お待たせ、リリィ
0:百合の家
百合:(М)夏のある日。
百合:(М)娘が、3歳の誕生日を迎えた。だから、旦那と相談して、やっと、保育園に預けることにした。
百合:(М)ずっと子どもといて、大変ではあったけど、心地良い時間だった。仕事が忙しい旦那も、すぐに帰ってきて、手伝ってくれるし……私は幸せ者。
百合:(М)今日やらなきゃいけないことは、ちゃんと済ませ、コーヒーを飲んで、一息をつく。
百合:(М)すると、ポストに、何かが投函された音がした。もう、そんな時間なんだ。じゃあ、もうちょっとで、お迎えに行かなきゃ。
百合:(М)今日は、好き嫌いしないで、ご飯食べてくれたかな。晩ごはんは、2人が好きなハンバーグだよ……なんて考えながら、玄関に向かう。
百合:(М)ポストに入っていたのは、大きい茶封筒。宛名も差出人も書かれていない。いたずらだろうか。
百合:(М)とりあえず、中に戻り、封を開けてみる。中身はDVDディスクみたいだけど、こっちにも、何も書かれていない。
百合:(М)とても、気味が悪いけど、内容を観ることにする。テレビを付けて、プレイヤーにディスクを入れる。
百合:(М)読み込んでいる間に、旦那に電話を掛ける。でも、仕事が忙しいからか、出てくれない。いつもはしない留守番電話を入れよう。
キング:(声のみ)久しぶりだね、リリィ
百合:ひっ……!
百合:(М)突然聞こえてきたおぞましい声に、身体が震え始める。周りを見渡しても、人の姿はない。
キング:(声のみ)元気かい?
百合:(М)声の先を辿ると、テレビからだった。でも、画面は暗いまま。
キング:(声のみ)ボクは、ちょっと元気ないんだ。愛する人を奪われてしまったからね
百合:(М)まるで、脳内に直接話しかけられているみたいで、怖い。もう、あの頃には戻りたくないの……あなたに飼われていた、あの頃になんて。
キング:(声のみ)クスリがなくて、大丈夫かい?とても心配で、夜も眠れないよ。一応、1回分、添付しておいたからね
百合:っ!の、飲むわけないじゃない……今の私には、必要ないから
キング:(声のみ)あっ、でも君は、1人で飲めない子だったね。まずは、ボクが飲み込んで、ボクの唾液と唇で、サポートしていたから
百合:や、やだ!
キング:(声のみ)どうしよう……今すぐに、君の元へ行ったらいい?
百合:こ、来ないで!!
キング:(声のみ)ふふふふふふ。なんで君は、そんなに怯えているの?ボクらは、愛し合っていたじゃないか。忘れたのかい?
百合:(М)ずっと、声を聴いていたら、思い出してきてしまった。仕事も恋も上手くいかなかった私に、優しく声をかけてきてくれたのが、最初の出会い。
百合:(М)製薬会社の御曹司の彼は、ボロボロの私に転職先と新しい住処を与えてくれた……まさか、同じような女性が、たくさんいるとは、考えもしなかった。
キング:(声のみ)ああ、クスリを飲まなくなったから、狂ってしまったのか。可哀想に
百合:(М)私は、あのクスリのせいで、大変な目に……っ!
百合:(М)急に後ろから抱きしめられ、柔らかい布で口元を塞がれた。
キング:(耳元に囁くように)だから、ボクから離れちゃいけないって、言ったんだよ?かわいい子猫ちゃん。ふふふ
百合:ん!んん!
キング:おや。今日は、機嫌が悪いのかい、リリィ?しょうがないな。馬鹿になった君のために、自己紹介してあげるね。
キング:1回しか言わないから、ちゃんと聞いてね。ボクは篠原リュウ。またの名を……キング
百合:ひっ!
キング:(耳元に囁くように)やっと、思い出したかい?ボクは、君を飼っていたご主人様さ(不敵に笑う)
百合:(声にならない声、かつ震える)
キング:どうして、震えているんだい?寒いから?ああ、嬉しいのか。そりゃあそうさ。君を、一番大切にしていたボクが、まだ忘れてなかったんだから。
キング:ご主人様のボクが、聞き分けのない子猫ちゃんごときのために、直々に迎えにきてやるなんて……本当に君は恵まれているよ、リリィ(リップ音)
百合:(くぐもった声で拒否をする)
キング:本当は、助けに来るのは、もうちょっと後になる予定だったんだけどね。でも、ボク以外の奴に毒され始めていたから、これでも早い方なんだよ?
キング:まぁ、たくさんやることはあったけど。でも、ごめん。今にでも、壊してしまいたいよ
キング:愛しくて、愛しくて、愛しすぎて、君をメチャクチャにしてしまいたい(狂い笑い)
百合:(絶望した反応)
キング:ああ。でも、そうした方が、君はもっと美しくなるかもしれないね。うふふ。あはは。想像しただけで、笑いが止まらないよ
0:続く