第1話
「ここは、どこだ…?」
目が覚めると、俺は病室のベッドで横になっていた。
頭を打ったのか、額には包帯がグルグルと巻かれている。
なんでこんな所にいるんだっけ…。ズキズキと痛む頭で必死に考えてみたが、記憶が曖昧で上手く思い出すことができない。
思い出せる最後の記憶は、高校生2年生に進級した始業式の日のことぐらいだ。
そもそも俺はここでどのくらいの間、意識を失っていたのだろうか。
「あっ…」
ここで、ふと扉が開きっぱなしになっている病室の入り口を見ると看護師さんと目が合った。
「あら、目が覚めたのね。直ぐに先生を呼んでくるからそのまま待っていて頂戴」
「分かりました…」
看護師さんが足早に去っていく。
1人ぽつんと取り残され、再び病室がシーンと静まり返る。
子供のはしゃぎ声が遠くのほうで聞こえてくる。どこかで遊んでいるのだろうか。
あと少しで面会終了時刻だという病院のアナウンスも聞こえた。
そういえば俺の家族がどこにも見当たらないんだけど…。誰か1人ぐらいお見舞いに来てくれても良くない!?
俺は病室の窓から夕焼け色の空を眺めつつ先生の到着を待った。
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「俺、1日も気を失ったままだったんですか!?」
「ええ。無事に目が覚めたようで安心しましたよ」
先生が病室にやってきた。
そして俺は今、ここに運ばれてきた経緯を先生から聞いている。
「どうやら学校の階段で転倒して頭を強く打ったみたいです。精密検査を行いましたが脳に大きなダメージは見られませんでした。どこかいつもと違う所はありますか?」
ということは、始業式は昨日か…。
「そうですね…。少し頭が痛みます」
「そうですか。それでは少し簡単な質問をさせて下さい」
「分かりました」
先生が手に持っていたファイルを開きながら、準備を始める。
「では、まず初めにあなたの名前は?」
「伊波月斗です」
「年齢は?」
「高校二年生になったばかりで16歳です」
「家族構成は?」
「姉と妹と暮らしています。両親は海外出張中です」
「通っている学校の名前は?」
「東王学園です」
「部活には何か入っているのかな?」
「自由な時間がたくさん欲しいので帰宅部に入っています」
「…それは入っていないってことなんじゃないかな…?」
「いいえ、そんなことありません! ゲーム、アニメ、ラノベ、それからゲーセンにショップ巡り、…後はしょうがなく宿題、他にもやることがいっぱいですよ」
「そ、そうなんだね…」
先生が俺の熱弁をスルーして、コホンと咳ばらいをしながら質問を続けた。
「じゃあ、学校に好きな女の子とかいるのかな?」
「へ? いませんけど…」
急に質問の内容がおかしくなる。
「先生もしかして質問で遊び始めました?」
「ははっ、ばれちゃったか。流れでいけると思ったんだけどね」
いける訳がないだろ。そもそもこの質問攻めは一体何なんだ。
「じゃあ、月斗君はどうやって階段で転んだのかな?」
さっきまでとは違う真剣な表情で先生が聞いてくる。
「えっと…、それが上手く思い出せないんですよね。さっきから思い出そうと頑張ってみてはいるんですけど…」
「そうですか。質問は以上です。ここで分かったことがあります」
分かったこと…? こんな質問で分かったことってなんだ?
先生が知ったのは俺の個人情報ぐらいじゃん。
「ま、まさか先生、俺の個人情報を悪用しようと…!?」
先生がファイルを折り畳みながら話を続ける。
「月斗君は限定的な記憶障害状態である可能が高いです」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇ!?!?!?!?」
先生から個人情報を悪用された方がまだマシな現実を突き付けられ、俺は雄叫びを上げた。
登場人物紹介
・伊波月斗
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補足事項
・ヒロインはまだ出てきません。