン達の抱き枕やフィギュア、アクリルスタンドがたくさんある。どれも大切な宝物だ。
「はぁ、お前って奴は…、やっぱりな。心配した俺がバカだったぜ」
大和がまた始まったと言わんばかりに、呆れた顔で天を仰いでいる。
「バカとはなんだ、バカとは! 暗い部屋に女の子を置き去りにするなんて鬼畜の所業だぞ。大和には分かんないかも知れないけどな!」
ほんと失礼な奴だ。俺のヒロインに向かってバカとは!
「もういいわ。なんかいつも通りのゲットを見れて安心したぜ。ほら、早く学校行くぞ~」
大和がそそくさと歩き出す。
大和はオタクじゃないが、なぜか上手くやれている友達だ。お互い遠慮しないし、そんなところがいいのかもしれない。
「心配してくれてありがとな、大和」
俺は素直に感謝の気持ちを伝えた。
「いきなり感謝するなよな、気持ち悪い」
「そういえばさ、もう一個大事な話があるんだよ」
「なんだよ…」
「実はさ…」
「ちなみに、もうお前の渾身のボケにつっこむ元気は無いぞ?」
大和がめんどくさそうに俺を見てくる。まったく友達にそんな目を向けてくるなよ。
「最後まで聞けって!」
「分かった分かった、言ってみろ」
「実は今、限定的な記憶障害になってるんだよね~」
「へぇーー………」
「………………………」
「………………………」
「………………………」
俺と大和の間に僅かな静寂の時間が訪れる。
「はぁぁぁぁぁ!?!? お前それを一番最初に話せよ! そっちの方がどう考えても重要な話だろ!」
「大和、声でかいって! 鼓膜破れるわ」
大和が俺の両肩に手を置いて、グワングワンと身体を揺すってくる。
「その話詳しく聞かせろ! …ったく、ヒロインの話なんてしてる場合じゃねぇよ…。お前の会話の優先順位が分からん…」
大和が話を詰めてきた。
結局、俺は学校に着くまでの間、記憶障害の説明を大和に聞かせるのだった。
俺はこの時、話に夢中で気がついていなかったんだ。後ろから一人、東王の女子生徒がこっそりと後を着けてきていたことに…。
登場人物紹介
・伊波月斗
・磯村大和
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補足事項
・主人公の親友が登場です。
・ヒロインはまだ出てきません。